Gartnerが明らかにした政府IT予算増の潮流 ― 行政モダナイゼーションと効率化の方向性

2025年11月、調査会社 Gartner は、米国を除く政府機関のCIOを対象とした最新の調査結果を発表しました。調査によれば、回答した政府CIOのうち 52% が 2026年に IT 予算を増やす予定であると答えており、これは経済的な制約があるなかでも公的部門における IT 投資の拡大が優先されていることを示すものです。 

特に、投資が見込まれている技術分野としては「サイバーセキュリティ」「AI」「ジェネレーティブ AI」「クラウド プラットフォーム」が挙げられており、これらは単なるハードウェア更新にとどまらず、行政サービスの変革や運用効率化を目的とした戦略的投資であることがうかがえます。 

このような調査結果は、単に予算の増額という数値以上の意味を持ちます。すなわち、世界の政府機関が「デジタル行政」「公共サービスのモダン化」「AI/データを活用した行政運営の効率化」に本格的に舵を切っている──そうした潮流を象徴するものと言えるでしょう。

本記事では、この Gartner の発表を出発点に、なぜ各国政府は今、IT への投資を増やすのか、その背景や狙いを探りながら、行政サービスの未来像とそれがもたらす可能性やリスクを多角的に分析します。

調査詳細と主なデータポイント

2025年11月に公表された Gartner による報告によれば、米国を除く各国の政府機関に所属するCIO(Chief Information Officer)を対象にした調査で、回答者の 52% が「2026年に IT 予算を増やす予定」であると答えました。

この調査では、単なるハードウェア更新や保守コストの補填ではなく、今後の政府IT投資の中心が「AI やクラウド、サイバーセキュリティなど、いわゆる “モダン IT インフラおよび次世代技術” への重点投資」であることが強調されています。具体的に、CIO が関心を寄せている技術分野としては以下が挙げられています。

  • サイバーセキュリティ
  • AI(人工知能)/ジェネレーティブAI
  • クラウドプラットフォーム

Gartner の分析によれば、こうした分野への投資は、将来の行政サービスの提供手段そのものの刷新、デジタルサービスの展開、および運用効率とセキュリティの強化を兼ねており、もはや “オプション” ではなく “戦略的必須” となっていることがうかがえます。

また、Gartner 全体の市場予測としては、2026年には世界の IT支出が前年比約 9.8% 増加し、過去最高の 6.08 兆ドルに達する見通しとされています。

このマクロな潮流の中で、公共部門(政府機関)が IT 投資を拡大すると回答した 52% は、政府/公共機関がグローバルな技術トレンドと同様に“デジタル・モダニゼーションの波”に乗ろうとしていることを示す重要な指標といえます。

ただし、この報告には留意点もあります。Gartner の「CIOアジェンダ 2026」レポート自体は、企業向け CIO を含むグローバルな管理職層全体を対象としており、政府機関専用の詳細内訳や、国別/地域別の比較データまでは公開されていません。

そのため、「52%」という数字はあくまで“政府CIO の回答者の過半数”を指すにすぎず、各国の財政状況、行政システム、法制度、国民の期待、政治的判断などによって、実際の予算配分や導入状況には大きなばらつきがある可能性があります。

本節で示したデータは、あくまでも「今、グローバルな政府機関レベルで IT 投資に対する意欲が高まっている」という傾向を示す予備的な指標である、という点をご理解いただきたいと思います。

なぜ政府は IT 予算を増やすのか — 背景分析

Gartner の 2025 年調査によると、米国を除く政府機関の CIO のうち 52% が 2026 年に IT 予算を増やす予定であると回答しています。   なぜ、このような「財政的制約があるにもかかわらず IT 投資を拡大する」という決断が、各国政府で見られているのでしょうか。その背景には、複数の構造的・技術的要因があると考えられます。

技術的要求および運用リスクの変化:サイバーセキュリティとレジリエンスの必要性

近年、ネットワーク、データ、接続システムを狙ったサイバー攻撃および脅威の急激な拡大が報告されており、従来型の防御手段では対応が難しくなっています。   この文脈において、政府機関にとって「セキュリティ強化およびレジリエンス (回復力) の確保」は、もはやオプションではなく必須課題です。

実際、調査対象の政府 CIO のうち 85%が「サイバーセキュリティ」を次年度の重点投資分野にあげており、AI/クラウドと並んで優先度の高い技術とされています。   こうした傾向は、単なる新規サービスの展開ではなく、既存の公共インフラと行政運営の「安全性・継続性」を維持・強化する必要性の高まりを反映しています。

公共サービスのモダン化と市民ニーズの変化

近年、国や地方における行政サービスに対して、市民 (国民) からの利便性要求やサービスの質向上、迅速性の期待が高まっています。多様な行政手続きや公共サービスのデジタル化、オンライン化、さらにはデータや AI を活用したサービス提供が、“当たり前” として求められる時代になりつつあります。

Gartner の調査では、政府 CIO の約 38%が「新しいデジタルサービスの立ち上げ」を、約 37%が「市民 (住民) 体験 (citizen experience) の改善」を 2026 年の重点目標としています。   これは、行政サービスのモダン化および市民の利便性向上が、IT 投資の主目的のひとつであることを示しています。

また、人口構造の変化、地方自治体の人材不足、行政手続きの煩雑さなど、既存の制度運用には構造的な課題があり、これらを技術で補完・改善する必要性が高まっていると考えられます。そうした制度的・社会構造的な変化に対応するため、IT 投資による “サービスの質と効率の両立” を目指す流れがあると見えます。

AI/クラウド技術の成熟と運用効率の追求

現在、AI やクラウド、ジェネレーティブ AI といった先端技術が急速に成熟し、公共部門でも実用化に向けた技術基盤が整いつつあります。Gartner の調査でも、80%が「AI」および「ジェネレーティブ AI」、76%が「クラウド プラットフォーム」を重点投資分野にあげています。

こうした技術は、行政内部の業務効率化、プロセス自動化、データ駆動型政策立案、運用コスト削減などに寄与する可能性があります。特に、過去数年でのデジタル化の蓄積と技術成熟により、適切に設計された AI/クラウド基盤を導入すれば、持続可能かつ拡張性の高い行政インフラの構築が可能です。

Gartner のアナリストも、「CIO は限られたリソースの中で従業員生産性を高め、内部効率を改善する AI イニシアチブを優先すべきだ」と指摘しています。   これはつまり、IT 投資が単なる性能アップや新サービスのためだけではなく、行政運営の “スリム化と質の向上” を目的とした戦略である、ということです。

地政学・デジタル主権の観点:ベンダー選定と技術供給網の見直し

もうひとつ見逃せない背景として、地政学リスクやデジタル主権 (digital sovereignty) の問題があります。近年、国と地域は、技術ベンダーの所在地、サプライチェーン、データ管理・保護、依存関係などに対する慎重な見直しを進めており、公共部門でもその動きが顕著です。

Gartner の調査では、55%の政府 CIO が「テックベンダーとの関係性 (ベンダー選定) の見直し」を来年の重要テーマとしてあげており、地域内ベンダーとの協調を検討する回答者も 39%にのぼると報告されています。

これは、単なるコストや機能性だけでなく、技術供給の安定性、主権、将来の運用リスクを見据えた投資判断であると解釈できます。


以上を踏まると、Gartner の報告で示された「IT 予算増加」という数値の裏には、単なる“流行”や“最新技術への興味”ではなく、公共サービスの信頼性・安全性の確保、行政運営の効率化とモダン化、市民サービスの質向上、そして地政学リスクへの備えといった、複数の構造的課題とニーズが重層的に存在すると言えます。

次節では、このような背景から、実際に「どのような改善軸 (住民サービス、連携、分析/AI活用)」が想定されるかを具体的に見ていきます。

三つの改善軸から読み解く:住民サービス・連携・高度化

Gartner の報告で示された政府 IT 投資の拡大は、単なる技術刷新にとどまらず、行政サービスの質・効率・対応力を根本から変革する可能性を孕んでいます。ここでは、主に ① 住民向けサービスの改善② 中央–地方および自治体間の連携強化③ 行政の省力化およびデータ/AI を使った高度化 という三つの改善軸の観点から、この潮流を整理します。

① 住民向けサービスの改善 — 行政サービスのデジタル化と利便性向上

多くの国・地域で、国民/住民に対して「役所に出向かなくても手続き可能/オンラインで完結」の行政サービスを提供する需要が高まっています。政府がIT予算を増やす背景には、このような住民利便性の改善が重要な目的の一つと考えられます。

  • 例えば、我が国では デジタル庁 が主導するデジタル行政の枠組みのなかで、行政手続きのオンライン化が明確に掲げられています。([turn0search13])
  • こうしたオンライン化は、住民の利便性向上だけでなく、申請時の添付書類の簡素化、記入の手間の削減、窓口待ち時間の短縮などを通じて、行政手続きのハードルを下げる効果が期待されます。
  • また、技術の進展(クラウド、AI、デジタルID など)によって、サービスの即時性、レスポンスの高速化、さらには24時間対応のシステムなど、従来の行政サービスでは難しかった “時間や場所に縛られない行政” の実現可能性も高まっています。

このように、IT 投資は「住民サービスの利便性とアクセシビリティの向上」という公共価値に直結する重要な基盤になり得ます。

② 中央–地方および自治体間の連携強化 — データ・申請・行政プロセスの横断的改善

複数の行政機関や地方自治体にまたがる手続きや情報管理は、従来、手続きの重複、データのサイロ化、手続きの煩雑さ、住民への負担増加など、多くの非効率を抱えてきました。政府の IT 投資拡大は、こうした構造的な問題を是正する機会にもなります。

