CIO Japan Summit 2025閉幕──DXと経営視点を兼ね備えたCIO像とは

2025年5月と7月の2回にわたって開催されたCIO Japan Summit 2025が閉幕しました。

今年のサミットでは、製造業から小売業、官公庁まで幅広い業界のリーダーが集い、DXや情報セキュリティ、人材戦略など、企業の競争力を左右するテーマが熱く議論されました。

本記事では、このサミットでどのような企業が登壇し、どんなテーマに関心が集まったのか、さらに各業界で進むDXの取り組みやCIO像について整理します。

CIO Japan Summitとは?

CIO Japan Summit は、マーカス・エバンズ・イベント・ジャパン・リミテッドが主催する、完全招待制のビジネスサミットです。日本の情報システム部門を統括するCIOや情報システム責任者、そして最先端のソリューション提供企業が一堂に会し、「課題解決に向けて役立つ意見交換」を目的に構成されたイベントです  。

フォーマットの特徴

  • 講演・パネルディスカッション
  • 1対1ミーティング(1to1)
  • ネットワーキングセッション


展示会のようなブース型のプレゼンではなく、深い対話とインサイトの共有を重視する構成となっており、参加者同士が腰を据えて議論できるのが特徴です。

今年(2025年)の主要議題


以下に、『第20回 CIO Japan Summit 2025』(2025年7月17~18日開催)で掲げられた主要な議題をまとめます。

  1. デジタルとビジネスの共存
    • CIOが経営視点を持ち、デジタル技術を企業価値に結び付けることが求められています。
  2. 攻めと守りの両立
    • DXを推進しながらも、不正やリスクに対する防御を強化する、バランスの取れた経営体制が課題です。
  3. 国際情勢とサイバーリスクの理解
    • サイバー攻撃は国境を越える脅威にもなるため、グローバル視点で防衛体制を強化する必要があります。
  4. 各国のテクノロジー施策と影響
    • 常に変化するデジタル技術の潮流を把握し、自社戦略に取り込む姿勢が重要です。
  5. 多様性を活かすIT人材マネジメント
    • IT人材確保の難しさに対応するため、社内外の多様な人材を効果的に活用する取り組みが注目されました。
  6. 未来を見通すデータドリブン経営
    • データを戦略的資産として活用し、不確実な未来を予測しながら経営判断につなげる姿勢が重要です。

登壇企業と業界一覧


今回のCIO Japan Summit 2025には、製造業、建設業、流通業、化学業界、小売業、通信インフラ、官公庁、非営利団体、ITサービスなど、非常に幅広い分野から登壇者が集まりました。

業界企業・組織
製造業荏原製作所、積水化学工業、日本化薬、古野電気
建設業竹中工務店
流通業大塚倉庫
化学業界花王
小売業/消費財アルペン、アサヒグループジャパン、日本ケロッグ
通信インフラ西日本電信電話(NTT西日本)
官公庁経済産業省
非営利/研究機関国立情報学研究所、日本ハッカー協会、IIBA日本支部、CeFIL、NPO CIO Lounge
IT/サービス企業スマートガバナンス、JAPAN CLOUD

それぞれの業界は異なる市場環境や課題を抱えていますが、「DXの推進」「セキュリティ強化」「人材戦略」という共通のテーマのもと、互いの知見を持ち寄ることで多角的な議論が行われました。

製造業からは、荏原製作所、積水化学工業、日本化薬、古野電気といった企業が登壇し、IoTやAIを活用した生産性向上や品質管理の高度化について共有しました。

建設業からは竹中工務店が参加し、BIM/CIMや現場デジタル化による業務効率化、労働力不足への対応などが話題となりました。

流通業の大塚倉庫は、物流需要の変化に対応するためのロボティクス導入や需要予測の高度化について発表。

化学業界から登壇した花王は、研究開発から製造・販売までのバリューチェーン全体でのDX推進事例を紹介しました。

小売業・消費財分野では、アルペン、アサヒグループジャパン、日本ケロッグが参加し、顧客データ分析やECと店舗の統合戦略、パーソナライズ施策などが議論されました。

通信インフラの代表として西日本電信電話(NTT西日本)が登壇し、社会基盤を支える立場からのセキュリティ戦略や地域連携の取り組みを共有。

官公庁では経済産業省が、国としてのデジタル化推進政策や人材育成施策について発表し、民間企業との協働の可能性に言及しました。

さらに、国立情報学研究所、日本ハッカー協会、IIBA日本支部、CeFIL、NPO CIO Loungeといった非営利団体・研究機関が加わり、最新のセキュリティ研究、国際的な技術潮流、IT人材育成の重要性が議論されました。

また、ITサービスやガバナンス支援を行うスマートガバナンスや、クラウドビジネス支援のJAPAN CLOUDといった企業も参加し、民間ソリューションの観点からCIOへの提案が行われました。

このように、CIO Japan Summitは業界の垣根を超えた交流の場であり、参加者同士が自社の枠を越えて課題や解決策を議論することで、新たな連携や発想が生まれる土壌となっています。

議論・関心が集中したテーマ

CIO Japan Summit 2025では、多様な業界・立場の参加者が集まったことで、議題は幅広く展開しましたが、特に議論が白熱し、多くの関心を集めたテーマは以下の3つに集約されます。

1. DX推進とその経営インパクト

DX(デジタルトランスフォーメーション)は単なるIT導入にとどまらず、ビジネスモデルや企業文化の変革を伴うものとして捉えられています。

製造業ではIoTやAIによる生産最適化、小売業では顧客データ活用によるパーソナライズ戦略、建設業ではBIM/CIMによる業務効率化など、業界ごとの具体的事例が共有されました。

特に今年は生成AIの活用が大きな話題で、業務効率化だけでなく、新たな価値創造や意思決定支援への応用可能性が議論の中心となりました。

参加者からは「技術の採用スピードをどう経営戦略に組み込むか」という課題意識が多く聞かれ、DXが企業全体の競争力に直結することが改めて認識されました。

2. 情報セキュリティリスクへの対応

DX推進の加速に伴い、サイバーセキュリティの重要性も増しています。

ランサムウェアや標的型攻撃といった外部脅威だけでなく、内部不正やサプライチェーンを経由した侵入など、複合的かつ高度化する脅威への対応が共通課題として浮上しました。

