CIO Japan Summit 2025閉幕──DXと経営視点を兼ね備えたCIO像とは

2025年5月と7月の2回にわたって開催されたCIO Japan Summit 2025が閉幕しました。

今年のサミットでは、製造業から小売業、官公庁まで幅広い業界のリーダーが集い、DXや情報セキュリティ、人材戦略など、企業の競争力を左右するテーマが熱く議論されました。

本記事では、このサミットでどのような企業が登壇し、どんなテーマに関心が集まったのか、さらに各業界で進むDXの取り組みやCIO像について整理します。

CIO Japan Summitとは?

CIO Japan Summit は、マーカス・エバンズ・イベント・ジャパン・リミテッドが主催する、完全招待制のビジネスサミットです。日本の情報システム部門を統括するCIOや情報システム責任者、そして最先端のソリューション提供企業が一堂に会し、「課題解決に向けて役立つ意見交換」を目的に構成されたイベントです  。

フォーマットの特徴

  • 講演・パネルディスカッション
  • 1対1ミーティング(1to1)
  • ネットワーキングセッション


展示会のようなブース型のプレゼンではなく、深い対話とインサイトの共有を重視する構成となっており、参加者同士が腰を据えて議論できるのが特徴です。

今年(2025年)の主要議題


以下に、『第20回 CIO Japan Summit 2025』(2025年7月17~18日開催)で掲げられた主要な議題をまとめます。

  1. デジタルとビジネスの共存
    • CIOが経営視点を持ち、デジタル技術を企業価値に結び付けることが求められています。
  2. 攻めと守りの両立
    • DXを推進しながらも、不正やリスクに対する防御を強化する、バランスの取れた経営体制が課題です。
  3. 国際情勢とサイバーリスクの理解
    • サイバー攻撃は国境を越える脅威にもなるため、グローバル視点で防衛体制を強化する必要があります。
  4. 各国のテクノロジー施策と影響
    • 常に変化するデジタル技術の潮流を把握し、自社戦略に取り込む姿勢が重要です。
  5. 多様性を活かすIT人材マネジメント
    • IT人材確保の難しさに対応するため、社内外の多様な人材を効果的に活用する取り組みが注目されました。
  6. 未来を見通すデータドリブン経営
    • データを戦略的資産として活用し、不確実な未来を予測しながら経営判断につなげる姿勢が重要です。

登壇企業と業界一覧


今回のCIO Japan Summit 2025には、製造業、建設業、流通業、化学業界、小売業、通信インフラ、官公庁、非営利団体、ITサービスなど、非常に幅広い分野から登壇者が集まりました。

業界企業・組織
製造業荏原製作所、積水化学工業、日本化薬、古野電気
建設業竹中工務店
流通業大塚倉庫
化学業界花王
小売業/消費財アルペン、アサヒグループジャパン、日本ケロッグ
通信インフラ西日本電信電話(NTT西日本)
官公庁経済産業省
非営利/研究機関国立情報学研究所、日本ハッカー協会、IIBA日本支部、CeFIL、NPO CIO Lounge
IT/サービス企業スマートガバナンス、JAPAN CLOUD

それぞれの業界は異なる市場環境や課題を抱えていますが、「DXの推進」「セキュリティ強化」「人材戦略」という共通のテーマのもと、互いの知見を持ち寄ることで多角的な議論が行われました。

製造業からは、荏原製作所、積水化学工業、日本化薬、古野電気といった企業が登壇し、IoTやAIを活用した生産性向上や品質管理の高度化について共有しました。

建設業からは竹中工務店が参加し、BIM/CIMや現場デジタル化による業務効率化、労働力不足への対応などが話題となりました。

流通業の大塚倉庫は、物流需要の変化に対応するためのロボティクス導入や需要予測の高度化について発表。

化学業界から登壇した花王は、研究開発から製造・販売までのバリューチェーン全体でのDX推進事例を紹介しました。

小売業・消費財分野では、アルペン、アサヒグループジャパン、日本ケロッグが参加し、顧客データ分析やECと店舗の統合戦略、パーソナライズ施策などが議論されました。

通信インフラの代表として西日本電信電話(NTT西日本)が登壇し、社会基盤を支える立場からのセキュリティ戦略や地域連携の取り組みを共有。

官公庁では経済産業省が、国としてのデジタル化推進政策や人材育成施策について発表し、民間企業との協働の可能性に言及しました。

さらに、国立情報学研究所、日本ハッカー協会、IIBA日本支部、CeFIL、NPO CIO Loungeといった非営利団体・研究機関が加わり、最新のセキュリティ研究、国際的な技術潮流、IT人材育成の重要性が議論されました。

