Stay Safe Online ― 2025年サイバーセキュリティ月間と最新動向

2025年10月、世界各国で「サイバーセキュリティ月間(Cybersecurity Awareness Month)」が幕を開けました。今年のテーマは 「Stay Safe Online」。オンラインの安全性はこれまで以上に社会全体の課題となっており、政府機関、企業、教育機関、そして私たち一人ひとりにとって避けて通れないテーマです。

現代の生活は、仕事、学習、買い物、エンターテインメントまで、あらゆる場面がインターネットを介してつながっています。利便性が高まる一方で、個人情報の漏えい、アカウント乗っ取り、マルウェア感染、そして日常的に送られてくるフィッシング詐欺やスキャムの脅威も増加しています。さらにAI技術の進歩により、詐欺メールや偽サイトの見分けが難しくなりつつあることも懸念材料です。

こうした背景のもとで打ち出された「Stay Safe Online」は、単にセキュリティ専門家のためではなく、誰もが取り組めるシンプルな行動習慣を広めることを目的としています。推奨されている「Core 4(コア4)」は、日々の小さな行動改善を通じて、大規模な被害を防ぐための最初のステップとなるものです。

本記事では、この「Stay Safe Online」の意義を踏まえ、具体的にどのような行動が推奨されているのか、最新の認証技術であるパスキーの動向、そして詐欺やスキャムを見抜くための実践的なポイントについて詳しく解説していきます。

Core 4(コア4)の基本行動

サイバーセキュリティ月間で強調されているのが、「Core 4(コア4)」 と呼ばれる4つの基本行動です。これは難解な技術ではなく、誰でも日常生活の中で実践できるシンプルなステップとして設計されています。以下にそれぞれの内容と背景を詳しく見ていきます。

1. 強力でユニークなパスワードを使い、パスワードマネージャを活用する

依然として「123456」「password」といった推測しやすいパスワードが広く使われています。こうした単純なパスワードは数秒で突破される可能性が高く、実際に大規模な情報漏えいの原因となってきました。

また、複数のサービスで同じパスワードを使い回すことも大きなリスクです。一つのサイトで情報が漏れた場合、他のサービスでも芋づる式にアカウントが乗っ取られてしまいます。

その解決策として推奨されているのが パスワードマネージャの活用 です。自分で複雑な文字列を覚える必要はなく、ツールに生成・保存を任せることで、より強固でユニークなパスワードを簡単に運用できます。

2. 多要素認証(MFA)を有効化する

パスワードだけでは不十分であることは周知の事実です。攻撃者はパスワードリスト攻撃やフィッシングによって容易に認証情報を取得することができます。

そこで有効なのが 多要素認証(MFA) です。パスワードに加えて、スマートフォンのアプリ、ハードウェアキー、生体認証など「別の要素」を組み合わせることで、仮にパスワードが漏えいしても不正ログインを防ぐことができます。

特に金融系サービスや業務システムではMFAの導入が標準化しつつあり、個人ユーザーにとっても最低限の防御策として不可欠になっています。

3. 詐欺・スキャムを見抜き、報告する意識を高める

サイバー攻撃の多くは、最新のマルウェアやゼロデイ脆弱性ではなく、「人間の油断」 を突いてきます。たとえば「至急対応してください」といった緊急性を煽るメール、偽装した銀行や配送業者からの通知、SNS経由の怪しいリンクなどです。

これらの詐欺・スキャムを完全に防ぐことは難しいため、まずは「怪しいかもしれない」という感覚を持ち、冷静に確認することが第一歩です。さらに、受け取った詐欺メールやフィッシングサイトを放置せず、組織やサービス提供元に報告することが、被害拡大を防ぐ上で重要な役割を果たします。

サイバーセキュリティ月間では、こうした 「見抜く力」と「報告する文化」 の普及が強調されています。

4. ソフトウェアを常に最新に保つ(アップデート適用)