通信インフラや官公庁の登壇者からは、国際情勢の変化が国内企業にも直接的な影響を及ぼす現実が語られ、ゼロトラストアーキテクチャや多層防御の必要性が強調されました。

また、経営層がセキュリティ投資の意思決定を行う上で、リスクの可視化とROIの説明が不可欠であるという点でも意見が一致しました。

3. 人材マネジメントと組織変革

IT人材の確保と育成は、多くの企業にとって喫緊の課題です。

特にCIOの視点からは、「単に人を採用する」だけでなく、**既存人材のスキル再教育(リスキリング)**や、部門横断の協働文化の醸成が不可欠であるとされました。

多様な人材を活かす組織設計、外部パートナーやスタートアップとの連携、海外拠点との一体運営など、柔軟で開かれた組織構造が求められているという共通認識が形成されました。

また、人材戦略はDXやセキュリティ戦略と密接に結び付いており、「人が変わらなければ組織も変わらない」という強いメッセージが繰り返し発せられました。


これら3つのテーマは独立して存在するわけではなく、DX推進はセキュリティと人材戦略の基盤の上に成り立つという構造が明確になりました。

サミットを通じて、多くのCIOが「技術視点」だけでなく「経営視点」からこれらを統合的にマネジメントする必要性を再認識したことが、今年の大きな成果といえるでしょう。

業界別に見るDXの取り組み

CIO Japan Summit 2025に登壇した企業や、その業界の動向を踏まえると、DXは単なるシステム刷新ではなく、業務プロセス・顧客体験・組織構造の根本的変革として進められています。以下では、主要5業界のDX事例と、その背景にある課題や狙いをまとめます。

1. 製造業(荏原製作所、積水化学工業、日本化薬、古野電気 など)

背景・課題

  • グローバル競争の激化とコスト圧力
  • 熟練技術者の高齢化や技能継承の難しさ
  • 品質の安定確保と生産効率の両立

主なDX事例

  • IoTによる設備予知保全 工場設備に多数のセンサーを設置し、稼働状況や温度・振動データをリアルタイムで監視。異常の兆候をAIが検知し、計画的なメンテナンスを実施。
  • AIによる品質検査 高精度カメラと画像認識AIを活用し、人の目では見逃す可能性のある微細な欠陥を検出。検査時間を短縮しつつ不良率を低減。
  • デジタルツインによる生産シミュレーション 現場のラインを仮想空間で再現し、生産計画の事前検証や工程改善を実施。試作回数を削減し、歩留まりを向上。

成果

  • 設備の稼働率向上(ダウンタイム削減)
  • 品質クレーム件数の減少
  • 開発から量産までの期間短縮

2. 建設業(竹中工務店 など)

背景・課題

  • 慢性的な労働力不足
  • 工期短縮とコスト削減の両立
  • 安全管理の高度化

主なDX事例

  • BIM/CIM統合設計 建築・土木プロジェクトで3Dモデルを用い、設計から施工、維持管理まで情報を一元化。設計ミスや工事後の手戻りを大幅削減。
  • ドローン測量 高精度測量用ドローンで現場全体を短時間でスキャン。測量データは即時クラウド共有され、設計部門や発注者ともリアルタイムで連携。
  • 現場管理のクラウド化 タブレット端末で工程・品質・安全情報を入力し、関係者間で即時共有。紙の書類や口頭伝達の削減による業務効率化を実現。

成果

  • 測量作業時間の70%以上短縮
  • 設計変更による追加コスト削減
  • 現場の安全事故発生率低下

3. 流通業(大塚倉庫 など)

背景・課題

  • EC拡大による物流需要の増加
  • 配送の小口化と短納期化
  • 燃料費や人件費の高騰

主なDX事例

  • 倉庫ロボティクス 自動搬送ロボット(AGV/AMR)を導入し、ピッキング作業や搬送作業を自動化。人手不足を補い作業負担を軽減。
  • AI需要予測 過去の出荷データや季節要因、天候、キャンペーン情報などを学習し、在庫配置や配送計画を最適化。
  • 配送ルート最適化 AIがリアルタイム交通情報を基に最適ルートを計算。配送遅延を防ぎ、燃料コストを削減。

成果

  • 在庫回転率の改善
  • ピッキング作業時間の短縮
  • 配送遅延件数の減少

4. 化学業界(花王、日本化薬 など)

背景・課題

  • 原材料価格高騰や環境規制への対応
  • 高度な品質要求と安全基準の順守
  • 研究開発の迅速化

主なDX事例

  • 分子シミュレーションによる新素材開発 AIとスーパーコンピュータを活用し、化合物の性質を事前予測。実験回数を減らし開発期間を短縮。
  • 製造ラインのIoT監視 温度・圧力・流量をリアルタイム監視し、異常時には自動でラインを停止。品質不良や事故を防止。
  • サプライチェーン可視化 原料調達から出荷までの全工程をデジタル化し、トレーサビリティとリスク管理を強化。

成果

  • 新製品の市場投入スピード向上
  • 不良率低下によるコスト削減
  • 調達リスクへの迅速対応

5. 小売業(アルペン、アサヒグループジャパン、日本ケロッグ など)

背景・課題

  • 消費者ニーズの多様化と購買行動のデジタルシフト
  • 実店舗とECの統合戦略の必要性
  • 在庫ロスの削減

主なDX事例

  • 顧客データ統合とパーソナライズ施策 店舗とオンラインの購買履歴、アプリ利用履歴を統合し、個別に最適化したプロモーションを実施。
  • ECと店舗在庫のリアルタイム連携 オンラインで在庫確認し店舗受け取りが可能な仕組みを構築。販売機会損失を防止。
  • 需要予測型自動発注 AIによる売上予測を基に発注量を自動調整し、欠品や過剰在庫を回避。

成果

  • 顧客満足度とリピート率の向上
  • 在庫ロス削減
  • 売上機会損失の防止

これらの事例を見ると、リアルタイム性とデータ活用が全業界共通のDX成功要因であることがわかります。

一方で、製造・化学業界では「工程最適化」、建設業では「現場の可視化」、流通業では「物流効率化」、小売業では「顧客体験の向上」と、それぞれの業界特有の目的とアプローチが存在します。