  • 日本では、 公共サービスメッシュ という国–地方および自治体間の情報連携基盤構想が進められており、行政機関が保有するデータを安全かつ円滑に共有・連携する仕組みが整備されようとしています。([turn0search0])
  • この取り組みによって、例えば複数の行政手続きで同じ住民情報をあらためて入力する必要がなくなり、住民側の手続き負荷が軽減されるとともに、行政側でも事務処理の重複が削減されるメリットがあります。([turn0search2][turn0search6])
  • 加えて、自治体内および自治体間でのデータ利活用や行政システムの標準化・共通化により、効率的な運用が可能となり、地方どうしの格差を抑えつつ全国的な行政サービスの質の底上げにつなげる道も開かれます。

このような連携強化は、中央–地方の分断を乗り越え、全国一律かつ高水準の行政サービスを実現するための重要な構造改革と位置づけられます。


③ 省力化およびデータ/AI活用による行政の高度化 — 内部効率化と政策立案力の強化

住民サービスや申請プロセスの改善だけでなく、行政の “中” の部分──すなわち業務プロセス、データ管理、政策立案や分析基盤──を高度化することで、政府全体の機能性と応答性を底上げすることが可能です。特にクラウドやAIなどを活用することで、“少ない人手で高い成果” を目指す運用が期待されます。

  • 海外における公共部門の事例では、AI を利用して文書処理、問い合わせ応答、申請内容の審査、住民からの画像や提出資料の分析などを自動化/省力化することで、行政の内部業務効率と応答速度を劇的に改善している報告があります。([turn0search1][turn0academia31])
  • また、データ活用基盤の整備により、地域経済、人口動態、インフラ状況、自然環境データなどを統合し、政策立案や公共サービスの改善に生かす取り組みも進んでいます。日本国内でも、 RESAS(地域経済分析システム)のようなプラットフォームを用いて、自治体の政策立案や地域振興に資するデータ分析が実行されています。([turn0search9][turn0search17])
  • さらに、クラウドやサービス標準化(レガシーシステムのモダナイゼーション)は、維持コストの削減、スケーラビリティ確保、拡張性のある行政インフラの構築につながり、将来的な追加機能や新サービスの展開を容易にします。([turn0search3][turn0search18])

これらの取り組みによって、政府は限られたリソースで質の高い行政サービスと迅速な対応力を保持しやすくなり、「人員やコストを抑えつつ行政サービスを維持・強化する」というモデルの実現が近づいていると解釈できます。

🔎 三軸の統合的インパクト — 政府の機能変革と公共の信頼性向上

これら三つの改善軸は、互いに独立したものではなく、むしろ 包括的かつ相互補完的 な関係にあります。例えば、住民サービスのオンライン化が進み、さらに中央–地方のデータ連携基盤が整備されれば、行政サービスはより迅速かつ一貫性を持ったものになります。また、AI やデータ分析による業務効率化・政策立案の高度化は、行政の持続可能性と柔軟性を向上させます。

その結果として、政府はより少ない人的リソースで広範かつ高品質な行政サービスを提供できるようになり、住民の利便性、行政の透明性、全国の自治体間の整合性、そして政策の有効性・迅速性という多面的な価値を同時に追求できるようになります。


このように、Gartner が示す「政府 IT 予算の拡大」は、単なる設備更新ではなく、 行政構造全体を再設計し、公共サービスの質・効率・持続可能性を高めるための出発点 と見ることができます。次章では、さらに「大きな政府・小さな政府」という観点で、こうした変化がどのような意味を持つかを考察します。

「大きな政府・小さな政府」の視点から

近年、政府が拡充すべき機能(政策領域や公共サービスの範囲)はむしろ拡大傾向にある一方で、財政的・人的リソースの制約が厳しくなる中で、「どうやって賢く、効率よく政府機能を維持・発展させるか」が強く問われています。こうした状況において、いわゆる「大きな政府」の責任を果たしつつ、「小さな政府」でありえる構造――すなわち、少人数または最小限のリソースで広範な機能を効率的に回す ―― が、技術、特にデジタル技術/AI によって現実のものとなる可能性が浮上しています。以下、その論点を整理します。

デジタル技術と「小さな政府」の可能性

  • Gartner の調査報告でも、政府機関が今後注力する技術として、AI/クラウド/サイバーセキュリティといった「モダン IT 技術」が挙げられており、51%の政府 CIO が「従業員生産性 (employee productivity) の向上」を目的に投資を拡大すると回答しています。
  • また、一般的に、AI や自動化 (オートメーション) は、定型業務、書類処理、問い合わせ対応、データ集計など「人手を大きく割きやすい反復的/事務的作業」を効率化できるとされており、これによって「少ない人手で多くの処理量を捌く」ことが可能になる、という期待があります。
  • こうした効率化は、単にコスト削減を目的としたものではなく、「政府が担うべき公共サービスや政策の範囲 (大きな政府の役割)」を維持・拡充しつつも、「運用のスリム化 (小さな政府の運営体制)」を両立させる「新しい政府モデル」の実現に資すると言えます。

この観点は、従来の「大きな政府 vs 小さな政府」という二者択一的な議論を刷新するものであり、技術によって「役割の広さ」と「実装効率」の両立を図るアプローチです。ある意味で、「大きな政府を維持しつつ、人員やコスト負荷を抑える」という折り合いを、デジタル化と自動化が可能にする、という発想です。

実務的な文脈:日本における政策表明

日本でも、デジタル庁 を通じた行政 DX において、AI 活用やデータ基盤整備を通じた行政運営の効率化・省力化が明示されています。たとえば、2025年の「デジタル行財政改革」の政策資料では、AI やデータ活用によって行政や産業の効率化・人手不足の克服、新たな価値創造を目指すことが明記されています。

政府関係者も、「役割 (ガバナンスやサービスの提供) は大きく保持しつつ、人的リソースは最適化する」――すなわち「リソースは小さな政府で、役割は大きな政府であるべき」という立場を示す場面があり、デジタル/AI をその実現手段と位置づけています。

つまり、日本においても「大きな政府・小さな政府」の二項対立ではなく、「広い責任と役割を維持しながら、効率的かつ持続可能な運営を目指す」というコンセプトが、デジタル政策の中心に据えられつつあります。

留意点とリスク — 自動化による限界と制度的な整備の必要性

ただし、この「デジタルによるスリム政府」が安易にうまくいくとは限りません。以下のような留意点があります。

  • AI や自動化は万能ではなく、すべての業務が代替可能とは限りません。特に政策判断、行政判断、複雑なケースの対応、住民との対話や人間の裁量を要する場面などでは、人的関与が不可欠です。
  • 技術導入には初期コスト、データ基盤整備、制度・組織の再設計、職員のスキル習得などが必要であり、単純に「人を削る → コスト削減」とはならない場合があります。
  • また、自治体間、中央–地方間、あるいは住民–政府間での不平等 (デジタルデバイド)、プライバシーやガバナンス、透明性の問題など、制度的な配慮が欠かせません。自動化による効率化や省力化を追求するあまり、行政サービスの質や公平性が損なわれるリスクもあります。

つまり、「大きな政府・小さな政府」を技術で実現するには、技術導入だけでなく、それを支える制度設計、ガバナンス、人的要素の見直し、透明性確保が同時に求められます。

結論 — デジタル政府の新しい地平とその現実性

今回の Gartner の調査結果と、世界および日本国内におけるデジタル政策の動向を踏まえると、「大きな政府の責務を維持しながら、小さな人的・運用リソースで運営する」という“デジタル時代の新しい政府モデル”は、理論的にも現実的にも強く現実味を帯びています。

ただし、それが成功するかどうかは、単なる技術導入にとどまらず、制度・組織・ガバナンスの再構築透明性と公共の信頼の確保、そして 人間が関与すべき領域と自動化すべき領域の適切な切り分け ができるかにかかっていると言えます。

この観点は、単なる IT 投資や行政効率化の話ではなく、これからの社会と公共のあり方そのものを問う、重要な視点であると考えています。

考察:日本における示唆と今後のポイント

デジタル庁 および国・地方自治体が進めてきた行政のデジタル改革の取り組みと、Gartner の最近の調査結果を照らし合わせると、日本においても、今後の公共サービスや行政運営のあり方に対して重要な示唆と、注意すべきポイントが浮かび上がってきます。

🌐 日本における現在の進捗:制度整備と共通基盤の整備

  • デジタル庁はすでに、国と地方自治体の協調を前提とした共通基盤整備を進めており、たとえば「公共サービスメッシュ」によって、行政機関間および自治体内のデータ連携・共有の仕組みを構築しようとしています。これにより、情報の断片化を防ぎ、行政サービスの横断的な改善と効率化を可能にする土台が整いつつあります。
  • また、国・地方あわせた「自治体デジタル・トランスフォーメーション推進計画」によって、自治体でのDX/デジタル化の方向性が明示され、行政手続きのオンライン化、システムの標準化・共通化、AI/RPAによる業務改善などが掲げられています。
  • 2025年時点のデジタル庁の活動報告でも、行政のデジタル改革は「生活」「事業・地域」「行政」の各領域で進展しており、行政の効率化、利便性の向上、制度基盤の整備といった成果が挙げられています。