最後の基本行動は、すべての利用者が簡単に実践できる「アップデート」です。多くの攻撃は、すでに修正パッチが公開されている既知の脆弱性を突いています。つまり、古いソフトウェアやOSを放置することは、自ら攻撃者に扉を開けているのと同じことです。

自動更新機能を有効にする、あるいは定期的に手動で更新を確認することは、サイバー攻撃から身を守る最もシンプルかつ効果的な方法です。特にIoT機器やスマートフォンアプリも更新対象として忘れがちですが、こうしたデバイスも攻撃経路になるため注意が必要です。


この「Core 4」はどれも難しい技術ではなく、誰でもすぐに始められるものばかりです。小さな習慣の積み重ねこそが、大きな攻撃被害を防ぐ最前線になるという点が強調されています。

多要素認証とパスキー ― どちらが有効か?

オンラインサービスにログインする際、かつては「ユーザーIDとパスワード」だけで十分と考えられていました。しかし近年は、パスワード漏えいや不正利用の被害が後を絶たず、「パスワードだけに依存する時代は終わった」 と言われています。そこで導入が進んだのが 多要素認証(MFA: Multi-Factor Authentication) であり、さらに次のステップとして パスキー(Passkeys) という新しい仕組みが登場しています。

多要素認証(MFA)の位置づけ

MFAとは、「知識(パスワードなど)」「所持(スマホや物理キー)」「生体(指紋や顔認証)」 の異なる要素を組み合わせて認証を行う仕組みです。例えば、パスワード入力に加えてスマートフォンに送られるワンタイムコードを入力する、あるいは専用アプリの通知を承認する、といった方法が一般的です。

MFAの強みは、パスワードが漏洩したとしても追加要素がなければ攻撃者がログインできない点にあります。そのため、多くの銀行やクラウドサービスではMFAを必須とし、セキュリティ標準の一部として定着しました。

ただし課題も存在します。SMSコードは「SIMスワップ攻撃」によって奪われる可能性があり、TOTP(認証アプリ)のコードもフィッシングサイトを介した中間者攻撃で盗まれることがあります。また最近では、攻撃者が大量のプッシュ通知を送りつけ、利用者が誤って承認してしまう 「MFA疲労攻撃」 も報告されています。つまり、MFAは有効ではあるものの「万能」ではないのです。

パスキー(Passkeys)の登場

この課題を解決する次世代技術として注目されているのが パスキー(Passkeys) です。これは公開鍵暗号方式を利用した仕組みで、ユーザー端末に秘密鍵を保持し、サービス側には公開鍵のみを登録します。ログイン時には生体認証やPINで端末を解錠し、秘密鍵で署名を返すことで本人確認が行われます。

最大の特徴は、偽サイトでは認証が成立しない という点です。パスキーは「どのWebサイトで利用するものか」を紐づけて管理しているため、攻撃者がそっくりなフィッシングサイトを作っても秘密鍵は反応せず、認証自体が失敗します。これにより従来のMFAが抱えていた「フィッシング耐性の弱さ」を克服できるのです。

さらにユーザー体験の面でも優れています。パスワードのように長い文字列を覚える必要はなく、スマートフォンの指紋認証やPCの顔認証など、直感的でシームレスな操作でログインが完了します。これにより「セキュリティを強化すると利便性が下がる」という従来のジレンマを解消する可能性があります。

実際の導入状況と課題

Apple、Google、Microsoftといった大手はすでにパスキーの標準対応を進めており、多くのWebサービスも導入を開始しています。たとえばiCloud、Gmail、GitHubなどではパスキーが利用可能です。

しかし現時点では、すべてのサービスがパスキーに対応しているわけではなく、「サービスごとに対応状況がバラバラ」 という現実があります。また、パスキーには「端末に限定した保存」と「クラウド経由で同期する保存」という方式があり、利便性とセキュリティのバランスをどう取るかも議論が続いています。クラウド同期は利便性が高い一方で、そのクラウド基盤自体が攻撃対象になりうるリスクを孕んでいます。

