WinRE操作不能不具合を修正 ― Windows 11用緊急パッチ「KB5070773」の詳細

はじめに

2025年10月20日、MicrosoftはWindows 11向けに緊急の「Out-of-band(OOB)」更新プログラム「KB5070773」を配信しました。本更新は通常の月例更新とは異なり、特定の重大な不具合を迅速に修正するために提供されたものです。対象となるのは、Windows 11 バージョン24H2および25H2を利用するシステムです。これらの環境では、直前の累積更新プログラム(KB5066835)適用後に、Windows回復環境(WinRE)でマウスやキーボードが反応しなくなる問題が確認されていました。

WinREは、システム障害時に復旧やリセットを行うための重要な機能です。その操作が不能になることは、復旧不能なトラブルへ直結する恐れがあり、企業・個人を問わず深刻な影響を及ぼします。そのため、Microsoftは異例のタイミングでKB5070773をリリースし、問題解消を図りました。

本記事では、この更新プログラムの概要と修正内容、そして適用時に留意すべき点について整理します。運用

KB5070773の概要

KB5070773は、Microsoftが2025年10月20日に配信したWindows 11向けの緊急更新プログラム(Out-of-band Update)です。対象となるのは、最新バージョンである24H2および25H2を利用しているシステムであり、適用後のOSビルド番号はそれぞれ以下のとおりです。

  • バージョン25H2:ビルド 26200.6901
  • バージョン24H2:ビルド 26100.6901

この更新は、10月14日に配信された累積更新プログラム「KB5066835」に起因して発生した不具合を修正するために提供されたものです。KB5066835を適用した一部環境では、Windows回復環境(WinRE)でマウスおよびキーボードが認識されず、操作が一切行えない状況が確認されていました。WinREは、OSが正常に起動しない場合やトラブルシューティングを行う際に利用される重要なシステム領域であり、その機能停止は深刻な問題と位置づけられます。

Microsoftはこの不具合を「高優先度の回復機能障害」と判断し、通常の月例パッチスケジュールを待たずに緊急対応を実施しました。KB5070773の配信はWindows Updateを通じて順次行われており、手動でのインストールもMicrosoft Updateカタログから可能です。特に企業環境や管理対象デバイスでは、復旧手段が制限されるリスクを避けるため、早期の適用が推奨されています。

修正された不具合

KB5070773で修正された主な不具合は、Windows回復環境(Windows Recovery Environment:WinRE)において、マウスおよびキーボードが正しく動作しなくなる問題です。この不具合は、10月の累積更新プログラム「KB5066835」を適用した後に一部の環境で発生し、WinREに入っても入力デバイスが認識されず、画面上の操作が一切行えないという症状が報告されていました。

WinREは、システムが起動不能となった際に「スタートアップ修復」や「システムの復元」「PCのリセット」などを実行するための重要な復旧機能です。そのため、入力が受け付けられない状態では、事実上あらゆる修復操作が不可能になります。特に企業や公共機関など、業務継続性(Business Continuity)を重視する環境においては、復旧プロセスの停止が深刻な影響を及ぼすおそれがありました。

本更新プログラムにより、WinRE内でUSB接続およびPS/2接続のマウス・キーボードが正しく認識されるよう修正されています。Microsoftによると、更新の適用後には従来どおりの操作が可能となり、回復メニュー全体の機能が正常に利用できることが確認されています。これにより、復旧機能の信頼性が回復し、緊急時のトラブル対応を安全に実行できるようになりました。

適用上の注意点

KB5070773は、緊急性の高い不具合修正を目的として配信されていますが、適用にあたってはいくつかの確認事項と注意点があります。まず、対象となるのは Windows 11 バージョン24H2および25H2 です。それ以前のバージョンには配信されませんので、更新を実施する前に「設定」→「システム」→「バージョン情報」でOSバージョンを確認することが重要です。

配信はWindows Update経由で自動的に行われますが、手動での適用も可能です。Windows UpdateでKB5070773が表示されない場合は、Microsoft Updateカタログから直接ダウンロードしてインストールできます。特に業務用PCやオフライン環境では、手動適用を検討する方が確実です。

適用前には、念のため 重要なデータのバックアップを取得 しておくことが推奨されます。今回の修正対象は回復環境(WinRE)であり、万一更新に失敗した場合にはシステム修復が難しくなる可能性があります。また、更新後にはWinREを実際に起動し、マウスやキーボードが正常に動作するかを確認することが望ましいです。

なお、KB5070773は通常の累積更新とは異なり、Out-of-band(臨時配信)で提供される特別な更新です。これにより、将来の月例更新にも同様の修正内容が統合される見込みですが、現時点では本パッチを速やかに適用することが最も確実な対策となります。特に企業や教育機関など複数端末を管理する環境では、配布スケジュールを早期に調整し、全端末への反映状況を確認する体制が求められます。

おわりに

今回のKB5070773は、Windows 11の回復環境に関わる重大な不具合を解消するため、通常の更新サイクルとは別に提供された異例のアップデートでした。WinREの操作不能は、システム障害時の復旧手段を失うことを意味し、一般利用者のみならず、業務システムや企業ネットワークにとっても深刻なリスクとなり得ます。Microsoftが迅速にOut-of-band配信を行ったことは、同社が問題の重要性を高く評価している証拠といえます。

本件は、日常的な更新管理の重要性を改めて示す事例でもあります。定期的なバックアップ取得や更新適用前後の動作確認を怠らないことで、トラブル発生時の影響を最小限に抑えることが可能です。また、複数の端末を運用する組織では、今回のような緊急パッチにも対応できる体制を整備することが求められます。

今後もWindowsの更新には、セキュリティ修正だけでなくシステム安定性に関わる修正が含まれる可能性があります。利用者としては、更新内容を正確に把握し、適切なタイミングで適用を行うことで、安全で信頼性の高い環境を維持することが重要です。

参考文献

Windows 11 バージョン 25H2 一般ユーザーへのロールアウト開始と既知の不具合まとめ

Microsoft は 2025年9月30日、Windows 11 バージョン 25H2 の一般ユーザー向けロールアウトを正式に開始しました。これまで Insider プログラムを通じてテストが行われてきたビルドが、いよいよ一般ユーザーの手元に段階的に届き始めています。

今回の更新は「25H2」という名前から大規模な機能追加を連想するかもしれませんが、実際には 24H2 と同じコードベースを共有しており、根本的な変更は多くありません。むしろ本更新の狙いは、新機能を大量に投入することではなく、安定性の維持とサポート期間のリセットにあります。Windows 11 は年に 1 回の大規模アップデートを経て、利用者が最新の状態を継続的に保てるよう設計されており、25H2 への移行によって再び数年間のサポートが保証される仕組みです。

一方で、一般ユーザーに向けた提供が始まったばかりということもあり、いくつかの不具合や制約が報告されています。これらは主に特殊な利用環境や一部の機能に限定されますが、業務用途や特定アプリケーションを利用するユーザーにとっては無視できない場合もあります。

本記事では、25H2 の配布状況を整理するとともに、Microsoft が公式に認めている既知の不具合や海外メディアで報じられている注意点をまとめ、適用前に知っておくべきポイントを解説します。

25H2 のロールアウト概要

Windows 11 バージョン 25H2 は、2025年9月30日から一般ユーザー向けに段階的に配布が始まりました。今回の展開は、Windows Update を通じたフェーズ方式のロールアウトであり、一度にすべてのユーザーへ配布されるわけではありません。まずは互換性が高いと判定された環境から順次適用され、時間をかけて対象範囲が拡大していきます。そのため、まだ更新通知が届いていないユーザーも数週間から数か月のうちに自動的にアップデートが提供される見込みです。

今回の更新の大きな特徴は、Enablement Package(有効化パッケージ) という仕組みが使われている点です。これは 24H2 と 25H2 が同じコードベースを共有しているため、実際には OS の大規模な置き換えを行わず、あらかじめ埋め込まれている機能を「有効化」するだけでバージョンが切り替わる方式です。このため、適用にかかる時間は通常のセキュリティ更新プログラムに近く、従来のように長時間の再起動や大規模なデータコピーを必要としません。結果として、エンタープライズ環境における互換性リスクも抑えやすいと考えられます。

