量子時代の幕開け ― 応用段階に入った量子コンピューティングとその課題

近年、量子コンピューティングは理論研究の枠を超え、現実の課題解決に応用され始めつつあります。従来は物理学や情報理論の一分野として扱われ、主に量子ビット(qubit)の安定性や誤り訂正といった基礎技術の研究が中心でした。しかし、2020年代半ば以降、Google や IBM、Microsoft などが相次いで「量子優位性(quantum advantage)」の実証結果を発表し、理論から実装への転換点を迎えています。

この流れを受け、世界各国では量子技術を次世代の戦略分野と位置づけ、国家レベルでの研究投資や産業化支援が進められています。欧米諸国や中国では、量子ハードウェアの開発競争に加え、量子アルゴリズム・クラウド利用・人材育成といったエコシステム形成が加速しています。これに対し、日本でも政府が「量子未来産業創出戦略」を掲げ、産学官連携による研究開発や国産量子コンピュータの実証が進められています。

一方で、量子コンピューティングが社会実装に向かう過程では、いくつかの課題や懸念も浮かび上がっています。例えば、量子コンピュータを保有する国・企業とそうでない国・企業との間で生じる技術格差、膨大な開発・維持コスト、さらには暗号技術やサイバーセキュリティへの影響などです。これらの論点は、技術的な問題にとどまらず、経済安全保障や産業競争力の観点からも無視できません。

本記事では、量子コンピューティングが理論段階から適用段階へ移行しつつある現状を整理するとともに、その技術的意義と社会的課題、そして日本における取り組みを俯瞰します。世界的な潮流を踏まえたうえで、量子技術が「研究対象」から「社会のインフラ」へと変化していく過程を明確に理解することを目的とします。

理論段階から適用段階へ:技術の成熟と潮流

量子コンピューティングの研究は、長らく理論物理学と計算科学の交差点に位置してきました。1980年代にリチャード・ファインマンが「自然をシミュレーションする最良の手段は自然そのもの、すなわち量子現象である」と指摘して以降、量子状態を用いた情報処理の可能性が注目されました。その後、1990年代にはショアのアルゴリズム(素因数分解)やグローバーの探索アルゴリズムが提案され、古典計算では膨大な時間を要する問題に対し、理論的には指数的な計算効率の向上が見込めることが示されました。

しかし、実際に量子コンピュータを動作させるためには、極めて不安定な量子ビット(qubit)を制御し、誤りを補正しながら維持する必要があります。量子状態は外部環境との相互作用で容易に崩壊(デコヒーレンス)するため、実用化には膨大な技術的課題がありました。21世紀初頭までは、数個から十数個の量子ビットを用いた実験的デモンストレーションが主流であり、いわば「理論の実証段階」にとどまっていました。

状況が大きく変化したのは2019年以降です。Google Quantum AI が「Sycamore」プロセッサを用いて、古典コンピュータでは数千年を要するとされる乱数生成問題を約200秒で解いたと発表し、「量子優位性(quantum supremacy)」を実証しました。IBM もこれに対抗し、2023年には433量子ビットを搭載した「IBM Osprey」を公開し、さらに2025年には1,000量子ビット超の「Condor」システムを発表しています。また、IonQやRigetti Computingなどの新興企業も、イオントラップ方式や超伝導方式といった異なるアプローチで商用量子コンピュータの開発を進めています。

並行して、量子ハードウェアの多様化が進展しています。超伝導回路方式、イオントラップ方式、中性原子方式、光量子方式など、複数の物理実装が提案・開発されており、それぞれに特性と課題が存在します。特に中性原子方式はスケーラビリティの面で注目されており、日立製作所やパスカル(Pasqal)などが先行的に研究を進めています。一方で、量子ビット数の拡張と誤り訂正を両立させる「フォールトトレラント量子コンピュータ」への到達は、依然として今後10年以上の研究開発を要する段階にあります。

さらに、完全な量子計算機の登場を待たずして、量子と古典を組み合わせる「ハイブリッド量子計算(Hybrid Quantum-Classical Computing)」が注目されています。代表的な手法として、変分量子固有値ソルバー(VQE)や量子近似最適化アルゴリズム(QAOA)などがあり、これらは現実的な量子ビット数でも特定領域の最適化や化学計算に有効とされています。この流れは、量子コンピューティングを純粋な理論研究から実用的アプリケーション開発の段階へと押し上げる重要な要因となっています。

このように、量子コンピューティングは「理論の証明」から「制約付きながらも応用可能な技術」へと進化しています。現時点では、古典計算を完全に凌駕する段階には至っていませんが、計算化学・最適化・暗号分野などでの実証が積み重なり、応用研究と産業化の橋渡しが急速に進んでいます。すなわち、量子計算はもはや未来の夢ではなく、限定的ながら現実の問題解決に組み込まれ始めた「過渡期の技術」と言える段階に入っています。

量子コンピューティングの現状と注目分野

現在、量子コンピューティングは「研究段階から実用化前夜」へと移行しつつあります。ハードウェアの性能向上、アルゴリズムの改良、クラウド経由でのアクセス拡大により、かつて限られた研究機関の領域だった量子計算が、企業や大学、スタートアップの実験的利用に広がりつつあります。

IBM、Google、Microsoft、Amazon などの主要企業は、量子コンピュータをクラウドサービスとして提供し、開発者がリモートで実機を利用できる環境を整備しています。これにより、量子アルゴリズムを用いたシミュレーションや最適化の検証が容易になり、応用可能性の探索が加速しました。また、オープンソースの開発基盤(IBM の Qiskit、Google の Cirq、Microsoft の Q# など)も整備され、学術研究と産業応用の両面でエコシステムが形成されています。

現時点で量子コンピューティングが特に注目を集めている分野は、大きく三つに整理できます。

(1)材料科学・創薬・量子化学分野

量子コンピュータは、分子や原子レベルの電子状態を直接シミュレーションできる点で、化学・材料研究に革命をもたらすと期待されています。従来の古典計算機では、分子の電子相関を正確に計算することは極めて困難であり、多くの近似を要しました。これに対し、量子コンピュータは量子力学そのものを模倣するため、触媒開発や新薬設計、電池材料の探索などにおいて高精度なモデリングを実現する可能性があります。実際に、富士通や理化学研究所、米 IonQ などが、量子化学シミュレーションに関する共同研究を進めています。

(2)最適化・物流・金融工学分野

量子計算は、複雑な組合せ最適化問題に対しても有望です。配送経路設計、金融ポートフォリオの最適化、エネルギー網の効率化など、膨大な変数を扱う問題では、古典コンピュータの計算コストが指数的に増大します。量子アルゴリズム(特に量子アニーリングやQAOA)を用いることで、近似解をより短時間で探索できる可能性が示されています。日本国内では、日立製作所やトヨタ自動車がこの分野の応用実験を進めており、量子アニーリングを活用したサプライチェーン最適化や交通流制御の実証が報告されています。

(3)暗号・セキュリティ・通信分野

量子計算の進歩は、情報セキュリティの分野にも大きな影響を及ぼします。ショアのアルゴリズムにより、RSAなどの公開鍵暗号が将来的に解読される可能性があるため、世界的に「ポスト量子暗号(Post-Quantum Cryptography, PQC)」への移行が進められています。米国国立標準技術研究所(NIST)は2024年に新しい標準暗号方式を選定し、日本でも情報通信研究機構(NICT)やIPAが国内実装ガイドラインの策定を進めています。また、量子鍵配送(Quantum Key Distribution, QKD)など、量子の特性を利用した安全通信技術の研究も活発です。


これらの応用分野はいずれも「量子が得意とする計算特性」を生かしたものであり、古典計算では解けない、もしくは現実的な時間内に解けない問題に焦点を当てています。ただし、実用的な量子優位性が確認されている領域はまだ限定的であり、ハードウェアの安定性やアルゴリズム効率の面で課題は残っています。

一方で、こうした制約を前提としつつも、企業や研究機関は「実用的な量子アプリケーション」を見据えた共同開発を加速しています。量子コンピューティングはもはや理論上の概念ではなく、材料・エネルギー・金融・セキュリティといった産業分野で、実世界の課題を解く手段としての現実的価値を持ち始めていると言えます。

移行に伴う懸念と課題

量子コンピューティングが理論研究の段階を越え、応用を見据えた「移行期」に入ったことで、新たな技術的・社会的課題が顕在化しています。これらの課題は単なる研究上の障壁にとどまらず、産業競争力や情報安全保障、さらには国際的な技術格差の問題とも密接に関係しています。以下では、主な懸念点を整理します。

(1)技術格差の拡大

量子コンピュータの研究開発には、高度な理論知識と実験環境、巨額の投資が必要です。そのため、米国・中国・欧州などの先進国と、それ以外の地域との間で技術的格差が拡大する懸念が指摘されています。
Google、IBM、Microsoft、Intel などは独自のハードウェア開発を進めると同時に、クラウドを通じて世界中の研究者や企業に量子計算環境を提供しています。一方で、物理的な量子プロセッサを自国で製造・運用できる国は限られており、国家レベルでの「量子覇権競争」が進行しています。
このような構図は、過去の半導体産業やAI分野と同様に、研究資源や知的財産、人材獲得の集中を招き、技術的依存や供給リスクを高める可能性があります。

(2)高コスト構造と持続性の問題

量子コンピュータの開発・維持には、極めて高いコストが伴います。特に超伝導方式では、絶対零度近くまで冷却する希釈冷凍機や電磁ノイズを抑制する真空設備が必要であり、導入コストは数百万ドルから数千万ドル規模とされます。
さらに、運用面でも専門的な技術者、誤り訂正用の補助ビット、大量の電力が求められ、1システムあたり年間で1,000万ドルを超える維持費が発生するとの推計もあります。このため、量子技術を導入できる企業は限定され、クラウドサービス経由の利用が主流となる見込みです。
技術の民主化が進む一方で、「量子技術を保有する側」と「利用するだけの側」との間に、新たな経済的格差が生じる可能性も否定できません。

(3)アルゴリズムと応用領域の未成熟

現行の量子コンピュータは、ノイズ耐性が低く、量子ビット数も数百規模にとどまります。そのため、現段階では「ノイズあり中規模量子(NISQ)」と呼ばれる限定的な性能しか発揮できません。
実際に、現行ハードウェアで古典計算を凌駕する実用的な量子アルゴリズムはまだ少なく、多くの分野では理論的可能性の検証段階にあります。加えて、量子アルゴリズムを設計・最適化できる人材も世界的に不足しており、応用研究のスピードにばらつきが見られます。
したがって、技術開発だけでなく「どの課題に量子を適用すべきか」を見極める研究設計能力が、今後の成否を左右します。

(4)セキュリティ・暗号への影響

量子コンピューティングの発展は、既存の暗号基盤を根本から揺るがす可能性を持ちます。ショアのアルゴリズムにより、RSAや楕円曲線暗号(ECC)が理論上は短時間で解読可能となるため、各国の政府機関や標準化団体は「ポスト量子暗号(PQC)」への移行を急いでいます。
米国国立標準技術研究所(NIST)は2024年に量子耐性暗号の最終候補を公表し、2025年以降は標準規格として採用が進む予定です。日本でも情報通信研究機構(NICT)やIPAが移行ガイドラインを策定中であり、金融・行政分野での実装検討が始まっています。
このように量子技術の進歩は、単に新しい計算資源を提供するだけでなく、既存のサイバーセキュリティ体系を再設計する契機ともなっています。

(5)社会的理解と期待のギャップ

量子コンピューティングは、しばしば「既存のコンピュータを一瞬で超える技術」として喧伝されがちです。しかし、現実には用途が限定され、短期的に汎用的性能を得ることは困難です。過度な期待が先行すれば、投資判断や研究資金の配分を誤るリスクがあり、いわゆる「ハイプ・サイクル(過熱と失望)」の再現が懸念されます。
そのため、量子技術の普及には、正確な理解の促進と実用的ロードマップの共有が不可欠です。研究者・企業・政策担当者が、技術の現状と限界を共有することが、持続的な発展の前提条件となります。


量子コンピューティングは巨大な可能性と同時に、深刻なリスクを内包する技術です。研究開発が進展するほど、その社会的インパクトも増大します。したがって、単なる技術開発競争に留まらず、倫理・経済・安全保障の観点を含めた包括的な議論と制度設計が、移行期を乗り越えるために不可欠です。

日本における取り組みと今後の展望

政策・研究基盤の整備

日本政府は、量子技術を国家の重要戦略技術の一つと位置づけ、産業化・実用化を加速させるための政策を整備しています。たとえば、内閣府が策定した「Strategy of Quantum Future Industry Development」(2023年4月)は、2030年までに「量子技術ユーザー1000万人」「50兆円の産業規模」を目指すなど、明確な数値目標を掲げています。
また、2025年には次世代半導体・量子コンピューティング研究への投資として、約1.05兆円の予算が確保されていることが報告されています。
研究機関では、例えば 理化学研究所(RIKEN)の「RQC (RIKEN Center for Quantum Computing)」が超伝導・光量子・中性原子方式など多様な量子ビット技術の研究・開発を進めています。

産業・企業の動きとユースケース探索

産業界においても、日本国内で量子コンピューティングを応用可能な環境づくりが進んでいます。スタートアップでは、QunaSysが量子化学計算ソフトウェアの開発を手掛けているほか、日本国内に20近くの量子コンピューティング関連スタートアップが存在することが報告されています。
ハードウェア面では、富士通と理化学研究所が共同開発した256量子ビットの超伝導量子コンピュータの発表があります。これは2025年度第1四半期から企業・研究機関向けに提供を開始する予定とされています。
国際連携も強化されており、例えば日本と欧州連合(EU)は2025年5月に量子技術分野の協力に関する覚書に署名し、共同研究・資金メカニズムを推進しています。