結論

現状では、MFAが依然として重要なセキュリティの基盤であることに変わりはありません。しかし、長期的にはパスキーが「パスワード+MFA」を置き換えると予想されており、業界全体がその方向に動いています。

つまり、「今すぐの実践はMFA、将来の主流はパスキー」 というのが現実的な答えです。企業や個人は、自分が利用するサービスの対応状況を確認しつつ、徐々にパスキーへの移行を進めていくのが望ましいでしょう。

詐欺・スキャムを見抜く具体的ポイント

サイバー攻撃は必ずしも高度な技術だけで成立するものではありません。むしろ現実には、人の心理的な隙を突く「社会工学的手口」 が依然として大きな割合を占めています。その代表例が フィッシング詐欺スキャム(scam) です。

スキャムとは、一般に「詐欺行為」や「だまし取る手口」を意味する言葉で、特にインターネット上では「お金や個人情報を不正に得るための不正行為」を指します。具体的には「当選しました」と偽って金銭を送らせる典型的な詐欺メールや、「銀行口座の確認が必要」と装うフィッシングサイトへの誘導などが含まれます。

こうした詐欺やスキャムは日々進化しており、AIによる自然な文章生成や偽装された電話番号・差出人アドレスの利用によって、見抜くのがますます難しくなっています。そこで重要になるのが、日常の中での「違和感に気づく力」です。以下に、代表的な確認ポイントを整理します。

1. URL・ドメインの確認

  • 正規サービスに似せた偽サイトが横行しています。例として paypa1.com(Lではなく1)や amaz0n.co(Oではなく0)といったドメインが用いられることがあります。
  • サイトが HTTPS化されていない、あるいは 証明書の発行元が不審 である場合も注意が必要です。ブラウザの鍵マークを確認し、必ず正規ドメインであることを確かめましょう。

2. メールや通知文の特徴

  • 差出人アドレスが公式とは異なるドメインから送られてくるケースが多く見られます。送信者名は「Amazon」や「銀行」など正規に見せかけていても、実際のメールアドレスは不審なものであることがよくあります。
  • 内容にも特徴があり、「至急対応してください」「アカウントが停止されます」といった 緊急性を強調する表現 が含まれることが典型的です。これはユーザーに冷静な判断をさせず、即座にリンクをクリックさせる心理誘導です。

3. ファイル添付・リンク

  • .exe や .scr など実行形式のファイル、あるいはマクロ付きのOffice文書が添付されている場合は高確率でマルウェアです。
  • 短縮URLやQRコードで偽サイトに誘導するケースも増えています。リンクを展開して実際の遷移先を確認する習慣を持つと安全性が高まります。

4. ログイン要求や個人情報入力

  • 偽サイトはしばしば「パスワードだけ入力させる」など、通常のログイン画面とは異なる挙動を見せます。
  • 本当に必要か疑わしい個人情報(マイナンバー、クレジットカード番号、ワンタイムパスワードなど)を入力させようとする場合は要注意です。正規サービスは通常、メール経由で直接こうした入力を求めることはありません。

5. MFA疲労攻撃(MFA Fatigue Attack)

  • 最近の傾向として、攻撃者が大量のプッシュ通知を送りつけ、利用者に「うるさいから承認してしまえ」と思わせる攻撃が報告されています。
  • 不審な通知が連続して届いた場合は、むやみに承認せず、アカウントに不正アクセスの兆候がないか確認しましょう。

6. ソーシャルエンジニアリング

  • サポートを装った電話や、知人を偽るメッセージで「今すぐ送金が必要」などと迫るケースがあります。
  • 実際に相手の言葉が本当かどうかは、別の公式チャネル(正規サポート番号や別の連絡手段)を用いて確認するのが有効です。

最新の傾向

AI技術の発展により、詐欺メールやスキャムの文章は以前よりも自然で流暢になり、従来の「不自然な日本語で見抜ける」段階を超えつつあります。また、ディープフェイク音声を利用した電話詐欺や、正規のロゴを巧妙に組み込んだ偽サイトなども一般化しています。