これにより、日本ではようやく「制度としてのDX」「共通基盤としてのITインフラ」「国–地方間の協調体制」が整備されつつあり、Gartner の示すような「公共部門での本格的なIT投資拡大の国際的潮流」を受け入れる土台が構築されつつあると言えます。

📈 示唆される可能性:機能を維持しつつ効率化/持続性の確保

Gartner の調査結果を踏まえると、日本においても次のような可能性が開かれていると考えられます。

  • 共通基盤・データ連携の整備と、AI/クラウドなどモダン技術の導入により、行政の省力化・効率化が進み、少ない人的リソースで必要なサービスを提供し続ける「持続可能な行政モデル」が現実味を帯びる。
  • 住民サービスのオンライン化、行政手続きの簡素化、窓口負荷の軽減などを通じて、国民にとって利便性の高い行政サービスが提供されやすくなる。特に、高齢化・少子化、人口減少、地方自治体の人材不足といった構造的課題を抱える日本では、こうした効率化の重要性は高い。
  • また、データを活用した政策立案や、自治体間/国–地方間の横断的なデータ共有によって、従来よりも迅速かつ柔軟な行政対応や政策対応が可能になる。これにより、災害対応、社会保障、地域振興、人口移動、産業振興など、多様な行政分野で改善の余地が広がる。

こうした点は、「機能としての大きな政府」を維持しつつ、「運営としての小さな政府(効率的で持続可能な体制)」を追求するうえで、有望な方向性を示していると言えます。

⚠️ 注意すべき課題と限界:導入の遅れとデジタルギャップ

ただし、日本の現状には複数の課題と限界も存在します。

  • OECD が発表する「デジタル政府指数 (Digital Government Index)」において、日本は先進国の中で評価が高くなく、行政データ共有・利活用、オンラインサービス提供といった面で遅れが指摘されています。
  • 実際、行政手続きのオンライン化率はそれほど高くなく、また自治体ごとにDXの進捗状況にばらつきがある状況です。地域によっては旧来型の運用やレガシーシステムが残ったままであり、改革の浸透と均一化には時間がかかる可能性があります。
  • また、デジタル化・自動化を進めるには単なる技術導入だけでなく、制度設計、人材育成、運用体制、ガバナンス、プライバシー・セキュリティの担保、住民への周知など、包括的な改革が必要です。特に自治体や地方では人的・予算的な制約が強く、デジタル改革が形骸化したり、部分導入にとどまるリスクがあります。
  • さらに、技術への期待が大きいほどに、既存の制度設計や法制度、行政慣行の見直しが追いつかず、改革の足かせとなる可能性があります。例えば、紙文化・対面手続き重視、既存システムとの互換性、住民のITリテラシーやアクセス環境など、制度的・社会的なハードルは依然として残ります。

つまり、日本において「デジタル政府」の実現は、技術導入だけでなく、多面的な制度・運用・社会の調整を伴う長期的なチャレンジであると言えます。

🔮 今後の注目すべきポイント

以上を踏まると、今後日本で注目すべき論点・進展ポイントは以下のように整理できます。

  1. 共通基盤と標準化の徹底  公共サービスメッシュ、ガバメントクラウド、共通システム等、国–地方連携と基盤整備を進め、自治体間のバラツキを減らす。
  2. 現場への浸透と人材育成・運用体制の構築  制度設計だけでなく、自治体職員のデジタルスキル育成、運用体制の整備、住民への啓発・サポート体制。
  3. 透明性・ガバナンス・プライバシー対策の強化  データ利活用やAI導入において、個人情報保護、説明責任、公正性を担保する制度設計。
  4. 段階的かつ持続的な改革アプローチ  単発的/断片的な導入にとどまらず、長期ビジョンの下で段階的に標準化・共通化・拡張可能な仕組みづくり。
  5. 住民ニーズ・地域差への柔軟な対応  全国一律のシステム化だけでなく、地域特性や住民環境を踏まえた柔軟なサービス設計と提供。

おわりに

本記事では、Gartner が2025年11月に公表した調査結果を起点に、政府機関における2026年のIT予算増加の見通しと、その背景、そして改善の方向性について多角的に整理してまいりました。調査では、米国を除く政府CIOの52%がIT予算の増額を予定すると回答し、投資の中心として「サイバーセキュリティ」「AI/生成AI」「クラウドプラットフォーム」などの先端技術領域が高い割合で挙げられました。

この結果が示す最も重要なポイントは、IT投資がもはや単なる業務支援ツールや設備更新の費用ではなく、行政サービスの近代化、市民体験の向上、そして行政運営そのものの効率と継続性を高めるための戦略的な基盤投資として位置づけられている、という点であります。特に、従業員生産性の向上や新たなデジタルサービスの立ち上げ、住民サービスの改善が重点とされているというデータは、公共部門でのITが、サービス改革と運用効率の両立を意図したものであることを物語っています。

また、日本においてもデジタル庁の設置(2021年)以降、行政DXの制度整備、クラウド優先の原則、データ連携基盤の構築、生成AIの利用ガイドラインの公表(2025年)など、“全国規模のデジタル行政インフラと協働体制の整備”が段階的に進展しています。その意味で、今回の Gartner 調査が描く潮流は、日本の目指す方向性とも十分に整合し得るものと言えます。

一方で、AIやクラウド、自動化による省力化には、制度・組織・人材・ガバナンスの再構築が同時に求められることも事実です。技術への期待が増すほどに、行政の説明責任、公正性、プライバシー・セキュリティの担保、デジタルデバイド対策など「人間が果たすべき領域と技術が補完すべき領域の適切な切り分け」が重要となります。

Gartner の調査結果は、各国政府をはじめ公共部門のITが、新たな局面――すなわち 役割としての大きな政府と、運用としてのスリムさを両立させる新しい行政モデルの模索フェーズ へと入りつつあることを示す、ひとつの象徴的指標となりました。

日本の行政組織と自治体にとっても、今回の数字は“国際的なデジタル投資意欲の高まり”以上の意味を持ち、持続性と柔軟性、そして公共の信頼性を兼ね備えた未来の行政インフラ設計へ向かう次の一歩をどう実装していくかが問われる時期が近づいている、という現実を改めて浮かび上がらせたと言えるでしょう。

今後も、中央政府と地方が協調しながら、共通基盤の整備・人材育成・制度設計・ガバナンス強化を推進し、国民と住民の利便性、行政の効率、そして政策運用の高度化という三つの公共価値を同時に実装していくフェーズ へと進んでいくことが期待されます。

このような変革の現在地と展望を読み解くことができた点で、本調査は今後数年の行政IT戦略の意思決定や投資動向において、重要な参照軸のひとつになり得るものであると認識しております。

参考文献

CIO Japan Summit 2025閉幕──DXと経営視点を兼ね備えたCIO像とは

2025年5月と7月の2回にわたって開催されたCIO Japan Summit 2025が閉幕しました。

今年のサミットでは、製造業から小売業、官公庁まで幅広い業界のリーダーが集い、DXや情報セキュリティ、人材戦略など、企業の競争力を左右するテーマが熱く議論されました。

本記事では、このサミットでどのような企業が登壇し、どんなテーマに関心が集まったのか、さらに各業界で進むDXの取り組みやCIO像について整理します。

CIO Japan Summitとは?

CIO Japan Summit は、マーカス・エバンズ・イベント・ジャパン・リミテッドが主催する、完全招待制のビジネスサミットです。日本の情報システム部門を統括するCIOや情報システム責任者、そして最先端のソリューション提供企業が一堂に会し、「課題解決に向けて役立つ意見交換」を目的に構成されたイベントです  。

フォーマットの特徴

  • 講演・パネルディスカッション
  • 1対1ミーティング(1to1)
  • ネットワーキングセッション


展示会のようなブース型のプレゼンではなく、深い対話とインサイトの共有を重視する構成となっており、参加者同士が腰を据えて議論できるのが特徴です。

今年(2025年)の主要議題


以下に、『第20回 CIO Japan Summit 2025』(2025年7月17~18日開催)で掲げられた主要な議題をまとめます。

  1. デジタルとビジネスの共存
    • CIOが経営視点を持ち、デジタル技術を企業価値に結び付けることが求められています。
  2. 攻めと守りの両立
    • DXを推進しながらも、不正やリスクに対する防御を強化する、バランスの取れた経営体制が課題です。
  3. 国際情勢とサイバーリスクの理解
    • サイバー攻撃は国境を越える脅威にもなるため、グローバル視点で防衛体制を強化する必要があります。
  4. 各国のテクノロジー施策と影響
    • 常に変化するデジタル技術の潮流を把握し、自社戦略に取り込む姿勢が重要です。
  5. 多様性を活かすIT人材マネジメント
    • IT人材確保の難しさに対応するため、社内外の多様な人材を効果的に活用する取り組みが注目されました。
  6. 未来を見通すデータドリブン経営
    • データを戦略的資産として活用し、不確実な未来を予測しながら経営判断につなげる姿勢が重要です。

登壇企業と業界一覧


今回のCIO Japan Summit 2025には、製造業、建設業、流通業、化学業界、小売業、通信インフラ、官公庁、非営利団体、ITサービスなど、非常に幅広い分野から登壇者が集まりました。