日本の強みと課題

日本の強みとして、半導体・精密製造・冷却技術・電子部品といった量子ハードウェアの基盤技術が高いレベルで整備されている点が挙げられます。
一方で、課題も明らかです。民間投資やスタートアップの活性化が米国・中国と比べて遅れており、実用化・量産化に向けたスケールアップの取り組みが急務とされています。

今後の展望

今後は以下のポイントが重要となるでしょう:

  • 産業界・アカデミア・政府が連携し、クラウド型量子サービスや量子アルゴリズムを含む産学共同のユースケースを早期に実装する。
  • 国内外の技術パートナーと協調し、グローバル・サプライチェーンを確立する。
  • 国内スタートアップの育成と資金・人材流動性を高め、量子技術を活用した新ビジネス創出を支援する。
  • セキュリティ・暗号分野においてもポスト量子暗号や量子通信の実証を推進し、国家の情報インフラ強化を図る。

日本が量子技術の「研究先進国」から「実用化・産業化先導国」へ移行するには、技術的成果をビジネス・社会の現場に迅速に転化するスピードと体制整備が鍵となります。

おわりに

量子コンピューティングは、長年の理論的研究を経て、ついに実用化を見据えた適用段階へと進みつつあります。これにより、材料開発や創薬、最適化、暗号技術といった幅広い分野での応用が期待され、世界的に新たな産業価値の創出が始まりつつあります。一方で、量子コンピューティングをはじめとする先進技術の開発スピードが国や企業によって大きく異なることから、技術力の格差が経済的・地政学的な優位性に直結する時代が到来しています。研究や投資の停滞は、容易に技術的後進国化を招くリスクとなり得ます。

さらに、技術の発展はサステナビリティやカーボンニュートラルといった地球規模の課題とも密接に関係しています。量子コンピューティングは大規模な冷却や電力消費を伴う一方で、材料科学やエネルギー最適化の分野では脱炭素化に貢献し得る技術でもあります。したがって、環境負荷の低減と技術革新をいかに両立させるかが、今後の国際的な技術開発における重要なテーマとなるでしょう。

このような変化の中で、日本は精密製造・半導体・理論物理といった既存の強みを基盤に、産業界・学術界・行政が一体となって量子分野の発展を先導することが求められます。世界的な潮流を追うだけでなく、独自の価値を創出する研究と社会実装を進めることが、次世代の競争力確保につながります。量子技術の未来は、単なる科学技術の進歩ではなく、持続可能な社会の実現と密接に結びついているという視点を持ちながら、日本が責任ある技術先進国として確かな歩みを続けていくことを期待します。

参考文献

スタジオジブリなど日本の主要出版社、OpenAIに学習停止を要請

生成AIの発展は、創作や表現の在り方に大きな変化をもたらしています。画像や動画、文章を自動生成する技術が一般に広く普及する一方で、著作権をはじめとする知的財産の取り扱いについては、いまだ法制度や運用の整備が追いついていないのが現状です。

こうした中、2025年11月、一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)が、OpenAI社に対して正式な要請書を送付しました。要請の内容は、会員企業の著作物を事前の許可なくAIの学習データとして利用しないよう求めるものです。

この要請には、スタジオジブリをはじめ、Aniplex、バンダイナムコエンターテインメント、講談社、集英社、小学館、KADOKAWA、スクウェア・エニックスなど、日本の主要コンテンツ企業が名を連ねています。これらの企業はいずれも海外市場で高い知名度を持ち、国際的なIP(知的財産)ビジネスを展開しており、AIによる無断学習の影響を直接的に受ける立場にあります。

本稿では、この要請の概要と背景、そして日米で異なる法制度上の位置づけを整理し、今回の動きが持つ意味を確認します。

要請の概要

2025年11月初旬、日本の一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)は、OpenAI社に対して正式な要請書を送付しました。要請の内容は、同機構の会員企業が保有する著作物を、事前の許可なくAIモデルの学習データとして利用しないよう求めるものです。

CODAは、アニメーション、出版、音楽、ゲームなど多岐にわたる日本の主要コンテンツ企業が加盟する業界団体で、海外における著作権侵害や海賊版対策を目的として活動しています。今回の要請は、生成AIが著作物のスタイルや映像表現を模倣し得る状況を踏まえ、知的財産の無断利用に対して明確な姿勢を示すものと位置づけられています。

要請書では、特にOpenAIの映像生成モデル「Sora 2」などで、特定の著作物や映像スタイルが再現される事例に懸念が示されています。CODAは、「学習過程における著作物の複製は、著作権侵害に該当する可能性がある」と明言し、日本の著作権法では原則として事前の許諾が必要であること、また事後の異議申し立てによって免責される制度は存在しないことを指摘しました。

この要請は、生成AIと著作権をめぐる議論の中でも、日本の主要コンテンツ業界が共同で国際的なプラットフォームに対して明確な対応を求めた初の事例として注目されています。

参加企業と特徴

今回の要請は、一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)の加盟企業によって共同で行われました。要請書には、スタジオジブリをはじめ、Aniplex(ソニーグループ)、バンダイナムコエンターテインメント、講談社、集英社、小学館、KADOKAWA、スクウェア・エニックスなど、日本の主要なアニメ・出版・ゲーム関連企業が名を連ねています。

これらの企業はいずれも、国内のみならず海外市場においても高い認知度と影響力を持つコンテンツホルダーです。特に、アニメや漫画、ゲームを中心とした日本発の知的財産(IP)は、国際的なファン層を持ち、翻訳やライセンス事業を通じて広く流通しています。そのため、生成AIによる無断学習やスタイル模倣のリスクは、経済的にも文化的にも大きな懸念とされています。

CODAは、これまでも海賊版サイトの摘発や著作権侵害の防止に取り組んできた団体であり、今回の要請はその活動の延長線上にあります。要請の目的は、AI開発の進展そのものを否定することではなく、著作権者の権利を尊重した形での技術利用を促すことにあります。

こうした背景から、本件は日本のエンターテインメント業界全体が連携して国際的なAI利用ルールの整備を求める動きの一環と位置づけられています。

日本と海外の法制度の違い

著作権をめぐるAI学習の扱いについては、日本と海外、特に米国との間で法制度上の考え方に大きな違いがあります。

日本の著作権法では、原則として著作物を利用する際には権利者の事前許諾が必要とされています。著作物の複製や改変を伴う行為は、学習データの収集段階であっても著作権侵害に該当する可能性があります。また、日本の法体系には「後からの異議申し立てにより免責される制度」は存在しません。そのため、CODAは今回の要請書の中で、AI学習過程における著作物の複製行為自体が著作権侵害に当たる可能性を明確に指摘しています。

一方、米国ではAI開発に関する明確な法律が未整備のままであり、依然として1976年制定の著作権法(Copyright Act of 1976)が適用されています。この法律のもとでは、「フェアユース(Fair Use)」の概念が広く認められており、学術研究や技術開発など一定の目的であれば、著作物の一部利用が許容される場合があります。そのため、AIモデルが著作物を学習データとして使用した場合でも、必ずしも違法とみなされるとは限りません。

実際、2025年9月には米国連邦地裁でAnthropic社が著作権付き書籍をAI学習に使用した件について審理が行われました。同社は学習行為自体については違法とされませんでしたが、海賊版書籍を入手して利用していた点が問題視され、罰金を科されています。この判決は、米国においてAI学習の是非と著作権侵害の線引きが依然として不明確であることを示しています。

このように、日本では「事前の許諾を前提とした権利保護」、米国では「フェアユースを前提とした柔軟な解釈」という対照的な法制度が存在します。今回のCODAによる要請は、そうした国際的な制度差を踏まえ、日本側の明確な立場を示すものとなっています。

今回の要請が持つ意味

今回のCODAによる要請は、日本の主要なコンテンツ産業が共同で国際的なAI企業に対して正式な行動を取った初の大規模事例として、法的・文化的の両面で重要な意味を持ちます。

第一に、この要請は、日本の著作権法の原則に基づき、「許可なく学習させない」という立場を明確に示した点で意義があります。これまでAI開発企業の多くは、学習データの出所を公表せず、後からの申し立てによる対応にとどまってきました。CODAはこの慣行を「事後免責を前提とする米国型アプローチ」と位置づけ、日本では通用しないという立場を国際的に表明した形です。

第二に、本件は文化産業全体の連携強化を象徴しています。アニメ、出版、ゲーム、音楽といった異なる分野の企業が共同で声を上げることは稀であり、AI技術の進展が業界横断的な課題となっていることを示しています。特に、これらの企業は国際市場での知名度が高く、AIモデルに模倣されやすい独自のスタイルや表現を多く有しています。そのため、今回の要請は単なる国内対応にとどまらず、文化的資産の保護という国際的メッセージとしての意味を持ちます。

第三に、OpenAIをはじめとする生成AI開発企業に対し、国ごとの著作権制度を尊重した学習体制の構築を求める前例となりました。米国ではフェアユースを理由に学習を継続できる可能性がありますが、日本市場での信頼を維持するためには、各国の法体系に即した運用が求められます。

このように、今回の要請は単なる抗議ではなく、AI開発と知的財産保護の共存を求める国際的な議論の一端を担う動きとして位置づけられます。

おわりに

今回のCODAによる要請は、AI開発と著作権保護の間にある根本的な課題を浮き彫りにしました。今後も同様に、作品の無断学習に対して停止や制限を求める動きは増えていくと考えられます。これは、日本のアニメやマンガといった文化資産を守るという観点に加え、仮に著作権が認められたとしても、著作者自身に金銭的な利益が還元されにくいという問題意識も背景にあるでしょう。

一方で、画像や映像を自動生成するAIサービスは今後も次々と登場する見込みです。企業側が要請に応じるかどうかはケースによって異なり、しばらくはいたちごっこのような状況が続く可能性があります。著作権法の整備が追いつかない中で、現実的な線引きが模索される段階にあります。

また、著作者の権利そのものを見直す時期に来ているとも言えます。たとえば、漫画家のアシスタントが師の画風を継承することは一般的に許容されており、そこには著作者の意志と信頼関係が存在します。AIによる模倣が問題視されるのは、そうした「創作者の気持ち」が無視されるからとも言えるでしょう。

さらに、AIによる模倣の問題は著作権だけにとどまりません。たとえば、有名画家の作風を再現し、未発表作品のように偽装して販売する詐欺的な行為も想定されます。どこまでが保護されるべき創作で、どこからがインスピレーションとして認められるべきか——その境界は今、急速に曖昧になりつつあります。

AI時代における創作と模倣の関係をどう定義し直すか。今回の要請は、その議論の出発点を示す重要な一歩といえるでしょう。

参考文献

Windows 11の新スタートメニューに奇妙な不具合 ― アプリが表示されない・リストが勝手にスクロール

Microsoftが2025年10月に配信したWindows 11のプレビュー更新(非セキュリティ更新、KB5067036)では、長らくテストが続いていた新しいスタートメニューが一般ユーザーにも展開されました。これにより「おすすめ」セクションの削除や、1ページ構成のレイアウト改善が実現し、使いやすさが向上したとされています。

しかし、実際に利用してみると、この新スタートメニューにはいくつかの奇妙な不具合が存在していることが明らかになりました。海外メディアNeowinが報告した内容を中心に、問題点を整理します。

不具合1:新規インストールしたアプリが「すべてのアプリ」に表示されない

Neowinの記者が最初に確認したのは、新しくインストールしたアプリがスタートメニューに即座に反映されない問題です。
具体的には、VMware Workstationをインストールしても「すべてのアプリ」一覧にVMwareフォルダーが表示されず、ショートカットも検索結果に出てこないという事象です。

実際には、フォルダー自体は

C:\ProgramData\Microsoft\Windows\Start Menu\Programs

内に作成されており、エクスプローラーから「ファイルの場所を開く」で確認できます。つまり、ショートカットは存在しているにもかかわらず、UI上に反映されないという状態です。

一度エクスプローラーやシステムを再起動すると正常に表示されるようになるため、キャッシュまたはインデックス更新に関わる不具合とみられます。なお、フォルダー構造を作成するタイプのアプリで発生しやすい傾向があるようです。

不具合2:初回クリックでリストが勝手にスクロール

もう一つの問題は、スタートメニューを再起動後に初めて開いた際、任意のアプリをクリックするとリストが勝手に先頭へスクロールするというものです。
たとえば「フォト」アプリを開こうとしても、勝手にリスト最上部に戻ってしまう現象が発生します。

この問題は1回だけ発生する一過性の不具合で、2回目以降は正常動作するとのことです。Microsoftは10月初旬のInsider Build 26220.6780で修正済みとしていますが、一般向け安定版では依然として残っていると報告されています。

品質保証への疑問

これらの不具合は、同記者が複数の環境(メインPC・ノートPC・仮想マシン)で再現したとされています。開発期間が数か月に及んだにもかかわらず、このような基本的なUIバグが残っている点について、記事ではMicrosoftの品質保証体制に疑問を呈しています。

さらに、タスクマネージャーが正常終了せず、プロセスが重複してメモリやCPUを消費する別の既知不具合にも触れ、「AI統合や広告機能の強化ばかりが優先され、基本品質が犠牲になっている」と批判しています。

おわりに

新しいWindows 11のスタートメニューは、デザイン面では明確に進化を遂げています。しかし、現時点ではアプリ表示や動作の安定性に問題が残る状況です。

特に、業務環境などで新アプリを頻繁に導入するユーザーは、表示遅延や誤作動による混乱を避けるため、修正版が正式リリースされるまでアップデートの適用を控えるのが賢明かもしれません。