また、ITサービスやガバナンス支援を行うスマートガバナンスや、クラウドビジネス支援のJAPAN CLOUDといった企業も参加し、民間ソリューションの観点からCIOへの提案が行われました。

このように、CIO Japan Summitは業界の垣根を超えた交流の場であり、参加者同士が自社の枠を越えて課題や解決策を議論することで、新たな連携や発想が生まれる土壌となっています。

議論・関心が集中したテーマ

CIO Japan Summit 2025では、多様な業界・立場の参加者が集まったことで、議題は幅広く展開しましたが、特に議論が白熱し、多くの関心を集めたテーマは以下の3つに集約されます。

1. DX推進とその経営インパクト

DX(デジタルトランスフォーメーション)は単なるIT導入にとどまらず、ビジネスモデルや企業文化の変革を伴うものとして捉えられています。

製造業ではIoTやAIによる生産最適化、小売業では顧客データ活用によるパーソナライズ戦略、建設業ではBIM/CIMによる業務効率化など、業界ごとの具体的事例が共有されました。

特に今年は生成AIの活用が大きな話題で、業務効率化だけでなく、新たな価値創造や意思決定支援への応用可能性が議論の中心となりました。

参加者からは「技術の採用スピードをどう経営戦略に組み込むか」という課題意識が多く聞かれ、DXが企業全体の競争力に直結することが改めて認識されました。

2. 情報セキュリティリスクへの対応

DX推進の加速に伴い、サイバーセキュリティの重要性も増しています。

ランサムウェアや標的型攻撃といった外部脅威だけでなく、内部不正やサプライチェーンを経由した侵入など、複合的かつ高度化する脅威への対応が共通課題として浮上しました。

通信インフラや官公庁の登壇者からは、国際情勢の変化が国内企業にも直接的な影響を及ぼす現実が語られ、ゼロトラストアーキテクチャや多層防御の必要性が強調されました。

また、経営層がセキュリティ投資の意思決定を行う上で、リスクの可視化とROIの説明が不可欠であるという点でも意見が一致しました。

3. 人材マネジメントと組織変革

IT人材の確保と育成は、多くの企業にとって喫緊の課題です。

特にCIOの視点からは、「単に人を採用する」だけでなく、**既存人材のスキル再教育(リスキリング)**や、部門横断の協働文化の醸成が不可欠であるとされました。

多様な人材を活かす組織設計、外部パートナーやスタートアップとの連携、海外拠点との一体運営など、柔軟で開かれた組織構造が求められているという共通認識が形成されました。

また、人材戦略はDXやセキュリティ戦略と密接に結び付いており、「人が変わらなければ組織も変わらない」という強いメッセージが繰り返し発せられました。


これら3つのテーマは独立して存在するわけではなく、DX推進はセキュリティと人材戦略の基盤の上に成り立つという構造が明確になりました。

サミットを通じて、多くのCIOが「技術視点」だけでなく「経営視点」からこれらを統合的にマネジメントする必要性を再認識したことが、今年の大きな成果といえるでしょう。

業界別に見るDXの取り組み

CIO Japan Summit 2025に登壇した企業や、その業界の動向を踏まえると、DXは単なるシステム刷新ではなく、業務プロセス・顧客体験・組織構造の根本的変革として進められています。以下では、主要5業界のDX事例と、その背景にある課題や狙いをまとめます。

1. 製造業(荏原製作所、積水化学工業、日本化薬、古野電気 など)

背景・課題

  • グローバル競争の激化とコスト圧力
  • 熟練技術者の高齢化や技能継承の難しさ
  • 品質の安定確保と生産効率の両立

主なDX事例

  • IoTによる設備予知保全 工場設備に多数のセンサーを設置し、稼働状況や温度・振動データをリアルタイムで監視。異常の兆候をAIが検知し、計画的なメンテナンスを実施。
  • AIによる品質検査 高精度カメラと画像認識AIを活用し、人の目では見逃す可能性のある微細な欠陥を検出。検査時間を短縮しつつ不良率を低減。
  • デジタルツインによる生産シミュレーション 現場のラインを仮想空間で再現し、生産計画の事前検証や工程改善を実施。試作回数を削減し、歩留まりを向上。