また、25H2 へ更新することで サポート期間がリセットされる 点は見逃せません。

  • Home/Pro エディション:24か月間のサポート
  • Enterprise/Education エディション:36か月間のサポート

このサポートリセットは、Windows 10 時代から継続されている「年次アップデートごとにサポートを更新する」仕組みの一環であり、企業ユーザーにとっては計画的な運用管理を続ける上で重要です。特に長期利用が前提となる法人や教育機関では、25H2 への移行によってセキュリティ更新を含む公式サポートを再び長期間受けられるようになります。

さらに Microsoft は、24H2 と 25H2 を同一サービス ブランチで管理しており、セキュリティ更新や品質更新は共通のコードベースから提供されます。つまり、25H2 への移行は「大規模アップグレード」というより、安定した環境を継続するための定期メンテナンス に近い位置づけです。

25H2 のロールアウトは新機能追加の華やかさこそ少ないものの、ユーザーにとっては 安全性・安定性を担保するための重要な更新 であり、今後数年間の Windows 11 利用を見据えた確実なステップといえるでしょう。

既知の不具合と注意点

25H2 は安定性を重視した更新ですが、リリース初期にはいくつかの不具合が確認されています。これらは主に特殊な利用環境や特定の操作で発生するため、すべてのユーザーに影響するわけではありません。ただし業務システムや特定のアプリケーションを利用している場合は、事前に把握しておくことが重要です。

1. DRM/HDCP を利用する映像再生の問題

最も注目されている不具合のひとつが、著作権保護された映像コンテンツの再生トラブルです。

  • 症状:Blu-Ray や DVD、あるいはストリーミングサービスなどで再生時に画面が真っ黒になる、フリーズする、映像が出力されないといった問題が報告されています。
  • 原因:Enhanced Video Renderer(EVR)を使用するアプリケーションが、DRM/HDCP と組み合わさることで正常動作しないケースがあるとされています。
  • 影響範囲:映画視聴用の再生ソフト、業務で Blu-Ray を利用する法人環境など。日常的に PC をメディアプレイヤーとして使うユーザーにとっては深刻な制約となり得ます。
  • 回避策:現時点で Microsoft が恒久的な修正を提供しておらず、明確な回避策は示されていません。問題が出た場合は旧バージョンでの利用継続、または代替ソフトの利用を検討する必要があります。

2. WUSA(Windows Update Standalone Installer)の不具合

もう一つの問題は、管理者や企業ユーザーに影響する更新適用の不具合です。

  • 症状:ネットワーク共有フォルダ上に置いた .msu ファイルを直接実行すると「ERROR_BAD_PATHNAME」が発生し、インストールが失敗する。
  • 影響範囲:特に企業ネットワークで一括配布を行う管理者や、オフライン環境で更新を適用するユーザー。一般家庭では遭遇する可能性は低い。
  • 回避策:.msu ファイルをいったんローカル PC にコピーしてから実行することでインストール可能。Microsoft は将来的に修正を行うと発表済み。

3. Windows Defender Firewall のエラーログ

一部環境では、Windows Defender Firewall がエラーログを出力するという報告があります。

  • 内容:内部コードに関連するログが「エラー」として記録されるが、実際のファイアウォール機能には影響はないと Microsoft は説明。
  • 影響範囲:セキュリティログを監視している企業や、管理者が不具合と誤認する可能性がある。一般ユーザーには実害はほとんどない。

4. その他の報道ベースの問題

Wccftech や Neowin などの海外メディアでは、初期段階で「4件の既知の問題」が指摘されていると報じられています。ただし、その中にはすでに Microsoft が公開している項目と重複するものも含まれ、今後の修正状況によって内容は変化する可能性があります。NichePCGamer でも日本語で同様の注意喚起がまとめられており、ユーザーは随時 Microsoft のリリースヘルスページを確認することが推奨されます。


不具合情報への向き合い方

25H2 の既知の不具合は、全体として「特殊な利用ケースに限定されるもの」が多いと言えます。日常的にウェブブラウジングや Office、メールなどを利用するユーザーにとっては、更新を適用しても大きな問題に直面する可能性は低いでしょう。

しかし、

  • 映像再生を業務や趣味で行うユーザー
  • ネットワーク経由で Windows 更新を一括管理する企業環境

では影響が出る可能性があります。そのため、こうした環境ではリリースヘルスページの更新を追い、必要に応じて更新を一時的に保留する判断も検討すべきです。

おわりに

Windows 11 バージョン 25H2 は、表向きは新機能の大規模追加を伴わないアップデートですが、実際には 安定性とサポートリセットを提供する重要な節目 となるリリースです。Microsoft が近年採用している Enablement Package 方式により、24H2 からの移行は比較的スムーズであり、互換性リスクも低く抑えられています。そのため、日常的に Windows を利用する大多数のユーザーにとっては、25H2 への更新は「不可欠なメンテナンス」と言えます。

一方で、既知の不具合として DRM/HDCP を利用した映像再生や WUSA を経由した更新適用の問題が確認されており、特定の環境では不便や制約を被る可能性があります。これらは一般的な利用に直結するものではないものの、Blu-Ray 再生や企業ネットワークでの運用といったニッチなケースにおいては業務に支障を与えかねません。

以上を踏まえると、推奨される対応は次の通りです。

一般ユーザー向け

  • 更新は基本的に適用推奨。25H2 ではサポート期間が再び延長されるため、セキュリティ更新を長期的に受けられる利点は大きい。
  • 不具合は限定的で、日常的な PC 利用(ウェブ、メール、Office、ゲームなど)に重大な影響はほぼない。
  • 更新の適用は自動的に配信されるため、ユーザー側の操作は最小限で済む。

法人・管理者向け

  • 段階的適用を推奨。検証環境や一部の端末で先行適用し、業務アプリや社内システムとの互換性を確認してから全社展開するのが望ましい。
  • DRM 問題や WUSA の制約は、メディア利用やオフライン更新のワークフローに依存する企業で特に影響が出やすいため注意が必要。
  • リリースヘルスページ(Microsoft Release Health)を定期的にチェックし、解決済み/新規の既知問題を随時確認することが必須。

慎重派ユーザー向け

  • 映像再生や特殊な更新手順に依存している場合は、修正が進むまでアップデートを見送る選択肢も現実的。
  • ただし、長期的にはセキュリティリスク回避のため更新は不可欠。更新停止は一時的な対応にとどめ、早期に移行することが推奨される。

総合評価

25H2 は、目新しい機能の追加こそ少ないものの、Windows 11 ユーザーにとって 安定性の確保とサポート延長 という確かな価値を持つ更新です。特定の利用環境で不具合が報告されている点は注意すべきですが、全体的には「安心して適用できる」アップデートに位置付けられます。

今後数か月は段階的に配信が進むため、利用者は自身の環境に通知が届いた段階で適用し、必要に応じて不具合情報をフォローアップしていくのが最適解といえるでしょう。

参考文献

Windows 11 25H2 ― ISO 提供開始とその背景

Microsoft が進める Windows 11 の最新大型アップデート「25H2」は、2025 年下半期に登場予定の重要なリリースです。すでに Windows Insider Program の Release Preview チャネルでは、一般公開に先駆けて ISO イメージファイルが配布され、開発者や IT 管理者、テストユーザーが新しい環境を検証できるようになっています。これにより、クリーンインストールや仮想マシンへの導入、また企業環境における早期テストが現時点で可能となり、安定版の公開を待たずに準備を進めることができます。

Windows 11 は従来の半年ごとの更新から年 1 回の大型更新へと移行しており、25H2 はその最新の成果です。24H2 と同じ「shared servicing branch」をベースにしているため、コードベースは共通で、既に組み込まれている新機能は有効化されていない状態で保持されています。これらは正式リリース時に enablement package (eKB) によって有効化される仕組みであり、ユーザーにとっては小規模な更新でありながら大きな変化を受け取れる設計になっています。こうした仕組みは、アップデート時の負担を減らし、互換性や安定性を重視する企業利用に特に有効です。