Microsoftが今後の安定版アップデートでこれらの不具合をどのように修正するのか、引き続き注目する必要があります。

参考文献

OpenAIのSAI買収が意味するもの ― AppleのAI戦略への追い風となるか

はじめに

米OpenAIが、macOS向けの自然言語インターフェース「Sky」を開発していたSoftware Applications, Inc.(以下、SAI)を買収したと報じられました。同社はApple出身のエンジニアによって設立されたスタートアップで、画面上のコンテキストを理解し、ユーザーの指示をもとにアプリ操作や自動化を行うAIインターフェースの開発を進めていました。

今回の買収は、完成した製品を取り込むものではなく、開発段階にあるテクノロジーとその背後にあるチームを早期に確保する、いわゆる「青田買い」に近い性質を持つとみられます。OpenAIがこの段階でSAIを取り込んだことは、デスクトップ環境へのAI統合を加速させる狙いを示唆しています。

また、本件はAppleのAI戦略にも間接的な影響を及ぼす可能性があります。Appleは近年、自社で基盤モデルを開発するよりも、外部のAIプロバイダと提携し、自社製品に安全かつ深く統合する方針を明確にしています。OpenAIがSAIを通じてmacOSへの技術的理解を強化することは、Appleとの連携を一層現実的なものにする可能性があります。

本記事では、この買収の概要と背景を整理し、OpenAIおよびApple双方の戦略的意図について考察します。

OpenAIによるSoftware Applications, Inc.の買収概要

OpenAIは2025年10月下旬、米国のスタートアップ企業Software Applications, Inc.(SAI)を買収したことを正式に発表しました。同社はmacOS向けAIインターフェース「Sky」を開発しており、買収はOpenAI公式ブログおよび複数の主要テクノロジーメディアで報じられています。買収額は非公表です。

Software Applications, Inc.は、かつてAppleで「Workflow」および「Shortcuts(ショートカット)」の開発に携わったエンジニアによって設立されました。特に共同創業者のAri Weinstein氏とConrad Kramer氏は、Appleの自動化エコシステム構築において中心的な役割を果たした人物として知られています。彼らの知見は、macOSやiOS上での操作自動化、アプリ間連携、そしてユーザー体験設計に深く根ざしています。

今回の買収対象となった「Sky」は、macOS上で稼働する自然言語ベースの操作インターフェースであり、ユーザーの画面上の状況を理解し、アプリやウィンドウを横断してタスクを実行できることを目指して開発されていました。現時点では一般公開には至っておらず、クローズドプレビュー段階での技術検証が続けられていたとみられます。

これらの背景から、OpenAIによる今回の買収は、完成した製品を市場導入するためのものではなく、デスクトップ環境へのAI統合技術と、OSレベルのユーザー体験設計に強みを持つチームを早期に取り込む戦略的な人材獲得と位置づけられます。今後、ChatGPTアプリや将来的なデスクトップAIアシスタント開発において、この買収が技術的・組織的な基盤強化につながるとみられています。

Skyとは何か ― macOS向け自然言語インターフェース

「Sky」は、Software Applications, Inc.(SAI)が開発していたmacOS向けの自然言語インターフェースであり、ユーザーがテキストや音声で指示を与えることで、アプリケーション操作やシステム制御を実行できるよう設計されたソフトウェアです。従来のチャット型AIとは異なり、デスクトップ環境そのものと連携し、ユーザーの文脈に応じたアクションを自動的に判断・実行することを目的としています。

報道によれば、SkyはmacOS上で開いているウィンドウやアプリケーションの状態をリアルタイムに把握し、「このメールを返信用にまとめて」「このページをメモに保存して」などの自然言語による指示に対応できる設計とされています。ユーザーが特定のアプリを操作しなくても、AIがその意図を理解して最適なアプリを選び、必要な動作を代行する仕組みです。

また、SkyはAppleの「Shortcuts(ショートカット)」やAutomatorなどに近い自動化思想を持ちながらも、従来の手動設定ではなくAIによるコンテキスト認識を前提にしています。これにより、複数アプリ間の連携やワークフローの自動化を、ユーザーが自然言語のみで指示できる点が特徴です。

さらに、技術面ではAppleScriptやシェルスクリプトなど既存のmacOS自動化APIを活用し、開発者やパワーユーザーがカスタム動作を拡張できる仕組みも構想されていました。つまりSkyは、単なるAIチャットツールではなく、「AIによるデスクトップ操作層の再定義」を目指したプロジェクトであり、将来的にはChatGPTなど外部AIとの連携も視野に入れていたとされています。

現時点で一般公開はされていませんが、この設計思想は今後のデスクトップAIの方向性を示唆するものであり、OpenAIによる買収後、同技術がChatGPTアプリやmacOS統合機能の一部として発展していく可能性があります。

買収の狙い ― OpenAIが求めたもの

OpenAIがSoftware Applications, Inc.(SAI)を買収した背景には、単なるプロダクト獲得ではなく、**「デスクトップ環境におけるAI統合力の強化」**という明確な戦略的意図があると考えられます。報道各社による分析を総合すると、今回の買収は大きく三つの狙いに整理できます。

第一に、macOS環境への本格的な進出です。OpenAIはこれまで、ChatGPTアプリを中心にモバイル・Web領域での利用拡大を進めてきましたが、デスクトップOSとの深い統合は限定的でした。SAIが開発していた「Sky」は、まさにこの課題を解決し得る存在であり、アプリを越えてOS全体をAIが補助する新しい操作層の基盤として注目されています。これにより、ChatGPTを単なるアプリケーションではなく、macOS上で常駐する知的アシスタントへと進化させる足掛かりが得られます。

第二に、人材と設計思想の獲得です。SAIの創業メンバーは、Appleで「Workflow」や「Shortcuts」など、ユーザー体験と自動化を融合させたプロジェクトを主導してきたエンジニアたちです。OpenAIにとっては、彼らの「OSレベルでのUX設計」と「ユーザー文脈に基づく自動化」への知見を取り込むことが、将来的なChatGPTエージェント開発に直結します。つまり、買収の主眼は完成品ではなく、“思想とチーム”の確保にあります。

第三に、AIをアプリからOS統合型サービスへと拡張するための布石です。OpenAIは将来的に、AIがアプリケーションを横断して操作・支援を行う「エージェントモデル」を指向しており、Skyの技術はその実現に必要なUI・API連携の基盤を提供します。この方向性は、AIがユーザーの意図を理解してタスクを代行するという、ChatGPTの進化方針と一致しています。

今回の買収は、完成した製品を市場投入するための動きではなく、macOS統合・UI設計・人材確保の三点を通じて、AIがデスクトップ環境に溶け込む未来を見据えた戦略的投資であるといえます。OpenAIはこの買収を通じ、OS上で自律的に動作する次世代AIアシスタントの実現に一歩近づいたと考えられます。

AppleのAI戦略との関係性

今回のSoftware Applications, Inc.(SAI)の買収は、直接的にはOpenAIの戦略によるものですが、間接的にはAppleのAI方針にも影響を及ぼす可能性があります。両社は2024年にパートナーシップを締結し、OpenAIの生成AI技術をApple製品に統合する方向性を明確にしており、今回の動きはその関係をさらに強化する契機となり得ます。

Appleは現時点で、自社で大規模言語モデル(LLM)を一から構築するよりも、信頼性の高い外部プロバイダと連携し、それを安全に自社エコシステムへ組み込むというアプローチを採っています。「Apple Intelligence」と呼ばれる生成AI機能では、OpenAIのGPTモデルが利用されており、Siriやメモアプリなど複数のシステム領域に統合が進んでいます。この方針は、ユーザーのプライバシーを守りながらも、最先端のAI体験を迅速に導入するというAppleらしい現実的な戦略といえます。

その文脈において、SAIが開発していたmacOS向けインターフェース「Sky」は、Appleの戦略に対して二つの意味を持ちます。
一つは、macOS上でのAI統合の進化を加速させる可能性です。SkyチームはApple出身であり、macOSやShortcutsの内部構造を理解していることから、OpenAIがmacOS環境での統合を拡張する上で、Appleとの技術的連携を容易にする要素となります。
もう一つは、Appleにとっての刺激的な外部要因としての側面です。OpenAIがSkyの技術をもとに、デスクトップ上で動作する独立型AIエージェントを構築すれば、Appleも自社のAIインターフェース強化を急ぐ必要に迫られる可能性があります。

したがって、この買収はAppleにとって脅威ではなく、むしろ自社戦略を後押しする追い風として機能する可能性が高いと考えられます。外部AIを安全に統合するというAppleの基本方針に沿いながら、macOSレベルでの連携が深化することで、ユーザー体験の統合度と自然さはさらに高まるでしょう。
結果として、OpenAIとAppleは競合関係ではなく、AIを中心としたエコシステム拡張のパートナーとして、より実践的な協調フェーズへ進む可能性があります。

今後の展望と課題

OpenAIによるSoftware Applications, Inc.(SAI)の買収は、AIをデスクトップ環境へ本格的に統合する第一歩と位置づけられます。これまでのChatGPTは主にブラウザやモバイルアプリを介して利用されてきましたが、今後はOSレベルで動作する「常駐型AIアシスタント」へと進化する可能性があります。macOS上でアプリケーションを横断的に理解・操作できる仕組みが実現すれば、ユーザーの作業効率や生産性は大きく向上すると考えられます。

また、この買収を契機として、AIによるユーザー体験(UX)の新しい形が生まれる可能性もあります。Skyが示した「コンテキストを理解するAI」は、ユーザーの目的を推測して適切な操作を実行することを目指しており、従来のチャットベースのAIとは異なる体験を提供します。これがChatGPTやApple製品と連動すれば、AIが「アプリを超えて動く」時代が到来するでしょう。

一方で、課題も少なくありません。最大の懸念はプライバシーとセキュリティです。Skyのようなシステムは、ユーザーの画面やアプリ操作を理解・解析する性質上、機密情報や個人データへのアクセスが発生します。そのため、ユーザー同意やアクセス権限の設計、データ処理の透明性といった点が厳格に管理されなければ、実用化は難しいといえます。

さらに、技術統合の複雑さも大きな課題です。AIが複数のアプリやAPIを横断的に操作するためには、macOSや各アプリケーション開発者との密接な連携が不可欠です。特にAppleのセキュリティポリシーは厳格であり、OpenAIがどこまでOSレベルの統合を実現できるかは今後の交渉や技術設計に左右されます。

今回の買収はAIが「アプリ内で応答する存在」から「OSの一部として動作する存在」へと進化する転換点を象徴しています。その実現には時間を要しますが、もし技術的・倫理的課題を克服できれば、デスクトップコンピューティングの概念そのものを再定義する革新につながる可能性があります。

おわりに

OpenAIによるSoftware Applications, Inc.の買収は、AIがデスクトップ環境へと進出する流れを象徴する出来事といえます。開発中であった「Sky」は、ユーザーの操作や文脈を理解し、macOS上で自動的にタスクを実行するという新しい概念を提示していました。完成品を取り込むのではなく、その設計思想と開発チームを早期に確保した点に、今回の買収の本質があります。

この動きは、Appleが進める外部AIとの統合戦略にも一定の追い風となります。Appleは自社開発にこだわらず、信頼できるAIプロバイダとの提携を通じて安全かつ自然な体験を提供する方向性を明確にしており、OpenAIがmacOS統合を強化することは、双方にとって利益の大きい展開となる可能性があります。

今後は、AIが単一アプリケーションの枠を超え、OSそのものと連携する時代が訪れるでしょう。その実現には、ユーザーのプライバシー保護や技術的な整合性といった課題を慎重に克服する必要がありますが、今回の買収はその第一歩として大きな意義を持つと考えられます。OpenAIとAppleの協調によって、デスクトップAIの新しいスタンダードが形成される可能性が高まっています。

参考文献

フォーティネットがSSL-VPNを廃止へ ― 2026年5月サポート終了と企業が取るべき対応

米Fortinet(フォーティネット)が提供してきたSSL-VPN機能の技術サポートを2026年5月に終了することを正式に発表しました。この決定は、日本法人フォーティネットジャパンが2025年10月に開催した顧客・販売パートナー向けウェビナーにおいて明らかにされたものであり、長年にわたりテレワークやリモートメンテナンス用途で広く利用されてきた企業にとって大きな転換点となります。

SSL-VPNは、インターネット経由で社内ネットワークへ安全に接続するための代表的な技術として普及してきましたが、近年はランサムウェア攻撃の初期侵入経路として悪用される事例が急増しています。特にFortinet製装置を含む複数ベンダーのSSL-VPN実装において、深刻な脆弱性(CVE-2024-21762など)が報告されており、運用面でもリスクの顕在化が続いていました。

このような背景から、FortinetはSSL-VPN機能の廃止を決断し、後継としてIPsec VPNやゼロトラストネットワークアクセス(ZTNA)などの方式への移行を推奨しています。本稿では、このSSL-VPN廃止の経緯と影響を整理し、現在Fortinet製SSL-VPNを利用している企業が検討すべき現実的な移行選択肢について解説します。

フォーティネットによるSSL-VPN廃止の背景

フォーティネットがSSL-VPNの提供を終了する決定を下した背景には、近年のサイバー攻撃動向と、同社が掲げるゼロトラスト化への技術的転換があります。SSL-VPNは長年にわたり、テレワークやリモート管理のための主要なリモートアクセス手段として利用されてきました。しかし、2020年代以降、この仕組みがランサムウェアや標的型攻撃の侵入経路として悪用される事例が相次いでおり、攻撃者にとって「境界防御の最も弱い部分」とみなされるようになりました。

実際、Fortinet製品を含むSSL-VPN機能では、認証回避やリモートコード実行(RCE)につながる深刻な脆弱性が複数報告されています。これらの脆弱性は、修正版の提供後も攻撃者に継続的に利用される傾向があり、パッチ適用の遅れや設定不備が攻撃リスクを高める要因となっていました。