したがって「表面的に違和感があるかどうか」だけではなく、差出人のドメイン・リンク先URL・要求される行動の妥当性 といった多角的な視点で判断する必要があります。

まとめ

スキャムは「騙して金銭や情報を奪う不正行為」であり、フィッシング詐欺やマルウェア配布と並んで最も広範に行われています。これらは最先端の技術ではなく、むしろ「人の心理を狙った攻撃」であることが特徴です。

だからこそ、「常に疑って確認する姿勢」を持つことが最大の防御策になります。メールや通知を受け取ったときに一呼吸置いて確認するだけでも、被害を避ける確率は大幅に高まります。

おわりに

2025年のサイバーセキュリティ月間のテーマである 「Stay Safe Online」 は、技術的に難しいことを要求するものではなく、誰もが今日から実践できるシンプルな行動を広めることを目的としています。強力なパスワードの利用、多要素認証やパスキーといった最新の認証技術の導入、日常的に詐欺やスキャムを見抜く意識、そしてソフトウェアを常に最新に保つこと。これらの「Core 4(コア4)」は、どれも単体では小さな行動かもしれませんが、積み重ねることで大きな防御力を生み出します。

特に注目すべきは、認証技術の進化人の心理を狙った攻撃の巧妙化です。MFAは長年にわたり有効な対策として普及してきましたが、フィッシングやMFA疲労攻撃といった新しい攻撃手口に直面しています。その一方で、パスキーは公開鍵暗号方式をベースに、フィッシング耐性と利便性を兼ね備えた仕組みとして期待されています。今後数年の間に、多くのサービスがパスキーを標準化し、パスワードレス認証が当たり前になる未来が現実味を帯びてきています。

一方で、攻撃者もまた進化を続けています。AIによる自然なフィッシングメールの生成、ディープフェイクを用いた音声詐欺、SNSを悪用したなりすましなど、従来の「怪しい表現や誤字脱字に注意する」だけでは通用しない状況が増えています。したがって、「怪しいと感じたら立ち止まる」「正規チャネルで確認する」といった基本動作がますます重要になっているのです。

サイバーセキュリティは、企業や政府だけの問題ではなく、私たち一人ひとりの行動が大きく影響します。家庭でのパソコンやスマートフォンの設定、職場でのセキュリティ教育、学校でのリテラシー向上、こうした日常的な取り組みが社会全体の安全性を高める土台になります。

結論として、「Stay Safe Online」は単なるスローガンではなく、未来に向けた行動の合言葉です。この10月をきっかけに、自分自身や所属組織のセキュリティを見直し、小さな改善から始めてみることが、これからの時代を安全に生き抜くための第一歩になるでしょう。

参考文献

AI時代の詐欺の最前線──見破れない嘘と私たちが取るべき行動

2020年代後半に入り、生成AI技術は目覚ましい進歩を遂げ、便利なツールとして私たちの生活に急速に浸透してきました。しかしその一方で、この技術が悪用されるケースも増加しています。特に深刻なのが、AIを利用した詐欺行為です。この記事では、AIを悪用した詐欺の代表的な手口、なぜこうした詐欺が急増しているのか、そして企業と個人がどう対応すべきかを具体的に解説します。

私たちはこれまで、詐欺といえば「文面の日本語が不自然」「電話の声に違和感がある」など、いわば“違和感”によって真偽を見抜くことができていました。しかしAI詐欺は、そうした人間の直感すらも欺くレベルに達しています。「これは本物に違いない」と感じさせる精度の高さが、かえって判断力を鈍らせるのです。

AIを使った詐欺の主な手口とその実態

AI詐欺の代表的な手法は以下のようなものがあります。

音声ディープフェイク詐欺

AIによって特定の人物の声を模倣し、電話やボイスメッセージで本人になりすます詐欺です。企業の経理担当者などに対し、上司の声で「至急この口座に振り込んでくれ」と指示するケースがあります。海外では、CEOの声を真似た音声通話によって数億円が詐取された事件も報告されています。

