2025年10月14日をもって、長年多くのユーザーに利用されてきた Windows 10 の通常サポートが終了します。Windows 10 は 2015 年の登場以来、企業・教育機関・個人ユーザーに広く普及し、約10年にわたり主要なプラットフォームとして利用されてきました。しかし、Microsoft のライフサイクルポリシーに従い、ついに無料でのセキュリティ更新や機能追加は提供されなくなります。これにより、10月15日以降に Windows 10 を利用し続ける場合、未対応の脆弱性が放置されるリスクが生じ、セキュリティ上の危険が増大することになります。
こうした状況を踏まえ、Microsoft は「Extended Security Updates(ESU:延長セキュリティ更新プログラム)」を提供し、法人・個人それぞれに一定期間の猶予を設けています。法人は最長 2028 年までの 3 年間、個人は 2026 年 10 月までの 1 年間、セキュリティ更新を継続的に受けられる仕組みです。ただし ESU はセキュリティ更新に限定され、バグ修正や新機能追加は対象外であり、移行準備のための時間稼ぎに過ぎません。
さらに、Microsoft 以外にも補完的な選択肢が存在します。代表例として、サードパーティが独自に提供する非公式パッチサービス「0patch」、特殊用途向けに長期サポートが提供される「Windows 10 LTSC」、そして国内外の IT ベンダーが提供する運用支援型の保守サービスなどがあります。ただし、これらは適用範囲や信頼性に制約があり、公式の ESU に比べて限界がある点を理解する必要があります。
本記事では、ESU の基本的な仕組みを解説し、法人と個人のサポート内容の違いや、個人向けプログラムのロールアウト状況を整理します。加えて、未解決の既知の問題や、Microsoft 以外の補完サービスを踏まえた上で、今後の展望についても考察します。
ESUとは
ESU(Extended Security Updates、日本語では「延長セキュリティ更新プログラム」と表記されます)は、Windows 10 の通常サポート終了後も一定期間にわたってセキュリティ更新を継続的に受けられる仕組みです。これは、OSの利用を継続したいがすぐに最新の Windows 11 へ移行できない企業や個人に向けて用意されたプログラムです。対象となる更新はあくまでもセキュリティ関連に限定され、バグ修正や新機能追加、ユーザーサポートといった要素は含まれません。つまり、セキュリティ脆弱性から最低限の保護を受けつつ移行準備の時間を確保するための“猶予措置”です。
ESU は法人と個人で提供内容や期間が異なります。法人の場合は最大3年間延長が可能で、個人の場合は1年間のみとなります。また、費用や適用条件にも違いがあり、個人向けには Microsoft アカウント連携や OneDrive バックアップなどの条件を満たすことで無償で利用できる制度が整えられています。一方で法人向けはボリュームライセンスを前提とした有償モデルとなり、年ごとに費用が増加する仕組みです。
提供期間は以下の通りです:
- 開始:2025年10月15日
- 終了:2026年10月13日(個人向け)、2028年10月(法人向け最大3年延長)
法人向けサポート内容
- 提供期間:最長 3 年(2028 年 10 月まで)。サポート終了から 1 年ごとに契約を更新し、最大 3 回まで延長可能です。
- 費用体系:初年度は 1 台あたり約 61 ドル、2 年目は 122 ドル、3 年目は 244 ドルと年々増加する仕組みになっています。長期利用にはコスト増が伴います。
- 割引制度:Microsoft Intune などクラウドベースの管理サービスを利用する法人は 25% の割引が適用可能です。大規模導入時のコスト負担を軽減するための制度です。
- 対象組織:ボリュームライセンス契約を結んでいる法人および教育機関。一般的な個人ライセンス契約では利用できません。
- 提供内容:セキュリティ更新のみ。機能追加、バグ修正、ユーザーサポートは含まれません。
法人にとって ESU は短期的なリスク回避策として有効であり、既存システムの安定稼働を維持できます。しかし長期的には Windows 11 など次世代環境への移行を計画的に進めることが必須となります。
個人向けサポート内容
- 提供期間:1 年間(2026 年 10 月 13 日まで)。法人と異なり延長は 1 回のみです。
- 費用体系:通常は 1 台あたり 30 ドル/年。ただし、以下の条件を満たす場合は無料で利用できます。
- OneDrive を用いたバックアップ設定を有効化する
- Microsoft Rewards 1,000 ポイントと交換する
- 利用条件:Microsoft アカウントへのリンクが必須。ローカルアカウント環境では ESU を購入しても利用できません。