こうした状況を受け、フォーティネットは「FortiOS」最新版においてSSL-VPN機能を削除し、より安全性と制御性の高いIPsec VPNおよびZTNA(Zero Trust Network Access)への移行を推奨する方針を明確にしています。これは単なる機能の廃止ではなく、同社のリモートアクセス戦略を「境界防御からゼロトラストへ」転換することを意味しています。

なぜSSL-VPNが廃止されるのか

フォーティネットがSSL-VPNを廃止する最大の理由は、セキュリティ上の恒常的なリスクと技術的限界にあります。SSL-VPNは、TLS暗号化を利用して社外から社内ネットワークに安全に接続できる方式として普及しましたが、その構造上、認証突破後に広範なネットワーク権限を付与する点が攻撃者に悪用されやすい弱点となっていました。

近年では、CVE-2024-21762をはじめとする複数の重大脆弱性がFortinet製SSL-VPNで確認されており、これらはゼロデイ攻撃として現実に悪用されています。脆弱性の多くは、ユーザー認証やセッション管理、Webインターフェースの入力処理に起因するものであり、リモートからのコード実行やシステム侵害を許す可能性があります。加えて、企業側でのパッチ適用遅延や設定不備が重なることで、侵入防御が形骸化するケースも少なくありません。

また、フォーティネットは自社のセキュリティアーキテクチャを「ゼロトラスト」モデルへと移行させており、ネットワーク単位で接続を許可するSSL-VPNはこの方針と整合しなくなっています。ゼロトラストでは、利用者・端末・アプリケーションを個別に検証し、必要最小限のアクセスのみを許可することが求められます。従来のSSL-VPNは「一度接続すれば広範なリソースに到達できる」設計であり、この概念とは根本的に相容れません。

これらの理由から、フォーティネットはSSL-VPNを段階的に廃止し、後継としてより安全な通信制御が可能なIPsec VPNおよびZTNA(Zero Trust Network Access)への移行を正式に推奨しています。

発表内容とサポート終了時期

Fortinet(フォーティネット)は、同社のファイアウォール製品およびリモートアクセス機能で広く利用されてきた「SSL-VPNトンネルモード」について、バージョン FortiOS 7.6.3 以降ではGUI/CLI上から利用できなくなると明記しています。具体的には「Starting in FortiOS 7.6.3, the SSL VPN tunnel mode feature is replaced with IPsec VPN … SSL VPN tunnel mode is no longer available in the GUI and CLI. Settings will not be upgraded from previous versions.」という公式リリースノート上の記述があります。

さらに、同社および関連解説記事では、技術サポート(End of Engineering Support:EoES)として「2026年5月」が国内企業の利用環境における事実上の区切りになると報じられています。たとえば、海外パートナー向けの公表資料では“FortiOS 7.4 のEoES:May 2026”という記述が確認されています。

このため、フォーティネット製のSSL-VPNを現在運用している企業に対しては、2026年5月までに代替構成へ移行を完了させることが強く推奨されています。サポート終了後には、脆弱性修正・機能改善の対象外となるため、同機能を継続して運用することはセキュリティリスクを伴います。

なお、上記はあくまで公表された仕様変更およびサポートポリシーに基づくものであり、貴社の個別契約や機器モデル・ファームウェアのバージョンによって影響範囲は異なります。移行計画を検討する際には、使用中機材のモデル・バージョン・構成を早期に確認することが肝要です。

SSL-VPNの構造的な問題点

SSL-VPNは、TLS(Transport Layer Security)を用いて通信を暗号化し、インターネット経由で社内ネットワークへ安全にアクセスすることを目的として設計された技術です。しかし、その構造上の設計と運用の特性から、現代の脅威環境においては複数の根本的な課題を抱えています。

第一に、接続後の権限範囲が過大であることが挙げられます。SSL-VPNは、一度認証が成功すると社内ネットワーク全体または広範囲のサブネットにアクセスできる構成が一般的です。この「トンネル内全許可」モデルは、攻撃者が一度資格情報を窃取すれば、内部の多数のシステムへ横展開できるという致命的なリスクを伴います。実際、近年発生した複数のランサムウェア攻撃では、侵入経路としてSSL-VPNが悪用され、侵入後にActive Directoryやファイルサーバーなどへ被害が拡大した事例が報告されています。

第二に、ゼロデイ脆弱性の影響範囲が大きいことです。SSL-VPNは外部公開が前提であるため、脆弱性が発覚した際には攻撃者が即座にインターネット上から探索・攻撃を仕掛けることが可能です。特にFortinet製SSL-VPNでは、CVE-2022-42475やCVE-2024-21762などの重大なリモートコード実行脆弱性が確認されており、修正版リリース前から実際に攻撃に利用されていました。パッチ適用の遅延や検証不足によって、企業が攻撃対象となるリスクが常に存在します。

第三に、VPNという技術モデル自体が「境界防御」依存であることです。従来のVPNは「外部と内部を分け、内部は信頼できる」という前提に基づいて設計されています。しかし、クラウド利用の普及やモバイル端末の増加により、社内外の境界が曖昧化した現在では、このモデルでは十分な防御が成立しません。ゼロトラストの考え方では、すべての通信・ユーザー・端末を都度検証する必要があり、SSL-VPNのように一度認証すれば広範囲にアクセスできる仕組みは不適合とされています。

このように、SSL-VPNは暗号化通信という点では有効な技術であるものの、アクセス制御や権限分離、脆弱性対応の観点からは限界に達しており、現行の脅威モデルに対応するには構造的な再設計が不可欠です。フォーティネットがSSL-VPNを廃止する決定は、これらの構造的欠陥を踏まえた合理的な判断といえます。

現在SSL-VPNを利用している企業が取るべき移行方針

フォーティネットがSSL-VPNの技術サポートを2026年5月に終了することを発表したことにより、現在この機能を利用している企業は、今後の接続方式を早急に再検討する必要があります。SSL-VPNは長年にわたりリモートアクセスの標準的手段として用いられてきましたが、近年では深刻な脆弱性の報告やランサムウェア攻撃の侵入経路としての悪用が続発しており、フォーティネット以外の製品を含め、構造的にリスクが高い技術と見なされています。

フォーティネットは、従来のVPN型リモートアクセスからゼロトラストモデルへの転換を明確に打ち出しており、今後はIPsec VPNやZTNA(Zero Trust Network Access)、さらにはSASE(Secure Access Service Edge)などの方式への移行が現実的な選択肢となります。企業としては、機能の代替だけでなく、セキュリティアーキテクチャそのものを見直す機会と捉えることが重要です。

本節では、SSL-VPNの廃止を踏まえ、現行利用企業が取るべき移行方針を段階的に整理し、安全かつ継続的にリモートアクセスを運用するための実践的な方向性を示します。

1. VPNを継続する場合の選択肢

SSL-VPN廃止後も、既存の運用環境やネットワーク構成を大きく変えずにリモートアクセスを維持したい企業にとっては、VPN技術を継続利用する選択肢が現実的です。ただし、従来と同じ構成を維持することは安全上の課題を残すため、暗号方式やアクセス制御の再設計が不可欠です。主な選択肢としては以下の三つが挙げられます。

(1)IPsec VPNへの移行

IPsec(Internet Protocol Security)VPNは、インターネット層で暗号化・認証を行う標準化されたVPNプロトコルであり、SSL-VPNの後継技術として最も一般的な選択肢です。Fortinet自身もSSL-VPN機能の廃止に伴い、FortiGateシリーズでのリモートアクセスはIPsec VPNへの移行を正式に推奨しています。IPsecは高い暗号強度と相互認証(IKEv2、証明書認証など)を備え、機密性の高い通信に適しています。一方で、初期設定が複雑であり、クライアント構成やファイアウォールルールの見直しが必要になる場合があります。

(2)他社製SSL-VPNへの移行(非推奨)

一時的な延命策として、他社製のSSL-VPN製品に切り替える方法も存在します。しかし、SSL-VPNという技術自体が抱える構造的リスク(認証回避、脆弱性の多発、侵入後の横展開の容易さ)は、ベンダーが異なっても本質的には解消されません。実際、2020年代以降、各社のSSL-VPN製品に対して重大なゼロデイ脆弱性が相次いで報告されており、攻撃者による侵入経路として頻繁に悪用されています。このため、他社製SSL-VPNへの移行は恒久的な解決策とは言えず、短期的な暫定対応に留めるのが望ましいとされています。

(3)SASE/クラウドVPNサービスの利用

近年は、クラウドを経由してセキュアなアクセスを実現するSASE(Secure Access Service Edge)やクラウドVPNサービスが注目されています。これらのサービスは、トラフィックをクラウド上で検査・暗号化し、ユーザー認証や脅威検知を一元的に行う仕組みです。従来のVPNのように企業ネットワークに直接接続する必要がなく、通信経路を細かく制御できる点でセキュリティ面の優位性があります。代表的なサービスには、Zscaler Private Access(ZPA)、Palo Alto Prisma Access、Cloudflare Oneなどがあります。

ただし、SASEも内部的にはVPNトンネルを使用する場合があり、構成によってはゼロトラスト型ZTNAほどの粒度で制御できないことがあります。したがって、長期的にはゼロトラストアーキテクチャへの移行を見据え、SASEをその過渡期のソリューションとして位置づけるのが合理的です。


VPNを継続する場合でも「境界防御」モデルを前提とした設計をそのまま踏襲するのは危険であり、強固な認証、多層防御、マイクロセグメンテーションの導入など、ゼロトラストの考え方を段階的に取り入れることが求められます。

2. VPNを使わない場合の選択肢

フォーティネットのSSL-VPN廃止は、企業にとって従来の「VPN依存型リモートアクセス」から脱却する契機となります。近年では、ネットワーク単位で接続を許可するVPNモデルが抱えるリスクを回避するため、VPNを前提としないリモートアクセス方式が急速に普及しています。これらの方式は、ゼロトラストの考え方を基盤としており、「接続させないことによる防御」「アプリケーション単位での認可」を実現するものです。代表的な選択肢は以下の三つです。

(1)ZTNA(Zero Trust Network Access)

ZTNAは、VPNの後継技術として最も注目されている方式です。ユーザーや端末がネットワークに接続するのではなく、アクセス対象のアプリケーションごとに認証・検証を行います。これにより、攻撃者が一度侵入しても内部ネットワーク全体に横展開することを防止できます。ZTNAは、ユーザー属性・端末状態・場所・時間などの要素を組み合わせて動的にアクセス可否を判定するため、認証強度と柔軟性の両立が可能です。
Fortinetをはじめ、Zscaler、Palo Alto Networks、Cloudflareなど主要ベンダーがZTNAソリューションを提供しています。特にフォーティネットは自社のZTNAをFortiGateおよびFortiClient製品に統合しており、既存インフラを活かした移行が可能です。

(2)IdP連携型リバースプロキシ/クラウドゲートウェイ

VPNを介さずに社内システムへ安全にアクセスするもう一つの方法が、IdP(アイデンティティプロバイダー)と連携したリバースプロキシ方式です。Azure AD Application ProxyやCloudflare Access、Google BeyondCorp Enterpriseなどが代表的な実装です。これらはWebアプリケーションを社外から直接公開する代わりに、クラウド上のプロキシが通信を中継し、IdPによる認証(多要素認証や条件付きアクセス)を必須とします。
この方式は、VPNトンネルを張らずにHTTPS通信のみで完結するため、外部からの侵入経路を最小化できます。また、Active Directoryへの直接依存を避ける構成も可能であり、ADの障害や不正利用リスクを軽減できる点も利点です。

(3)VDI/DaaS(仮想デスクトップ)

VPNを廃止しても、社内システムへの業務アクセスを維持する手段としてVDI(Virtual Desktop Infrastructure)やDaaS(Desktop as a Service)の採用も有効です。ユーザーは社外端末から仮想デスクトップにリモート接続し、その内部でのみ業務アプリケーションを利用します。データは常に社内またはクラウド上の仮想環境に留まり、端末側には保存されません。
この方式はデータ漏えいリスクを最小化できる一方で、Active Directoryやネットワーク基盤への依存度が高いため、障害時の影響範囲が広くなる点には留意が必要です。認証基盤をクラウドIdPへオフロードし、冗長化を図ることが安全運用の鍵となります。


これらの方式はいずれも「ユーザーがネットワークに接続する」のではなく、「認可されたリソースに限定的にアクセスする」点に特徴があります。特にZTNAやIdP連携型プロキシは、近年のランサムウェア攻撃の主要侵入経路となっているVPNやRDPを排除できる手段として、国内外で急速に採用が拡大しています。企業は、単なるVPNの代替ではなく、リモートアクセス全体を再設計する視点でこれらの方式を検討することが重要です。

セキュリティ強度で見た選択肢の優先順位

各リモートアクセス方式には、設計思想・通信経路・認証モデルの違いがあり、それぞれが持つセキュリティ強度には明確な差があります。ここでは、近年の脅威動向――特にVPNやRDPを狙った侵入、Active Directoryの認証連携を悪用した攻撃の増加――を踏まえたうえで、現実的な安全性の高い順に整理します。

1. ZTNA(Zero Trust Network Access)

ZTNAは、現在最も安全性が高い方式と評価されています。VPNのようにネットワーク全体を信頼せず、ユーザー・端末・アプリケーションを個別に検証した上で、必要最小限の通信のみを許可します。アクセスは都度認証され、通信経路もアプリケーション単位で分離されるため、侵入後の横展開(ラテラルムーブメント)が極めて困難です。さらに、クラウドIDプロバイダーと統合することで、Active Directoryの障害や不正利用の影響を局所化できます。