業界企業・組織
製造業荏原製作所、積水化学工業、日本化薬、古野電気
建設業竹中工務店
流通業大塚倉庫
化学業界花王
小売業/消費財アルペン、アサヒグループジャパン、日本ケロッグ
通信インフラ西日本電信電話(NTT西日本)
官公庁経済産業省
非営利/研究機関国立情報学研究所、日本ハッカー協会、IIBA日本支部、CeFIL、NPO CIO Lounge
IT/サービス企業スマートガバナンス、JAPAN CLOUD

それぞれの業界は異なる市場環境や課題を抱えていますが、「DXの推進」「セキュリティ強化」「人材戦略」という共通のテーマのもと、互いの知見を持ち寄ることで多角的な議論が行われました。

製造業からは、荏原製作所、積水化学工業、日本化薬、古野電気といった企業が登壇し、IoTやAIを活用した生産性向上や品質管理の高度化について共有しました。

建設業からは竹中工務店が参加し、BIM/CIMや現場デジタル化による業務効率化、労働力不足への対応などが話題となりました。

流通業の大塚倉庫は、物流需要の変化に対応するためのロボティクス導入や需要予測の高度化について発表。

化学業界から登壇した花王は、研究開発から製造・販売までのバリューチェーン全体でのDX推進事例を紹介しました。

小売業・消費財分野では、アルペン、アサヒグループジャパン、日本ケロッグが参加し、顧客データ分析やECと店舗の統合戦略、パーソナライズ施策などが議論されました。

通信インフラの代表として西日本電信電話(NTT西日本)が登壇し、社会基盤を支える立場からのセキュリティ戦略や地域連携の取り組みを共有。

官公庁では経済産業省が、国としてのデジタル化推進政策や人材育成施策について発表し、民間企業との協働の可能性に言及しました。

さらに、国立情報学研究所、日本ハッカー協会、IIBA日本支部、CeFIL、NPO CIO Loungeといった非営利団体・研究機関が加わり、最新のセキュリティ研究、国際的な技術潮流、IT人材育成の重要性が議論されました。

また、ITサービスやガバナンス支援を行うスマートガバナンスや、クラウドビジネス支援のJAPAN CLOUDといった企業も参加し、民間ソリューションの観点からCIOへの提案が行われました。

このように、CIO Japan Summitは業界の垣根を超えた交流の場であり、参加者同士が自社の枠を越えて課題や解決策を議論することで、新たな連携や発想が生まれる土壌となっています。

議論・関心が集中したテーマ

CIO Japan Summit 2025では、多様な業界・立場の参加者が集まったことで、議題は幅広く展開しましたが、特に議論が白熱し、多くの関心を集めたテーマは以下の3つに集約されます。

1. DX推進とその経営インパクト

DX(デジタルトランスフォーメーション)は単なるIT導入にとどまらず、ビジネスモデルや企業文化の変革を伴うものとして捉えられています。

製造業ではIoTやAIによる生産最適化、小売業では顧客データ活用によるパーソナライズ戦略、建設業ではBIM/CIMによる業務効率化など、業界ごとの具体的事例が共有されました。

特に今年は生成AIの活用が大きな話題で、業務効率化だけでなく、新たな価値創造や意思決定支援への応用可能性が議論の中心となりました。

参加者からは「技術の採用スピードをどう経営戦略に組み込むか」という課題意識が多く聞かれ、DXが企業全体の競争力に直結することが改めて認識されました。

2. 情報セキュリティリスクへの対応

DX推進の加速に伴い、サイバーセキュリティの重要性も増しています。

ランサムウェアや標的型攻撃といった外部脅威だけでなく、内部不正やサプライチェーンを経由した侵入など、複合的かつ高度化する脅威への対応が共通課題として浮上しました。

通信インフラや官公庁の登壇者からは、国際情勢の変化が国内企業にも直接的な影響を及ぼす現実が語られ、ゼロトラストアーキテクチャや多層防御の必要性が強調されました。

また、経営層がセキュリティ投資の意思決定を行う上で、リスクの可視化とROIの説明が不可欠であるという点でも意見が一致しました。

3. 人材マネジメントと組織変革

IT人材の確保と育成は、多くの企業にとって喫緊の課題です。

特にCIOの視点からは、「単に人を採用する」だけでなく、**既存人材のスキル再教育(リスキリング)**や、部門横断の協働文化の醸成が不可欠であるとされました。

多様な人材を活かす組織設計、外部パートナーやスタートアップとの連携、海外拠点との一体運営など、柔軟で開かれた組織構造が求められているという共通認識が形成されました。

また、人材戦略はDXやセキュリティ戦略と密接に結び付いており、「人が変わらなければ組織も変わらない」という強いメッセージが繰り返し発せられました。


これら3つのテーマは独立して存在するわけではなく、DX推進はセキュリティと人材戦略の基盤の上に成り立つという構造が明確になりました。

サミットを通じて、多くのCIOが「技術視点」だけでなく「経営視点」からこれらを統合的にマネジメントする必要性を再認識したことが、今年の大きな成果といえるでしょう。

業界別に見るDXの取り組み

CIO Japan Summit 2025に登壇した企業や、その業界の動向を踏まえると、DXは単なるシステム刷新ではなく、業務プロセス・顧客体験・組織構造の根本的変革として進められています。以下では、主要5業界のDX事例と、その背景にある課題や狙いをまとめます。

1. 製造業(荏原製作所、積水化学工業、日本化薬、古野電気 など)

背景・課題

  • グローバル競争の激化とコスト圧力
  • 熟練技術者の高齢化や技能継承の難しさ
  • 品質の安定確保と生産効率の両立

主なDX事例

  • IoTによる設備予知保全 工場設備に多数のセンサーを設置し、稼働状況や温度・振動データをリアルタイムで監視。異常の兆候をAIが検知し、計画的なメンテナンスを実施。
  • AIによる品質検査 高精度カメラと画像認識AIを活用し、人の目では見逃す可能性のある微細な欠陥を検出。検査時間を短縮しつつ不良率を低減。
  • デジタルツインによる生産シミュレーション 現場のラインを仮想空間で再現し、生産計画の事前検証や工程改善を実施。試作回数を削減し、歩留まりを向上。

成果

  • 設備の稼働率向上(ダウンタイム削減)
  • 品質クレーム件数の減少
  • 開発から量産までの期間短縮

2. 建設業(竹中工務店 など)

背景・課題

  • 慢性的な労働力不足
  • 工期短縮とコスト削減の両立
  • 安全管理の高度化

主なDX事例

  • BIM/CIM統合設計 建築・土木プロジェクトで3Dモデルを用い、設計から施工、維持管理まで情報を一元化。設計ミスや工事後の手戻りを大幅削減。
  • ドローン測量 高精度測量用ドローンで現場全体を短時間でスキャン。測量データは即時クラウド共有され、設計部門や発注者ともリアルタイムで連携。
  • 現場管理のクラウド化 タブレット端末で工程・品質・安全情報を入力し、関係者間で即時共有。紙の書類や口頭伝達の削減による業務効率化を実現。

成果

  • 測量作業時間の70%以上短縮
  • 設計変更による追加コスト削減
  • 現場の安全事故発生率低下

3. 流通業(大塚倉庫 など)

背景・課題

  • EC拡大による物流需要の増加
  • 配送の小口化と短納期化
  • 燃料費や人件費の高騰

主なDX事例

  • 倉庫ロボティクス 自動搬送ロボット(AGV/AMR)を導入し、ピッキング作業や搬送作業を自動化。人手不足を補い作業負担を軽減。
  • AI需要予測 過去の出荷データや季節要因、天候、キャンペーン情報などを学習し、在庫配置や配送計画を最適化。
  • 配送ルート最適化 AIがリアルタイム交通情報を基に最適ルートを計算。配送遅延を防ぎ、燃料コストを削減。

成果

  • 在庫回転率の改善
  • ピッキング作業時間の短縮
  • 配送遅延件数の減少

4. 化学業界(花王、日本化薬 など)

背景・課題

  • 原材料価格高騰や環境規制への対応
  • 高度な品質要求と安全基準の順守
  • 研究開発の迅速化

主なDX事例

  • 分子シミュレーションによる新素材開発 AIとスーパーコンピュータを活用し、化合物の性質を事前予測。実験回数を減らし開発期間を短縮。
  • 製造ラインのIoT監視 温度・圧力・流量をリアルタイム監視し、異常時には自動でラインを停止。品質不良や事故を防止。
  • サプライチェーン可視化 原料調達から出荷までの全工程をデジタル化し、トレーサビリティとリスク管理を強化。

成果

  • 新製品の市場投入スピード向上
  • 不良率低下によるコスト削減
  • 調達リスクへの迅速対応

5. 小売業(アルペン、アサヒグループジャパン、日本ケロッグ など)

背景・課題

  • 消費者ニーズの多様化と購買行動のデジタルシフト
  • 実店舗とECの統合戦略の必要性
  • 在庫ロスの削減

主なDX事例

  • 顧客データ統合とパーソナライズ施策 店舗とオンラインの購買履歴、アプリ利用履歴を統合し、個別に最適化したプロモーションを実施。
  • ECと店舗在庫のリアルタイム連携 オンラインで在庫確認し店舗受け取りが可能な仕組みを構築。販売機会損失を防止。
  • 需要予測型自動発注 AIによる売上予測を基に発注量を自動調整し、欠品や過剰在庫を回避。

成果

  • 顧客満足度とリピート率の向上
  • 在庫ロス削減
  • 売上機会損失の防止

これらの事例を見ると、リアルタイム性とデータ活用が全業界共通のDX成功要因であることがわかります。

一方で、製造・化学業界では「工程最適化」、建設業では「現場の可視化」、流通業では「物流効率化」、小売業では「顧客体験の向上」と、それぞれの業界特有の目的とアプローチが存在します。