映像ディープフェイク詐欺

Zoomなどのビデオ通話ツールで、偽の映像と音声を使って本人になりすます手法です。顔の動きやまばたきもリアルタイムで再現され、画面越しでは見抜けないほど自然です。香港では、企業の財務責任者が役員になりすました映像に騙され、数十億円を送金したという事例があります。

SNSやメッセージアプリでのなりすまし詐欺

有名人の顔や文章を模倣してSNSアカウントを作成し、ファンに対して投資話や寄付を持ちかける詐欺も増えています。また、チャットボットが本人らしい語り口で会話するなど、騙されるハードルが低くなっています。

AI生成レビュー・広告詐欺

AIが生成した偽レビューや商品広告を使って、詐欺的なECサイトに誘導するケースもあります。本物らしい写真や文章で商品を紹介し、偽の購入者の声まで自動生成することで信頼感を演出します。

なぜAI詐欺は増えているのか

AI詐欺が急増している背景には、いくつかの技術的・社会的要因があります。

まず、AIモデルの性能向上があります。たとえば音声合成やテキスト生成は、数分間の録音や数十件の投稿だけで特定の人物を精度高く模倣できるようになりました。また、オープンソースのAIツールやクラウドベースの生成APIが普及し、専門知識がなくても簡単にディープフェイクが作れるようになっています。

さらに、SNSや動画プラットフォームの拡散力も拍車をかけています。人々は「一番乗りで情報をシェアしたい」「注目を集めたい」という承認欲求から、情報の真偽を確かめずに拡散しやすくなっています。この環境下では、AIで作られたコンテンツが本物として瞬く間に信じられてしまいます。

こうした拡散衝動は、ときに善意と正義感から生まれます。「これは詐欺に違いない」と思って注意喚起のために共有した情報が、実は偽情報であったということも珍しくありません。つまり、AI詐欺は人々の承認欲求や正義感すらも利用して拡がっていくのです。

AI詐欺に対抗するための具体的な対策(企業と個人)

企業が取るべき技術的な対策

  1. 二要素認証(2FA)の導入:メール、社内ツール、クラウドサービスには物理キーや認証アプリによる2FAを徹底します。
  2. ドメイン認証(DMARC、SPF、DKIM)の設定:なりすましメールの送信を技術的にブロックするために、メールサーバー側の認証設定を整備します。
  3. AIディープフェイク検出ツールの導入:音声や映像の不正検出を行うAIツールを導入し、重要な会議や通話にはリアルタイム監視を検討します。
  4. 社内情報のAI入力制限:従業員がChatGPTなどに社内情報を入力することを制限し、ポリシーを明確化して漏洩リスクを最小化します。

企業が持つべきマインドセットと運用

  1. 重要な指示には別経路での確認をルール化:上司からの急な指示には、別の通信手段(内線、Slackなど)で裏を取る文化を定着させます。
  2. 「感情に訴える依頼は疑う」意識を徹底:緊急性や秘密厳守を強調された指示は、詐欺の典型です。冷静な判断を求める教育が不可欠です。
  3. 失敗を責めない報告文化の醸成:誤送金やミスの発生時に即報告できるよう、責めない風土を作ることがダメージを最小化します。

個人が取るべき技術的な対策

  1. SNSの公開範囲制限:顔写真や声、行動履歴などが詐欺素材にならないよう、投稿範囲を限定し、プライバシー設定を強化します。
  2. 不審な通話やメッセージへの応答回避:知らない番号からの通話には出ない、個人情報を聞き出す相手とは会話しないようにします。
  3. パスワード管理と2FAの併用:強力なパスワードを生成・管理するためにパスワードマネージャーを活用し、2FAと併用して乗っ取りを防止します。

個人が持つべきマインドセット

  1. 「本人に見えても本人とは限らない」という前提で行動:映像や声がリアルでも、信じ込まずに常に疑いの目を持つことが重要です。
  2. 急かされても一呼吸おく習慣を:詐欺師は焦らせて思考力を奪おうとします。「即決しない」を心がけることが有効です。
  3. 感情を利用した詐欺に注意:怒りや感動を煽るメッセージほど冷静に。心理操作に乗せられないために、客観視する力が必要です。