成果

  • 設備の稼働率向上(ダウンタイム削減)
  • 品質クレーム件数の減少
  • 開発から量産までの期間短縮

2. 建設業(竹中工務店 など)

背景・課題

  • 慢性的な労働力不足
  • 工期短縮とコスト削減の両立
  • 安全管理の高度化

主なDX事例

  • BIM/CIM統合設計 建築・土木プロジェクトで3Dモデルを用い、設計から施工、維持管理まで情報を一元化。設計ミスや工事後の手戻りを大幅削減。
  • ドローン測量 高精度測量用ドローンで現場全体を短時間でスキャン。測量データは即時クラウド共有され、設計部門や発注者ともリアルタイムで連携。
  • 現場管理のクラウド化 タブレット端末で工程・品質・安全情報を入力し、関係者間で即時共有。紙の書類や口頭伝達の削減による業務効率化を実現。

成果

  • 測量作業時間の70%以上短縮
  • 設計変更による追加コスト削減
  • 現場の安全事故発生率低下

3. 流通業(大塚倉庫 など)

背景・課題

  • EC拡大による物流需要の増加
  • 配送の小口化と短納期化
  • 燃料費や人件費の高騰

主なDX事例

  • 倉庫ロボティクス 自動搬送ロボット(AGV/AMR)を導入し、ピッキング作業や搬送作業を自動化。人手不足を補い作業負担を軽減。
  • AI需要予測 過去の出荷データや季節要因、天候、キャンペーン情報などを学習し、在庫配置や配送計画を最適化。
  • 配送ルート最適化 AIがリアルタイム交通情報を基に最適ルートを計算。配送遅延を防ぎ、燃料コストを削減。

成果

  • 在庫回転率の改善
  • ピッキング作業時間の短縮
  • 配送遅延件数の減少

4. 化学業界(花王、日本化薬 など)

背景・課題

  • 原材料価格高騰や環境規制への対応
  • 高度な品質要求と安全基準の順守
  • 研究開発の迅速化

主なDX事例

  • 分子シミュレーションによる新素材開発 AIとスーパーコンピュータを活用し、化合物の性質を事前予測。実験回数を減らし開発期間を短縮。
  • 製造ラインのIoT監視 温度・圧力・流量をリアルタイム監視し、異常時には自動でラインを停止。品質不良や事故を防止。
  • サプライチェーン可視化 原料調達から出荷までの全工程をデジタル化し、トレーサビリティとリスク管理を強化。

成果

  • 新製品の市場投入スピード向上
  • 不良率低下によるコスト削減
  • 調達リスクへの迅速対応

5. 小売業(アルペン、アサヒグループジャパン、日本ケロッグ など)

背景・課題

  • 消費者ニーズの多様化と購買行動のデジタルシフト
  • 実店舗とECの統合戦略の必要性
  • 在庫ロスの削減

主なDX事例

  • 顧客データ統合とパーソナライズ施策 店舗とオンラインの購買履歴、アプリ利用履歴を統合し、個別に最適化したプロモーションを実施。
  • ECと店舗在庫のリアルタイム連携 オンラインで在庫確認し店舗受け取りが可能な仕組みを構築。販売機会損失を防止。
  • 需要予測型自動発注 AIによる売上予測を基に発注量を自動調整し、欠品や過剰在庫を回避。

成果

  • 顧客満足度とリピート率の向上
  • 在庫ロス削減
  • 売上機会損失の防止

これらの事例を見ると、リアルタイム性とデータ活用が全業界共通のDX成功要因であることがわかります。

一方で、製造・化学業界では「工程最適化」、建設業では「現場の可視化」、流通業では「物流効率化」、小売業では「顧客体験の向上」と、それぞれの業界特有の目的とアプローチが存在します。

情報セキュリティのリスクと対策

DX推進の加速に伴い、企業の情報セキュリティリスクはますます複雑化・高度化しています。

CIO Japan Summit 2025でも、セキュリティはDXと同等に経営課題として捉えるべき領域として議論されました。単にIT部門の技術的課題ではなく、企業全体の存続や信頼性に直結するテーマです。