2. VDI/DaaS(仮想デスクトップ)

VDIやDaaSは、ユーザーが直接社内ネットワークに接続せず、仮想環境内で業務を完結させる方式です。業務データが端末に残らないため、情報漏えい耐性に優れています。特に金融・公共分野など、データ持ち出しが禁止されている環境では有効な手段です。ただし、認証基盤としてActive Directoryを利用する構成が多いため、ADの脆弱性や障害に対する冗長化対策が重要となります。

3. IdP連携型リバースプロキシ/クラウドゲートウェイ

Webアプリケーションに特化した安全なリモートアクセスを提供する方式です。IdP(Azure AD、Okta、Google Workspaceなど)による多要素認証(MFA)と条件付きアクセスを活用し、通信はHTTPSのみに限定されます。AD連携を排除できる構成も多く、VPNを介さずに安全なWebアクセスを実現できます。ただし、非Webアプリケーション(RDP、SMBなど)には適用範囲が限られます。

4. SASE/クラウドVPNサービス

クラウド上で通信を暗号化・検査し、ユーザーごとのポリシーを適用するSASE(Secure Access Service Edge)は、従来型VPNよりも安全性が高い方式です。ZTNA機能を統合するベンダーも増えており、運用面での利便性とセキュリティの両立が期待できます。ただし、構成によってはRDPなどの従来トンネルを維持するケースがあり、その場合はゼロトラスト実装よりもリスクが残ります。

5. IPsec VPN

IPsec VPNは、暗号強度の高い通信方式として信頼性がありますが、「一度接続すれば内部ネットワークへ広範囲にアクセス可能」という構造上のリスクを抱えています。攻撃者が認証情報を入手すれば、内部システムへ容易に侵入できる点はSSL-VPNと同様です。多要素認証の導入やネットワーク分割を徹底しない限り、ゼロトラスト要件を満たすことはできません。

6. 他社製SSL-VPN(非推奨)

他社製品であっても、SSL-VPNという技術モデル自体が構造的に脆弱である点は変わりません。複数ベンダーのSSL-VPNでゼロデイ脆弱性が繰り返し報告されており、特にランサムウェア攻撃では最も多く悪用されている経路の一つです。サポート期間やパッチ提供に依存するため、持続的な防御は困難です。


ZTNAが最も安全であり、他社製SSL-VPNは最も脆弱という序列は変わりません。
今後は、VPNやRDPを「必要悪」として維持するのではなく、認証・可視化・通信制御を統合したゼロトラスト基盤への移行を前提に、段階的な置き換えを進めることが求められます。

おわりに

フォーティネットによるSSL-VPNの廃止は、単なる機能削除ではなく、リモートアクセスのあり方そのものを見直す転換点となります。長年、多くの企業がSSL-VPNを「安全な社内接続手段」として運用してきましたが、近年ではその仕組みが攻撃者にとって格好の侵入口となり、実際に複数のランサムウェア攻撃や情報漏えい事件で悪用されてきました。フォーティネットがこの技術を終息させるのは、こうした現実的な脅威と、ゼロトラストモデルへの潮流を踏まえた必然的な判断と言えます。

今後、企業が取り得る選択肢は、従来型VPNを継続しながら防御層を強化するか、もしくはゼロトラスト型アクセスモデルへ移行するかのいずれかです。特にZTNA(Zero Trust Network Access)は、アクセス制御をアプリケーション単位で行い、ユーザー・端末・通信を常に検証する仕組みを備えており、現在の攻撃環境に最も適した方式と評価されています。

リモートアクセスは、テレワークやクラウド利用の拡大に伴い、企業の基盤インフラとして不可欠な存在となりました。その一方で、従来の境界防御型モデルに依存し続けることは、組織全体のリスクを高める結果につながります。SSL-VPN廃止という現実を、単なる製品ライフサイクルの問題としてではなく、セキュリティアーキテクチャを刷新する契機として捉え、計画的に次世代の安全なアクセスモデルへの移行を進めることが求められます。

参考文献

噂されるWindows 11「26H1」―Snapdragon X2 Eliteとの関係

Windows 11の次期大型アップデートとして、「26H1」という名称のバージョンが2026年初頭に登場する可能性が報じられています。複数の海外メディア(Neowin、Windows Report、Notebookcheckなど)がこの情報を取り上げており、現時点ではMicrosoftからの公式発表は行われていません。したがって、本件はあくまで噂ベースの情報として扱う必要があります。

報道によれば、この「26H1」アップデートは従来のH2(年後半)リリースとは異なり、特定のハードウェア、特にQualcommの新型プロセッサ「Snapdragon X2 Elite」を搭載したデバイスを対象とする可能性が指摘されています。このチップはTSMCの3nmプロセスを採用し、最大18コア構成や80TOPS級のNPU性能を備えるなど、AI処理を重視した設計が特徴とされています。

本記事では、Windows 11「26H1」に関して現在報じられている情報を整理し、その背景にある技術的意図や、Snapdragon X2 Eliteとの関連性について考察します。なお、記載する内容はいずれも正式発表前の段階に基づくものであり、最終的な仕様やリリース時期は変更される可能性があります。

Windows 11 26H1とは何か

Windows 11「26H1」とは、現時点で正式に発表されていない将来のWindows 11機能更新版を指すとみられる仮称です。「26H1」という名称は、Microsoftがこれまで採用してきた半期リリースの命名規則に基づくもので、2026年の前半(Half 1)を意味します。ただし、Microsoftは現在、Windows 11の年間機能更新を「年1回・後半(H2)」に限定しており、公式なロードマップ上に「H1」リリースは存在していません。そのため、「26H1」という名称はあくまで内部的なビルド系列、または限定的なリリースを示すものと考えられています。

報道各社によると、この「26H1」は従来の全ユーザー向けアップデートとは異なり、特定の新型デバイスを対象にした限定的な更新になる可能性が指摘されています。特に、Qualcommの最新ARMプロセッサ「Snapdragon X2 Elite」を搭載するWindows PC向けに提供される“先行的なOS最適化版”であるとの見方が有力です。このため、既存のx86/AMD/Intelベースのデバイス向けには、同年後半に予定されるとみられる「26H2」更新が一般提供されると予測されています。

また、Windows Insider Program(テストプログラム)においても、「26H1」に関連する明確なビルド番号やリリースブランチは現時点で確認されていません。したがって、「26H1」は現段階では正式な製品名ではなく、リーク情報やOEMメーカー向け準備版の内部呼称である可能性が高いと考えられます。いずれにせよ、Microsoftがこの更新をどのような位置づけで展開するかは、今後の公式発表を待つ必要があります。

26H1が「特定デバイス向け」とされる理由

Windows 11「26H1」が「特定デバイス向け」であると報じられている背景には、Qualcommの新型プロセッサ「Snapdragon X2 Elite」との密接な関係があるとみられます。複数の海外メディア(Neowin、Windows Report、Notebookcheckなど)は、この更新が主にSnapdragon X2 Eliteを搭載するARMベースのWindowsデバイスを対象に提供される可能性が高いと指摘しています。これは、従来のx86系プロセッサ向けWindowsではなく、新世代のARMプラットフォームへの最適化を目的とする「専用対応版」としての性格を持つと考えられています。

Snapdragon X2 Eliteは、TSMCの3nmプロセスで製造され、最大18コア構成、80TOPS級のNPU性能を備えた高性能SoC(System on Chip)です。このチップは、AI推論やローカル生成AI処理など、オンデバイスAIを重視する「Copilot+ PC」戦略の中核を担うとされています。Microsoftは、これらのAI機能を活かすためのOSレベルの最適化を進めており、特にNPUの利用や電力効率、ドライバ互換性など、ハードウェア依存の要素を26H1でサポートする必要があるとみられています。

一方で、従来のIntelやAMDプロセッサを搭載するx86系デバイスは、これらの新しいAIアクセラレータを標準搭載していない場合が多く、Snapdragon X2 Elite専用の機能更新をそのまま適用することは技術的に難しいと考えられます。そのため、MicrosoftはARMデバイス向けに先行して26H1を提供し、一般的なx86デバイス向けには後続の「26H2」で同等または統合された機能を展開する可能性があります。

このように、26H1が「特定デバイス向け」とされるのは、WindowsのARM最適化とAI統合戦略を段階的に進めるための施策であると理解できます。すなわち、Snapdragon X2 Eliteを中心とした新しいハードウェア世代に対応するための技術的基盤整備が、このアップデートの主目的であると推察されます。

Snapdragon X2 EliteとはどんなSoCか

Snapdragon X2 Eliteは、Qualcommが2025年に発表したWindows PC向けのハイエンドSoC(System on Chip)であり、同社が展開する「Snapdragon Xシリーズ」の最新世代に位置づけられています。このチップは、ARMアーキテクチャを採用した次世代ノートPC向けプラットフォームとして設計され、特にAI処理性能と電力効率の両立を重視しています。製造はTSMCの3nmプロセスで行われ、最大18コア構成を備えた新設計のOryon CPUを中心に、高速メモリ(LPDDR5X)、強化されたAdreno GPU、そして80TOPS級のNPU(Neural Processing Unit)を統合しています。

このNPU性能は、オンデバイスAI処理を前提とするMicrosoftの「Copilot+ PC」構想に対応する水準であり、AI生成機能やリアルタイム推論をローカルで実行することを可能にします。また、通信面でもWi-Fi 7およびBluetooth 5.4をサポートし、セキュリティ機能としてQualcomm独自の「Snapdragon Guardian」やハードウェアレベルの暗号化機構を備えています。これらの特徴から、Snapdragon X2 Eliteは従来のARMベースWindowsデバイスよりも明確に高性能化・本格化した「PCクラスSoC」として位置づけられており、MicrosoftがARM版Windowsの普及を再び強化するための鍵となる製品とみられています。

基本仕様

Snapdragon X2 Eliteの基本仕様は、Qualcommがこれまで展開してきたモバイル向けチップとは一線を画す、PCグレードの設計思想に基づいています。製造プロセスにはTSMCの3nm技術が採用され、これにより高い電力効率と発熱抑制を実現しています。CPUにはQualcomm独自設計の「Oryon」コアが搭載されており、最大18コア構成(上位モデルの場合)で動作します。最上位モデル「X2 Elite Extreme」では最大5.0 GHzのブーストクロックが報告されており、シングルスレッド性能の強化が図られています。

キャッシュメモリは最大53 MBとされ、従来モデルに比べて大幅に増加しています。メモリはLPDDR5Xを採用し、最高9,523 MT/sで動作、帯域幅は最大228 GB/sに達します。これにより、マルチスレッド処理やAI推論などのメモリ負荷が高いタスクにおいても、スループットが向上しています。GPUは改良版のAdreno X2を搭載し、グラフィックス性能の向上とDirectX 12 Ultimate対応を目指した最適化が施されています。

また、AI処理を担うNPU(Neural Processing Unit)は80 TOPS(毎秒80兆回の演算)クラスの性能を持ち、ローカル環境での生成AIやリアルタイム推論を可能にする設計です。通信機能としては、Wi-Fi 7とBluetooth 5.4を標準サポートし、5Gモデムの統合もオプションとして提供されます。さらに、セキュリティ面では「Qualcomm SPU(Security Processing Unit)」と「Snapdragon Guardian」により、OSレベルおよびクラウド連携の両面で暗号化とデバイス保護を強化しています。

これらの要素を総合すると、Snapdragon X2 Eliteは従来のモバイル向けARMチップを超え、ノートPC市場におけるx86系CPUの競合製品として位置づけられる高性能SoCであるといえます。MicrosoftのWindows 11における新しいAI機能群を支える基盤としても、極めて重要な役割を担うと考えられます。

性能と目的

Snapdragon X2 Eliteの性能と設計目的は、Windows環境におけるARMアーキテクチャの実用的な性能向上と、AI処理を中心とした新しい計算モデルへの対応にあります。Qualcommは本チップを、従来の「Snapdragon X Elite」シリーズを大幅に上回る性能を持つ次世代プラットフォームとして位置づけており、特にCPU、NPU、GPUの三要素の総合的な性能強化を進めています。

CPU性能については、前世代比で最大50%のマルチスレッド性能向上が報じられており、単純な省電力型モバイルプロセッサではなく、PC用途を前提としたパフォーマンス設計がなされています。高クロック化されたOryonコアと大容量キャッシュにより、従来のARM版Windowsデバイスで課題とされてきたアプリケーション起動の遅延やエミュレーション時の処理負荷が軽減されると見込まれます。特にMicrosoftが提供する「Prism」エミュレーションレイヤーとの組み合わせにより、x86アプリケーションの動作効率が改善される可能性が指摘されています。

AI処理能力については、NPUの80TOPSという演算性能が注目されています。これは、ローカル環境での生成AIモデル実行や、画像・音声認識、CopilotなどのWindows統合AI機能をデバイス単体で処理可能にする水準です。Microsoftが推進する「Copilot+ PC」認定要件では、NPUが40TOPS以上であることが基準とされていますが、Snapdragon X2 Eliteはその2倍の性能を有し、オンデバイスAIの主力チップとして明確に上位に位置づけられています。

GPU面でも、Adreno X2 GPUが採用され、3Dレンダリングや動画処理、AI推論補助などで従来モデルより高い処理効率を示すとされています。これにより、軽量なクリエイティブ用途やAI支援型のグラフィック処理にも対応可能です。

このように、Snapdragon X2 Eliteの目的は、単なる省電力ARMデバイスの拡張ではなく、AIネイティブなWindows環境を実現するための基盤を提供することにあります。Qualcommはこのチップを通じて、ARMアーキテクチャのPC市場での地位を強化し、Microsoftはそれを支えるOS最適化を進めることで、x86依存からの段階的な脱却を目指していると考えられます。

Microsoftがこのタイミングで更新を準備する理由(推測)