情報セキュリティのリスクと対策

DX推進の加速に伴い、企業の情報セキュリティリスクはますます複雑化・高度化しています。

CIO Japan Summit 2025でも、セキュリティはDXと同等に経営課題として捉えるべき領域として議論されました。単にIT部門の技術的課題ではなく、企業全体の存続や信頼性に直結するテーマです。

主なセキュリティリスク

  1. 外部からの高度化した攻撃
    • ランサムウェア:重要データを暗号化し、復号と引き換えに金銭を要求。近年は二重・三重脅迫型が増加。
    • ゼロデイ攻撃:未修正の脆弱性を狙い、検知が難しい。
    • サプライチェーン攻撃:取引先や委託先のシステムを経由して侵入。
  2. 内部不正と人的要因
    • 権限の濫用や情報の持ち出し。
    • セキュリティ教育不足によるフィッシング詐欺やマルウェア感染。
    • 人的ミス(誤送信、設定ミスなど)。
  3. 国際情勢に起因するリスク
    • 国家レベルのサイバー攻撃や情報戦。
    • 海外拠点・クラウドサービス利用時の法規制・データ主権問題。
    • 地政学的緊張による標的型攻撃の増加。

CIO視点で求められる対策

サミットで共有された議論では、セキュリティ対策は「技術的防御」「組織的対応」「人的対策」の三位一体で進める必要があるとされました。

  1. 技術的防御
    • ゼロトラストアーキテクチャの導入(「信頼しない」を前提に常時検証)。
    • 多層防御(ファイアウォール、EDR、NDR、暗号化など)。
    • 脆弱性管理と迅速なパッチ適用。
    • ログ監視とリアルタイム分析による早期検知。
  2. 組織的対応
    • インシデント対応計画(IRP)の策定と定期的な演習。
    • サプライチェーン全体のセキュリティ評価と契約管理。
    • リスクマネジメント委員会など、経営層を巻き込んだガバナンス体制。
  3. 人的対策
    • 全社員向けの継続的セキュリティ教育(模擬攻撃演習を含む)。
    • 権限管理の最小化と職務分離の徹底。
    • 内部通報制度や監査体制の強化。

リスクとROIのバランス

登壇者からは、「セキュリティはコストではなく投資」という考え方が重要であると強調されました。

経営層が予算を承認するためには、セキュリティ対策の効果や投資回収(ROI)を可視化する必要があります。

例えば、重大インシデント発生時の損失予測額と、予防のための投資額を比較することで、意思決定がしやすくなります。

総括

情報セキュリティは、DXの進展と比例してリスクも増大する領域です。

CIO Japan Summitでは、「技術」「組織」「人」の全方位から防御力を高めること、そして経営課題としてセキュリティ戦略を位置づけることがCIOの重要な責務であるという共通認識が形成されました。

国内外の事例から見る「経営視点を持ったCIO」像

CIO Japan Summit 2025では、CIOの役割はもはや「IT部門の統括者」にとどまらず、企業全体の経営変革を牽引する戦略リーダーであるべきだという認識が共有されました。国内外の事例を照らし合わせると、経営視点を持ったCIOには次の特徴が求められます。

1. 経営戦略とデジタル戦略の統合

  • 国内事例(CIO Japan Summit) 荏原製作所や竹中工務店などの登壇者は、デジタル施策を単なる業務効率化にとどめず、新規事業やサービスモデル創出に直結させる重要性を強調しました。 例として、製造現場のIoT活用を通じて、製品販売後のメンテナンス契約やデータ提供サービスといった収益源を新たに確立した事例が紹介されました。
  • 海外事例(米国大手小売業) 米TargetのCIOは、ECプラットフォームの拡充と店舗体験の融合を経営戦略の中心に据え、デジタル化を通じて客単価と顧客ロイヤルティを向上。CIOはCEO直下の執行役員として、戦略策定会議に常時参加しています。

2. DX推進とリスクマネジメントの両立

  • 国内事例 NTT西日本や経済産業省の登壇者は、DXのスピードを落とさずにセキュリティを確保するための体制構築を重視。ゼロトラストアーキテクチャの導入や、重要インフラ事業者としてのリスクシナリオ分析を経営層に共有する仕組みを整備しています。
  • 海外事例(欧州製造業) SiemensのCIOは、グローバル拠点を対象にした統合セキュリティポリシーと監査プロセスを確立。DXプロジェクト開始前にリスクアセスメントを必須化し、経営層の承認を経て進行する体制を構築しています。

3. 部門・業界・国境を越えた連携力

  • 国内事例 CIO LoungeやCeFILの議論では、異業種や行政との情報交換が自社だけでは得られない解決策や発想を生み出すことが強調されました。特に地方自治体と製造業のCIOが防災DXで協力するケースなど、社会課題解決型のプロジェクトも増えています。
  • 海外事例(米国テクノロジー企業) MicrosoftのCIOは、業界団体や規制当局と積極的に対話し、AI規制やプライバシー保護のルール形成にも関与。単なる社内のIT戦略立案者ではなく、業界全体の方向性に影響を与える存在となっています。

4. 技術とビジネスの「バイリンガル」能力

  • 国内事例 花王やアサヒグループジャパンのCIOは、マーケティング・サプライチェーン・営業など非IT部門とも共通言語で議論し、IT施策を経営数字に翻訳できる能力が求められると述べています。
  • 海外事例(米金融機関) JPMorgan ChaseのCIOは、AIやクラウドの技術的詳細を理解しつつ、投資判断やROIの説明を取締役会レベルで行います。技術者としての専門性と経営者としての視点を兼ね備えることで、投資家や株主を納得させる役割を果たしています。

5. CIOの位置づけの変化

世界的に見ると、CIOの地位は年々経営の中枢に近づいています。

  • Gartnerの調査では、2023年時点でグローバル企業の63%がCIOをCEO直下に置き、経営戦略決定への関与度が増加しています。
  • CIOは「運用の責任者」から「価値創造の責任者」へとシフトしつつあり、AI、データ、セキュリティを核とした経営パートナーとしての役割が定着し始めています。

総括

経営視点を持ったCIOとは、単にIT部門を率いるだけでなく、

  • 経営戦略に直結したデジタル施策を描く能力
  • DX推進とリスク管理のバランス感覚
  • 組織の枠を越えた連携力
  • 技術と経営の両言語を操る力

を兼ね備えた存在です。

CIO Japan Summitは、こうした新しいCIO像を国内外の事例から学び、互いに磨き合う場として機能しています。

まとめ

CIO Japan Summit 2025は、単なる技術カンファレンスではなく、経営とテクノロジーをつなぐ戦略的対話の場であることが改めて示されました。

製造業・建設業・流通業・化学業界・小売業といった幅広い分野のCIOやITリーダーが一堂に会し、DX推進、情報セキュリティ、そして人材マネジメントといった、企業の競争力と持続的成長に直結するテーマを議論しました。

議論の中で浮き彫りになったのは、DXの推進とセキュリティ確保、そして人材戦略は切り離せないという点です。

DXはリアルタイム性とデータ活用を武器に業務や顧客体験を変革しますが、その裏では複雑化するサイバーリスクへの備えが必須です。さらに、その変革を実行するには、多様な人材を活かす組織文化や部門横断的な連携が欠かせません。

また、国内外の事例を比較することで、これからのCIO像も鮮明になりました。

経営戦略とデジタル戦略を統合し、DX推進とリスク管理のバランスをとり、業界や国境を越えて連携しながら、技術とビジネスの両言語を操る「経営視点を持ったCIO」が求められています。

こうしたCIOは、もはやIT部門の管理者にとどまらず、企業全体の変革を主導する経営パートナーとして機能します。

本サミットを通じて得られた知見は、参加者だけでなく、今後DXやセキュリティ、人材戦略に取り組むすべての組織にとって有益な指針となるでしょう。

変化のスピードが加速し、予測困難な時代において、CIOの意思決定とリーダーシップは企業の成否を左右する──その事実を強く印象付けたのが、今年のCIO Japan Summit 2025でした。

参考文献

ベリサーブ、Panayaと提携──AI搭載テストソリューションでITプロジェクトの品質改革へ

2025年7月、ソフトウェア品質保証のリーディングカンパニー「ベリサーブ」が、米Panaya社と販売代理店契約を締結したというニュースが発表されました。この提携により、AIを活用したクラウド型テストソリューションが日本国内の企業にも広がることが期待されます。本記事では、その背景と提供されるソリューションの特徴を解説します。

なぜ今、AIによるテストソリューションなのか?

