2025年8月26日、Microsoftは Windows 10 バージョン22H2 向けにプレビュー更新「KB5063842(OS ビルド19045.6282)」を公開しました。本更新はセキュリティ修正を含まない「非セキュリティ更新(プレビュー)」であり、主に表示や入力まわりの不具合修正、企業利用を想定した機能改善などが含まれています。
ただし、プレビュー更新は正式な月例更新に先行して提供される「早期公開版」にあたり、動作検証を兼ねている性格が強いため、安定性を最優先する環境では導入に注意が必要です。どうしても解消したい不具合が含まれている場合や、十分な検証環境を持っている場合を除き、一般利用者や企業の運用環境にすぐ適用することは推奨されません。翌月の定例更新に統合されるのを待つ方が安全です。
加えて、NDIを利用するアプリケーションやAutodesk製品など、一部の環境では既存の互換性問題が解消されていない可能性があります。これらは今後の非セキュリティ更新に含まれないまま残される恐れもあり、2025年10月14日に迫る Windows 10 サポート終了 を見据えると、バグ修正が提供されないまま利用を続けるリスクも想定しなければなりません。ESU(拡張セキュリティ更新プログラム)が対象とするのはセキュリティ更新のみであり、互換性の問題や機能不具合が修正される保証はないのです。
したがって本記事では、KB5063842の内容を整理するとともに、適用判断のポイントや、Windows 10 終了期を迎える利用者・企業が取るべき今後の対応についても考察します。
更新の概要
今回の KB5063842(OS ビルド19045.6282) は、Windows 10 バージョン 22H2 を対象とした 非セキュリティプレビュー更新 です。セキュリティ修正は含まれず、主に不具合修正や機能改善を目的としています。公開形態は「プレビュー(オプション)」であり、自動適用はされず、Windows Update の「オプションの更新プログラム」に手動で表示される形式です。
この更新を適用すると、次回の月例必須更新に先立って改善内容を利用できますが、その反面、テスト段階に近い位置付けで提供されているため、安定性よりも早期の不具合解消を優先したい場合や、検証環境での確認を行いたい場合に限って適用することが推奨されます。通常の利用者や企業環境では、無理に導入せず、翌月の定例更新に統合されてから適用する方が安全です。
対象となるのは以下のエディションです。
- Windows 10 Home
- Windows 10 Pro
- Windows 10 Enterprise
- Windows 10 Education
- Windows 10 Enterprise Multi-Session
- Windows 10 IoT Enterprise
なお、Windows 10 のサポートは 2025年10月14日で終了予定 であり、今回のKB5063842はサポート終了前に提供される数少ない更新のひとつにあたります。そのため、プレビュー更新といえども内容を把握しておくことは、サポート切れまでの残り期間を考慮した移行計画やシステム運用の判断において意味を持ちます。
修正点と改善内容
今回のKB5063842(OS ビルド19045.6282)では、Windows 10 バージョン22H2に対して多岐にわたる不具合修正と機能改善が行われています。セキュリティ修正は含まれませんが、ユーザー体験や企業利用環境に影響する重要な修正が含まれているため、内容を整理します。
表示・入力関連の修正
- 共通コントロールの不具合 一部の補助文字がテキストボックスに正しく表示されない問題を修正。特に国際化環境で入力時の表示欠落が改善されます。
- 簡体字中国語IMEの修正 拡張文字が空白で表示されてしまう不具合を修正。中国語環境での入力精度が向上します。
認証・アクセシビリティ
- Windows Helloの改善 ナレーターが「顔認識強化保護を有効にする」チェックボックスのラベルを誤って読み上げてしまう問題を修正。視覚障害ユーザーにとっての操作性が改善されます。
検索・UI表示
- 検索ペインの不具合 検索ペインでプレビューが正しく表示されない場合がある問題を修正。検索結果の視認性が向上します。
ファミリーセーフティ
- アプリ利用制限の改善 ブロックされたアプリを起動しようとした際に「許可を求める」フローが起動しない問題を修正。保護者が子供のアプリ利用を管理する仕組みが正常に機能します。
周辺機器・マルチメディア
- RDS環境でのWebカメラ修正 Remote Desktop Services (RDS) 環境下で mf.dll によってリダイレクトされたウェブカメラが正しく列挙されない問題を修正。リモート利用時の映像デバイス接続性が改善されます。
- リムーバブルストレージアクセスの修正 グループポリシーで設定された「リムーバブル記憶域へのアクセスを制御する」機能が正しく機能しない不具合を修正。USBメディアの管理ポリシーが期待通りに動作するようになります。
ネットワーク・通信
- COSAプロファイルの更新 モバイル通信プロファイル(国や通信事業者に応じた設定ファイル)が更新され、最新の通信環境に対応。