MicrosoftがこのタイミングでWindows 11の新たな更新版「26H1」を準備しているとみられる背景には、複数の戦略的要因が考えられます。最大の理由は、Qualcommの新型プロセッサ「Snapdragon X2 Elite」に代表される次世代ARMプラットフォームの登場に合わせ、OS側の最適化を早期に行う必要がある点です。ARMアーキテクチャを採用したWindows PCは、これまで互換性やパフォーマンス面でx86ベースのPCに劣後してきましたが、X2 Eliteの登場によってその差を縮める技術的土台が整いつつあります。Microsoftは、これに合わせてOSの電力管理、スケジューラ、NPU統合APIなどの基盤を調整することで、新しいハードウェアの性能を最大限に引き出すことを狙っていると考えられます。

また、同社が推進している「Copilot+ PC」構想の実現に向けても、Snapdragon X2 Elite対応は不可欠です。Copilot+ PCは、ローカルAI処理を中心としたWindowsエクスペリエンスの強化を目的としており、その要件として高性能NPU(少なくとも40TOPS以上)を搭載することが定義されています。X2 Eliteはこの基準を大幅に上回る性能を持つため、Microsoftにとっては最適なリファレンスプラットフォームとなります。これにより、WindowsのAI関連機能(Copilot、Recall、Cocreatorなど)の実用化と最適化を、既存のx86デバイスよりも早い段階で検証できる環境を整備できるとみられます。

さらに、MicrosoftはWindowsのアップデート戦略を柔軟化し、ハードウェアごとに段階的な機能展開を行う方針を強化していると考えられます。これまでの「全デバイス同時配信」から、「対象デバイス限定の先行配信」へと移行する動きは、Windows 11の23H2や24H2で既に一部見られました。26H1がもしSnapdragon X2 Elite専用の早期アップデートであれば、それは同社がハードウェア最適化型リリースモデルを試験的に拡大している一例といえます。

以上の点から、Microsoftがこの時期に新たな更新を準備しているのは、単なるスケジュール上の都合ではなく、次世代ARMデバイスの市場投入とAI機能群の強化という二つの流れを同時に前進させるための戦略的判断であると推察されます。

現時点での不確定要素

現時点において、Windows 11「26H1」に関する情報はすべて非公式であり、複数の点で不確定要素が残されています。まず、Microsoft自身が「26H1」という名称を正式に使用した事実は確認されていません。現在も同社の公式ドキュメントやWindowsリリース情報ページでは、機能更新は「年1回・H2(後半)」の提供方針が明示されており、H1(前半)リリースに関する記載は存在していません。そのため、「26H1」は開発コードやテストブランチを指す内部的な呼称である可能性が高いと考えられます。

また、この更新が実際に一般ユーザーへ配信されるかどうかも不明です。報道では、Snapdragon X2 Eliteを搭載した一部のARMデバイス向けに限定的な形で提供されるとの見方が多いものの、対象デバイスや配信範囲、配信経路(OEM限定・Insider Program限定など)は明らかにされていません。特に、既存のx86系デバイスに26H1が展開されるか、あるいは別バージョン(26H2など)として後追い提供されるのかについては、確たる情報が得られていません。

さらに、更新内容そのものについても詳細が不明です。NPU最適化やAI機能拡張、電力効率改善といった方向性が示唆されていますが、どの機能が実際に含まれるかは確認されていません。特にCopilot関連の新機能やRecallなどのAI要素が搭載されるかどうかは、Microsoftの今後の発表に依存します。

このほか、Windows Insider Programにおける関連ビルド(いわゆるRS_PRERELEASEやGE_RELEASEブランチなど)の出現も現時点では確認されていません。したがって、26H1はあくまで開発・検証段階にある可能性が高く、現段階で一般提供を前提とした確定情報とは言えません。結論として、26H1の存在、対象範囲、提供時期、機能内容のいずれもが現時点では推測の域を出ておらず、今後のMicrosoftおよびOEM各社の公式発表が確定情報を得る唯一の手段といえます。

今後注視すべきポイント

今後、Windows 11「26H1」に関して注視すべきポイントはいくつかあります。第一に、MicrosoftおよびQualcommからの正式な発表の有無です。現時点では、両社とも「26H1」やそれに相当する機能更新版に関する公式声明を出していません。もし今後、MicrosoftがWindows Insider Program向けに新しいブランチやビルドを公開した場合、それが26H1の存在を裏付ける最初の確証となる可能性があります。また、Qualcomm側がSnapdragon X2 Elite搭載デバイスの具体的な発売時期やOEMパートナーを発表することで、対応するWindowsバージョンの位置づけが明確になることも予想されます。

第二に、OEMメーカー各社(Microsoft、Lenovo、HP、ASUS、Samsungなど)の製品発表動向です。これらのメーカーがSnapdragon X2 Eliteを搭載したWindowsデバイスを2026年前半に投入する場合、そのプリインストールOSとして26H1が採用されるかどうかが注目点となります。特にMicrosoftが自社製品であるSurfaceシリーズにおいてX2 Eliteを採用する場合、それは26H1の商用利用開始を意味する可能性があります。

第三に、WindowsのAI機能群の展開状況です。Microsoftは2024年以降、「Copilot」「Recall」「Cocreator」などのAI機能を順次拡張しており、これらが次期更新でどのように進化するかが焦点となります。Snapdragon X2 Eliteは80TOPS級のNPU性能を備えているため、これを活かすための新しいAI APIやタスクスケジューリング機構が26H1で導入される可能性があります。したがって、AI関連の機能追加や要件変更に関するMicrosoftの発表は、OS更新の方向性を把握するうえで重要な指標になります。

最後に、Insider Program参加者や開発者コミュニティからのフィードバック動向も重要です。過去の大型更新と同様、プレビュー版での不具合や性能検証結果が正式版の提供時期に影響を与える可能性があります。特にARMベースのWindows機は互換性検証の負荷が高く、初期段階でのユーザー報告がリリース計画の調整要因となる場合があります。

MicrosoftおよびQualcommからの正式発表、Snapdragon X2 Elite搭載機の発売タイミング、AI機能の拡張計画の3点が、今後26H1に関する動向を見極める上での最重要項目であるといえます。

おわりに

現時点で報じられている情報を総合すると、Windows 11「26H1」は正式発表前の段階にあり、Microsoft内部で開発または検証が進められているとみられる更新版です。複数の報道によれば、このアップデートは従来の全デバイス向け機能更新とは異なり、Qualcommの最新ARMプロセッサ「Snapdragon X2 Elite」を搭載するデバイスを主な対象とした限定的なリリースになる可能性が指摘されています。X2 Eliteは3nmプロセス、最大18コア、80TOPS級NPUを備える高性能SoCであり、Microsoftが推進する「Copilot+ PC」戦略やオンデバイスAI処理の中核を担うチップとして期待されています。

このような背景から、26H1は単なる機能追加ではなく、新しいハードウェア世代に最適化された「ARMネイティブ環境への移行版」としての位置づけを持つと考えられます。特に、AI機能群の強化や電力効率の最適化、NPU対応のAPI整備といった、次世代のWindowsプラットフォームを見据えた基盤的更新である可能性が高いといえます。

ただし、Microsoftからの公式発表はまだ行われておらず、リリース時期、対象範囲、機能内容のいずれも確定していません。報道内容はすべて現時点での推測またはリーク情報に基づくものであり、最終的な製品仕様とは異なる場合があります。そのため、今後の動向を把握するには、MicrosoftおよびQualcommの正式な発表、ならびにSnapdragon X2 Elite搭載デバイスの市場投入スケジュールを継続的に注視することが重要です。

参考文献

Windows 11更新KB5067036でタスクマネージャーが終了しない不具合 ― Microsoftが既知問題として調査中

2025年10月28日、MicrosoftはWindows 11向けにプレビュー版の累積更新プログラム「KB5067036」を公開しました。この更新は、正式配信前に機能改善や不具合修正を先行適用できる「オプション更新(プレビュー更新)」として提供されており、対象はWindows 11 バージョン24H2および25H2です。

本更新では、エクスプローラー(File Explorer)の動作安定性向上や一部のエラー修正などが含まれており、次回の定例更新に向けた検証目的で配信されています。しかし同時に、一部環境において「タスクマネージャーが終了しない」という不具合が報告されており、Microsoftも公式に調査中であることを明らかにしています。

この記事では、このKB5067036に関する不具合の詳細、Microsoftの公式対応状況、そして現時点での回避策について整理します。

不具合の内容

今回報告されている不具合は、タスクマネージャー(Task Manager)を「×」ボタンで閉じた際に、プロセスが正しく終了しないというものです。通常であれば、ウィンドウを閉じると同時にタスクマネージャーのプロセス(taskmgr.exe)は停止しますが、本更新「KB5067036」を適用した環境では、バックグラウンドでプロセスが残留する事例が確認されています。

この状態で再度タスクマネージャーを開くと、新たなインスタンスが起動し、既存のプロセスと並行して動作を続けます。その結果、複数のtaskmgr.exeが同時に稼働し、CPUやメモリなどのシステムリソースを無駄に消費する可能性があります。特にメモリ容量の少ない端末や常時監視ツールを併用している環境では、体感的なパフォーマンス低下が生じることもあります。

この不具合はWindows 11 バージョン24H2および25H2のプレビュー更新を適用した一部の環境で確認されており、Microsoftも公式の「Windowsリリース健康ダッシュボード」において既知の問題として登録しています。現時点で恒久的な修正は提供されていませんが、Microsoftは調査を進めており、今後の更新プログラムで修正される見込みです。

KB5067036に含まれるその他の修正・既知の不具合

本更新プログラム(対象: Windows 11 バージョン 24H2/25H2)には、タスクマネージャー関連の不具合以外にも複数の修正項目および既知の問題が含まれています。

修正済みの主な項目

  • ドライバーのインストール時に「エラー 0x80070103」が発生していた問題について改善が含まれています
  • サーバー側アプリケーションで HTTP.sys を使用している環境において、ウェブサイト(例: Internet Information Services)が読み込めず「ERR_CONNECTION_RESET」等のエラーが発生していた問題が、この更新により解消されています
  • 著作権保護コンテンツの再生に失敗していた環境に対し、保護コンテンツ再生機能の改善が含まれています
  • ファイル・エクスプローラー(File Explorer)で大容量アーカイブ(例:1 GB以上)の展開時に「Catastrophic Error(0x8000FFFF)」が発生していたという報告を受け、本更新で改善が行われています

既知の問題(報告ベース/公式アナウンス含む)

前述のタスクマネージャーの問題以外について、Microsoftは既知の問題として認識していません。しかし、他の複合的な運用報告として「更新インストール失敗」や「システム起動不能(Auto Repairモード)となる」可能性が散見されていますが、これらは公式に「既知の問題」として明記されていないため、リスクとしては監視が必要です。


以上のように、KB5067036は機能改善・不具合修正を多方面で実施している更新プログラムですが、運用環境においては未解決の既知問題も併存している点を踏まえて、導入時には慎重な検討が求められます。

Microsoft 公式対応状況

1. リリース概要
この更新は、Windows 11 バージョン 24H2 および 25H2 を対象とした、非セキュリティの「プレビュー」更新プログラムです。目的は「機能、パフォーマンス、および信頼性の改善」です。

2. 既知の問題の公表状況
公式リリースノートでは、KB5067036 に対して「現在既知の問題なし(No known issues)」と記載されています。
ただし、公式「リリースヘルスダッシュボード」には、この更新を起点とする「タスクマネージャーが閉じた後もバックグラウンドで実行し続ける可能性がある」という既知の問題が、対応中(Mitigated)として掲載されています。

3. 回避策・運用指針

  • Microsoft は「調査中」である旨を記載しており、恒久的な解決策の時期について明示されていません。
  • 運用者に対しては、該当更新の適用にあたって影響をモニタリングするよう促されています。
  • 業務環境では、安定性確保のためプレビュー更新の適用を慎重に検討すべきという判断材料となります。

4. 今後の見通し
Microsoft はこの不具合の修正を「次期更新またはパッチで提供する予定」と案内しており、適用時期は明確にはされていません。現時点では回避策運用が現実的な対処です。


このように、KB5067036 に対して Microsoft は既知の問題を認識し、調査・修正対応中としており、運用者はその情報を踏まえた適用判断が求められます。

影響と今後の見通し

今回のKB5067036に含まれる不具合は、タスクマネージャーが終了後もバックグラウンドで動作を継続するという挙動であり、一般的な利用環境においてもリソース消費の増加やパフォーマンス低下を引き起こす可能性があります。特にメモリ搭載量が少ない端末や複数アプリケーションを同時に実行する環境では、動作の遅延やシステム負荷の上昇といった影響が顕著になるおそれがあります。

Microsoftは本件を公式に既知の問題として認識し、修正に向けた対応を進めていますが、現時点(2025年11月初旬)では恒久的な修正パッチはまだ提供されていません。そのため、今後の定例更新、特に**2025年11月12日に予定されている月例更新(Patch Tuesday)**において、もしこの不具合が修正対象として反映されない場合、同様の事象が正式版更新を通じて広範囲に再現されるリスクがあります。

プレビュー更新で発生した問題が月例更新へ引き継がれるケースは過去にも確認されており、特に今回のようにタスクマネージャーというシステム管理ツールに関わる不具合は、運用管理者にとって影響が大きいものです。したがって、業務端末や検証環境を運用している場合は、今後の更新配布前後におけるMicrosoftのリリースノートやリリース健康ダッシュボードの内容を注視する必要があります。

なお、プレビュー更新を未適用の環境では、修正版の正式配布が確認されるまで適用を控えることが安全策といえます。既に適用済みの場合は、タスクマネージャーの挙動とリソース使用状況を継続的に監視し、異常が見られる場合は手動終了や一時的な回避策を実施することが推奨されます。