情報セキュリティのリスクと対策

DX推進の加速に伴い、企業の情報セキュリティリスクはますます複雑化・高度化しています。

CIO Japan Summit 2025でも、セキュリティはDXと同等に経営課題として捉えるべき領域として議論されました。単にIT部門の技術的課題ではなく、企業全体の存続や信頼性に直結するテーマです。

主なセキュリティリスク

  1. 外部からの高度化した攻撃
    • ランサムウェア:重要データを暗号化し、復号と引き換えに金銭を要求。近年は二重・三重脅迫型が増加。
    • ゼロデイ攻撃:未修正の脆弱性を狙い、検知が難しい。
    • サプライチェーン攻撃:取引先や委託先のシステムを経由して侵入。
  2. 内部不正と人的要因
    • 権限の濫用や情報の持ち出し。
    • セキュリティ教育不足によるフィッシング詐欺やマルウェア感染。
    • 人的ミス(誤送信、設定ミスなど)。
  3. 国際情勢に起因するリスク
    • 国家レベルのサイバー攻撃や情報戦。
    • 海外拠点・クラウドサービス利用時の法規制・データ主権問題。
    • 地政学的緊張による標的型攻撃の増加。

CIO視点で求められる対策

サミットで共有された議論では、セキュリティ対策は「技術的防御」「組織的対応」「人的対策」の三位一体で進める必要があるとされました。

  1. 技術的防御
    • ゼロトラストアーキテクチャの導入(「信頼しない」を前提に常時検証)。
    • 多層防御(ファイアウォール、EDR、NDR、暗号化など)。
    • 脆弱性管理と迅速なパッチ適用。
    • ログ監視とリアルタイム分析による早期検知。
  2. 組織的対応
    • インシデント対応計画(IRP)の策定と定期的な演習。
    • サプライチェーン全体のセキュリティ評価と契約管理。
    • リスクマネジメント委員会など、経営層を巻き込んだガバナンス体制。
  3. 人的対策
    • 全社員向けの継続的セキュリティ教育(模擬攻撃演習を含む)。
    • 権限管理の最小化と職務分離の徹底。
    • 内部通報制度や監査体制の強化。

リスクとROIのバランス

登壇者からは、「セキュリティはコストではなく投資」という考え方が重要であると強調されました。

経営層が予算を承認するためには、セキュリティ対策の効果や投資回収(ROI)を可視化する必要があります。

例えば、重大インシデント発生時の損失予測額と、予防のための投資額を比較することで、意思決定がしやすくなります。

総括

情報セキュリティは、DXの進展と比例してリスクも増大する領域です。

CIO Japan Summitでは、「技術」「組織」「人」の全方位から防御力を高めること、そして経営課題としてセキュリティ戦略を位置づけることがCIOの重要な責務であるという共通認識が形成されました。

国内外の事例から見る「経営視点を持ったCIO」像

CIO Japan Summit 2025では、CIOの役割はもはや「IT部門の統括者」にとどまらず、企業全体の経営変革を牽引する戦略リーダーであるべきだという認識が共有されました。国内外の事例を照らし合わせると、経営視点を持ったCIOには次の特徴が求められます。

1. 経営戦略とデジタル戦略の統合

  • 国内事例(CIO Japan Summit) 荏原製作所や竹中工務店などの登壇者は、デジタル施策を単なる業務効率化にとどめず、新規事業やサービスモデル創出に直結させる重要性を強調しました。 例として、製造現場のIoT活用を通じて、製品販売後のメンテナンス契約やデータ提供サービスといった収益源を新たに確立した事例が紹介されました。
  • 海外事例(米国大手小売業) 米TargetのCIOは、ECプラットフォームの拡充と店舗体験の融合を経営戦略の中心に据え、デジタル化を通じて客単価と顧客ロイヤルティを向上。CIOはCEO直下の執行役員として、戦略策定会議に常時参加しています。

2. DX推進とリスクマネジメントの両立

  • 国内事例 NTT西日本や経済産業省の登壇者は、DXのスピードを落とさずにセキュリティを確保するための体制構築を重視。ゼロトラストアーキテクチャの導入や、重要インフラ事業者としてのリスクシナリオ分析を経営層に共有する仕組みを整備しています。
  • 海外事例(欧州製造業) SiemensのCIOは、グローバル拠点を対象にした統合セキュリティポリシーと監査プロセスを確立。DXプロジェクト開始前にリスクアセスメントを必須化し、経営層の承認を経て進行する体制を構築しています。

3. 部門・業界・国境を越えた連携力

  • 国内事例 CIO LoungeやCeFILの議論では、異業種や行政との情報交換が自社だけでは得られない解決策や発想を生み出すことが強調されました。特に地方自治体と製造業のCIOが防災DXで協力するケースなど、社会課題解決型のプロジェクトも増えています。
  • 海外事例(米国テクノロジー企業) MicrosoftのCIOは、業界団体や規制当局と積極的に対話し、AI規制やプライバシー保護のルール形成にも関与。単なる社内のIT戦略立案者ではなく、業界全体の方向性に影響を与える存在となっています。

4. 技術とビジネスの「バイリンガル」能力

  • 国内事例 花王やアサヒグループジャパンのCIOは、マーケティング・サプライチェーン・営業など非IT部門とも共通言語で議論し、IT施策を経営数字に翻訳できる能力が求められると述べています。
  • 海外事例(米金融機関) JPMorgan ChaseのCIOは、AIやクラウドの技術的詳細を理解しつつ、投資判断やROIの説明を取締役会レベルで行います。技術者としての専門性と経営者としての視点を兼ね備えることで、投資家や株主を納得させる役割を果たしています。

5. CIOの位置づけの変化

世界的に見ると、CIOの地位は年々経営の中枢に近づいています。

  • Gartnerの調査では、2023年時点でグローバル企業の63%がCIOをCEO直下に置き、経営戦略決定への関与度が増加しています。
  • CIOは「運用の責任者」から「価値創造の責任者」へとシフトしつつあり、AI、データ、セキュリティを核とした経営パートナーとしての役割が定着し始めています。