対策しきれないAI詐欺の代表的な手法

どれだけ技術的・心理的対策を行っても、完全に防ぎきれない詐欺も存在します。特に以下のようなケースはリスクが非常に高いです。

高度な音声ディープフェイクによる“本人のふり”

❌ 防ぎきれない理由:

  • 声の再現が非常にリアルで、本人でも一瞬見分けがつかないケースあり
  • 電話やボイスメッセージでは「表情」「振る舞い」など補足情報が得られず、確認困難
  • 特に“上司”や“親族”を装う緊急性の高い依頼は、心理的に確認プロセスをすっ飛ばされやすい

✅ 限界的に対処する手段:

  • 「合言葉」や「業務プロトコル」で裏取り
  • 電話では即応せず、別経路(SMS/Slack/対面)で“必ず”再確認する訓練

本人になりすました動画会議(映像+音声のdeepfake)

❌ 防ぎきれない理由:

  • Zoomなどのビデオ会議で、「顔」+「声」+「自然な瞬きやジェスチャー」が再現されてしまう
  • リアルタイム生成が可能になっており、事前に見抜くのは極めて困難
  • 画質が悪いと違和感を感じにくく、背景もそれっぽく加工されていれば判断不能

✅ 限界的に対処する手段:

  • あらかじめ「Zoomでの業務命令は無効」などのルールを組織で決めておく
  • 不自然な振る舞い(瞬きがない、目線が合わない、背景がぼやけすぎなど)を訓練で学ぶ

本人の文体を完全に模倣したメール詐欺

❌ 防ぎきれない理由:

  • 社内メールや過去のSNSポストなどからAIが“その人っぽい文体”を再現可能
  • 表現や改行、署名の癖すら真似されるため、違和感で気づくのがほぼ不可能
  • メールドメインも巧妙に類似したもの(typosquatting)を使われると見分け困難

✅ 限界的に対処する手段:

  • DMARC/SPF/DKIMによる厳格なドメイン認証
  • 「重要な指示はSlackまたは電話で再確認」の徹底

ターゲティングされたロマンス詐欺・リクルート詐欺

❌ 防ぎきれない理由:

  • SNSの投稿・所属企業・興味分野などをAIが収集・分析し、極めて自然なアプローチを仕掛ける
  • 会話も自動でパーソナライズされ、違和感が出にくい
  • 数週間~数か月かけて信頼を築くため、「疑う理由がない」状態が生まれる

✅ 限界的に対処する手段:

  • 新しい接触に対しては「オンラインであっても信用しすぎない」というマインドの徹底
  • 少しでも「金銭の話」が出た時点で危険と判断

ファクトチェックの重要性

SNS時代の最大の課題の一つが、事実確認(ファクトチェック)を飛ばして情報を拡散してしまうことです。AIが作った偽情報は、真に迫るがゆえに本物と見分けがつかず、善意の人々がその拡散に加担してしまいます。

特に「これは詐欺だ」「これは本物だ」「感動した」など、強い感情を引き起こす情報ほど慎重に扱うべきです。出典の確認、複数情報源での照合、一次情報の追跡など、地味で時間のかかる作業が、情報災害から身を守る最も有効な手段です。

まとめ

AI技術は私たちの生活を豊かにする一方で、その進化は新たな脅威ももたらします。詐欺行為はAIによってますます巧妙かつ見分けがつきにくくなり、もはや「違和感」で見抜ける時代ではありません。技術的な対策とマインドセットの両輪で、企業も個人もリスクを最小限に抑える努力が求められています。

大切なのは、”本人に見えるから信じる”のではなく、”本人かどうか確認できるか”で判断することです。そして、どんなに急いでいても一呼吸置く冷静さと、出典を確認する習慣が、AI詐欺から自分と周囲を守る鍵となります。

参考文献

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