本記事では、この Windows 11 25H2 の ISO 提供に焦点をあて、入手方法や特徴、利用する際の注意点、そして今後の展望について解説していきます。

背景

Windows 11 のアップデートサイクルは現在、年1回の大型機能更新(feature update)が主流となっており、2025 年下半期に実施されるほぼ次の更新が 25H2 です。25H2 は「shared servicing branch(共有サービシング ブランチ)」上に構築されており、機能はすでにシステム内に組み込まれているもののデフォルトでは無効化されています。正式リリース時に enablement package (eKB) として、それらの機能を有効にする設計です。この方式により、ユーザーや組織は既存の 24H2 から大きな変更なしにアップデート可能で、互換性と安定性を重視できます。

2025 年 8 月 29 日、Microsoft は Windows Insider Program の Release Preview チャネル向けに Build 26200.5074 を含む 25H2 を配信開始しました。公式発表の際に「ISO は翌週提供予定(next week)」とされていました。 

しかし ISO の提供は当初予定より 1 週間程度遅延しました。公式ブログ投稿にて「ISO 提供は遅れている(delayed and coming soon)」との追記があり、実際に ISO イメージは 2025 年 9 月 10 日(またはその近辺)に公開されました。 

この遅延の理由について、Microsoft は具体的な詳細を公表していません。品質チェックや安定性検証、あるいは翻訳など付随作業の調整が影響した可能性があると報じられています。 

以上の経緯により、ISO の提供開始は “Release Preview チャネル配信から翌週” という当初見込みより少し遅れましたが、「数週間」ではなく 1 週間程度の遅れであったことが事実に近いと考えられます。

ISO ファイルの提供状況

Windows 11 25H2 の ISO ファイルは、Windows Insider Program に参加しているユーザー向けに提供されています。Microsoft はまず 2025 年 8 月 29 日に Release Preview チャネルで Build 26200.5074 を公開し、その際に「ISO は翌週に提供予定」と案内しました。しかし実際には予定より少し遅れ、2025 年 9 月 10 日前後に公式に ISO が公開されました。この遅延について Microsoft は詳細を明らかにしていませんが、公式ブログに「ISO 提供が遅れている」という追記が行われ、品質確認や安定性の検証作業が背景にあったと見られています。

ISO ファイルは Microsoft の公式サイト Windows Insider Preview Downloads から入手可能で、ダウンロードには Microsoft アカウントで Insider Program にサインインする必要があります。提供されるエディションには Windows 11 Home、Pro、Education、Enterprise が含まれており、利用する言語や SKU に応じた選択が可能です。ISO のサイズはおおむね 7GB 前後であり、エディションや言語によって若干の差があります。

この ISO は以下のような用途で利用できます。

  1. クリーンインストール 既存の環境を初期化し、Windows 11 25H2 を新規インストールするために使用可能です。
  2. 仮想マシン環境での検証 Hyper-V や VMware、VirtualBox などに ISO をマウントしてテスト用の環境を構築できます。
  3. OOBE(Out-of-Box Experience)の確認 初期セットアップ画面やアカウント登録、地域・言語設定の動作確認が可能で、企業や開発者が導入テストを行う際に有用です。
  4. 企業環境での早期検証 Windows Update for Business や WSUS での配布に先立ち、ISO を使って新バージョンの導入検証を行うことができます。

注意点として、この ISO はあくまで Insider Preview 用の提供であり、正式リリース版ではありません。そのため、安定性や互換性の面でリスクがあるため、本番環境への導入は推奨されていません。Microsoft も公式ブログで「テスト用途を想定している」と明記しており、開発者や管理者が検証目的で利用することを前提にしています。

25H2 の ISO 提供は計画からやや遅れたものの、リリースプレビュー段階で幅広いテストを可能にし、正式リリースに向けてフィードバックを収集する重要な役割を担っています。

利用時の注意点

Windows 11 25H2 の ISO は、Insider Program 向けに提供されている プレビュー版 であるため、利用にあたってはいくつか注意すべき点があります。以下では、特に重要な観点を整理します。

1. 本番利用は非推奨

25H2 の ISO はまだ正式リリース前の段階であり、安定性や互換性が十分に検証されていません。そのため、企業や個人が業務で使う本番環境に導入するのは推奨されません。想定外の不具合や一部アプリケーションの非互換が発生する可能性があります。あくまでも テスト環境や仮想マシンでの検証用途 に限定すべきです。

2. アップデート方式の特殊性

25H2 は 24H2 と同じコードベースを持ち、enablement package (eKB) によって新機能を有効化する仕組みを採用しています。ISO からクリーンインストールする場合にはすでに 25H2 として導入されますが、24H2 から更新する場合は小規模な eKB 更新として適用されます。テストの際には、この挙動の違いを理解して検証する必要があります。

3. ハードウェア要件

Windows 11 のシステム要件は従来通り厳格に適用されます。特に TPM 2.0、セキュアブート、対応 CPU などの条件を満たさない PC では、インストール自体が拒否されるか、非公式な方法でしか導入できません。古い PC での利用は動作保証外となるため、事前にハードウェア要件を確認しておくことが重要です。

4. 更新チャネルとの関係

ISO は Release Preview チャネルのビルドをベースとしており、導入後はそのまま Insider チャネルの更新を受け取ることになります。今後もプレビュー更新が配信されるため、安定性を重視する場合は Insider の設定を見直す必要があります。検証後に安定版へ戻す場合は、再インストールが必要になる点に注意してください。

5. 言語・エディション選択

Microsoft が提供する ISO には複数のエディション(Home、Pro、Education、Enterprise)が含まれています。ダウンロード時に言語を選択できるものの、選択を誤ると検証環境での要件に合わない場合があります。企業で利用する場合は、実際に運用しているエディションと同じものを選択することが推奨されます。

6. フィードバックの重要性

Insider 向け ISO の大きな目的は、実利用環境での不具合や互換性問題の早期発見です。利用中に問題を確認した場合は、フィードバック Hub を通じて Microsoft に報告することが推奨されています。これにより正式リリース版の品質向上につながります。


25H2 の ISO は「早期検証とフィードバック収集」を目的に提供されているため、利用者は本番利用を避けつつ、テスト環境での互換性確認や動作検証に活用するのが最適といえます。

今後の展望

Windows 11 25H2 の ISO 提供は、正式リリースに向けた準備段階として大きな意味を持ちます。今回の提供スケジュールを見ると、Microsoft は従来以上に 品質保証と互換性確認を重視していることがうかがえます。Release Preview チャネルでの展開から ISO 提供までに一定のタイムラグを設けたことは、テスト結果やフィードバックを反映させるための余地を確保する狙いがあったと考えられます。

今後、25H2 は Insider Program を経て 2025 年末までに一般提供 (GA: General Availability) が予定されています。企業環境では、今回の ISO 提供をきっかけに、既存アプリケーションや業務システムとの互換性検証を進める動きが加速するでしょう。特に eKB による有効化方式が継続されるため、既存の 24H2 環境からの移行コストは小さく、スムーズなアップデートが期待されます。

一方で、正式版リリースに至るまでの過程で、セキュリティ強化や管理機能の改善といった要素がさらに加えられる可能性があります。特に近年の Windows は AI を活用した機能やセキュリティ関連の強化策を段階的に導入しており、25H2 においても Copilot の強化エンタープライズ向けセキュリティ機能の拡充 が注目されます。これらの機能がどのタイミングで有効化されるかは今後の重要な焦点です。

また、企業 IT 部門にとっては、25H2 の安定性や長期サポートの有無が導入計画に直結します。Microsoft は通常、秋の大型アップデートを LTSC(Long-Term Servicing Channel)やサポートポリシーの基準に設定する傾向があるため、25H2 も長期運用を見据えた採用候補となる可能性があります。

Windows 11 25H2 は「大規模な変化を伴わないが確実に進化を積み重ねるリリース」として位置づけられ、今後の正式公開に向けて、安定性・互換性・セキュリティを中心とした完成度の高い仕上がりが期待されます。企業・個人問わず、正式リリース時には比較的安心して移行できるアップデートになると見込まれます。

おわりに

Windows 11 25H2 の ISO 提供は、Microsoft が進める年 1 回の大型アップデート戦略の一環として重要な意味を持っています。今回の提供経緯を振り返ると、まず 2025 年 8 月 29 日に Release Preview チャネルで 25H2 が公開され、その後「翌週に ISO 提供予定」と告知されましたが、実際の提供は約 1 週間遅れ、9 月上旬になってからの公開となりました。このスケジュールの変化は、Microsoft が安定性と品質を優先している姿勢を示すものであり、ユーザーにとっては信頼性の高いリリースが準備されている証といえます。