総括

経営視点を持ったCIOとは、単にIT部門を率いるだけでなく、

  • 経営戦略に直結したデジタル施策を描く能力
  • DX推進とリスク管理のバランス感覚
  • 組織の枠を越えた連携力
  • 技術と経営の両言語を操る力

を兼ね備えた存在です。

CIO Japan Summitは、こうした新しいCIO像を国内外の事例から学び、互いに磨き合う場として機能しています。

まとめ

CIO Japan Summit 2025は、単なる技術カンファレンスではなく、経営とテクノロジーをつなぐ戦略的対話の場であることが改めて示されました。

製造業・建設業・流通業・化学業界・小売業といった幅広い分野のCIOやITリーダーが一堂に会し、DX推進、情報セキュリティ、そして人材マネジメントといった、企業の競争力と持続的成長に直結するテーマを議論しました。

議論の中で浮き彫りになったのは、DXの推進とセキュリティ確保、そして人材戦略は切り離せないという点です。

DXはリアルタイム性とデータ活用を武器に業務や顧客体験を変革しますが、その裏では複雑化するサイバーリスクへの備えが必須です。さらに、その変革を実行するには、多様な人材を活かす組織文化や部門横断的な連携が欠かせません。

また、国内外の事例を比較することで、これからのCIO像も鮮明になりました。

経営戦略とデジタル戦略を統合し、DX推進とリスク管理のバランスをとり、業界や国境を越えて連携しながら、技術とビジネスの両言語を操る「経営視点を持ったCIO」が求められています。

こうしたCIOは、もはやIT部門の管理者にとどまらず、企業全体の変革を主導する経営パートナーとして機能します。

本サミットを通じて得られた知見は、参加者だけでなく、今後DXやセキュリティ、人材戦略に取り組むすべての組織にとって有益な指針となるでしょう。

変化のスピードが加速し、予測困難な時代において、CIOの意思決定とリーダーシップは企業の成否を左右する──その事実を強く印象付けたのが、今年のCIO Japan Summit 2025でした。

参考文献

ベリサーブ、Panayaと提携──AI搭載テストソリューションでITプロジェクトの品質改革へ

2025年7月、ソフトウェア品質保証のリーディングカンパニー「ベリサーブ」が、米Panaya社と販売代理店契約を締結したというニュースが発表されました。この提携により、AIを活用したクラウド型テストソリューションが日本国内の企業にも広がることが期待されます。本記事では、その背景と提供されるソリューションの特徴を解説します。

なぜ今、AIによるテストソリューションなのか?

現在、企業のデジタル変革(DX)が加速する中で、ERPやSalesforceといった基幹業務システムは、頻繁なアップデートや機能追加を求められています。これに伴い、開発後のテスト工程はこれまで以上に複雑かつ重要な工程となっており、手動テストやExcel管理などの“属人的”な運用には限界が来ています。

特に大規模なシステムでは、「どこをテストすればよいのか」「どこに影響が出ているのか」を正確に把握できないまま広範囲を網羅的にテストせざるを得ず、結果としてテスト工数やコストが肥大化し、スケジュール遅延や品質劣化のリスクが高まっていました。

こうした課題に対して注目されているのが、AIを活用したテストソリューションです。AIによる自動解析とシナリオ最適化により、変更の影響をピンポイントで可視化し、必要なテストだけを効率よく実施することが可能になります。

また、近年では「ノーコード/ローコード」で操作できる自動テストツールも増えており、専門知識がなくても高精度なテスト自動化が実現できるようになりました。これにより、現場のエンジニアだけでなく、業務部門とも連携した“全社的な品質保証体制”の構築が容易になります。

さらに、リモートワークやグローバル分散開発の広がりにより、リアルタイムでの進捗共有や不具合管理のニーズも高まっています。従来のオフラインなテスト管理では追いつかず、SaaS型でクラウド上から一元的に管理できるツールの導入が急務となっているのです。

このように、スピード・品質・効率すべてを求められる現代のITプロジェクトにおいて、AIを活用したテストソリューションは“新しい当たり前”になりつつあります。今回のベリサーブとPanayaの提携は、まさにその潮流を象徴する動きと言えるでしょう。

提携の概要:ベリサーブ × Panaya

今回発表されたベリサーブとPanaya社の提携は、単なるソリューション販売の枠にとどまらず、日本国内のITプロジェクトの品質管理におけるパラダイムシフトをもたらす可能性を秘めています。

株式会社ベリサーブは、日本を代表するソフトウェア品質保証の専門企業であり、40年以上にわたって1,100社を超える企業のテスト工程を支援してきた実績を持っています。その強みは、単なるテストの実行にとどまらず、プロジェクト計画段階からの参画や、開発・運用フェーズまでを見据えた品質向上支援をトータルで提供できる点にあります。

一方のPanaya社は、アメリカを拠点とし、ERP(SAP・Oracleなど)やSalesforceといった基幹業務システムに対して、AIを活用した影響分析・テスト自動化・品質管理ソリューションを提供するグローバル企業です。全世界で3,000社以上、Fortune 500の3分の1にも及ぶ企業で導入されており、その実績は折り紙付きです。

今回の提携により、ベリサーブはPanayaの主力製品である「Change Impact Analysis」「Test Dynamix」「Test Automation」などのAI搭載クラウドソリューションを日本国内で展開し、ライセンスの提供にとどまらず、導入支援から定着、運用支援までを一貫して担うことになります。

特に注目すべきは、ベリサーブがPanaya製品を単なる“外製ツール”としてではなく、日本企業の実務にフィットするようカスタマイズ・定着させる**「橋渡し役」**として機能する点です。Panayaのグローバル基準の技術と、ベリサーブの現場密着型の支援体制が融合することで、日本のITプロジェクトの品質管理は新たなステージに突入しようとしています。

この提携は、単なる一企業間の契約以上に、今後の“AI×品質保証”という分野の発展を占ううえでも重要な布石と言えるでしょう。

ベリサーブのテストソリューションとは?

ベリサーブは、長年にわたり日本企業のソフトウェア品質保証を支えてきたテスト支援の専門企業です。単にテスト業務を請け負うだけでなく、システム開発の上流工程から運用フェーズまでを視野に入れた包括的な品質保証サービスを提供しており、そのノウハウと信頼性の高さは業界内でも広く知られています。

主なサービス領域:

  • テスト戦略・計画の立案 システム要件やプロジェクト特性に応じた最適なテストアプローチを設計。
  • テスト設計・実行 正確なテストケースの設計と、経験豊富なエンジニアによる効率的なテスト実行を実施。
  • テスト自動化支援 Seleniumなどのフレームワークを活用した自動化環境の構築や、CI/CDへの組み込み支援も提供。
  • 品質分析・改善提案 テスト結果や不具合傾向から品質データを分析し、開発プロセス改善や再発防止策を提案。
  • セキュリティ/性能/互換性テスト 機能テストだけでなく、非機能要件への対応力も強み。

また、近年ではクラウドアプリやERPに対応したテスト自動化ニーズの高まりを背景に、AIやSaaS型ソリューションとの連携も積極的に進めており、まさに今回のPanayaとの提携はその延長線上に位置づけられます。

なぜベリサーブなのか?