主なセキュリティリスク

  1. 外部からの高度化した攻撃
    • ランサムウェア:重要データを暗号化し、復号と引き換えに金銭を要求。近年は二重・三重脅迫型が増加。
    • ゼロデイ攻撃:未修正の脆弱性を狙い、検知が難しい。
    • サプライチェーン攻撃:取引先や委託先のシステムを経由して侵入。
  2. 内部不正と人的要因
    • 権限の濫用や情報の持ち出し。
    • セキュリティ教育不足によるフィッシング詐欺やマルウェア感染。
    • 人的ミス(誤送信、設定ミスなど)。
  3. 国際情勢に起因するリスク
    • 国家レベルのサイバー攻撃や情報戦。
    • 海外拠点・クラウドサービス利用時の法規制・データ主権問題。
    • 地政学的緊張による標的型攻撃の増加。

CIO視点で求められる対策

サミットで共有された議論では、セキュリティ対策は「技術的防御」「組織的対応」「人的対策」の三位一体で進める必要があるとされました。

  1. 技術的防御
    • ゼロトラストアーキテクチャの導入(「信頼しない」を前提に常時検証)。
    • 多層防御(ファイアウォール、EDR、NDR、暗号化など)。
    • 脆弱性管理と迅速なパッチ適用。
    • ログ監視とリアルタイム分析による早期検知。
  2. 組織的対応
    • インシデント対応計画(IRP)の策定と定期的な演習。
    • サプライチェーン全体のセキュリティ評価と契約管理。
    • リスクマネジメント委員会など、経営層を巻き込んだガバナンス体制。
  3. 人的対策
    • 全社員向けの継続的セキュリティ教育(模擬攻撃演習を含む)。
    • 権限管理の最小化と職務分離の徹底。
    • 内部通報制度や監査体制の強化。

リスクとROIのバランス

登壇者からは、「セキュリティはコストではなく投資」という考え方が重要であると強調されました。

経営層が予算を承認するためには、セキュリティ対策の効果や投資回収(ROI)を可視化する必要があります。

例えば、重大インシデント発生時の損失予測額と、予防のための投資額を比較することで、意思決定がしやすくなります。

総括

情報セキュリティは、DXの進展と比例してリスクも増大する領域です。

CIO Japan Summitでは、「技術」「組織」「人」の全方位から防御力を高めること、そして経営課題としてセキュリティ戦略を位置づけることがCIOの重要な責務であるという共通認識が形成されました。

国内外の事例から見る「経営視点を持ったCIO」像

CIO Japan Summit 2025では、CIOの役割はもはや「IT部門の統括者」にとどまらず、企業全体の経営変革を牽引する戦略リーダーであるべきだという認識が共有されました。国内外の事例を照らし合わせると、経営視点を持ったCIOには次の特徴が求められます。

1. 経営戦略とデジタル戦略の統合

  • 国内事例(CIO Japan Summit) 荏原製作所や竹中工務店などの登壇者は、デジタル施策を単なる業務効率化にとどめず、新規事業やサービスモデル創出に直結させる重要性を強調しました。 例として、製造現場のIoT活用を通じて、製品販売後のメンテナンス契約やデータ提供サービスといった収益源を新たに確立した事例が紹介されました。
  • 海外事例(米国大手小売業) 米TargetのCIOは、ECプラットフォームの拡充と店舗体験の融合を経営戦略の中心に据え、デジタル化を通じて客単価と顧客ロイヤルティを向上。CIOはCEO直下の執行役員として、戦略策定会議に常時参加しています。

2. DX推進とリスクマネジメントの両立

  • 国内事例 NTT西日本や経済産業省の登壇者は、DXのスピードを落とさずにセキュリティを確保するための体制構築を重視。ゼロトラストアーキテクチャの導入や、重要インフラ事業者としてのリスクシナリオ分析を経営層に共有する仕組みを整備しています。
  • 海外事例(欧州製造業) SiemensのCIOは、グローバル拠点を対象にした統合セキュリティポリシーと監査プロセスを確立。DXプロジェクト開始前にリスクアセスメントを必須化し、経営層の承認を経て進行する体制を構築しています。