ISO ファイル自体は、クリーンインストールや仮想マシンでの検証、OOBE のテストなど、さまざまな用途に利用できます。特に企業や IT 管理者にとっては、新バージョンの互換性や導入影響を早期に確認できる点が大きなメリットです。一方で、プレビュー版であるため不具合や非互換のリスクが存在し、本番環境での導入は避けるべきという制約もあります。Insider Program を通じて集められるフィードバックは、正式リリースに向けた最終調整に不可欠であり、ユーザーが品質改善に寄与する重要なプロセスとなっています。

今後、25H2 は enablement package による効率的なアップデート方式を通じて正式提供され、既存の 24H2 環境からスムーズに移行できることが期待されます。安定性とセキュリティの強化に加え、Copilot などの新機能がどのように展開されるかも注目されるポイントです。

総じて、今回の ISO 提供は「次期正式リリースに備えた検証の場」であり、Microsoft の更新戦略を理解するうえでも重要な一歩となりました。利用者は本番環境に適用するのではなく、テスト環境での動作確認や互換性検証に活用し、正式リリースに向けた準備を進めるのが最も賢明な活用方法といえるでしょう。

参考文献

Windows 11 25H2 の新機能と改善点 ― 管理者向け強化とレガシー機能削除に注目

2025年8月29日、Microsoft は Windows Insider Program の Release Preview チャネルにて、Windows 11 バージョン 25H2(ビルド 26200.5074) を公開しました。このリリースは、年次機能アップデートに相当するものであり、最終的には年内に一般提供(GA: General Availability)が予定されています。

今回の 25H2 は従来の大型アップデートと異なり、有効化パッケージ(enablement package / eKB) を通じて提供される点が特徴です。これにより、すでに稼働中の 24H2 と同じサービスブランチを基盤として、システムを大きく入れ替えることなく新機能や変更点を追加することが可能となります。そのため、適用時間の短縮や安定性の確保が期待され、企業利用における導入のハードルを下げる狙いも含まれています。

さらに、今回のプレビュー版は新しい機能を体験する機会であると同時に、管理者や開発者が既存の環境との互換性を確認するための重要な段階でもあります。特に IT 管理者にとっては、プリインストールアプリの削除制御といった管理性向上が注目点となり、今後の本番環境への展開計画に大きく関わることになります。

Release Preview チャネルに展開されたことで、25H2 は「正式リリース直前の完成度を持つバージョン」と位置づけられ、これを通じてユーザーや企業は早期に導入テストを行い、フィードバックを提供することが可能になります。Microsoft の年次アップデート戦略の一環として、25H2 がどのように Windows 11 の進化を加速させるのかが注目されます。

更新形式の概要

Windows 11 バージョン 25H2 の提供形式は、従来の「大型アップデート」方式ではなく、有効化パッケージ(enablement package / eKB) を採用しています。これは、すでに提供されている Windows 11 バージョン 24H2 と同じサービスブランチを共有し、その基盤上で新機能や改良を「有効化」する仕組みです。言い換えれば、25H2 自体は 24H2 と大きく異なる OS ビルドではなく、既存の機能を土台としつつ軽量に機能追加を行う「差分的アップデート」となります。

この方式の最大のメリットは、更新の適用時間が短く済むことです。従来のようにシステム全体を再インストールするのではなく、既存のバージョンに対して特定の機能をオンにすることでアップデートが完了します。そのため、個人ユーザーにとっては短時間で最新バージョンへ移行でき、企業にとっても業務影響を最小限に抑えつつアップデート展開を進められる利点があります。

さらに、eKB の仕組みにより 24H2 と 25H2 は共通のサービス更新を受け取れる という特徴もあります。これにより、セキュリティ修正や安定性改善が 24H2 と同様に配信され続けるため、バージョンを切り替えても更新サイクルが途切れることはありません。管理者にとっては、複数のバージョンを並行管理する必要性が薄れるため、運用負担の軽減にもつながります。

また、この形式は Microsoft が Windows 10 時代から導入してきた「年次アップデートの軽量化戦略」の延長線上にあり、Windows 11 においても OS の進化と安定性を両立させる手段として定着しつつあります。大規模な機能刷新よりも、小規模で安定した進化を優先することで、エンタープライズ環境や教育機関での導入をより容易にする狙いが明確です。

主な新機能・変更点・バグフィックス

1. レガシー機能の削除と管理者向け機能強化

  • PowerShell 2.0 と WMIC(Windows Management Instrumentation コマンドライン)の削除。モダンな管理ツールへの移行が強制されます。
  • Enterprise / Education エディションでは、グループポリシーまたは MDM(CSP)を利用して、プリインストール済みの Microsoft Store アプリを選択的に削除可能となりました。

2. バグ修正と安定性向上

最新の Insider Preview Build では、以下のような具体的な修正が含まれています:

  • 複数モニター環境で、日付や時刻をクリックした際に、誤って主モニター上にフライアウトが表示される問題を修正。
  • アプリを最小化し、仮想デスクトップ間を移動した際に、タスクバーでプレビューサムネイルが重複して表示される問題を修正。
  • Alt + Tab 使用時の explorer.exe のクラッシュを一部 Insider で修正。
  • 「設定 > システム > ディスプレイ」内の HDR 有効化設定がオフになる問題を修正。
  • TV にキャストしたあと、数秒後にオーディオが再生されなくなる問題を修正。
  • 特定のスマートカードドライバーで表示される「エラー 31」を修正。
  • diskusage /? コマンドのヘルプ表示のタイプミスを修正。
  • Quick Settings 経由で PIN を求める際に Enter キーが機能しない問題を修正。
  • タスクマネージャーの「メモリ不足時に中断」設定のツールチップ表示内容を修正。

3. 新機能・ユーザーエクスペリエンスの改善(Insider Preview 経由)

25H2 そのものには大きな新機能が少ないものの、Insider Preview を通じて導入された以下の改善が含まれている可能性があります:

  • タスクバーアイコンのスケーリング機能(見やすさ向上)。
  • クイック・マシン・リカバリー(Quick Machine Recovery:QMR)機能。トラブル時に診断ログをもとに自動復旧を行う。
  • Voice Access にカスタム辞書の単語登録機能を追加。
  • Narrator に「スクリーンカーテン」機能を追加。
  • プライバシー関連のダイアログのデザイン刷新。
  • Quick Settings 内におけるアクセシビリティのテキスト説明表示。
  • エネルギーセーバーの適応型モード(Adaptive Energy Saver)。
  • 共有ウィンドウ(Windows share window)にビジュアルプレビュー機能追加。
  • ダークモードの改善。ファイル操作ダイアログがシステムのダークテーマに正しく追従するようになりました。  
  • パフォーマンス関連改善に向けて、フィードバック Hub 経由で自動パフォーマンスログ収集機能の導入。

配布と導入手順

Windows 11 バージョン 25H2 は、まず Windows Insider Program の Release Preview チャネルを対象に配布が開始されています。Insider Program に参加しているユーザーは、「設定 > Windows Update」から “更新プログラムのチェック” を手動で実行することで、25H2 の更新案内を受け取ることができます。いわゆる “seeker” モードであり、利用者が自ら適用を選択しない限り、自動的に配布されることはありません。そのため、正式公開前に試験的に導入したいユーザーや企業の検証環境での利用に適した配布形態となっています。

適用後は、これまでのバージョンと同様に 月例の累積更新プログラム(セキュリティアップデートや品質改善) が継続的に提供されます。これは 24H2 と 25H2 が同じサービスブランチを共有しているためであり、バージョンをまたいでも統一的な更新サイクルが維持される仕組みです。特に企業環境においては、バージョンごとに異なる更新を管理する負担が軽減される点が利点といえます。

さらに、Microsoft は Azure Marketplace を通じた配布も予定しており、クラウド上の仮想マシンやテスト環境に容易に展開できるようになります。これにより、大規模環境でのテストや教育機関における一括導入がより柔軟になります。