  • テスト支援だけでなく、“品質づくり”のパートナーとして企業に寄り添う姿勢。
  • 製品導入だけで終わらない、教育・定着支援・運用保守までのトータルサポート
  • 金融、製造、公共など幅広い業界での支援実績。

こうした強みを背景に、ベリサーブはPanayaソリューションの最適な活用を日本企業に根づかせる“現場側の翻訳者”として重要な役割を果たしていくことになります。

ベリサーブの強み:導入から定着まで一気通貫の支援

Panayaのような高度なクラウド型テストソリューションは、そのまま導入すれば即座に効果が出るというものではありません。導入したツールを現場に根づかせ、組織の業務フローに最適化し、継続的に活用し続けられるかどうかが、真の導入成功の分かれ目になります。

ここで力を発揮するのが、ベリサーブの“伴走型”支援体制です。単なる製品の導入支援にとどまらず、「選定 → 設計 → 定着 → 改善」のすべてのフェーズにおいて、顧客企業と並走しながら価値を最大化する支援を行います。

主な支援内容と特長:

🔧 1. 導入設計支援(初期フェーズ)

  • 現行業務との適合性を評価し、最適な導入構成を提案
  • テスト戦略やプロセスに合わせて、ツールの活用ポイントを明確化
  • 初期設定、ユーザー権限設計、テンプレート整備などの環境構築を実施

📘 2. 教育・トレーニング支援(定着フェーズ)

  • 操作説明会やトレーニング資料の提供によって、ユーザーの理解と習熟を支援
  • 管理者・エンドユーザー向けに分けた段階的教育
  • よくある質問や運用Tipsの共有によるサポート体制の整備

🔄 3. 運用サポート・定着支援(中長期フェーズ)

  • 実際のプロジェクト内でのツール利用をフォローアップ
  • 活用状況の定期レビュー・課題抽出と改善提案
  • テストプロセスへの組み込みや、レポート出力・実績管理の最適化支援

📈 4. 効果測定と継続的改善

  • テスト証跡や不具合分析などから、可視化された「成果」を示し、ROIを定量的に評価
  • 継続的な活用を促進するための改善サイクル設計
  • 顧客の変化に応じたカスタマイズ・再設定も柔軟に対応

なぜ「定着支援」が重要なのか?

テスト自動化ツールやクラウド型管理ツールの多くは、導入されたものの十分に活用されず「形だけで終わってしまう」ケースが少なくありません。

こうした背景を踏まえ、ベリサーブでは「システム定着支援」に重きを置き、“ツールを使いこなす文化”の醸成までを視野に入れた支援を徹底しています。

ERPやSalesforceのようなミッションクリティカルなシステムを扱う現場では、日常業務と開発・テストが密接に絡むため、単にIT部門への教育だけでなく、業務部門・マネジメント層も含めた全体最適の視点が求められます。

ベリサーブはその視点を持ち、企業文化や業務プロセスに応じた柔軟な対応力をもって、一気通貫の支援を実現できる稀有なパートナーなのです。

今後の展望:ERPの“変更耐性”を高める時代へ

企業のデジタル変革(DX)が進む現在、ERPやCRMなどの基幹業務システムは、もはや「一度導入して終わり」の時代ではありません。市場環境や制度改正、業務プロセスの変化に迅速に対応するためには、頻繁なアップデートや改修に柔軟に耐えられる“変更耐性”が企業システムに求められています。

特にSAPやOracle、Salesforceといった大規模クラウドサービスでは、半年〜1年ごとに機能追加や仕様変更が加わることが当たり前になっています。これに対応するたびに、手動での影響分析や網羅的な回帰テストを行うのでは、コストもリードタイムも現実的ではありません。

そのような状況下で重要になるのが、「変更があってもスムーズにリリースできる仕組み」をいかに社内に構築できるか、という点です。

“変更に強いERP運用”を実現するための3つの視点:

  1. 予測と影響の“見える化”  変更がどこに影響を与えるかを迅速かつ正確に特定できれば、無駄なテストや不必要な改修を避けられます。PanayaのようなAIによる影響分析ツールは、この工程を数日から数時間に短縮する力を持っています。
  2. テストプロセスの“自動化と標準化”  属人的・手作業だったテストをノーコードで自動化し、定型的な回帰テストはツールに任せることで、プロジェクトメンバーは本来注力すべき業務に集中できるようになります。
  3. “継続的改善”の文化づくり  ツールや仕組みはあくまで手段にすぎません。重要なのは、それを活用し続ける文化と運用体制を根付かせることです。ベリサーブのように教育や定着支援に強みを持つパートナーがいることで、この「継続する力」を組織内に内製化できます。

テストは“品質の守り”から“成長のドライバー”へ

これまでテストは「品質を守るための最後の砦」として認識されがちでしたが、今後はむしろ“変更を前提としたシステム運用”を可能にする前向きな仕組みとして捉える必要があります。言い換えれば、テストこそが変化に強い組織を支える“戦略的資産”となるのです。

今回のベリサーブとPanayaの提携は、その変化の先駆けとなるものであり、今後日本企業がグローバルで戦うための武器を提供する重要な一歩となるでしょう。

まとめ

今回のベリサーブとPanayaの提携は、単なる製品の販売や導入にとどまらず、日本のIT現場における「テストのあり方」そのものを再定義する、大きな転換点となる可能性を秘めています。

変化が当たり前となった現代のビジネス環境において、ERPやSalesforceなどの基幹業務システムは常に“動き続ける存在”です。その中で品質を担保し、効率よくテストを進めるには、人手と経験に頼る従来型のテスト体制だけでは限界があります。