- 台数制限:1 契約につき最大 10 台まで適用可能。家庭内の複数 PC をまとめてカバーできます。
- 提供内容:法人向けと同じくセキュリティ更新のみ。機能強化やバグ修正は含まれません。
個人ユーザーにとっては、実質的に無償で 1 年間延長できる仕組みが整っており、幅広い利用者が恩恵を受けられると考えられます。ただし、この 1 年間を過ぎれば強制的に移行が必要になるため、早期に Windows 11 へのアップグレードを検討することが推奨されます。
個人向けのロールアウト状況
個人向け ESU の提供は、2025 年 7 月に Windows Insider 向けに先行展開が開始されました。その後、8 月中旬から一般ユーザーにも段階的に展開されており、対象ユーザーの環境に順次反映されています。段階的ロールアウト方式のため、すべての端末に一斉に反映されるわけではなく、ユーザーによっては「Enroll now」リンクがすぐに表示されないケースも報告されています。
登録方法はシンプルで、設定アプリの「更新とセキュリティ」→「Windows Update」画面に新たに表示される「Enroll now」リンクから手続きを進める流れになります。リンクをクリックすると、Microsoft アカウントとの連携確認や利用条件の提示が行われ、条件を満たしていれば有償または無償で ESU が適用されます。ローカルアカウントで利用している場合はこのリンクが表示されず、事前に Microsoft アカウントに切り替える必要があります。
一部のユーザーからは登録ウィザードがクラッシュする不具合や、更新プログラムの適用が遅れてリンクが表示されない事例も報告されています。ただし、Microsoft はこれらの問題に対応する修正版をすでに提供しており、今後数週間で全対象ユーザーに展開される見込みです。サポート終了である 10 月 14 日までには、原則として全ての Windows 10 22H2 環境で ESU への登録が可能になるとされています。
Windows 10 の未解決の既知の問題と対応状況
2025 年 8 月現在、Windows 10 にはいくつかの不具合が報告されていますが、その中でも修正版がまだ提供されていない、あるいは公式の対応が明確に示されていないものについて整理します。これらは ESU の提供開始後も残存する可能性があるため、利用者にとっては注意が必要です。
- NDI ストリーミング性能低下(RUDP 使用時)
- OBS や NDI Tools を利用する際、デフォルトの RUDP モードで顕著な遅延やカクつきが発生します。特に動画配信やライブストリーミングに影響が大きく、利用環境によっては業務や配信活動に支障をきたす恐れがあります。
- 現状の対処:公式の修正はまだ提供されていません。Microsoft は問題を認識しているものの、具体的な修正版リリース時期は示されていません。ユーザー側の回避策として、通信方式を TCP または標準 UDP に切り替える方法が推奨されています。ただし、これによっても環境によっては完全に問題を解消できない場合があります。
- Game Bar クラッシュ(Ryzen 3D V-Cache CPU 環境)
- 高性能な AMD Ryzen 7000 シリーズなど、3D V-Cache 技術を搭載した CPU を利用している環境で、Windows 10 の Game Bar を開くとクラッシュする事例が報告されています。この問題は主にゲーム最適化機能を使用する際に発生し、パフォーマンス管理や録画機能が利用できなくなるため、ゲーマーやクリエイターにとっては深刻な制約となります。
- 現状の対処:Microsoft からの公式修正は提供されていません。回避策も限られており、ユーザーは Game Bar を無効化したりサードパーティ製ツールに頼る必要があるのが実情です。今後の修正計画についても明示されておらず、ESU の提供開始以降も未解決のまま残る可能性が高いと考えられます。
他社によるサポートサービス
これらの不具合は、Windows 10 のサポート終了を目前に控えていることもあり、Microsoft が修正に十分なリソースを割かない可能性があります。そのため、ユーザーは一時的な回避策を活用しつつ、長期的には Windows 11 などの新しい環境に移行することが最も現実的な解決策となります。
Windows 10 のサポート終了に伴い、Microsoft 以外の企業や団体からも補完的なサービスが提供されています。代表的なものは以下の通りです。
- 0patch:サードパーティが提供する非公式パッチサービス。重大な脆弱性に対して小規模のマイクロパッチを配布し、Windows 10 のサポート終了後も最低限の保護を提供することを目的としています。ただし非公式であるため、適用範囲や信頼性には注意が必要です。