おわりに

KB5067036は、Windows 11の機能改善や安定性向上を目的としたプレビュー更新として提供されていますが、その一方でタスクマネージャーが正常に終了しないという不具合が確認されており、Microsoftも公式に既知の問題として認識しています。現時点では恒久的な修正が行われておらず、今後の定例更新で対応が予定されている段階です。

この不具合は、システムの動作停止やデータ損失といった重大障害には直結しないものの、長時間利用時におけるパフォーマンス低下や運用監視への影響を引き起こす可能性があります。特に企業や業務端末では、プレビュー更新の適用を制御し、安定版としての修正版公開を待つ判断が望ましいといえます。

Windows Updateは利便性向上と同時に、新機能導入や構成変更を伴うため、プレビュー段階での検証と慎重な導入判断が今後も重要です。管理者や利用者は、Microsoftの公式リリース情報やリリース健康ダッシュボードを定期的に確認し、更新適用前後のシステム挙動を監視することで、予期せぬトラブルの影響を最小限に抑えることができます。

参考文献

Microsoft Azureで大規模障害発生 ― Microsoft 365やXboxにも影響、原因は構成変更ミス

日本時間2025年10月30日午前1時頃からMicrosoft Azureで大規模な障害が発生しました。これにより、Microsoft Azure、Microsoft 365、Minecraft、XboxなどのMicrosoftが提供する製品やサービスだけでなく、Starbucks、costco、Krogerといった大手企業のシステムにも波及しました。

Microsoftの発表によると、「Azure Front Door(AFD)における誤った構成変更(inadvertent configuration change)」が原因とのことで、この設定変更が DNS ルーティングに影響を与え、Azure Portal や関連サービスにアクセス不能状態を引き起こしたものと見られています。

発生から対応までを時系列に並べると以下のようになります。

  1. 2025年10月30日 午前1時頃(日本時間)
    障害発生を確認
  2. 2025年10月30日 04:19(日本時間)
    「last known good configuration(直前の正常構成)」のデプロイが完了し、ノード復旧を開始し、「今後4時間以内に完全復旧を見込む」と告知
  3. 2025年10月30日 08:20(日本時間)
    Azure側が「recovery to happen by 23:20 UTC(=8:20 JSTまでに復旧見込み)」と明記
  4. 2025年10月30日 09:40(日本時間)
    最終更新で「AFDサービスが98%以上の可用性を回復し、完全復旧を9:40 JSTに見込む」と発表

日本では、発生した時間自体は深夜ですが、回復に午前9時過ぎまでかかったため、朝一でメールを受信しようとしたらメールが受信できないなどの影響を受けた方もいたかと思います。

クラウド障害のインパクトの大きさ

先日のAWSの障害もDNSに起因するものでした。

DNSで障害が起きるとネットワークを前提としたシステムは非常に脆いことがわかります。加えて、クラウドベンダーが提供して責任を持つ部分であるため、DNSで障害が起きると複数のサービスに影響がおよび、それらのサービスを使用している複数の企業が影響を受けます。

この点については、各企業ごとに対策することが難しい場合が多いです。クラウド上でシステムを運用しているならマルチクラウドという選択肢はあるにはあります。ただし、コストとトレードオフになるため、事業規模によっては選択肢できない場合もあります。

また、IaaSではなくPaaSサービスを利用している場合はそういった選択肢も難しい場合があります。例えば、Microsoft 365で障害が起きた場合、他のベンダーでメールサービスを継続するということは不可能です。インフラを管理しないことに対するトレードオフでもあるので、どうしても障害を起こしたくないのであればインフラを管理する必要がありますが、クラウドベンダー並の可用性を実現できる企業は数えるほどしかないでしょう。

もう一つはこれが誤設定によるものであるという点です。過去に発生した大規模障害においても、誤った設定を適用した場合や操作ミスといった単純ミスによるものであったことがありました。これはMicrosoft Azureに限ったものではなく、他のクラウドベンダーでも起きています。

具体的な内容については公表されていないので想像になりますが、本当にただの凡ミスだったかもしれません。もしかすると、想定していなかった挙動だったのかもしれません。いずれにせよ、本当のところはわからないので一方的に「テストをしていないのではないか」と断ずるのは総計です。実際、DNS周りは想定しない挙動をする場合があるので、本番同等の環境を用意するのは現実的ではないため、テスト環境では問題ないことを確認した上で適用したが、予想しない挙動を示していたのかもしれません。

おわりに

以前のAWSの障害、今回のAzureの障害から言えるのは、

  • 代替の選択肢を持つこと
  • バックアップを3-2-1ルール取得し、復元できることを定期的に確認しておくこと

が重要であるということです。

代替の選択肢を持つというのは、メールの例で言えばメールが唯一の連絡手段になってしまうとメールが使用できなくなったときに業務が完全にとまってしまうので、それ以外の手段を持っておくというです。メールの例でいえば、電話やチャットなど複数の手段があるのが普通だと思いますのでそれほど問題ありません。しかし、空港での搭乗手続きが完全に電子化され、手動での搭乗手続きの手段が失われていたらどうでしょうか?ゲート搭乗機に障害が発生すると運休せざるを得なくなってしまいます。そういった意味では電子化は優れた選択肢である一方でそこに障害が発生したときに、人間の手による代替ができるようになっていることが重要です。

前述の話は機能に障害が発生した場合ですが、データにアクセスできなくなる場合やロストする場合について対策が必要です。古典的な手段ではありますが、現代でも有効な3-2-1ルールに則って、3つのデータコピーを保持し、2種類の異なるメディアに保存し、そのうち1つをオフサイト(地理的に離れた場所)に保管することは非常に有効です。

ただし、いくらバックアップが無事だといってもそこから復元できなければ意味がありません。バックアップを用意していても、いざ復元しようとしたら戻せなかったということは今に始まった話ではなく昔からずっと起きている話です。古くはテープにバックアップしたけどそこから復元できなかったなどということはよくある話ですし、2020年にはバックアップに不備があり障害が起きたときにバックアップから復元できずに売買停止が起きたこともありました。

避難訓練と同じで、災害発生時のマニュアル確認のための訓練やバックアップから復元できるかのリハーサルは義務付けられているものを除くと行っていないケースが多いように思います。日常的にテスト環境を構築するのにバックアップを使っているという場合であればバックアップ自体は使用可能だt思いますが、高度に自動化されている場合は手動でもできるのかといった点や3-2-1ルールに則ってバックアップが完全に失われないかなどを見直すことも重要です。

「愚者は経験に学び、賢者は歴史に学ぶ」とはよく言ったもので、こういった他社の事例からもしっかりと教訓を得ることは重要です。

参考文献

iPhone 19を飛ばして“iPhone 20”へ ― 20周年に合わせた世代刷新の可能性

Appleが次期iPhoneの名称として「iPhone 19」を飛ばし、2027年に「iPhone 20」を投入する可能性があるという報道が、海外の複数メディアで注目を集めています。これは現時点では公式発表ではなく、調査会社Omdiaなどによる分析や業界関係者の予測に基づくものです。

この報道によれば、Appleは初代iPhoneの発売から20周年を迎える2027年に合わせ、製品名を「20」にそろえることで節目を象徴する狙いがあるとされています。単なるナンバリング上の飛躍ではなく、製品戦略上の重要な転換点となる可能性が指摘されています。

本記事では、この「iPhone 20」へのスキップ報道の背景と意図について整理し、Appleが描くとみられる次世代iPhoneの方向性を考察します。

iPhone 19をスキップするという報道の概要

調査会社 Omdia のアナリスト、Heo Moo‑yeol 氏が、2027年に投入が予想される次期 iPhone の名称が「iPhone 19」ではなく「iPhone 20」になる可能性が高いとの見通しを示しています。
彼によれば、2027年の前半に「iPhone 18e」「iPhone 18」シリーズが登場し、後半には「iPhone 20 Pro」「iPhone 20 Pro Max」「iPhone 20 Air」「第2世代折りたたみiPhone」などが発表されるとしています。
この命名変更の背景には、iPhone 発売20周年を迎える2027年に“20”という数字と整合させることで、製品戦略上の節目を演出しようとする意図があると分析されています。
併せて、従来は秋(9月)に発表していた標準モデルの投入時期を、2027年以降前倒し(春または上期)する可能性にも言及されており、モデル構成およびリリーススケジュールの大幅な変更が見込まれています。
なお、これらはあくまでも“報道/分析”に基づく予測であり、Apple Inc.から公式に確定された情報ではないことにご留意ください。

「19」を避けるのではなく「20周年」を重視

今回の報道において重要なのは、Appleが「19」という数字を避けているわけではないという点です。複数の海外メディアによると、Appleが2027年に「iPhone 19」を飛ばして「iPhone 20」とする理由は、初代iPhone発売から20周年を迎える年にあたるためとされています。つまり、「19」を忌避するのではなく、「20」という節目の数字に象徴的な意味を持たせる意図があると考えられます。

この方針には前例があります。Appleは2017年のiPhone 10周年に「iPhone 9」を飛ばして「iPhone X(=10)」を発表しました。当時も、10周年という節目を製品名で強調することで、ブランドの進化と革新性を象徴的に示しました。今回の「iPhone 20」も同様に、20周年を記念した特別な世代として位置づけられる可能性が高いとみられます。

したがって、今回のスキップ報道は単なるナンバリングの調整ではなく、Appleのブランド戦略の一環として「周年」を意識的に活用していると見るのが妥当です。数字の連続性よりも、象徴的な節目を通じて製品価値を最大化するという、Appleらしいマーケティング判断といえます。

大きな変化が予想される理由

まず、2027年に“iPhone”シリーズが20周年を迎えるという節目を背景に、製品設計そのものを刷新する動きが報じられています。調査会社Omdiaによれば、2027年後半に「iPhone 20シリーズ」が登場し、従来の筐体や機能構成から大幅に変化する可能性があるとしています。

次に、ハードウェア面での革新が複数の報道から浮上しています。例えば、「折りたたみ(フォルダブル)iPhone」の投入が2026〜2027年にかけて検討されているという情報があります。また、設計面ではベゼル(画面の枠)を極小化し、四辺ガラス曲面ディスプレイや、センサー類を画面下に隠す「アンダーディスプレイ」方式の採用も噂されています。

さらに、システム及び製造戦略にも転機が見えています。従来9〜10月に集中していた発表を、前半/後半に分けた二段階のローンチとする可能性が示唆されており、これによって年間中の販売サイクルを平準化しようとする意図があります。また、2ナノメートル級プロセスの新型チップ(“A20”シリーズとされる)の搭載も噂されており、これが性能向上と価格体系の見直しを促す可能性があります。

このように、①20周年という節目、②ハードウェア・デザインの大幅な刷新、③製品投入構成・サプライチェーン・チップ設計といった周辺インフラ全体の変化が、iPhone 20(仮称)に対して「大きな変化が起きると期待される」主な理由です。製品戦略・ブランド刷新双方の観点から、単なる世代交替ではなく“新章”と捉えられているわけです。

おわりに

「iPhone 19」を飛ばして「iPhone 20」が登場するという報道は、Appleが20周年という節目に合わせてブランドと製品戦略を再構築しようとしている兆しといえます。これは単なるナンバリングの調整ではなく、折りたたみ構造の導入やAI機能の統合など、ハードウェアとソフトウェアの両面で大きな変革を意図している可能性が高いと考えられます。

一方で、2026年に登場が見込まれる「iPhone 18」シリーズも確実に性能向上が期待されており、ユーザーにとってはどのタイミングで機種変更を行うべきか、判断が難しくなりそうです。特に20周年モデルが記念的な位置づけになるとすれば、あえて1年待つという選択も現実的な検討事項となるでしょう。

いずれにしても、Appleの次期ラインナップは単なる進化ではなく、製品世代の再定義を伴う重要な転換期を迎えつつあります。今後の公式発表やサプライチェーン動向を慎重に見極めることが、最適な購入判断につながるといえます。

参考文献

あなたのYouTubeが危ない?3000本以上の動画に潜む「ゴーストネットワーク」の恐るべき手口

新しいソフトウェアの使い方を学んだり、お気に入りのゲームの裏技を探したりする時、多くの人がYouTubeのチュートリアル動画を頼りにします。そこには膨大な知識が共有されており、私たちはプラットフォームが提供する情報の信頼性を疑うことはほとんどありません。

しかし、その信頼が巧妙な罠として利用されていたとしたらどうでしょう?

最近、セキュリティ企業Check Pointの研究者が、YouTubeに潜む大規模なサイバー攻撃キャンペーンを暴きました。彼らが「YouTubeゴーストネットワーク」と名付けたこの組織は、ユーザーの信頼を悪用して危険なマルウェアを拡散させていました。このネットワークは2021年から活動していましたが、2025年に入ってから悪意のある動画の投稿数が3倍に急増しており、その脅威は急速に拡大しています。

Googleは研究者と協力し、これまでに3000本以上の悪質な動画を削除しましたが、このネットワークの手口は、今後のサイバー攻撃の「設計図」となりうる恐るべき巧妙さを持っていました。攻撃者たちは、どのようにして私たちの警戒心をすり抜けてきたのでしょうか?