3. 部門・業界・国境を越えた連携力

  • 国内事例 CIO LoungeやCeFILの議論では、異業種や行政との情報交換が自社だけでは得られない解決策や発想を生み出すことが強調されました。特に地方自治体と製造業のCIOが防災DXで協力するケースなど、社会課題解決型のプロジェクトも増えています。
  • 海外事例(米国テクノロジー企業) MicrosoftのCIOは、業界団体や規制当局と積極的に対話し、AI規制やプライバシー保護のルール形成にも関与。単なる社内のIT戦略立案者ではなく、業界全体の方向性に影響を与える存在となっています。

4. 技術とビジネスの「バイリンガル」能力

  • 国内事例 花王やアサヒグループジャパンのCIOは、マーケティング・サプライチェーン・営業など非IT部門とも共通言語で議論し、IT施策を経営数字に翻訳できる能力が求められると述べています。
  • 海外事例(米金融機関) JPMorgan ChaseのCIOは、AIやクラウドの技術的詳細を理解しつつ、投資判断やROIの説明を取締役会レベルで行います。技術者としての専門性と経営者としての視点を兼ね備えることで、投資家や株主を納得させる役割を果たしています。

5. CIOの位置づけの変化

世界的に見ると、CIOの地位は年々経営の中枢に近づいています。

  • Gartnerの調査では、2023年時点でグローバル企業の63%がCIOをCEO直下に置き、経営戦略決定への関与度が増加しています。
  • CIOは「運用の責任者」から「価値創造の責任者」へとシフトしつつあり、AI、データ、セキュリティを核とした経営パートナーとしての役割が定着し始めています。

総括

経営視点を持ったCIOとは、単にIT部門を率いるだけでなく、

  • 経営戦略に直結したデジタル施策を描く能力
  • DX推進とリスク管理のバランス感覚
  • 組織の枠を越えた連携力
  • 技術と経営の両言語を操る力

を兼ね備えた存在です。

CIO Japan Summitは、こうした新しいCIO像を国内外の事例から学び、互いに磨き合う場として機能しています。

まとめ

CIO Japan Summit 2025は、単なる技術カンファレンスではなく、経営とテクノロジーをつなぐ戦略的対話の場であることが改めて示されました。

製造業・建設業・流通業・化学業界・小売業といった幅広い分野のCIOやITリーダーが一堂に会し、DX推進、情報セキュリティ、そして人材マネジメントといった、企業の競争力と持続的成長に直結するテーマを議論しました。

議論の中で浮き彫りになったのは、DXの推進とセキュリティ確保、そして人材戦略は切り離せないという点です。

DXはリアルタイム性とデータ活用を武器に業務や顧客体験を変革しますが、その裏では複雑化するサイバーリスクへの備えが必須です。さらに、その変革を実行するには、多様な人材を活かす組織文化や部門横断的な連携が欠かせません。

また、国内外の事例を比較することで、これからのCIO像も鮮明になりました。

経営戦略とデジタル戦略を統合し、DX推進とリスク管理のバランスをとり、業界や国境を越えて連携しながら、技術とビジネスの両言語を操る「経営視点を持ったCIO」が求められています。

こうしたCIOは、もはやIT部門の管理者にとどまらず、企業全体の変革を主導する経営パートナーとして機能します。

本サミットを通じて得られた知見は、参加者だけでなく、今後DXやセキュリティ、人材戦略に取り組むすべての組織にとって有益な指針となるでしょう。

変化のスピードが加速し、予測困難な時代において、CIOの意思決定とリーダーシップは企業の成否を左右する──その事実を強く印象付けたのが、今年のCIO Japan Summit 2025でした。

参考文献

アシスト、日本でELTツール「Fivetran」の販売を開始──他の国内パートナー企業との違いとは?

はじめに

2025年7月15日、株式会社アシストは、米Fivetran Inc.が提供するクラウド型ELT(Extract-Load-Transform)ツール「Fivetran」の日本国内販売を正式に開始しました。これにより、従来は一部パートナーを通じて提供されていたFivetranが、より広範な企業へと導入しやすくなり、国産企業のデータ基盤整備のハードルが一段と下がることが期待されます。

Fivetranは、数百を超えるクラウドサービスやデータベースと連携でき、複雑なデータ変換処理を排し、ノーコードで高速・安定したデータパイプラインを構築できるのが特徴です。データの「抽出→格納→変換」というELT方式を採用し、クラウドDWH(Snowflake、BigQuery、Redshiftなど)の能力を最大限に活用する設計がなされています。