PanayaのAI搭載ソリューションは、「変更の影響を見える化する」「無駄を省いたテスト範囲を提示する」「回帰テストを自動化する」といった、まさに“テストのスマート化”を実現するための切り札です。そして、それを日本企業の業務文化に合わせて着実に定着させる存在がベリサーブです。

ベリサーブは、単なるツールベンダーではなく、現場に寄り添いながら品質管理の進化をともに実現するパートナーです。導入設計からトレーニング、定着、運用改善までを一貫してサポートすることで、ツールを“使える状態”から“成果が出る状態”へと導いてくれます。

今後、多くの企業がデジタル変革を推進するなかで、「変化を恐れず、変化に強いシステムを持つこと」が競争優位のカギとなっていきます。

参考文献

テック業界のレイオフ最前線:AIと効率化が構造変化を加速

主要企業別のレイオフ状況

まず、Intelは7月中旬から、グローバルで最大20%、約10,000人規模の人員削減を進めると発表しました。対象は主にファウンドリ(半導体製造受託)部門であり、米国サンタクララ本社やアイルランドのLeixlip工場など、複数拠点に波及しています。この動きは、新たにCEOに就任したLip‑Bu Tan氏による構造改革の一環であり、不採算部門の縮小とAI・先端製造への集中を目的としています。

Microsoftも同様に大きな動きを見せています。2025年7月、同社は約9,000人、全従業員の4%にあたる規模でレイオフを行うと報道されました。主に営業やマーケティング、ゲーム部門が対象とされ、これはAIを活用した業務効率化と、それに伴う組織の再構成が背景にあると見られます。

Amazonでは、AIを活用した業務自動化が進む中で、特にeコマース部門やTikTok Shopとの連携部門などを中心にレイオフが続いています。CEOのAndy Jassy氏は、AIによって企業構造そのものを再設計する段階にあると明言しており、人員整理は今後も続く可能性があります。

Googleでは、レイオフ数の具体的な公表は控えられているものの、早期退職制度(バイアウト)の拡充や、買収子会社の整理などを通じた間接的な人員削減が進められています。こちらもAI概要生成機能「AI Overviews」など、AI分野への注力が明らかになっており、それに伴う組織のスリム化が背景にあります。

さらにMetaCrowdStrikeSalesforceといった企業も、パンデミック後の採用拡大の見直しや、AIの業務適用範囲の拡大を理由に、2025年上半期までにレイオフを実施しています。特にCrowdStrikeは、全従業員の5%にあたる約500人の削減を発表し、その理由としてAIによる生産性向上とコスト最適化を挙げています。


このように、2025年のテック業界では、単なる業績不振や景気後退だけでなく、AIという「構造的変革の波」が人員整理の明確な理由として表面化してきています。各社の動きはそれぞれの戦略に基づくものですが、共通するのは「AIシフトの中で再定義される企業体制」にどう対応するかという命題です。

2025年におけるレイオフの総数と背景

2025年、テクノロジー業界におけるレイオフの動きは、単なる一時的な景気調整を超えた構造的な再編の兆候として注目を集めています。米調査会社Layoffs.fyiによると、2025年の上半期(1月〜6月)だけで、世界中のテック企業からおよそ10万人以上が職を失ったと報告されています。これは2022〜2023年の“過剰採用バブルの崩壊”に次ぐ、第二波のレイオフと位置づけられており、その背景にはより深い事情が潜んでいます。

まず、2020年から2022年にかけてのパンデミック期間中、テック業界ではリモートワークやEコマースの急拡大に対応するため、世界的に大規模な採用が進められました。Google、Meta、Amazon、Microsoftといった巨大企業は、この需要拡大に乗じて、数万人単位での新規雇用を行ってきました。しかし、2023年以降、パンデミック特需が落ち着き、実際の業績や成長率が鈍化する中で、過剰体制の是正が始まったのです。

それに加えて、2025年のレイオフにはもう一つ重要なファクターがあります。それがAI(人工知能)の本格導入による構造的な変化です。ChatGPTやClaude、Geminiなどの大規模言語モデル(LLM)の実用化により、企業内の業務効率化が急速に進んだ結果、「今まで10人で行っていた業務を3人とAIで回せる」といった構図が現実のものになりつつあります。

このような流れの中で、各企業はAI投資を拡大する一方で、ホワイトカラー職を中心に人員の再編を進めています。たとえば、Microsoftは2025年度にAI関連のインフラやデータセンターへ800億ドル以上の投資を行うと発表しており、その財源確保の一環としてレイオフが実施されていると見られています。Intelもまた、ファウンドリ部門の人員を削減し、AI向け半導体の開発・製造にリソースを集中させるという戦略転換を図っています。

特に注目されるのは、従来「安定職」とされていた営業、マーケティング、財務、管理部門などがレイオフの中心となっている点です。これらの業務はAIによる自動化や支援が比較的容易であり、企業にとっては最も削減効果が高い対象となっています。かつて「デジタルに強い人材」として引っ張りだこだった職種すら、今や「AIに置き換え可能な業務」として見なされているのです。

また、企業側の説明にも変化が見られます。過去のレイオフでは「業績不振」や「市場の低迷」が主な説明理由でしたが、2025年においては「AIの導入により業務構造を見直す」「イノベーション投資の最適化」「効率性の再設計」など、技術変化を前提とした言語が多く用いられています。これは、単なるコストカットではなく、AI時代に向けた「企業変革」の一部としてレイオフが実行されていることを示しています。

このように、2025年のテック業界におけるレイオフは、「過剰採用の反動」+「AIによる業務の再定義」という二重構造で進行しており、その影響は特定の企業や地域にとどまらず、業界全体に波及しています。さらに、新卒市場や中堅層の雇用にも影響が出始めており、「AIを使いこなせる人材」と「AIに代替される人材」の明確な線引きが進んでいる状況です。

今後の雇用戦略においては、単なる人数の調整ではなく、「再配置」や「リスキリング(再教育)」をいかに迅速に進められるかが企業の生存戦略の鍵となっていくでしょう。テック業界におけるレイオフの潮流は、まさに次の時代への入り口に差しかかっていることを私たちに示しているのです。


🤖 AIが加速する構造的転換

2025年におけるテック業界のレイオフは、これまでの景気循環的な調整とは異なり、AIによる産業構造の再編=構造的転換として明確な形を取り始めています。これは単なる人員削減ではなく、「企業がこれまでの業務のあり方そのものを見直し、再設計しようとしている」ことを意味しています。