また、Microsoft は公式に ISO イメージの提供を来週に予定していると発表しており、クリーンインストールや大規模展開を検討している管理者にとって重要な選択肢となります。これにより、従来の Windows インストールメディアを用いたセットアップや、評価用仮想環境の構築も容易に行えるようになります。

このように、25H2 は Insider 向けの段階的な提供から始まり、クラウド配布や ISO 形式による展開まで複数の導入方法が整備されており、個人ユーザーから企業・教育機関まで幅広い利用者が環境に応じた方法で試験・導入できるよう設計されています。

今後の展望

Windows 11 バージョン 25H2 は現在 Release Preview チャネルに到達しており、次のステップとして年内の一般提供(GA: General Availability)が予定されています。具体的な公開日程はまだ公式に発表されていませんが、例年の傾向から秋から冬にかけて段階的に配信が始まる可能性が高いと見られます。年次アップデートという性格上、家庭用 PC ユーザーにとってはもちろん、企業や教育機関にとっても導入のタイミングを見極める重要な節目となります。

一方で、今回のリリースでは新機能そのものよりも 既存の不具合がどこまで修正されるか に注目が集まっています。特に話題となっているのが、一部環境で報告されている SSD が認識されなくなる「SSD消失問題」 です。更新適用後にシステムが SSD を検出できなくなるケースがあり、ストレージそのものが消えたように見える重大な事象として注目されています。また、NDI(Network Device Interface)を利用する環境での不安定性も報告されており、映像制作や配信分野での影響が懸念されています。これらの問題が一般提供開始までに解決されるかどうかは、多くのユーザーや管理者にとって重要な判断材料となります。

さらに、正式リリース後に 新たな不具合が発生していないか も大きな関心事です。25H2 は有効化パッケージ方式により比較的軽量なアップデートであるものの、内部的には数多くのコード変更や統合が行われているため、予期せぬ副作用が発生する可能性があります。過去の大型アップデート直後にも、一部周辺機器のドライバー不具合やアプリケーションとの互換性問題が発覚した例があり、今回も初期段階のフィードバックが安定性確認の鍵となるでしょう。

総じて、25H2 の一般提供は Windows 11 の進化を一段階押し上げるものと位置づけられますが、利用者の最大の関心は「新機能の追加」以上に「SSD消失問題やNDI不具合といった既知の問題が修正されているか」「新たなトラブルが発生していないか」にあります。Microsoft が正式リリースまでにこれら懸念点をどこまで解消できるかが、25H2 の評価を左右する大きな分岐点になるといえるでしょう。

おわりに

Windows 11 バージョン 25H2 は、年内に予定されている一般提供に先立ち、Release Preview チャネルを通じて幅広いユーザーが体験できる段階に入りました。今回のアップデートは、有効化パッケージ方式による効率的な配布や、レガシー機能の整理、管理者向けの柔軟なアプリ削除制御といった改良が特徴的です。大規模な機能刷新こそ控えめですが、日常的な操作の安定性や企業利用の利便性を高める取り組みが着実に進んでいます。

同時に、SSD消失問題やNDI環境での不具合といった懸念点が、正式公開までに解決されるかどうかは依然として注目を集めています。一般提供後に新たな不具合が発生しないかどうかも含め、今後数か月は慎重な観察が必要です。

総じて、25H2 は「大きな変化」よりも「着実な進化」を重視したアップデートといえます。利用者や管理者は新機能の活用に加え、安定性や互換性の検証にも注力しながら、正式リリースに備えることが求められるでしょう。Windows 11 が成熟したプラットフォームとして次の段階へ進むうえで、この 25H2 が重要な節目になることは間違いありません。

参考文献

Windows 11 セキュリティ更新「KB5063878」「KB5062660」で報告された SSD 不具合 ― Microsoft と Phison は再現できず

2025年8月に配信された Windows 11 の月例セキュリティ更新プログラム(KB5063878、KB5062660)を適用した一部のユーザーから、SSD が突然認識されなくなる、あるいはドライブが消失するという深刻な不具合が報告されました。特に大容量ファイルを扱う作業や高負荷のワークロードで発生しやすいとされ、ユーザーの間で大きな不安を呼んでいます。

今回の問題が注目を集めたのは、単なる一部環境の不具合報告にとどまらず、テスト結果や動画を含む具体的な検証報告がインターネット上に拡散されたためです。中には、SSD が再起不能になりデータが失われたケースも報告されており、利用者にとっては単なる「一時的な不具合」では済まない深刻さを帯びています。

この件に関しては、SSD コントローラを手掛ける Phison 社の製品で発生しやすいという指摘もありましたが、Microsoft および Phison 双方が大規模な検証を行った結果、現時点では不具合を再現できていないと発表しています。それでもユーザー報告が散発的に続いているため、事象の発生条件や影響範囲は依然として不透明なままです。

本記事では、これまでの経緯と公式発表を整理するとともに、現時点で取り得る対応策、さらに今後の大型アップデート(25H2)適用時に懸念される二次的なリスクについても解説します。

不具合の報告

今回の不具合は、Windows 11 の 2025 年 8 月配信セキュリティ更新(KB5063878、KB5062660)を適用した後、一部のユーザー環境で SSD が突然認識されなくなったり、ドライブ自体が OS から消えてしまうという現象として報告されました。特に 大容量ファイル(50GB 以上)を転送する際や、ドライブ容量の 6 割以上を使用している状況で発生する可能性が高いとされ、利用環境によっては再起動後もドライブが戻らず、データが失われたというケースもありました。

海外のフォーラムやテストユーザーからは、詳細な検証報告が相次ぎました。あるテストでは 21 台の SSD を対象に負荷テストを実施したところ、そのうち 12 台で一時的にドライブが認識されなくなる現象が確認され、さらに Western Digital SA510 2TB モデルでは再起不能となる深刻な障害が発生したと報告されています。こうした事例は、単発的なハードウェア故障ではなく、更新プログラムとの関連性が疑われる根拠となりました。

特に注目されたのは、Phison 製 NAND コントローラを搭載した SSD で不具合が発生しやすいとされた点です。これにより、Phison のコントローラに依存する幅広い SSD 製品に潜在的な影響が及ぶ可能性が指摘され、利用者や業界関係者の間で警戒が高まりました。

一方で、報告事例の中には SSD や HDD の消失が「一時的」であり、再起動後に正常に認識されたケースも含まれていました。このため、事象がすべてハードウェアの物理的故障につながるわけではなく、ソフトウェア的な要因や特定条件下での挙動が関与している可能性も排除できません。

こうした状況から、当初は「セキュリティ更新による SSD の文鎮化」というセンセーショナルな見出しが拡散しましたが、その後の調査で再現性が確認できないことが判明しつつあり、依然として 発生条件や影響範囲が明確でない状態が続いています。

Microsoft と Phison の対応

不具合報告が広がった後、Microsoft は状況を把握し、調査を開始したことを公表しました。ただし同社の社内検証では、ユーザーが報告したような SSD の消失や破損は確認できていないと説明しています。これは、問題が非常に特定の条件下でのみ発生するか、あるいは別要因が絡んでいる可能性を示しています。Microsoft は引き続きユーザーからの情報収集を続けており、現時点では「既知の問題」として公式ドキュメントに掲載する段階には至っていません。

一方、SSD コントローラ大手の Phison も即座に独自の調査を行い、徹底的な再現テストを実施しました。その規模は累計 4,500 時間以上、2,200 回を超えるテストサイクルに及び、負荷の大きいワークロードや大容量ファイル転送など、ユーザーから報告のあった条件を中心に重点的に検証が行われました。しかし、最終的に いずれのテストでも不具合を再現できなかったと結論づけられています。

Phison は加えて、インターネット上で拡散した「内部文書」が偽造である可能性を指摘し、風評被害を避けるために法的措置を検討していると発表しました。この文書は「Phison が不具合を認識しつつ隠蔽している」と受け取られる内容を含んでいましたが、同社はこれを強く否定し、公式に調査結果を公開することで透明性を確保しようとしています。

さらに Phison はユーザー向けの推奨事項として、高負荷時にはヒートシンクやサーマルパッドを用いた冷却対策を行うことを挙げました。これにより SSD の安定性を高め、今回の問題が仮に環境依存の熱要因と関係していた場合の予防策になる可能性があります。