現在、企業のデジタル変革(DX)が加速する中で、ERPやSalesforceといった基幹業務システムは、頻繁なアップデートや機能追加を求められています。これに伴い、開発後のテスト工程はこれまで以上に複雑かつ重要な工程となっており、手動テストやExcel管理などの“属人的”な運用には限界が来ています。

特に大規模なシステムでは、「どこをテストすればよいのか」「どこに影響が出ているのか」を正確に把握できないまま広範囲を網羅的にテストせざるを得ず、結果としてテスト工数やコストが肥大化し、スケジュール遅延や品質劣化のリスクが高まっていました。

こうした課題に対して注目されているのが、AIを活用したテストソリューションです。AIによる自動解析とシナリオ最適化により、変更の影響をピンポイントで可視化し、必要なテストだけを効率よく実施することが可能になります。

また、近年では「ノーコード/ローコード」で操作できる自動テストツールも増えており、専門知識がなくても高精度なテスト自動化が実現できるようになりました。これにより、現場のエンジニアだけでなく、業務部門とも連携した“全社的な品質保証体制”の構築が容易になります。

さらに、リモートワークやグローバル分散開発の広がりにより、リアルタイムでの進捗共有や不具合管理のニーズも高まっています。従来のオフラインなテスト管理では追いつかず、SaaS型でクラウド上から一元的に管理できるツールの導入が急務となっているのです。

このように、スピード・品質・効率すべてを求められる現代のITプロジェクトにおいて、AIを活用したテストソリューションは“新しい当たり前”になりつつあります。今回のベリサーブとPanayaの提携は、まさにその潮流を象徴する動きと言えるでしょう。

提携の概要:ベリサーブ × Panaya

今回発表されたベリサーブとPanaya社の提携は、単なるソリューション販売の枠にとどまらず、日本国内のITプロジェクトの品質管理におけるパラダイムシフトをもたらす可能性を秘めています。

株式会社ベリサーブは、日本を代表するソフトウェア品質保証の専門企業であり、40年以上にわたって1,100社を超える企業のテスト工程を支援してきた実績を持っています。その強みは、単なるテストの実行にとどまらず、プロジェクト計画段階からの参画や、開発・運用フェーズまでを見据えた品質向上支援をトータルで提供できる点にあります。

一方のPanaya社は、アメリカを拠点とし、ERP(SAP・Oracleなど)やSalesforceといった基幹業務システムに対して、AIを活用した影響分析・テスト自動化・品質管理ソリューションを提供するグローバル企業です。全世界で3,000社以上、Fortune 500の3分の1にも及ぶ企業で導入されており、その実績は折り紙付きです。

今回の提携により、ベリサーブはPanayaの主力製品である「Change Impact Analysis」「Test Dynamix」「Test Automation」などのAI搭載クラウドソリューションを日本国内で展開し、ライセンスの提供にとどまらず、導入支援から定着、運用支援までを一貫して担うことになります。

特に注目すべきは、ベリサーブがPanaya製品を単なる“外製ツール”としてではなく、日本企業の実務にフィットするようカスタマイズ・定着させる**「橋渡し役」**として機能する点です。Panayaのグローバル基準の技術と、ベリサーブの現場密着型の支援体制が融合することで、日本のITプロジェクトの品質管理は新たなステージに突入しようとしています。

この提携は、単なる一企業間の契約以上に、今後の“AI×品質保証”という分野の発展を占ううえでも重要な布石と言えるでしょう。

ベリサーブのテストソリューションとは?

ベリサーブは、長年にわたり日本企業のソフトウェア品質保証を支えてきたテスト支援の専門企業です。単にテスト業務を請け負うだけでなく、システム開発の上流工程から運用フェーズまでを視野に入れた包括的な品質保証サービスを提供しており、そのノウハウと信頼性の高さは業界内でも広く知られています。

主なサービス領域:

  • テスト戦略・計画の立案 システム要件やプロジェクト特性に応じた最適なテストアプローチを設計。
  • テスト設計・実行 正確なテストケースの設計と、経験豊富なエンジニアによる効率的なテスト実行を実施。
  • テスト自動化支援 Seleniumなどのフレームワークを活用した自動化環境の構築や、CI/CDへの組み込み支援も提供。
  • 品質分析・改善提案 テスト結果や不具合傾向から品質データを分析し、開発プロセス改善や再発防止策を提案。
  • セキュリティ/性能/互換性テスト 機能テストだけでなく、非機能要件への対応力も強み。

また、近年ではクラウドアプリやERPに対応したテスト自動化ニーズの高まりを背景に、AIやSaaS型ソリューションとの連携も積極的に進めており、まさに今回のPanayaとの提携はその延長線上に位置づけられます。

なぜベリサーブなのか?

  • テスト支援だけでなく、“品質づくり”のパートナーとして企業に寄り添う姿勢。
  • 製品導入だけで終わらない、教育・定着支援・運用保守までのトータルサポート
  • 金融、製造、公共など幅広い業界での支援実績。

こうした強みを背景に、ベリサーブはPanayaソリューションの最適な活用を日本企業に根づかせる“現場側の翻訳者”として重要な役割を果たしていくことになります。

ベリサーブの強み:導入から定着まで一気通貫の支援

Panayaのような高度なクラウド型テストソリューションは、そのまま導入すれば即座に効果が出るというものではありません。導入したツールを現場に根づかせ、組織の業務フローに最適化し、継続的に活用し続けられるかどうかが、真の導入成功の分かれ目になります。

ここで力を発揮するのが、ベリサーブの“伴走型”支援体制です。単なる製品の導入支援にとどまらず、「選定 → 設計 → 定着 → 改善」のすべてのフェーズにおいて、顧客企業と並走しながら価値を最大化する支援を行います。

主な支援内容と特長:

🔧 1. 導入設計支援(初期フェーズ)

  • 現行業務との適合性を評価し、最適な導入構成を提案
  • テスト戦略やプロセスに合わせて、ツールの活用ポイントを明確化
  • 初期設定、ユーザー権限設計、テンプレート整備などの環境構築を実施

📘 2. 教育・トレーニング支援(定着フェーズ)

  • 操作説明会やトレーニング資料の提供によって、ユーザーの理解と習熟を支援
  • 管理者・エンドユーザー向けに分けた段階的教育
  • よくある質問や運用Tipsの共有によるサポート体制の整備

🔄 3. 運用サポート・定着支援(中長期フェーズ)

  • 実際のプロジェクト内でのツール利用をフォローアップ
  • 活用状況の定期レビュー・課題抽出と改善提案
  • テストプロセスへの組み込みや、レポート出力・実績管理の最適化支援

📈 4. 効果測定と継続的改善

  • テスト証跡や不具合分析などから、可視化された「成果」を示し、ROIを定量的に評価
  • 継続的な活用を促進するための改善サイクル設計
  • 顧客の変化に応じたカスタマイズ・再設定も柔軟に対応

なぜ「定着支援」が重要なのか?

テスト自動化ツールやクラウド型管理ツールの多くは、導入されたものの十分に活用されず「形だけで終わってしまう」ケースが少なくありません。

こうした背景を踏まえ、ベリサーブでは「システム定着支援」に重きを置き、“ツールを使いこなす文化”の醸成までを視野に入れた支援を徹底しています。

ERPやSalesforceのようなミッションクリティカルなシステムを扱う現場では、日常業務と開発・テストが密接に絡むため、単にIT部門への教育だけでなく、業務部門・マネジメント層も含めた全体最適の視点が求められます。

ベリサーブはその視点を持ち、企業文化や業務プロセスに応じた柔軟な対応力をもって、一気通貫の支援を実現できる稀有なパートナーなのです。

今後の展望:ERPの“変更耐性”を高める時代へ

企業のデジタル変革(DX)が進む現在、ERPやCRMなどの基幹業務システムは、もはや「一度導入して終わり」の時代ではありません。市場環境や制度改正、業務プロセスの変化に迅速に対応するためには、頻繁なアップデートや改修に柔軟に耐えられる“変更耐性”が企業システムに求められています。

特にSAPやOracle、Salesforceといった大規模クラウドサービスでは、半年〜1年ごとに機能追加や仕様変更が加わることが当たり前になっています。これに対応するたびに、手動での影響分析や網羅的な回帰テストを行うのでは、コストもリードタイムも現実的ではありません。

そのような状況下で重要になるのが、「変更があってもスムーズにリリースできる仕組み」をいかに社内に構築できるか、という点です。

“変更に強いERP運用”を実現するための3つの視点:

  1. 予測と影響の“見える化”  変更がどこに影響を与えるかを迅速かつ正確に特定できれば、無駄なテストや不必要な改修を避けられます。PanayaのようなAIによる影響分析ツールは、この工程を数日から数時間に短縮する力を持っています。
  2. テストプロセスの“自動化と標準化”  属人的・手作業だったテストをノーコードで自動化し、定型的な回帰テストはツールに任せることで、プロジェクトメンバーは本来注力すべき業務に集中できるようになります。
  3. “継続的改善”の文化づくり  ツールや仕組みはあくまで手段にすぎません。重要なのは、それを活用し続ける文化と運用体制を根付かせることです。ベリサーブのように教育や定着支援に強みを持つパートナーがいることで、この「継続する力」を組織内に内製化できます。

テストは“品質の守り”から“成長のドライバー”へ

これまでテストは「品質を守るための最後の砦」として認識されがちでしたが、今後はむしろ“変更を前提としたシステム運用”を可能にする前向きな仕組みとして捉える必要があります。言い換えれば、テストこそが変化に強い組織を支える“戦略的資産”となるのです。

今回のベリサーブとPanayaの提携は、その変化の先駆けとなるものであり、今後日本企業がグローバルで戦うための武器を提供する重要な一歩となるでしょう。

まとめ

今回のベリサーブとPanayaの提携は、単なる製品の販売や導入にとどまらず、日本のIT現場における「テストのあり方」そのものを再定義する、大きな転換点となる可能性を秘めています。

変化が当たり前となった現代のビジネス環境において、ERPやSalesforceなどの基幹業務システムは常に“動き続ける存在”です。その中で品質を担保し、効率よくテストを進めるには、人手と経験に頼る従来型のテスト体制だけでは限界があります。