◆ AIが「人の仕事」を再定義しはじめた

近年、ChatGPTやClaude、Geminiなどの大規模言語モデル(LLM)の進化により、自然言語処理・要約・意思決定支援・カスタマーサポート・コード生成といった領域で、人間と遜色ない精度でアウトプットが可能になってきました。これにより、ホワイトカラーの典型業務である文書作成、報告書作成、議事録要約、プレゼン資料生成、社内FAQ対応などがAIで代替可能になりつつあります。

たとえばMicrosoftでは、営業支援ツール「Copilot」を導入したことで、営業担当者が日常的に行っていた提案資料作成やメール文案の作成が大幅に自動化され、人員構成の見直しが始まっています。Googleもまた、Geminiの社内導入によりマーケティング・サポート部門の業務を一部自動化し、それに伴い人員最適化を進めています。

これまでは「AIが人間の作業を補助する」段階でしたが、2025年現在は「AIが一定の業務そのものを“実行者”として担う」段階に入ったのです。


◆ 経営者たちの“本音”が語られるように

こうした動きは、企業トップの発言にも如実に現れています。FordのCEOであるJim Farley氏は2025年7月、メディアのインタビューで「ホワイトカラー職の最大50%はAIによって消える可能性がある」と明言しました。この発言はセンセーショナルに受け取られましたが、同様の考えを持つ経営者は少なくありません。

AmazonのCEO Andy Jassy氏も、「AIによって業務構造そのものが再設計されつつある。これは一時的な効率化ではなく、永続的な変化だ」と述べています。つまり、彼らはもはや“AI導入=省力化ツールの追加”というレベルではなく、“ビジネスの再構築手段”としてAIを位置づけているのです。

このような発言が企業の戦略として明文化されるようになったのは、おそらく今回が初めてでしょう。トップが明確に「AIによって仕事の形が変わる」と口にすることで、それが現場や人事方針にまで落とし込まれるのは時間の問題です。


◆ 影響を受ける業務と職種の変化

AIによる構造的転換は、特定の業務だけでなく、職種そのものに影響を与えています。以下は特に影響が顕著な分野です:

分野従来の役割AI導入後の変化
カスタマーサポートFAQ対応、問い合わせメール処理LLMベースのチャットボットによる自動応答・対応ログの要約
財務・経理決算報告書作成、予算管理、請求処理会計AIによる自動仕訳・分析・予測
マーケティングメールキャンペーン、SNS投稿、広告文案作成パーソナライズされたコンテンツ生成AIによる自動化
営業提案書作成、ヒアリング内容の整理顧客情報から自動提案を作るAI支援ツールの活用
プログラミングコーディング、テストケース作成GitHub Copilotのようなコード補完ツールの精度向上による省力化

このように、AIの進化は単なる業務効率化ではなく、「その職種が本当に必要かどうか」を問い直すレベルに到達しています。


◆ 雇用の“二極化”が進行中

もうひとつ重要な点は、AIによる構造的転換が雇用の二極化を加速させていることです。AIやデータサイエンスの専門家は企業から高額報酬で引き抜かれ、いわば「AIを使う側」に回る一方、従来型のバックオフィス職や一般職は「AIに代替される側」に追いやられています。

その格差は報酬面にも表れ始めており、一部では「AI人材の報酬は他の職種の5〜10倍にもなる」という報道もあります。これは今後、労働市場における不公平感や社会的な不安定要因になりうると指摘されています。


◆ 企業は「再構築」へ、個人は「再定義」へ

AIが加速する構造的転換の中で、企業に求められているのは、単なる人員削減ではなく、再構築された組織モデルの提示です。AIによる生産性向上をどう経営に組み込み、人材をどう再配置するかが、これからの企業の競争力を左右します。

一方で個人もまた、「AIに代替される仕事」から「AIと協働できる仕事」へと、自らのスキルや役割を再定義する必要があります。今後のキャリアは、単に専門性を深めるだけでなく、「AIと共に価値を創出できるかどうか」が重要な指標となるでしょう。


AIは便利なツールであると同時に、私たちの仕事観・働き方・経済構造そのものを揺さぶる力を持っています。2025年は、その転換が「現実のもの」として感じられ始めた年であり、次の10年の変化の序章に過ぎないのかもしれません。


📌 情報まとめと今後の展望

2025年のテック業界におけるレイオフの動向を振り返ると、それは単なる景気後退や一時的な経済変動に起因するものではなく、「AIによる構造的変化」が引き金となった新しい時代の幕開けであることが見えてきます。

まず、2025年前半だけで10万人を超えるテック系の人材が職を失いました。対象となった企業はMicrosoft、Intel、Amazon、Google、Metaといったグローバルメガテックにとどまらず、スタートアップから中堅企業まで広範囲に及びます。レイオフの規模、頻度、そしてその理由にはこれまでとは異なる明確な共通点が見られます。

◆ 共通する3つの特徴

  1. 過剰採用の是正だけでなく、“AI導入”による戦略的再編
    • 各社は「人員整理」を通じて単なるコスト削減を行っているのではなく、AIを中核に据えた業務・組織体制の再設計を進めています。レイオフされたのは多くがバックオフィス職や営業支援職といった、AIによる代替が現実的になってきた領域でした。
  2. 業績好調でも人を減らす
    • 2022年や2008年のような「売上の激減に伴う緊急的な削減」ではなく、売上が成長している企業(例:Microsoft、Amazon)ですら、先を見据えて人員構成の最適化を進めています。これは「AI前提の経営判断」がもはや当たり前になっていることの証です。
  3. CEOや経営幹部による「AI=雇用削減」の明言
    • これまで曖昧に語られていた「AIと雇用の関係性」が、2025年になってからは明確に言語化され始めました。「AIが仕事を奪う」のではなく、「AIによって必要な仕事そのものが変わる」ことが、企業の意思として表現されるようになったのです。

🧭 今後の展望:私たちはどこに向かうのか?