エンタープライズ向け改善
- Windows 10 キーレス Commercial ESU + Windows 365 環境対応 両者を組み合わせた利用環境で、アウトバウンド通信をブロックできる新しい機能を追加。ゼロトラスト環境でのセキュリティ管理を強化。
- Windows Backup for Organizations 一般提供開始 組織利用向けバックアップ機能がGA(General Availability)となり、デバイスリプレースやWindows 11移行、AI対応PC導入時の事業継続性を支援。企業の移行計画において重要な機能となります。
セキュリティ関連の注意点
- Secure Boot証明書の有効期限設定 多くのWindowsデバイスで利用されるSecure Boot証明書に有効期限が設定され、2026年6月で期限切れとなる予定。証明書更新を怠るとOSが起動不能になる恐れがあるため、事前対応が強く推奨されています。
解消されていない既知の問題
今回のKB5063842は多くの不具合修正や改善を含むものの、すべての問題が解消されたわけではありません。特にユーザーコミュニティや外部の技術情報で指摘されている事例として、NDI(Network Device Interface)関連とAutodesk製品関連の不具合が依然として残されている点が注目されます。
NDI関連の問題
NDIを利用するアプリケーションにおいて、更新後も依然として不具合が発生する可能性があります。具体的には、映像配信やキャプチャ処理の安定性に影響を与えるケースが報告されており、ライブ配信や映像制作を行うユーザーにとっては業務や制作フローに直接支障をきたす恐れがあります。Windows 10の環境をこのような用途で利用している場合、プレビュー更新を適用することで問題が悪化する可能性も排除できず、慎重な検討が必要です。
Autodesk製品との互換性問題
同様に、Autodesk社が提供する一部のアプリケーションでは、更新を適用した環境で起動時のエラーや動作不良が発生することが指摘されています。これらは建築設計や3Dモデリングなど、専門的な業務で広く利用されている製品であり、特に業務環境において深刻な影響を及ぼすリスクがあります。Autodesk側からの正式な修正や回避策が提示されていない状況であるため、利用者は現行の安定した環境を維持するか、検証環境を用意した上で慎重に導入判断を下す必要があります。
今後の修正見通しについて
これらの問題はKB5063842(OS ビルド19045.6282)には含まれておらず、今後のプレビュー更新や定例更新でも修正が取り込まれるかどうかは不透明です。加えて、2025年10月14日に予定されているWindows 10のサポート終了後は、ESU(拡張セキュリティ更新プログラム)の対象となりますが、ESUが提供するのはあくまで「セキュリティ更新」に限定されます。つまり、今回のようなアプリケーション互換性や機能面での不具合修正が含まれる保証はなく、NDIやAutodesk製品との互換性問題が未解決のまま残される可能性も否定できません。
このため、NDIやAutodeskといった特定の環境依存度が高いソフトウェアを利用している場合は、今後の更新を追跡しつつ、最悪の場合は 不具合が残存したままサポート終了を迎える可能性がある ことを前提に、業務フローの見直しやOS移行計画を検討しておく必要があります。
Windows 10 サポート終了と今後の対応
Microsoftはすでに発表しているとおり、Windows 10 の延長サポートは2025年10月14日で終了します。この日を境に、一般ユーザー向けのセキュリティ更新や不具合修正は一切提供されなくなり、脆弱性への対応やシステムの安定性は利用者自身に委ねられることになります。今回の KB5063842 も、終了に向けた「最後期の更新群」の一部にあたります。
サポート終了後に Windows 10 を使い続ける場合、法人ユーザーであれば ESU(拡張セキュリティ更新プログラム) を契約することで最長3年間のセキュリティ更新を受け取ることが可能です。ただし、この ESU が提供するのはあくまで「セキュリティ更新」のみであり、アプリケーション互換性や機能改善、NDIやAutodeskに代表される不具合修正などが対象になる保証はありません。そのため、業務アプリや周辺機器に依存した環境では、未解消の問題がそのまま残り続けるリスクを理解しておく必要があります。
個人ユーザーの場合は ESU の対象外であり、サポート終了後に Windows 10 を使い続けることは、セキュリティ上のリスクを抱えながら利用を続けることを意味します。特にオンラインバンキングや重要な業務データのやり取りを行う環境では、継続利用は推奨できません。
したがって、利用者が今後取るべき対応は大きく分けて以下の3つです。
- Windows 11 への移行 ハードウェア要件を満たしている場合は、Windows 11 へのアップグレードを検討するのが最も安全かつ確実な選択肢です。特に企業環境では、Windows 11 専用の管理機能やセキュリティ機能を活用できるメリットも大きいといえます。