PanayaのAI搭載ソリューションは、「変更の影響を見える化する」「無駄を省いたテスト範囲を提示する」「回帰テストを自動化する」といった、まさに“テストのスマート化”を実現するための切り札です。そして、それを日本企業の業務文化に合わせて着実に定着させる存在がベリサーブです。

ベリサーブは、単なるツールベンダーではなく、現場に寄り添いながら品質管理の進化をともに実現するパートナーです。導入設計からトレーニング、定着、運用改善までを一貫してサポートすることで、ツールを“使える状態”から“成果が出る状態”へと導いてくれます。

今後、多くの企業がデジタル変革を推進するなかで、「変化を恐れず、変化に強いシステムを持つこと」が競争優位のカギとなっていきます。

参考文献

テック業界のレイオフ最前線:AIと効率化が構造変化を加速

主要企業別のレイオフ状況

まず、Intelは7月中旬から、グローバルで最大20%、約10,000人規模の人員削減を進めると発表しました。対象は主にファウンドリ(半導体製造受託)部門であり、米国サンタクララ本社やアイルランドのLeixlip工場など、複数拠点に波及しています。この動きは、新たにCEOに就任したLip‑Bu Tan氏による構造改革の一環であり、不採算部門の縮小とAI・先端製造への集中を目的としています。

Microsoftも同様に大きな動きを見せています。2025年7月、同社は約9,000人、全従業員の4%にあたる規模でレイオフを行うと報道されました。主に営業やマーケティング、ゲーム部門が対象とされ、これはAIを活用した業務効率化と、それに伴う組織の再構成が背景にあると見られます。

Amazonでは、AIを活用した業務自動化が進む中で、特にeコマース部門やTikTok Shopとの連携部門などを中心にレイオフが続いています。CEOのAndy Jassy氏は、AIによって企業構造そのものを再設計する段階にあると明言しており、人員整理は今後も続く可能性があります。

Googleでは、レイオフ数の具体的な公表は控えられているものの、早期退職制度(バイアウト)の拡充や、買収子会社の整理などを通じた間接的な人員削減が進められています。こちらもAI概要生成機能「AI Overviews」など、AI分野への注力が明らかになっており、それに伴う組織のスリム化が背景にあります。

さらにMetaCrowdStrikeSalesforceといった企業も、パンデミック後の採用拡大の見直しや、AIの業務適用範囲の拡大を理由に、2025年上半期までにレイオフを実施しています。特にCrowdStrikeは、全従業員の5%にあたる約500人の削減を発表し、その理由としてAIによる生産性向上とコスト最適化を挙げています。


このように、2025年のテック業界では、単なる業績不振や景気後退だけでなく、AIという「構造的変革の波」が人員整理の明確な理由として表面化してきています。各社の動きはそれぞれの戦略に基づくものですが、共通するのは「AIシフトの中で再定義される企業体制」にどう対応するかという命題です。

2025年におけるレイオフの総数と背景

2025年、テクノロジー業界におけるレイオフの動きは、単なる一時的な景気調整を超えた構造的な再編の兆候として注目を集めています。米調査会社Layoffs.fyiによると、2025年の上半期(1月〜6月)だけで、世界中のテック企業からおよそ10万人以上が職を失ったと報告されています。これは2022〜2023年の“過剰採用バブルの崩壊”に次ぐ、第二波のレイオフと位置づけられており、その背景にはより深い事情が潜んでいます。

まず、2020年から2022年にかけてのパンデミック期間中、テック業界ではリモートワークやEコマースの急拡大に対応するため、世界的に大規模な採用が進められました。Google、Meta、Amazon、Microsoftといった巨大企業は、この需要拡大に乗じて、数万人単位での新規雇用を行ってきました。しかし、2023年以降、パンデミック特需が落ち着き、実際の業績や成長率が鈍化する中で、過剰体制の是正が始まったのです。

それに加えて、2025年のレイオフにはもう一つ重要なファクターがあります。それがAI(人工知能)の本格導入による構造的な変化です。ChatGPTやClaude、Geminiなどの大規模言語モデル(LLM)の実用化により、企業内の業務効率化が急速に進んだ結果、「今まで10人で行っていた業務を3人とAIで回せる」といった構図が現実のものになりつつあります。

このような流れの中で、各企業はAI投資を拡大する一方で、ホワイトカラー職を中心に人員の再編を進めています。たとえば、Microsoftは2025年度にAI関連のインフラやデータセンターへ800億ドル以上の投資を行うと発表しており、その財源確保の一環としてレイオフが実施されていると見られています。Intelもまた、ファウンドリ部門の人員を削減し、AI向け半導体の開発・製造にリソースを集中させるという戦略転換を図っています。

特に注目されるのは、従来「安定職」とされていた営業、マーケティング、財務、管理部門などがレイオフの中心となっている点です。これらの業務はAIによる自動化や支援が比較的容易であり、企業にとっては最も削減効果が高い対象となっています。かつて「デジタルに強い人材」として引っ張りだこだった職種すら、今や「AIに置き換え可能な業務」として見なされているのです。

また、企業側の説明にも変化が見られます。過去のレイオフでは「業績不振」や「市場の低迷」が主な説明理由でしたが、2025年においては「AIの導入により業務構造を見直す」「イノベーション投資の最適化」「効率性の再設計」など、技術変化を前提とした言語が多く用いられています。これは、単なるコストカットではなく、AI時代に向けた「企業変革」の一部としてレイオフが実行されていることを示しています。

このように、2025年のテック業界におけるレイオフは、「過剰採用の反動」+「AIによる業務の再定義」という二重構造で進行しており、その影響は特定の企業や地域にとどまらず、業界全体に波及しています。さらに、新卒市場や中堅層の雇用にも影響が出始めており、「AIを使いこなせる人材」と「AIに代替される人材」の明確な線引きが進んでいる状況です。

今後の雇用戦略においては、単なる人数の調整ではなく、「再配置」や「リスキリング(再教育)」をいかに迅速に進められるかが企業の生存戦略の鍵となっていくでしょう。テック業界におけるレイオフの潮流は、まさに次の時代への入り口に差しかかっていることを私たちに示しているのです。


🤖 AIが加速する構造的転換

2025年におけるテック業界のレイオフは、これまでの景気循環的な調整とは異なり、AIによる産業構造の再編=構造的転換として明確な形を取り始めています。これは単なる人員削減ではなく、「企業がこれまでの業務のあり方そのものを見直し、再設計しようとしている」ことを意味しています。

◆ AIが「人の仕事」を再定義しはじめた

近年、ChatGPTやClaude、Geminiなどの大規模言語モデル(LLM)の進化により、自然言語処理・要約・意思決定支援・カスタマーサポート・コード生成といった領域で、人間と遜色ない精度でアウトプットが可能になってきました。これにより、ホワイトカラーの典型業務である文書作成、報告書作成、議事録要約、プレゼン資料生成、社内FAQ対応などがAIで代替可能になりつつあります。

たとえばMicrosoftでは、営業支援ツール「Copilot」を導入したことで、営業担当者が日常的に行っていた提案資料作成やメール文案の作成が大幅に自動化され、人員構成の見直しが始まっています。Googleもまた、Geminiの社内導入によりマーケティング・サポート部門の業務を一部自動化し、それに伴い人員最適化を進めています。

これまでは「AIが人間の作業を補助する」段階でしたが、2025年現在は「AIが一定の業務そのものを“実行者”として担う」段階に入ったのです。


◆ 経営者たちの“本音”が語られるように

こうした動きは、企業トップの発言にも如実に現れています。FordのCEOであるJim Farley氏は2025年7月、メディアのインタビューで「ホワイトカラー職の最大50%はAIによって消える可能性がある」と明言しました。この発言はセンセーショナルに受け取られましたが、同様の考えを持つ経営者は少なくありません。

AmazonのCEO Andy Jassy氏も、「AIによって業務構造そのものが再設計されつつある。これは一時的な効率化ではなく、永続的な変化だ」と述べています。つまり、彼らはもはや“AI導入=省力化ツールの追加”というレベルではなく、“ビジネスの再構築手段”としてAIを位置づけているのです。

このような発言が企業の戦略として明文化されるようになったのは、おそらく今回が初めてでしょう。トップが明確に「AIによって仕事の形が変わる」と口にすることで、それが現場や人事方針にまで落とし込まれるのは時間の問題です。


◆ 影響を受ける業務と職種の変化

AIによる構造的転換は、特定の業務だけでなく、職種そのものに影響を与えています。以下は特に影響が顕著な分野です:

分野従来の役割AI導入後の変化
カスタマーサポートFAQ対応、問い合わせメール処理LLMベースのチャットボットによる自動応答・対応ログの要約
財務・経理決算報告書作成、予算管理、請求処理会計AIによる自動仕訳・分析・予測
マーケティングメールキャンペーン、SNS投稿、広告文案作成パーソナライズされたコンテンツ生成AIによる自動化
営業提案書作成、ヒアリング内容の整理顧客情報から自動提案を作るAI支援ツールの活用
プログラミングコーディング、テストケース作成GitHub Copilotのようなコード補完ツールの精度向上による省力化

このように、AIの進化は単なる業務効率化ではなく、「その職種が本当に必要かどうか」を問い直すレベルに到達しています。


◆ 雇用の“二極化”が進行中

もうひとつ重要な点は、AIによる構造的転換が雇用の二極化を加速させていることです。AIやデータサイエンスの専門家は企業から高額報酬で引き抜かれ、いわば「AIを使う側」に回る一方、従来型のバックオフィス職や一般職は「AIに代替される側」に追いやられています。