今後、テック業界、そして社会全体においては、以下のような動きが加速していくと考えられます。

レイオフは「継続的なプロセス」になる

一度に大規模に人員を削減するのではなく、AIの進化に応じて段階的・定常的に再編が進められるようになります。「毎年5%ずつ構造を見直す」といった企業方針が定着していくかもしれません。人員構成は「固定」から「変動」へ。これは、終身雇用や年功序列といった雇用慣行とも対立する考え方です。

雇用の再構成とスキルの再定義

レイオフされた人々が新たにAIを活用した職種に転向できるかが、国家・企業・個人の大きな課題となります。プログラミングや統計といった従来のスキルだけでなく、「AIと協働するリテラシー」「AIを監督・補完する能力」など、新しいスキルが求められるようになります。リスキリング・アップスキリングはもはや選択肢ではなく、“生存戦略”と化しています。

企業の内部構造が変わる

部門横断のチーム(AI導入支援、効率化特命チーム)が常設されるなど、従来の縦割り型から流動性の高い組織へと変化する可能性があります。また、「AI担当CXO」や「業務再構築担当VP」など、新しい役職の登場も予想されます。事業単位の評価も、人数やリソースではなく、「AIをどれだけ活かせているか」が判断基準になるでしょう。

雇用の二極化と新たな格差の顕在化

AIの進化に伴って、高報酬なAI開発者やプロンプトエンジニアと、ルーチンワークをAIに置き換えられる中低所得層との格差はさらに拡大します。一方で、AIによって生産性が向上し、週休3日制やパラレルキャリアを実現できる可能性も出てきています。社会全体がどのようにこのバランスをとっていくかが大きな論点になります。


🔮 今後のシナリオ:AI時代の雇用と企業構造の行方

2025年、AIの本格導入によって始まったテック業界のレイオフは、単なる“終わり”ではなく、“始まり”を示す現象です。今後数年間にわたり、企業はAIを中心とした新しい組織設計と人材配置の試行錯誤を続け、私たちの働き方や経済システム全体が大きく再構成されていくと考えられます。

以下では、現時点で予測される代表的なシナリオを4つの観点から紹介します。


シナリオ①:レイオフは“恒常的な戦略”へ

従来、レイオフは「危機時の一時的な対応」として行われてきました。しかし今後は、技術革新やAIの進化にあわせて、人員構成を定期的に見直す“恒常的な調整戦略”として定着していくと予想されます。

企業は四半期単位・年度単位で「この業務はAIに任せられるか」「この部門は縮小できるか」といったレビューを継続的に実施し、不要な役割は速やかに削減、必要なスキルは外部から調達または内部育成する柔軟な運用にシフトします。

特にマネージャー層や中間管理職は、AIツールによるプロジェクト管理・レポート生成・KPI監視などの自動化によって、存在意義を再考される可能性が高くなっています。今後は「役職より実行力」が問われる組織へと進化していくでしょう。


シナリオ②:スキルと職種の“再定義”が進む

次に起こる大きな変化は、従来の「職種名」や「専門分野」が通用しなくなることです。たとえば「カスタマーサポート」「リサーチアナリスト」「営業事務」といった仕事は、AIによる置換が進んでおり、それに代わって次のような役割が登場しています:

  • AIプロンプトデザイナー(Prompt Engineer)
  • 業務フロー最適化スペシャリスト
  • 人間とAIのハイブリッドワーク調整担当
  • AIアウトプット監査官

これらはまだ広く知られていない職種ですが、今後AIとの共生において不可欠なスキル群となります。言い換えれば、「職業名よりも機能で判断される時代」が到来するのです。学校教育、企業研修、転職市場もこれにあわせて大きな変革を迫られるでしょう。


シナリオ③:リスキリングが「生存条件」に

レイオフの波が押し寄せる中で、「今のスキルで働き続けられるのか?」という問いはすべての労働者に突きつけられています。特に中堅層やマネジメント層は、これまでの経験がAIでは再現しにくい「暗黙知」「人間関係の調整力」に依存してきたケースも多く、再評価が必要です。

一方で、AIツールの操作、データリテラシー、ノーコード開発、LLMを活用した業務設計といった新しいスキルを持つ人材には、企業は積極的に採用・配置転換を進めるようになります。

政府や自治体も、リスキリング支援制度をさらに拡充する必要が出てくるでしょう。既にEUやシンガポールでは、個人の職種転換に対してクレジット支援やオンライン教育補助を国家レベルで提供しています。“学び続ける個人”がこれまで以上に評価される社会が、すぐそこにあります。


シナリオ④:“AI時代の働き方”が再設計される

レイオフが進んだ先にあるのは、AIと人間が協働する「新しい働き方」です。これは、従来の“1日8時間働く”といった前提を覆す可能性を秘めています。

たとえば、AIが業務の7割を自動化する世界では、人間の労働時間は週40時間である必要はありません。代わりに、以下のようなモデルが広がっていくかもしれません:

  • 週3日勤務+副業(マルチワーク)
  • 成果報酬型のプロジェクトベース契約
  • 人間は“AIの判断を監督・補完する役割”に専念

また、フリーランスやギグワーカー市場も拡大し、「AIツールを持っていること自体がスキル」という新たな評価軸が生まれます。まさに「AI+人」=1つのチームとして働く未来が描かれているのです。


🧭 結論:人とAIの「再構築の時代」へ

2025年のテック業界における大規模なレイオフは、一時的な経済的衝撃ではなく、AI時代への本格的な移行を象徴する出来事となりました。「誰が職を失うか」「どの部門が減るか」という問いは、もはや表層的なものであり、これからは「誰がどのように新しい価値を生み出せるか」という視点が問われていく時代です。

AIは単に人間の仕事を奪う存在ではなく、働き方・組織の在り方・学び方そのものを再定義するパートナーとして台頭しています。この変化にどう向き合うかによって、企業の競争力も、個人のキャリアの可能性も、大きく分かれていくでしょう。

過去の成功体験や業務プロセスに固執するのではなく、柔軟に思考を切り替え、自らをアップデートし続けられること——それこそが、AI時代における最も重要な資質です。

そしてこれは、企業にとっては人材戦略や組織設計の根本的な見直しを意味し、個人にとってはリスキリングや新たな役割への適応を意味します。

レイオフは、その変革の痛みを伴う入り口にすぎません。

しかしその先には、人とAIが協働して価値を創出する「再構築の時代」が待っています。

私たちが今考えるべきなのは、「AIに仕事を奪われるかどうか」ではなく、「AIと共にどんな未来を創るのか」ということなのです。

参考文献

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