総じて、Microsoft と Phison の両社は「現時点では再現できない」という立場を共有しており、ユーザー報告とのギャップが存在する状態です。両社とも引き続き調査を継続するとしているものの、再現不能である以上、原因特定や恒久的な修正には時間を要する見通しです。

現時点での対処方法

現状、Microsoft と Phison の双方が数千時間規模のテストを行ったにもかかわらず再現に至っていないため、根本的な原因は特定されていません。そのため、ユーザー側が取れる確実な対応は非常に限られています。

まず考えられるのは、問題が発生した場合に該当する更新プログラム(KB5063878、KB5062660)をアンインストールすることです。これは Windows Update の「更新履歴」から削除操作を行うことで対応可能です。ただし、この方法はシステムを既知の脆弱性にさらすことになり、セキュリティリスクが増大するという副作用があります。そのため、無条件にアンインストールするのではなく、実際に不具合が発生している環境に限定して適用するのが現実的です。

また、アンインストール後は Windows Update が自動的に再適用を試みる可能性があるため、更新プログラムの一時停止やグループポリシーによる制御を併用することが推奨されます。特に企業環境や検証中のシステムでは、問題が未解決のまま再適用されることで業務に支障が出るリスクがあるため、運用レベルでの制御が重要となります。

不具合が発生していない環境については、むやみにパッチを削除するのではなく、データバックアップを確実に取ることが最も有効な予防策となります。システムイメージや重要データのバックアップを定期的に取得しておけば、万一の障害発生時でも復旧の可能性を高めることができます。特に SSD が完全に認識されなくなるケースが報告されているため、データ保護の観点では通常以上にバックアップの重要性が増しています。

さらに、Phison が推奨しているように、SSD の冷却対策を強化することもリスク低減につながります。ヒートシンクやサーマルパッドを導入し、長時間の大容量処理時に温度が過度に上昇しないようにしておくことは、環境依存的な発生要因を排除する助けとなります。

まとめると、現時点での有効な対処は以下の通りです。

  1. 不具合が実際に発生した場合のみ当該パッチをアンインストールする。
  2. アンインストール後は自動再適用を防ぐために更新を一時停止する。
  3. 定期的なデータバックアップを徹底し、万一の障害に備える。
  4. SSD の温度管理を強化し、冷却対策を講じる。

今後の懸念 ― 二次災害リスク

今回の不具合については、Microsoft と Phison がともに「再現できない」と結論づけているため、公式に修正プログラムが提供される見通しは現時点では立っていません。しかし、Windows Update の仕組みを考慮すると、問題が完全に解消されないまま将来の累積更新や機能更新に統合される可能性が高く、ユーザーはその影響を受けざるを得ない状況に直面する恐れがあります。特に 2025 年秋に提供が予定されている Windows 11 25H2 では、今回の KB5063878 および KB5062660 が含まれることが想定されるため、以下のような「二次災害」的リスクが懸念されます。

1. 個別アンインストールが不可能になるリスク

累積型アップデートや機能更新に統合された場合、特定の更新プログラムだけを切り離して削除することはできません。つまり、25H2 に含まれる形で提供された場合には、ユーザーが選択的に当該パッチを外すことはできず、問題が残存したままシステムを利用せざるを得ない可能性があります。

2. 機能更新インストール中の障害

もし SSD 消失問題が環境依存的に存在する場合、25H2 のインストール作業そのものがリスクとなります。大容量のファイル書き込みを伴う更新処理中に SSD が認識不能になれば、インストールが失敗しロールバックされる、あるいはシステムが起動不能に陥る危険性があります。この場合、通常の「更新失敗」よりも影響が大きく、システム復旧が困難になる二次被害につながる恐れがあります。

3. 利用継続リスクと業務影響

企業や組織環境では、セキュリティ要件から最新の更新を適用せざるを得ないケースが多く存在します。そのため、仮に問題が未解決でも 25H2 を導入することが半ば強制され、結果として 安定性よりもセキュリティを優先せざるを得ない状況が発生する可能性があります。このジレンマは、業務システムや重要データを扱う環境で深刻なリスクとなり得ます。

4. アップデート拒否による脆弱性曝露

逆に、不具合を恐れて 25H2 の導入を見送る選択をした場合、セキュリティ更新を長期間適用できないことになります。これにより既知の脆弱性に対してシステムが無防備となり、攻撃リスクが増大します。つまり、「適用して壊れるリスク」と「適用しないで攻撃されるリスク」の板挟みになることが予想されます。

まとめ

今回の Windows 11 セキュリティ更新プログラムに関する SSD 不具合は、ユーザーから複数の報告が上がった一方で、Microsoft と Phison のいずれも大規模なテストで再現できなかったという点が特徴的です。つまり、確かに現象は一部環境で確認されているものの、その発生条件が極めて限定的である可能性が高く、広範なユーザーに共通して影響するタイプの不具合とは断定できない状況にあります。

現時点でユーザーが取れる対策は、不具合が発生した場合に該当パッチをアンインストールすることに限定されます。ただし、これはセキュリティリスクを増大させる副作用を伴うため、問題が実際に発生している環境に絞って適用すべき手段です。それ以外の環境では、定期的なバックアップや SSD の冷却対策といった予防策を優先することが現実的です。

一方で、将来的にリリースされる Windows 11 25H2 への統合が見込まれることから、今回の問題は「解決されないまま累積更新に取り込まれる」可能性を否定できません。その場合、ユーザーはパッチを個別に外すことができず、環境によってはインストール中に障害が発生する、あるいはシステムを安定的に利用できなくなるといった二次災害的リスクを負うことになります。逆に更新を避ければ、脆弱性に曝されるリスクが高まるため、利用者は難しい判断を迫られることになります。

総じて、今回の不具合は「再現できない=安全」という単純な構図では片付けられません。むしろ、再現性の低さゆえに原因特定が難しく、発生した場合の影響が非常に大きいという点に注意すべきです。25H2 の適用を控える前後では、システム全体のバックアップを確実に取得し、既知の問題リストや公式の追加情報を確認した上で導入を判断する姿勢が求められます。

参考文献

Windows 11 更新プログラム KB5063878 をめぐる不具合報告と現在の状況

はじめに

2025年8月12日、Microsoft は Windows 11 バージョン 24H2 向けに累積セキュリティ更新プログラム「KB5063878」を配布しました。累積更新は毎月の定例配布(いわゆる「Patch Tuesday」)の一部として提供され、通常であればセキュリティ強化や既知の不具合修正が中心です。そのため多くのユーザーにとっては「入れて当然」の更新に分類されます。

しかし今回の KB5063878 では、更新を適用した一部のユーザーから SSD や HDD が突然認識されなくなる、あるいはファイルシステムが破損する、といった深刻な報告が相次ぎました。特定のコントローラを搭載した SSD に偏って発生しているものの、広くユーザーを巻き込む可能性があり、単なる個別事例では済まされない状況です。さらに、ストレージ障害に加えて OBS や NDI を利用した映像配信に遅延や音声不具合を引き起こすケースも確認され、一般ユーザーだけでなくクリエイターや配信者にも影響が及んでいます。

セキュリティ更新は適用を先送りすれば脆弱性リスクを抱えることになります。一方で、適用すればデータ消失の危険性に直面するという「二重のリスク」に直面しており、システム管理者やエンドユーザーの判断が難しくなっています。Microsoft はすでに調査を開始し、SSDコントローラメーカーである Phison も協力を表明しましたが、現時点での明確な解決策は示されていません。

この記事では、KB5063878 の内容と背景、実際に報告されている不具合の詳細、Microsoft およびメーカーの対応、そしてユーザーが今すぐ実行できる対処法を整理し、今後の見通しを考えます。

KB5063878 の概要

KB5063878 は、2025年8月の定例アップデート(Patch Tuesday)の一環として公開された、Windows 11 バージョン 24H2 向けの累積セキュリティ更新プログラムです。適用後のビルド番号は 26100.4946 となります。

累積更新プログラムは、セキュリティ修正や機能改善、安定性向上をまとめて適用する仕組みであり、過去の修正内容も含んで配布されるのが特徴です。そのため、今回の KB5063878 を適用すると、7月以前の修正も一括して反映され、システムを最新状態に保つことができます。