その格差は報酬面にも表れ始めており、一部では「AI人材の報酬は他の職種の5〜10倍にもなる」という報道もあります。これは今後、労働市場における不公平感や社会的な不安定要因になりうると指摘されています。


◆ 企業は「再構築」へ、個人は「再定義」へ

AIが加速する構造的転換の中で、企業に求められているのは、単なる人員削減ではなく、再構築された組織モデルの提示です。AIによる生産性向上をどう経営に組み込み、人材をどう再配置するかが、これからの企業の競争力を左右します。

一方で個人もまた、「AIに代替される仕事」から「AIと協働できる仕事」へと、自らのスキルや役割を再定義する必要があります。今後のキャリアは、単に専門性を深めるだけでなく、「AIと共に価値を創出できるかどうか」が重要な指標となるでしょう。


AIは便利なツールであると同時に、私たちの仕事観・働き方・経済構造そのものを揺さぶる力を持っています。2025年は、その転換が「現実のもの」として感じられ始めた年であり、次の10年の変化の序章に過ぎないのかもしれません。


📌 情報まとめと今後の展望

2025年のテック業界におけるレイオフの動向を振り返ると、それは単なる景気後退や一時的な経済変動に起因するものではなく、「AIによる構造的変化」が引き金となった新しい時代の幕開けであることが見えてきます。

まず、2025年前半だけで10万人を超えるテック系の人材が職を失いました。対象となった企業はMicrosoft、Intel、Amazon、Google、Metaといったグローバルメガテックにとどまらず、スタートアップから中堅企業まで広範囲に及びます。レイオフの規模、頻度、そしてその理由にはこれまでとは異なる明確な共通点が見られます。

◆ 共通する3つの特徴

  1. 過剰採用の是正だけでなく、“AI導入”による戦略的再編
    • 各社は「人員整理」を通じて単なるコスト削減を行っているのではなく、AIを中核に据えた業務・組織体制の再設計を進めています。レイオフされたのは多くがバックオフィス職や営業支援職といった、AIによる代替が現実的になってきた領域でした。
  2. 業績好調でも人を減らす
    • 2022年や2008年のような「売上の激減に伴う緊急的な削減」ではなく、売上が成長している企業(例:Microsoft、Amazon)ですら、先を見据えて人員構成の最適化を進めています。これは「AI前提の経営判断」がもはや当たり前になっていることの証です。
  3. CEOや経営幹部による「AI=雇用削減」の明言
    • これまで曖昧に語られていた「AIと雇用の関係性」が、2025年になってからは明確に言語化され始めました。「AIが仕事を奪う」のではなく、「AIによって必要な仕事そのものが変わる」ことが、企業の意思として表現されるようになったのです。

🧭 今後の展望:私たちはどこに向かうのか?

今後、テック業界、そして社会全体においては、以下のような動きが加速していくと考えられます。

レイオフは「継続的なプロセス」になる

一度に大規模に人員を削減するのではなく、AIの進化に応じて段階的・定常的に再編が進められるようになります。「毎年5%ずつ構造を見直す」といった企業方針が定着していくかもしれません。人員構成は「固定」から「変動」へ。これは、終身雇用や年功序列といった雇用慣行とも対立する考え方です。

雇用の再構成とスキルの再定義

レイオフされた人々が新たにAIを活用した職種に転向できるかが、国家・企業・個人の大きな課題となります。プログラミングや統計といった従来のスキルだけでなく、「AIと協働するリテラシー」「AIを監督・補完する能力」など、新しいスキルが求められるようになります。リスキリング・アップスキリングはもはや選択肢ではなく、“生存戦略”と化しています。

企業の内部構造が変わる

部門横断のチーム(AI導入支援、効率化特命チーム)が常設されるなど、従来の縦割り型から流動性の高い組織へと変化する可能性があります。また、「AI担当CXO」や「業務再構築担当VP」など、新しい役職の登場も予想されます。事業単位の評価も、人数やリソースではなく、「AIをどれだけ活かせているか」が判断基準になるでしょう。

雇用の二極化と新たな格差の顕在化

AIの進化に伴って、高報酬なAI開発者やプロンプトエンジニアと、ルーチンワークをAIに置き換えられる中低所得層との格差はさらに拡大します。一方で、AIによって生産性が向上し、週休3日制やパラレルキャリアを実現できる可能性も出てきています。社会全体がどのようにこのバランスをとっていくかが大きな論点になります。


🔮 今後のシナリオ:AI時代の雇用と企業構造の行方

2025年、AIの本格導入によって始まったテック業界のレイオフは、単なる“終わり”ではなく、“始まり”を示す現象です。今後数年間にわたり、企業はAIを中心とした新しい組織設計と人材配置の試行錯誤を続け、私たちの働き方や経済システム全体が大きく再構成されていくと考えられます。

以下では、現時点で予測される代表的なシナリオを4つの観点から紹介します。


シナリオ①:レイオフは“恒常的な戦略”へ

従来、レイオフは「危機時の一時的な対応」として行われてきました。しかし今後は、技術革新やAIの進化にあわせて、人員構成を定期的に見直す“恒常的な調整戦略”として定着していくと予想されます。

企業は四半期単位・年度単位で「この業務はAIに任せられるか」「この部門は縮小できるか」といったレビューを継続的に実施し、不要な役割は速やかに削減、必要なスキルは外部から調達または内部育成する柔軟な運用にシフトします。

特にマネージャー層や中間管理職は、AIツールによるプロジェクト管理・レポート生成・KPI監視などの自動化によって、存在意義を再考される可能性が高くなっています。今後は「役職より実行力」が問われる組織へと進化していくでしょう。


シナリオ②:スキルと職種の“再定義”が進む

次に起こる大きな変化は、従来の「職種名」や「専門分野」が通用しなくなることです。たとえば「カスタマーサポート」「リサーチアナリスト」「営業事務」といった仕事は、AIによる置換が進んでおり、それに代わって次のような役割が登場しています:

  • AIプロンプトデザイナー(Prompt Engineer)
  • 業務フロー最適化スペシャリスト
  • 人間とAIのハイブリッドワーク調整担当
  • AIアウトプット監査官

これらはまだ広く知られていない職種ですが、今後AIとの共生において不可欠なスキル群となります。言い換えれば、「職業名よりも機能で判断される時代」が到来するのです。学校教育、企業研修、転職市場もこれにあわせて大きな変革を迫られるでしょう。


シナリオ③:リスキリングが「生存条件」に

レイオフの波が押し寄せる中で、「今のスキルで働き続けられるのか?」という問いはすべての労働者に突きつけられています。特に中堅層やマネジメント層は、これまでの経験がAIでは再現しにくい「暗黙知」「人間関係の調整力」に依存してきたケースも多く、再評価が必要です。

一方で、AIツールの操作、データリテラシー、ノーコード開発、LLMを活用した業務設計といった新しいスキルを持つ人材には、企業は積極的に採用・配置転換を進めるようになります。

政府や自治体も、リスキリング支援制度をさらに拡充する必要が出てくるでしょう。既にEUやシンガポールでは、個人の職種転換に対してクレジット支援やオンライン教育補助を国家レベルで提供しています。“学び続ける個人”がこれまで以上に評価される社会が、すぐそこにあります。


シナリオ④:“AI時代の働き方”が再設計される

レイオフが進んだ先にあるのは、AIと人間が協働する「新しい働き方」です。これは、従来の“1日8時間働く”といった前提を覆す可能性を秘めています。

たとえば、AIが業務の7割を自動化する世界では、人間の労働時間は週40時間である必要はありません。代わりに、以下のようなモデルが広がっていくかもしれません:

  • 週3日勤務+副業(マルチワーク)
  • 成果報酬型のプロジェクトベース契約
  • 人間は“AIの判断を監督・補完する役割”に専念

また、フリーランスやギグワーカー市場も拡大し、「AIツールを持っていること自体がスキル」という新たな評価軸が生まれます。まさに「AI+人」=1つのチームとして働く未来が描かれているのです。


🧭 結論:人とAIの「再構築の時代」へ

2025年のテック業界における大規模なレイオフは、一時的な経済的衝撃ではなく、AI時代への本格的な移行を象徴する出来事となりました。「誰が職を失うか」「どの部門が減るか」という問いは、もはや表層的なものであり、これからは「誰がどのように新しい価値を生み出せるか」という視点が問われていく時代です。

AIは単に人間の仕事を奪う存在ではなく、働き方・組織の在り方・学び方そのものを再定義するパートナーとして台頭しています。この変化にどう向き合うかによって、企業の競争力も、個人のキャリアの可能性も、大きく分かれていくでしょう。

過去の成功体験や業務プロセスに固執するのではなく、柔軟に思考を切り替え、自らをアップデートし続けられること——それこそが、AI時代における最も重要な資質です。

そしてこれは、企業にとっては人材戦略や組織設計の根本的な見直しを意味し、個人にとってはリスキリングや新たな役割への適応を意味します。

レイオフは、その変革の痛みを伴う入り口にすぎません。

しかしその先には、人とAIが協働して価値を創出する「再構築の時代」が待っています。

私たちが今考えるべきなのは、「AIに仕事を奪われるかどうか」ではなく、「AIと共にどんな未来を創るのか」ということなのです。

参考文献

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