今回の発表で特に注目されているのは、アシストが「2025 Fivetran Global Partner Awards」においてAPAC地域の「Rising Star Partner of the Year」に選出されたという点です。これは、同社が持つBIやDWH、データ統合の支援実績が世界的に評価された証でもあり、国内パートナーの中でも一歩リードしたポジションにあることを示しています。

この記事では、Fivetranとはどのような製品なのかを改めて整理しつつ、アシストをはじめとする国内の主な導入支援パートナーの特徴を比較し、導入を検討する際に考慮すべきポイントを紹介していきます。

Fivetranとは?

Fivetran(ファイブトラン)は、米カリフォルニア州オークランドに本社を構えるFivetran Inc.が提供する、フルマネージド型のクラウドELTプラットフォームです。特に、データ統合の「複雑さ」を極限まで削減し、誰でも簡単に、安定したデータパイプラインを構築できることをコンセプトに開発されています。

🔄 ETLとの違い:なぜ“ELT”なのか?

従来のデータ統合は「ETL」(Extract → Transform → Load)という流れで、変換処理をETLツール内で実行する構成が一般的でした。しかし、Fivetranはそれとは異なり、「ELT」(Extract → Load → Transform)を採用しています。これは、データの変換処理をDWH(データウェアハウス)側に任せることで、スケーラビリティとメンテナンス性を向上させ、パフォーマンスの最大化を実現するアプローチです。

🔌 圧倒的な対応コネクタ数とノーコード設定

Fivetranの大きな強みの一つが、700種類以上のコネクタに対応している点です。Salesforce、Google Analytics、Stripe、HubSpot、MySQL、PostgreSQL、MongoDB、さらにはSaaSやオンプレミスDB、ファイルストレージなど、ビジネスで利用されるあらゆるデータソースとの接続が可能です。

また、これらのコネクタはノーコードで接続・設定が可能で、専門的な知識がなくても数クリックで同期設定を完了できます。これにより、これまでデータエンジニアに頼らざるを得なかった業務を、現場のビジネス担当者でも一部担えるようになる点が画期的です。

🔁 自動同期・差分更新・スキーマ変化への追従

Fivetranは、初回同期以降は差分のみを検出して自動で取り込む設計になっており、DWHへの負荷を最小限に抑えながら、常に最新状態のデータを保持することが可能です。さらに、データソース側でのスキーマ変更(列の追加・削除・型変更など)にも自動で追従できるため、保守運用コストが格段に低減されます。

💡 こんな課題を抱える企業に最適

Fivetranは以下のような課題を抱える企業にとって特に有効です:

  • 「データソースが多すぎて手作業で連携するのは非現実的」
  • 「データパイプラインが属人化しており、保守が困難」
  • 「マーケや営業部門が自分たちでデータを活用したい」
  • 「DWHやBIは導入したが、データの整備が追いつかない」

導入によって、データ分析基盤の整備やDX(デジタルトランスフォーメーション)推進を加速する土台が構築されます。

アシストによるFivetran販売の背景

株式会社アシストは、2025年7月15日にFivetran Inc.との正式な代理店契約を締結し、日本国内でのFivetranの提供と導入支援を本格的に開始しました。この発表は、単なる製品販売の開始という枠を超え、日本市場におけるFivetranの本格普及が始まったことを象徴する出来事として注目されています。

アシストはこれまで、企業のBI(ビジネスインテリジェンス)やDWH(データウェアハウス)構築を多数手がけてきた老舗のITサービス企業であり、特に「データをどう活かすか」「データ活用の基盤をどう整えるか」に関して豊富なノウハウを持っています。既存のETL製品やデータ連携基盤を多数扱ってきた経験がある同社にとって、Fivetranはその“次世代ソリューション”として位置づけられています。

さらに、アシストは今回の取り組みに先立ち、社内でのPoC(概念実証)や一部顧客との先行プロジェクトを通じて、Fivetranの国内環境における有効性や適応可能性を丁寧に検証してきました。その結果、以下のような判断に至ったとされています:

  • ノーコードであるため、開発リソースを割かずに導入できる
  • スキーマ追従などの自動化機能が非常に高く、保守工数が激減する
  • クラウドDWHとの連携が優れており、パフォーマンス最適化がしやすい
  • 国内企業の「データ活用の初手」として適している