- ハードウェア刷新を伴う移行 Windows 11 の要件を満たさないPCを利用している場合は、ハードウェア更新を含めた移行計画を立てる必要があります。近年では「AI PC」として新しい利用形態が想定されており、今後のソフトウェアやサービス連携を見据えると新世代デバイスへの移行は合理的です。
- 業務継続のための回避策 一部の業務システムでどうしても Windows 10 環境を残さざるを得ない場合、ESUの活用や仮想環境での隔離運用など、リスクを限定した形での利用が現実的な対策となります。ただし、これも暫定的な措置にすぎず、長期的には移行を避けられません。
総じて、Windows 10 のサポート終了は単なるOSの節目ではなく、ユーザーや企業に対して「移行計画を先送りしないこと」が求められる大きな転換点です。特に今回の KB5063842 のような非セキュリティ更新においても、解消されない不具合が残存する可能性がある以上、サポート終了を待つのではなく、早期にWindows 11や次世代環境へ移行する準備を始めることが現実的な対応策といえるでしょう。
おわりに
今回の KB5063842(OS ビルド19045.6282) は、Windows 10 バージョン22H2向けに公開された非セキュリティのプレビュー更新です。テキスト表示やIME、Windows Hello、検索ペイン、ファミリーセーフティなど、日常利用に直結する機能の不具合修正が含まれており、さらに企業向けには Windows Backup for Organizations の一般提供や、ゼロトラスト環境を意識したライセンス・通信制御の改善なども導入されています。サポート終了を控えたタイミングで、Microsoftが安定性と移行支援を両立させようとしている姿勢が見て取れます。
ただし、本更新はあくまで「プレビュー」であり、適用には慎重さが求められます。どうしても修正したい不具合がある場合や検証環境を持っている場合を除き、一般利用者や業務環境では翌月の月例更新に統合されるのを待つ方が安全です。特に、NDIやAutodesk製品との互換性問題のように今回の更新では解消されない既知の問題も残されており、これらは今後の非セキュリティ更新に含まれないままサポート終了を迎える可能性もあります。ESU(拡張セキュリティ更新プログラム)が提供するのはあくまでセキュリティ修正に限られるため、こうした互換性の不具合が修正対象となる保証はなく、利用者は「修正されないまま残るリスク」を前提に対策を講じる必要があります。
さらに大きな視点では、Windows 10 のサポート終了が 2025年10月14日 に迫っていることを忘れてはなりません。今後の更新は限られており、不具合修正の機会も少なくなっています。今回のKB5063842を含む一連の更新は「終盤戦」の位置づけであり、利用者や企業にとってはWindows 11や新しいデバイスへの移行計画を前倒しで検討する契機と捉えるべきでしょう。
総じて、本更新は日常的な不具合解消と企業利用支援の両面で価値を持ちますが、導入の判断は慎重であるべきです。そして、このアップデートを単なる「不具合修正のひとつ」として消費するのではなく、Windows 10 のサポート終了後を見据えた移行戦略を本格的に始めるためのシグナルと位置付けることが重要です。
参考文献
- Microsoft サポート
https://support.microsoft.com/ja-jp/topic/2025-%E5%B9%B4-8-%E6%9C%88-26-%E6%97%A5-kb5063842-os-%E3%83%93%E3%83%AB%E3%83%89-19045-6282-%E3%83%97%E3%83%AC%E3%83%93%E3%83%A5%E3%83%BC-0ee815c6-a742-4cae-b669-6978e0bfd425 - Neowin: Windows 10 gets one of its final non-security updates under KB5063842
https://www.neowin.net/news/windows-10-gets-one-of-its-final-non-security-updates-under-kb5063842/ - Softantenna Blog: Windows 10 Version 22H2 向け更新プログラム KB5063842 プレビューリリース
https://softantenna.com/blog/kb5063842-preview/ - PC Watch: Windows 10向け更新プログラム「KB5063842」がプレビューリリース
https://pc.watch.impress.co.jp/docs/news/1640225.html - Windows Update情報サイト: Windows 10 更新プログラム KB5063842 詳細(2025年8月26日公開)
https://www.nichepcgamer.com/archives/windows10-windows-update-preview-2025-8-kb5063842.html