- Windows 10 LTSC(Long-Term Servicing Channel):Microsoft が業務用システム向けに提供する特殊エディションで、2032 年までの長期サポートが保証されています。ただし対象は金融、医療、組込みシステムなど特殊環境であり、一般ユーザーには利用できません。
- IT ベンダーによる保守サービス:国内外の IT サポート企業が、運用支援やバックアップ、セキュリティ対策などを含む総合的な保守サービスを提供する場合があります。ただし、Windows 10 のセキュリティ更新を独自に配布するわけではなく、あくまで運用支援の範囲に留まります。
- その他のサービスや噂:一部では少額のサブスクリプション型で更新を提供するという話も出ていますが、現時点で信頼性の高い企業による実例は確認されていません。
これらはあくまで補完的な選択肢であり、公式の ESU に比べると制約が多く、利用にあたっては十分な検討とリスク評価が必要です。
今後の展望
- 法人:ESU により 2028 年まで最大 3 年間の猶予を得られますが、この期間は「安全に移行を進めるための準備期間」と捉えるべきです。多くの企業は業務システムや周辺機器との互換性のためにすぐには Windows 11 へ移行できない現実があります。ESU を利用することで移行計画を段階的に実行できますが、年ごとに費用が倍増する仕組みのため、長期利用はコスト負担が大きくなります。また、セキュリティ更新のみで機能改善は行われないため、最新環境とのギャップは年々広がっていく点に注意が必要です。
- 個人:個人ユーザーに提供される延長は 1 年間のみであり、2026 年 10 月以降は強制的に移行が迫られる状況になります。無償で利用できる条件が整っているため普及は広がると見込まれますが、それはあくまで短期的な安全策です。古いハードウェアを使い続けたい層や、Windows 11 の新仕様に適応できないユーザーにとっては、2026 年を最後の分岐点として代替 OS や新しいデバイスへの投資を検討せざるを得なくなります。
- 既知の問題:NDI のパフォーマンス低下や Ryzen 環境での Game Bar クラッシュといった未解決の不具合は、ESU 期間中も修正されないまま残る可能性が高いです。Microsoft の開発リソースは既に Windows 11 以降に集中しているため、Windows 10 の改善には大きな期待を持つべきではありません。したがって、こうした制約を抱えたまま使い続けることのリスクを十分に理解しておく必要があります。
- 総合的な見通し:ESU は猶予措置にすぎず、長期的に Windows 10 を使い続ける選択肢は現実的ではありません。法人も個人も、セキュリティを確保しつつ移行コストを抑えるために、ESU 期間を計画的な移行準備に活用することが不可欠です。特に企業では、システム全体のライフサイクル管理や業務アプリケーションの互換性検証を進め、個人ではハードウェアの更新や Windows 11 へのアップグレードを見据えた意思決定を早期に行う必要があります。
おわりに
Windows 10 は 2025 年 10 月 14 日で通常サポートを終了し、以降はセキュリティ更新が自動的に提供されなくなります。しかし、公式の ESU(延長セキュリティ更新プログラム)を活用することで、法人・個人ともに一定期間は最低限の保護を受け続けることが可能です。法人は最長 2028 年までの 3 年間、個人は 2026 年 10 月までの 1 年間の延長が認められます。特に個人向けは OneDrive バックアップや Microsoft Rewards を利用することで実質無償で利用できる仕組みがあり、広いユーザー層が活用できる制度になっています。
一方で、ESU が提供するのはセキュリティ更新に限られ、機能改善や一般的な不具合修正は含まれません。NDI のパフォーマンス低下や Ryzen 環境での Game Bar クラッシュといった未解決の問題は、ESU 期間中も残存する可能性が高いです。また、Microsoft 以外にも 0patch のような非公式パッチサービスや、業務用途向けの Windows 10 LTSC、さらには IT ベンダーによる保守サービスといった代替的なサポート手段も存在します。しかし、それらは制約が多く、公式 ESU に比べ信頼性や適用範囲で劣ることを認識しておく必要があります。
総合的に見て、ESU や他社サービスはあくまで移行準備のための「延命策」に過ぎません。法人はこの期間を活用してシステム全体の移行計画を整え、個人ユーザーもハードウェア更新や OS アップグレードの準備を進めることが不可欠です。Windows 10 を長期的に使い続ける選択肢は現実的ではなく、最終的な解決策は Windows 11 など新しいプラットフォームへの移行であることを理解し、今から行動に移すことが重要です。