攻撃者は孤独なハッカーではなく、組織化された「幽霊」の軍隊だった

今回の攻撃は、個人のハッカーによる散発的な犯行ではありません。背後にいたのは、高度に組織化され、役割分担がなされた「YouTubeゴーストネットワーク」と呼ばれる集団です。彼らの作戦は、驚くほど洗練されており、状況に応じて戦術を変える柔軟性すら持っていました。

ネットワーク内のアカウントは、主に3つの役割を担っています。

  • ビデオアカウント (Video-accounts): マルウェアへのダウンロードリンクを含むチュートリアル動画をアップロードする役割。
  • ポストアカウント (Post-accounts): YouTubeのコミュニティ投稿機能を使い、マルウェアのダウンロードリンクや解凍パスワードを共有する役割。
  • インタラクトアカウント (Interact-accounts): 偽の「いいね!」や肯定的なコメントを投稿し、動画が信頼できるものであるかのように見せかける役割。

このモジュール構造により、一部のアカウントが削除されても即座に別のアカウントで置き換えることが可能です。さらに、このネットワークの適応力の高さは、配布するマルウェアの種類にも表れています。当初は「Lumma Stealer」という情報窃取型マルウェアを主に配布していましたが、その活動が妨害されると、即座に「Rhadamanthys」という別の強力なマルウェアに切り替えました。これは、彼らが単なるアマチュアではなく、目的遂行のためなら手段を選ばない、したたかな組織であることを示しています。

あなたが既にフォローしている「信頼されたチャンネル」が乗っ取られる

攻撃者は、疑わしい新規アカウントを作成する代わりに、はるかに巧妙な手口を選びました。それは、既に多くの登録者を持つ正当なYouTubeチャンネルをハッキングし、乗っ取ることです。

例えば、登録者数約12万9000人の「@Afonesio1」や、登録者数9690人の「@Sound_Writer」といった実在するチャンネルが乗っ取られ、マルウェア拡散の踏み台にされました。

この手口が非常に効果的なのは、私たちがチャンネルを信頼する際に頼りにする「登録者数」や「チャンネルの運営歴」といったシグナルを逆手に取るからです。実際に、乗っ取られた@Afonesio1チャンネルで公開されたAdobe Photoshopのクラック版を紹介する動画は、ユーザーの信頼を悪用し、実に29万3000回も再生されました。

確立されたチャンネルを乗っ取ることで、次の手口である「偽のエンゲージメント」の効果が何倍にも増幅されるのです。

「いいね!」や肯定的なコメントが、あなたを騙すための武器になる

このネットワークの最も悪質な手口の一つは、心理的な操作です。「インタラクトアカウント」を大量に動員し、あたかも多くのユーザーがその動画を支持しているかのような偽の状況を作り出します。

動画のコメント欄は、「完璧に動きました!」「ありがとう!」といった肯定的なコメントで埋め尽くされ、多数の「いいね!」が付けられます。これにより、悪意のあるソフトウェアが安全で効果的なものであるかのように錯覚させられるのです。これは、オンラインで物事の安全性を判断する際に人々が頼る心理的トリガー、「社会的証明(ソーシャルプルーフ)」を悪用した卑劣な手口です。

Check Point社のセキュリティ研究グループマネージャー、Eli Smadja氏は次のように警鐘を鳴らしています。

「役立つチュートリアルに見えるものが、実際には洗練されたサイバー攻撃の罠である可能性があります。このネットワークの規模、モジュール性、そして巧妙さは、脅威アクターが現在、エンゲージメントツールを兵器化してマルウェアを拡散させる方法の設計図となっています。」

マルウェアはスキャンを回避するよう巧みに設計されている

このネットワークが配布するマルウェアは、情報窃取を目的とする「Rhadamanthys」「Lumma Stealer」「Vidar」「RedLine」といった非常に危険なものです。攻撃者は、これらのマルウェアをユーザーのPCに感染させるため、技術的な偽装も巧みに行っていました。

アンチウイルスソフトの無効化を指示

動画や説明文の中で、攻撃者はユーザーにセキュリティソフトを無効にするよう堂々と指示します。その際、次のようなもっともらしい口実を使います。

「一時的にWindows Defenderをオフにしてください。心配ありません、アーカイブはクリーンです。Setup.exeのインストールの仕組み上、Defenderが誤検知することがあります。」

パスワード付きアーカイブの使用

マルウェアをパスワードで保護された圧縮ファイル(.rarなど)に入れることで、多くのセキュリティソフトによる自動スキャンを回避します。パスワードがなければ中身を検査できないため、この古典的な手法は今でも非常に効果的です。

巨大なファイルサイズへの偽装

ファイルに大量の無意味なデータ(パディング)を追加して、ファイルサイズを意図的に約800MBまで巨大化させます。多くのスキャンツールは、パフォーマンス上の理由から一定サイズ以上のファイルの検査をスキップするため、この偽装によって検知を免れます。

主な標的は子供たちとクリエイター

ゴーストネットワークは、特定のユーザー層を狙い撃ちにしていました。彼らが主に標的としたコンテンツは、大きく分けて2つのカテゴリーに分類されます。

1つ目は「ゲームのハック・チート」です。特に人気ゲームRobloxが最も多く標的にされており、これはオンラインのリスクを認識しにくい若年層や子供たちを直接狙った、極めて悪質な手口と言えます。

2つ目は「ソフトウェアのクラック・海賊版」です。コンテンツクリエイターに人気の高いAdobe Photoshopや音楽制作ソフトFL Studioなどが主な標的でした。Check Pointは、このことから「脅威アクターが意図的にこの層(クリエイター)を標的としたキャンペーンを展開している可能性がある」と指摘しています。クリエイターのPCには、価値の高いアカウント情報やデータが保存されている可能性が高いため、彼らにとって格好の標的となるのです。

おわりに

サイバー攻撃者は、もはや単純なフィッシングメールだけに頼ってはいません。彼らは、私たちが日常的に信頼を置いているYouTubeのような巨大プラットフォームそのものを攻撃の舞台に変えつつあります。

2025年に入り、悪意のある動画の投稿数が3倍に急増したという事実は、この脅威が過去のものではなく、今まさに勢いを増していることを示しています。今回の事件が突きつける最も重要な教訓は、もはや再生回数や「いいね!」、肯定的なコメントといったエンゲージメントが、コンテンツの安全性を保証する指標にはならないということです。

普段何気なく見ている「いいね」や肯定的なコメントを、あなたは本当に信じられますか?

参考文献

X、11月10日までに2要素認証(2FA)の再登録をユーザーに要請 – セキュリティキーを使っているアカウントは要確認

Xは10月25日に、2要素認証の方法のうちセキュリティキーを使用しているすべてのアカウントで、セキュリティキーの再登録を行うように公式アカウントで求めました。

対象となるのは、2要素認証を使用しているユーザーのうち、セキュリティキーを使用しているアカウントのみで、テキストメッセージや認証アプリを使用しているユーザーには影響しません。

過去にセキュリティキーを登録した際はtwitter.comに関連づけられていましたが、twitter.comドメインを廃止することに伴い、セキュリティキーを再登録することでx.comに関連づけられるようになり、現在進めているtwitter.comの廃止ができるようになるとのことです。

期日までに再登録されない場合は、更新が完了するまでロックされるとのことですので、完全にロックアウトされるといったことにはならないため、大きな混乱はないかと思いますが、セキュリティキーを使っているアカウントでは再登録することが推奨されます。

Windows 11大型アップデートの光と影:知っておくべき5つの衝撃的な真実

Windowsの新しい大型アップデートと聞けば、多くのユーザーが胸を躍らせるでしょう。より洗練されたデザイン、革新的な機能、そして向上した生産性。Microsoftが提供する未来への期待は尽きません。しかし、最新のWindows 11プレビュー版が明らかにしたのは、単なる輝かしい未来だけではありませんでした。そこには、魅力的な新機能の「光」と、早期導入者が直面する深刻なリスクという「影」が、はっきりと存在していたのです。この記事では、公式発表の裏に隠された5つの衝撃的な真実を、ユーザーの生の声と共に深く掘り下げていきます。

1. スタートメニューがiPad風に大変身、しかしカスタマイズ性は向上

今回のアップデートで最も大きな変更が加えられたのが、Windowsの顔とも言えるスタートメニューです。そのデザインは大きく刷新され、メインエリアにはアプリリストが配置され、「カテゴリビュー」と「グリッドビュー」という新たな表示方法が導入されました。特にカテゴリビューは、アプリを種類ごとに自動でグループ化し、まるでiPadのアプリシェルフのような直感的な操作感を提供します。さらに、スマートフォンとの連携を深めるPhone Linkも統合され、スマートフォンから最近の写真や通知を確認したり、テキストメッセージへの返信やスマートフォンの画面表示に直接ジャンプしたりできます。

Microsoftはこの変更を「アプリへのアクセスをより速く、よりスムーズにするために構築された」ものだと説明しています。

この大胆な変更は、長年のWindowsユーザーにとっては大きな驚きかもしれません。しかし業界アナリストの視点で見れば、これはMicrosoftがWindows 8や初期Windows 10の硬直的なデザイン哲学から戦略的に撤退し、長年のユーザーフィードバックに応えた結果です。その証拠に、カスタマイズ性はむしろ向上しています。ユーザーは「おすすめ」フィードを完全に無効化し、より多くのアプリをピン留めできるようになりました。これはユーザーエージェンシー(主体性)を重視する姿勢の表れであり、非常に重要な進化と言えるでしょう。しかし、この洗練されたインターフェースの裏では、システムの根幹を揺るがす問題が静かに進行していました。

2. AI機能が隅々まで浸透、しかしユーザーの反応は賛否両論

Windows 11は、AI機能をOSの隅々にまで深く統合しようとしています。例えば、「Fluid Dictation」は、音声入力中に文法や句読点をリアルタイムで修正するインテリジェントな機能です。また、「Click to Do」を使えば、画面上のテキストを選択するだけで、リアルタイム翻訳や単位変換といった操作がCopilotを通じて可能になります。

これらの機能は、間違いなく日々のPC作業を効率化する可能性を秘めています。しかし、すべてのユーザーがこのAIの波を歓迎しているわけではありません。コミュニティサイトRedditのスレッドでは、あるユーザーが次のような冷ややかなコメントを投稿しています。

もっとAIのダラダラしたやつをあげるよ!!!

この一言は、単なる皮肉以上の意味を持ちます。これは、近年のテック業界全体に見られる「AI機能の肥大化(AI feature bloat)」に対するユーザーの растущую скептицизмを象徴しています。ユーザーは、真の生産性向上よりもマーケティング目的で追加されたと感じるAI機能に、うんざりし始めているのです。最先端の機能が、必ずしもすべてのユーザーに受け入れられるわけではないという現実がここにあります。

3. バッテリーアイコンの進化:小さな改善が大きな満足感を生む

革新的な機能ばかりがアップデートの価値ではありません。時には、地味ながらも実用的な改善が、ユーザー体験を大きく向上させることがあります。タスクバーのバッテリーアイコンに加えられた変更は、その好例であり、ユーザーエクスペリエンスデザインにおける重要な教訓を示しています。

新しいアイコンは充電状態を色で直感的に示し(充電中は緑、20%以下で黄色)、多くのユーザーが長年望んでいたバッテリー残量のパーセンテージ表示もついに実装されました。この新しいアイコンはロック画面にも表示されます。この細やかな改善は、Microsoftがようやく、長年放置されてきた低レベルのユーザーの不満点に対処し始めたというシグナルです。これは、安定した予測可能なユーザー体験が、人目を引く新機能と同じくらい重要であることを同社が理解している証左と言えるでしょう。

4. 最先端の代償:アップデートでUSB機器が動かなくなる悲劇

プレビュー版の導入は、最先端の機能をいち早く体験できる一方で、深刻なリスクを伴います。今回、そのリスクが最も衝撃的な形で現れたのが、ハードウェアの互換性問題でした。Redditには、アップデート後にUSBデバイスが全く機能しなくなったという悲痛な報告が複数寄せられています。

あるユーザーは、「Lenovo T16 Gen1」をアップデートしたところ、すべてのUSB周辺機器が反応しなくなったと報告。また別のユーザーは、「TP-Link」製のUSB Wi-Fiアダプターが機能しなくなり、インターネットに接続できなくなりました。ロールバックすれば正常に動作することから、原因がこのビルドにあることは明らかです。

Microsoftが華々しく新機能を紹介する裏で、ユーザーはPCの基本的な接続性さえ失うという現実に直面しています。これは、Microsoftの先進的な機能開発と品質保証プロセスの間に存在する、看過できない緊張関係を浮き彫りにしています。

5. 基本機能さえも不安定に? 終わらないアップデートエラーと検索クラッシュ

問題はハードウェアだけに留まりません。Windowsの根幹をなす基本機能でさえ、不安定になるリスクが露呈しています。Redditでは、日常的な操作に深刻な影響を与える問題が報告されています。

  1. アップデートの失敗: 複数のユーザーが、アップデートのインストールがエラーコード 0x800f0983 で失敗する問題を報告しています。
  2. Windows Searchのクラッシュ: OSの重要な機能である検索が、起動直後にクラッシュするという報告も挙がっています。エラーログには twinapi.appcore.dll というコアシステムファイルが原因であることが示されており、問題が表層的なものではなく、OSの根幹に関わる根深いものであることを物語っています。

ここで注目すべきは、報告されている不具合の「種類」です。これらは単なる見た目の不具合ではありません。ハードウェアドライバー(USB)、アップデート機構そのもの、そして検索というコア機能といった、OSの根幹をなすレイヤーでの失敗です。これはプレビュービルドの奥深くに潜在的な脆弱性があることを示唆しており、表面的なバグよりもはるかに深刻な問題です。

おわりに

今回のWindows 11大型アップデートプレビュー版は、まさに「諸刃の剣」です。カスタマイズ性の高いスタートメニューや統合されたAI機能といった革新的な「光」がある一方で、USBデバイスの認識不能や基本機能のクラッシュといった深刻な不安定さという「影」も併せ持っています。

Microsoftが目指すAIドリブンの未来と、ユーザーが求める日々の安定性。この二つのバランスをどう取るかが、今後のWindows 11、ひいては同社の成功を占う試金石となるでしょう。

未来のWindowsを垣間見せる魅力的な進化と、PCが使い物にならなくなるかもしれないという現実的なリスク。あなたは、これらの新機能のために不安定になるリスクを受け入れますか?それとも、安定した正式リリースを待ちますか?

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