今回の更新内容として Microsoft が公式に発表しているのは以下のポイントです。

  • サービシングスタックの更新 Windows Update を正しく適用するための基盤部分が修正されています。これにより、将来の更新が失敗しにくくなる効果があります。
  • Microsoft Pluton Cryptographic Provider に関連するログ出力 一部環境で Pluton 暗号化プロバイダが無効化されている場合でも、イベントログにエラーが出力される現象が修正対象となりました。実際の機能には影響がないものの、管理者にとっては誤解を招く挙動でした。
  • WSUS(Windows Server Update Services)経由での更新不具合の修正 WSUS を利用して KB5063878 を配布した際に「0x80240069」というエラーコードが表示される問題がありましたが、この更新で解消されました。
  • OBS や NDI を利用したストリーミング環境における通信処理の改善 特定のネットワークプロトコル(RUDP)利用時に、音声や映像が遅延・不安定になる現象が確認されており、Microsoft は回避策として TCP や UDP の利用を推奨しています。

一見すると、セキュリティや安定性に関わる比較的地味な修正に見えますが、更新を適用した後に予期せぬ副作用として SSD や HDD に障害が発生するケースが相次いでおり、結果として「セキュリティ改善のための更新」が「システムを不安定にするリスク」を招く形となっています。

報告されている不具合

KB5063878 を適用した後、複数の深刻な不具合が報告されています。特にストレージ関連の障害はデータ消失に直結する恐れがあり、また配信や映像共有の分野にも影響が及んでいます。以下では、大きく三つの問題に整理して説明します。

SSD/HDDの消失・データ破損

最も深刻なのはストレージ障害です。

  • 発生状況:50GB以上の大容量ファイルをコピー・移動する、または長時間にわたり高負荷で書き込みを行うといった操作で発生しやすいとされています。ディスク使用率が60%を超える環境ではリスクがさらに高まります。
  • 具体的な症状:ドライブが突然認識されなくなる、ファイルシステムがRAW化してアクセス不能になる、SMART情報が読み取れなくなるといった報告が寄せられています。
  • 復旧可否:再起動によって一時的に復旧する例もあるものの、完全に利用不能となるケースも確認されています。一部製品では再起動後も復旧せず、事実上データを失う事態に至っています。
  • 影響範囲:Phison製コントローラを搭載したSSDで多くの事例が報告されていますが、他のメーカーのSSDやHDDでも同様の現象が発生しており、限定的な問題とは言えません。検証では21台中12台でアクセス不能が再現されたとされています。

この問題は単なる動作不安定ではなく、利用中のデータを失う可能性があるため、一般ユーザーだけでなく業務環境にも大きなリスクをもたらします。

ストリーミング・映像配信の不具合

映像配信やリモート会議で広く利用されている NDI(Network Device Interface) を使用している環境でも不具合が確認されています。

  • 症状:音声や映像が遅延する、同期がずれる、映像が途切れるといった現象が発生しています。ライブ配信やオンライン会議での利用において深刻な支障となります。
  • 原因の推測:NDIが標準で利用する RUDP(Reliable UDP) 通信に起因しているとされ、通信方式を UDP や TCP に切り替えることで改善するケースが報告されています。
  • 影響範囲:NDIを利用したワークフローは放送・配信・映像制作の現場で広く活用されており、影響を受けるユーザー層は限定的ではありません。

セキュリティ更新によって配信の安定性が損なわれるのは予期せぬ事態であり、NDIを利用した環境に依存しているユーザーにとっては大きな課題です。

その他の問題

ストレージやNDI以外にも副作用が報告されています。

  • Windows Updateの失敗:WSUSを利用した更新配布で「0x80240069」というエラーが発生し、更新が正しく適用されないケースが確認されました。現在は修正済みとされています。
  • 更新プログラムのアンインストールが困難:不具合回避のため削除を試みてもアンインストールに失敗する事例があり、更新の一時停止やグループポリシーでの制御が必要となる場合があります。
  • イベントログの誤出力:Microsoft Pluton Cryptographic Provider が無効化されている環境で、実害がないにもかかわらずエラーログが出力される事象があり、管理者の誤解を招きやすくなっています。

このように KB5063878 は、セキュリティ更新でありながら複数の副作用を引き起こしていることが報告されています。特にストレージ障害とNDI関連の不具合は深刻であり、利用者は適用判断に慎重さが求められています。

Microsoftとメーカーの対応

今回の KB5063878 に伴う不具合については、Microsoft とストレージメーカー双方が声明を発表しており、その内容に微妙なニュアンスの違いが見られます。加えて、インターネット上では真偽不明の文書や推測も拡散しており、事実と憶測を区別する必要があります。

Microsoftの対応

Microsoft は不具合報告を公式に認識しており、「パートナーと協力して調査を進めている」と表明しています。ただし、同社が自社環境で検証した結果では 一般的な条件下での再現には至っていない としており、発生条件が限定的である可能性を示唆しています。そのため、Microsoft は現時点で「ストレージの消失・破損を再現した」とは発表していません。実際のところ、影響を受けているユーザー環境からのログ収集や再現テストを続けている段階にとどまっています。

また、ストレージ以外の分野では Microsoft 自身が「既知の不具合」として公式に認めているものもあります。代表例が NDI(Network Device Interface)利用時のストリーミング遅延や音切れ です。これは映像制作や配信分野で広く利用されている技術であり、NDI が標準で用いる RUDP 通信方式に問題があるとみられています。Microsoft は暫定的な回避策として TCP あるいは UDP に切り替えること を案内しており、この点については明確な不具合認識が示されています。

Phisonの対応

SSDコントローラ大手の Phison も独自の声明を発表しました。Phison は「今回の不具合は KB5063878 および KB5062660 の影響によって引き起こされたものであり、業界全体に影響が及ぶ」と表明し、Microsoft と連携して調査を進めているとしています。つまり、問題は 自社製コントローラ固有の不具合ではなく、Windows の更新プログラムとの相互作用によって引き起こされている という立場を強調しています。

一方で、インターネット上には「Phison製コントローラが原因だ」とする文書が出回りました。しかし Phison はこれを公式に 偽造文書(いわゆる怪文書)であると否定 し、法的措置も視野に入れて対応すると発表しています。複数の報道でも、Phison がこの“怪文書”を強く否定したことが伝えられています。

現在の合意点と不明点

ユーザーやメディアによる検証では、特に Phison コントローラ搭載 SSD で報告数が多いものの、他社製コントローラや HDD でも類似の問題が発生していることが確認されており、現時点で「Phison製だけの問題」とは断定できません。ある検証では、21台のストレージのうち12台が高負荷時に認識不能となったとされ、影響が広範に及ぶ可能性が示唆されています。

Microsoft は「広範なユーザー環境での再現性は確認できていない」としつつも調査を継続中、Phison は「OS側の更新が要因」と位置付けて調査を続けており、両者の間に微妙な見解の違いが存在しています。どちらも最終的な結論は出していませんが、少なくとも OS更新プログラムとハードウェア制御の相互作用に起因する可能性が高い という点は共通して認識されているようです。

世間の反応と課題

こうした中で、コミュニティやフォーラムでは「Microsoft が不具合を軽視しているのではないか」「Phison が責任を回避しているのではないか」といった憶測も飛び交っています。さらに「Phison側の内部文書」と称する偽造資料が拡散したことが混乱を拡大させ、ユーザーの不信感を強める要因となりました。

一方で、NDIに関する不具合については Microsoft が公式に認めたため、配信や映像制作に携わるユーザーからは迅速な修正を求める声が上がっています。ストレージ障害に比べて再現性が高く、発生条件も比較的明確なため、こちらは比較的早い段階で修正が期待できると見られます。

まとめ

現時点で明らかなのは、

  1. Microsoft はストレージ消失の再現には至っていないが、ユーザー報告をもとに調査を継続している。
  2. Phison は OS 側の更新に起因する業界的な問題と位置付け、Microsoft と協力している。
  3. 「Phisonが原因」と断定する流出文書は偽造と公式に否定されている。
  4. NDI関連の通信不具合については Microsoft が既知の問題として認め、回避策を案内している。

今後、Microsoft からの追加パッチや詳細な技術説明が公開されることが期待されますが、それまではユーザー側での予防策(バックアップ、更新停止など)が最も有効な対応手段となっています。