こうした実績と取り組みが評価され、アシストは「2025 Fivetran Global Partner Awards」にて、APAC(アジア太平洋地域)における“Rising Star Partner of the Year”に選出されました。この賞は、Fivetran本社がグローバルで特に注目した成長パートナーに与えるもので、日本国内企業として唯一の受賞となります。

この受賞は、Fivetranの導入を単なる“製品販売”で終わらせるのではなく、「データ活用の成功」まで導く支援ができるパートナーであることを裏付けています。

アシストは今後、Fivetranを単体で提供するだけでなく、同社の他の製品群(MotionBoard、DataSpider、Snowflakeなど)と組み合わせて、統合的なデータ活用基盤の構築を提案していく方針を打ち出しています。

国内の他パートナー企業

Fivetranは、日本国内では以前から一部の技術パートナーやSaaSインテグレーターを通じて導入されてきました。今回のアシストによる正式販売開始は注目を集めていますが、Fivetranの国内展開はそれ以前から水面下で進んでおり、既に導入実績を持つ企業も存在します。

本セクションでは、代表的な2社──クラスメソッドおよび日立ソリューションズ東日本──に焦点をあて、それぞれの特徴や支援スタイルの違いを紹介します。

🏢 クラスメソッド

クラスメソッドは、AWSや各種クラウドサービスに精通したクラウドネイティブ型のインテグレーターであり、早期からFivetranの導入支援に取り組んできた実績を持つ企業の1つです。

特に注目すべきは、Fivetranを単なるETL/ELTツールとしてではなく、「クラウドDWHと連携した分析基盤の中核」として位置づけている点です。AWSのAmazon RedshiftやGoogle BigQuery、Snowflakeなどと組み合わせたアーキテクチャ提案を数多く行っており、導入から運用、可視化ツール(Looker、Tableauなど)までトータルに支援する体制を整えています。

また、同社は技術ブログの発信力にも定評があり、Fivetranに関する実践的な設定ノウハウやユースケース、料金試算などを日本語で多数公開しています。これにより、ユーザー側でも事前に技術的なイメージを掴みやすいというメリットがあります。

クラスメソッドは、特に次のようなニーズを持つ企業に適しています:

  • 自社でAWSやGCPを活用している
  • クラウド移行とデータ活用を同時に進めたい
  • 内製チームによるデータ分析を加速させたい

🏢 日立ソリューションズ東日本

一方、日立ソリューションズ東日本は、大企業向けシステム構築や業務システム連携に強みを持つSIerです。2023年12月にはFivetran Inc.とのパートナー契約を締結し、日本市場におけるFivetranの展開を早期から支援しています。

同社の特徴は、Fivetranを使ったデータ連携を、ERPや基幹システムと組み合わせて提案している点にあります。SAPやOracleなどのエンタープライズ向けシステムからデータを抽出し、クラウドDWHに連携させる際の障壁を乗り越えるための設計力や、セキュリティ・ガバナンスへの配慮など、大規模企業が求める要件を満たす体制を有しています。

また、PoCから運用保守までを一貫して提供できる体制を持ち、特に「Fivetranを業務にどう組み込むか」に関する提案力が評価されています。

日立ソリューションズ東日本は、以下のようなニーズにマッチします:

  • ERPや業務系システムとクラウドを連携させたい
  • SIerによる一括導入・保守体制を求めている
  • グループ会社全体のデータ統合を進めたい

💡 まとめ:国内パートナーの選び方

このように、Fivetranの国内導入支援を行っているパートナー企業は、それぞれ異なる得意領域と支援スタイルを持っています。以下に簡潔に整理します。

企業名主な特徴対応領域
アシストBI・DWH・ELT連携の一体提案、グローバル賞受賞汎用・中堅〜大企業向け
クラスメソッドAWS/GCP対応、技術ブログ・ドキュメントが充実クラウドネイティブ型、内製推進型
日立ソリューションズ東日本基幹システム連携、大企業向け導入支援ERP/オンプレ連携、堅牢性重視

パートナー選定においては、単に「販売しているかどうか」だけでなく、自社のシステム環境・運用方針・内製志向かどうかといった観点での比較が重要となります。

今後の展望

Fivetranの国内展開は、アシストによる正式販売を契機に新たなフェーズに入ったといえます。従来は、クラウドやデータ基盤に強い一部の企業に限られていたFivetranの導入が、より幅広い業種・企業規模に拡大していくことが期待されます。

その背景には、企業が直面している共通課題があります。それは、「データはあるが、使える状態になっていない」という現実です。複数の業務システム、SaaS、外部サービスに分散したデータを“分析可能な状態”に集約するには、多くのコストと時間がかかります。しかも、その処理は属人化しやすく、メンテナンスの負担も大きくなりがちです。

こうした課題をFivetranは、ノーコード・自動化・高い保守性というアプローチで解決しようとしています。特に以下のようなトレンドと親和性が高く、今後の活用範囲はさらに広がると見られます。

✅ 1. 生成AI・LLMのための「クリーンな学習データ基盤」

多くの企業が生成AIや大規模言語モデル(LLM)を自社活用しようとする中で、最初の壁になるのが「学習・推論に適したデータの整備」です。Fivetranは、社内外のデータをリアルタイムで一元化し、変換ロジックもDWH上で制御可能なため、信頼できる学習データパイプラインを構築するうえで大きな武器になります。

✅ 2. 中堅・中小企業への展開拡大

これまでクラウドDWHやELT基盤は、大企業向けのソリューションという印象が強くありました。しかし、Fivetranは初期導入のハードルが低く、サブスクリプション型でスモールスタートが可能なため、中堅・中小企業にとっても導入現実性の高い選択肢です。

加えて、クラスメソッドのようなインテグレーターが中小規模案件を数多く手がけており、アシストもその層に向けた支援メニューを展開していく可能性があります。

✅ 3. 国産SaaS・業務アプリとの統合強化

Fivetranはもともと海外SaaSとの連携に強みがありますが、日本市場においては、kintone、サイボウズ、弥生、freee、マネーフォワードなどの国産業務サービスとの連携が、今後の大きなテーマになります。こうした領域では、パートナー企業によるコネクタ拡張APIブリッジの開発が進みつつあり、国内特化型のソリューションが生まれる可能性もあります。

✅ 4. ベンダーロックインの回避とマルチクラウド対応

Fivetranはベンダー中立的な立場をとっており、AWS、Azure、GCPなど複数のクラウド環境に対応しています。今後、企業のデータインフラがマルチクラウド/ハイブリッド構成になる中で、柔軟なデータ連携基盤としてFivetranが選ばれる機会はますます増えるでしょう。

また、クラウドからオンプレミス、SaaSからDWH、BIまでを一気通貫でつなぐ「統合データ基盤」を構築する際にも、中心的な役割を担うことが期待されています。

おわりに

Fivetranは、これまで煩雑で属人化しがちだったデータ統合の作業を、“誰でも・簡単に・自動で”行えるようにする革新的なプラットフォームです。ビジネスの現場では、あらゆる部門・サービスから日々大量のデータが生まれていますが、それらをリアルタイムで結び付け、意思決定や改善に役立てるためには、高速かつ信頼性の高いデータパイプラインが必要です。

そうした中、アシストが日本市場においてFivetranの正式な販売を開始した意義は非常に大きいと言えるでしょう。単に製品を届けるだけでなく、長年培ったBI・DWH・ETLのノウハウを活かし、導入から定着まで伴走する体制を整えている点は、他のツールやベンダーとは一線を画しています。

また、クラスメソッドや日立ソリューションズ東日本といった他の先行パートナー企業も、すでに実践的な知見を蓄積しており、Fivetranを軸としたデータ基盤構築は、今後さらに広範な業界・業種で普及していくことが見込まれます。

しかし、Fivetranを導入することがゴールではありません。本当の意味で価値を引き出すには、

  • 統合すべきデータは何か?
  • 誰がどのように活用するのか?
  • どんな指標を見て、どんな判断につなげるのか?

といった「データ活用の目的と文脈」を明確にする必要があります。Fivetranは、その土台をつくるための“最強の裏方”であり、組織のデータドリブン化を支えるインフラです。

これからFivetranの導入を検討する企業にとって重要なのは、ツール選定だけでなく、「誰と組むか」=パートナー選びです。自社の課題や技術力、予算に応じて、最適な支援者を選ぶことが、プロジェクト成功の鍵を握ります。

📚 参考文献

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