ユーザーが取り得る選択肢

今回の KB5063878 による不具合は、環境や利用状況によって発生の有無や影響の度合いが大きく異なります。そのため、すべてのユーザーが一律に同じ行動を取るべきだという結論には至りません。むしろ、自分の利用シーンやリスク許容度に応じて、いくつかの選択肢の中から適切な対応を検討することが現実的です。ここでは主な選択肢を整理します。

1. データバックアップの徹底

最も基本的かつ有効な対応は、重要データのバックアップです。

  • 3-2-1ルール(3つのコピー、2種類の媒体、1つはオフサイト保存)を意識することで、万が一ストレージが認識不能になっても復旧可能性が高まります。
  • クラウドストレージやNASを組み合わせて二重三重の冗長性を確保するのも有効です。

この選択肢は、更新を適用するかどうかにかかわらず取っておく価値があります。

2. 更新を適用し続ける

セキュリティ更新を止めないという選択肢です。

  • OSの脆弱性を放置すれば攻撃リスクが高まるため、セキュリティ重視のユーザーや企業環境では更新を適用し続ける方が望ましいケースもあります。
  • その場合は、大容量書き込みなど発生条件とされる操作をなるべく避け、バックアップ体制を強化してリスクを低減するのが現実的です。

3. 更新をアンインストールする

不具合が顕在化した場合の選択肢です。

  • KB5063878 を削除して以前のビルドに戻すことで、問題が解消する事例が多数報告されています。
  • ただし環境によってはアンインストールが失敗するケースもあり、必ずしも実行可能とは限りません。
  • アンインストールに成功しても、自動更新で再適用されるリスクがあるため、一時停止設定と組み合わせる必要があります。

4. 更新の一時停止・延期

リスクを回避するために更新の適用を一時的に止める選択肢です。

  • Windows Update の設定やグループポリシーを用いることで、更新を数週間から数か月延期することが可能です。
  • その間に Microsoft から修正パッチや追加情報が提供されることを期待し、安全が確認されてから適用する戦略を取れます。
  • 一方で、セキュリティ更新を停止することは脆弱性リスクを抱えることにつながるため、ネットワーク環境や用途を考慮して判断する必要があります。

5. 配信・映像共有でNDIを利用している場合の回避策

NDI利用環境では通信方式の切り替えという選択肢があります。

  • デフォルトで利用される RUDP を避け、TCP や UDP に変更することで遅延や映像乱れを回避できる場合があります。
  • 配信や会議でNDIが必須の場合には、安定性を重視してこの選択肢を検討すべきでしょう。

6. ハードウェア側の監視・検証

発生条件が限定的であることから、自分の環境で再現するかどうかを意識的に検証するという選択肢もあります。

  • 予備のストレージを用いてテストを行う、SMART情報を定期的にモニタリングするなど、監視体制を強化することも一つの対応です。
  • 発生しない環境であれば、リスクを理解したうえで更新を継続するという判断も可能です。

まとめ

KB5063878 に関してユーザーが取り得る行動は、

  • 「適用してセキュリティを優先する」
  • 「アンインストールや延期で安定性を優先する」
  • 「回避策や監視を組み合わせてリスクを軽減する」

といった複数の選択肢に整理できます。どれを選ぶかは、利用環境(個人か企業か、重要データを扱うかどうか)、リスク許容度(セキュリティと安定性のどちらを優先するか)、そして不具合が実際に発生しているかどうかに左右されます。現時点では「これを必ず取るべき」という答えはなく、自分の環境と目的に応じて柔軟に判断することが現実的です。

今後の展望

今回の KB5063878 による不具合は、影響が出ているユーザーと出ていないユーザーが混在しており、発生条件も明確には特定されていません。そのため「自分の環境では問題が起きていないから安全」と短絡的に判断するのは危険です。ストレージ障害のようにデータ消失につながるリスクは一度発生すれば取り返しがつかないため、事象が確認されていないユーザーも含め、今後の情報を継続的に追跡していく必要があります。特に企業環境やクリエイティブ用途のユーザーは、実際の被害が出ていなくても監視体制を敷き、Microsoftやメーカーからの公式アナウンスを注視すべきです。

さらに注目されるのは、Windows 11 の次期大型アップデート 25H2 のリリースが目前に迫っていることです。25H2は2025年秋に提供開始予定とされており、KB5063878で浮き彫りになったような更新プログラム由来の不具合が解消されないまま次期バージョンに移行するのは望ましくありません。Microsoftにとっては、25H2の提供前に今回の問題をどのように収束させるかが大きな課題となります。

想定されるシナリオとしては、

  1. 追加の修正パッチを提供する KB5063878で発生した問題を特定し、9月以降の累積更新で修正を盛り込む。
  2. 回避策やガイドラインを強化する 発生条件をある程度絞り込み、ユーザーが安全に運用できるよう情報提供を進める。
  3. 25H2で根本対応を実施する 不具合を25H2の新しいコードベースで修正・回避し、移行を推奨する形で問題を解決していく。

いずれの方法であっても、今後数か月の対応は Windows 11 の信頼性や利用者の印象に大きく影響します。過去にも Windows Update が原因でデバイスに障害を引き起こした事例はありましたが、今回のようにデータ消失リスクを伴う問題は特にセンシティブであり、迅速かつ透明性のある対応が求められます。

したがって、今回の件については「問題が発生した人」だけでなく「問題が起きていない人」にとっても重要な意味を持ちます。OS更新はすべてのユーザーに広く配布されるため、個別の体験に左右されず、Microsoftやストレージベンダーからの続報を継続的に追跡することが欠かせません。そして25H2の公開が迫る中、この問題をどのように収束させ、次期リリースの品質と信頼性を確保するのかが今後の最大の注目点になるでしょう。

おわりに

KB5063878 は本来、Windows 11 24H2 のセキュリティと安定性を強化するための累積更新プログラムとして提供されました。しかし結果として、一部環境で SSD/HDD の消失やデータ破損、さらに NDI を利用した映像配信の不安定化といった重大な副作用が報告されています。これらは単なる操作上の不具合ではなく、データ損失や業務停止に直結する可能性があるため、慎重な対応が求められます。

Microsoft は不具合の存在を認識し、パートナーと調査を進めていますが、ストレージ障害については「社内環境では再現できていない」としています。一方、Phison は「OS更新が原因で業界横断的な影響が出ている」との立場を示し、共同調査を続けています。また、Phison製コントローラが原因だとする偽造文書が拡散し混乱を招きましたが、同社はこれを強く否定しました。現時点で「どこに責任があるのか」という明確な結論は出ていません。

ユーザー側で取れる行動には、バックアップを徹底したうえで更新を継続する、アンインストールや一時停止で安定性を優先する、回避策や監視を強化するなど複数の選択肢があります。ただし重要なのは、「自分の環境では問題が出ていないから安心」と結論づけるのではなく、発生条件が未解明であることを踏まえて継続的に情報を追跡することです。

ここで留意すべき点がもう一つあります。ネット記事や動画の中には「Windows Updateを止める」「パッチを即座にアンインストールする」ことを第一の対処法として挙げているものが目立ちます。しかし、これは必ずしも正しい対応とは言えません。セキュリティ更新を停止すれば既知の脆弱性に晒されることになり、マルウェア感染や不正アクセスといった別のリスクを背負うことになります。特に企業のPCでは、個人の判断ではなく その企業のセキュリティポリシーや運用ルールに従うことが最優先 です。安定性とセキュリティの双方のバランスを考慮し、自分が置かれている環境に応じた判断が求められます。

さらに視野を広げれば、Windows 11 の次期大型アップデート 25H2 が目前に迫っています。Microsoft が25H2をリリースする前に今回の問題をどのように収束させるかは、利用者からの信頼回復のためにも極めて重要です。今後の修正パッチやガイダンスの内容、25H2での恒久的な改善措置に注目が集まるでしょう。

総じて KB5063878 の問題は、単なる一時的な不具合にとどまらず、Windows Update 全体の信頼性やユーザーのセキュリティ行動に影響を与える事案です。影響を受けた人もそうでない人も、安易に更新を外すかどうかを決めるのではなく、リスクの両面を考え、自身の利用環境や組織の方針を踏まえた上で最適な選択をしていくことが求められます。

参考文献

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