参考文献
- Microsoft Docs: Extended Security Updates (ESU) for Windows 10
https://learn.microsoft.com/ja-jp/windows/whats-new/extended-security-updates - Microsoft Support: Windows 10 consumer extended security updates (ESU) program
https://support.microsoft.com/en-us/windows/windows-10-consumer-extended-security-updates-esu-program-33e17de9-36b3-43bb-874d-6c53d2e4bf42 - TechRadar: Microsoft’s Windows 10 support extension – lifeline or stay of execution?
https://www.techradar.com/pro/microsofts-windows-10-support-extension-lifeline-or-stay-of-execution - The Verge: Microsoft makes Windows 10 extended security updates free, but there’s a catch
https://www.theverge.com/news/691811/microsoft-windows-10-free-extended-security-updates - Tom’s Guide: Windows 10 will die this fall – here’s how to survive
https://www.tomsguide.com/computing/windows-operating-systems/windows-10-will-die-this-fall-heres-how-to-survive - Windows Central: Microsoft just made Windows 10’s $30 extended support program an even better deal
https://www.windowscentral.com/microsoft/windows-10/microsoft-just-made-windows-10s-usd30-extended-support-program-an-even-better-deal-but-you-now-need-a-microsoft-account-to-pay-for-it - LaptopMag: Why Windows 10 PCs are locking up and crashing after May update
https://www.laptopmag.com/laptops/windows-laptops/windows-update-bitlocker-bug - TechRadar: Report suggests Windows 10’s Game Bar is crashing with some high-end AMD Ryzen CPUs
https://www.techradar.com/computing/windows/report-suggests-windows-10s-game-bar-is-crashing-with-some-high-end-amd-ryzen-cpus-and-i-hope-microsoft-will-investigate-soon - 0patch Blog: Long Live Windows 10 with 0patch
https://blog.0patch.com/2024/06/long-live-windows-10-with-0patch.html - LaptopMag: Windows 10 LTSC extended support until 2032 explained
https://www.laptopmag.com/laptops/windows-laptops/windows-10-ltsc-extended-support-2032 - Otsuka Shokai: Windows 10 サポート終了への対応
https://mypage.otsuka-shokai.co.jp/contents/pages/pc-support/countermeasure/index.html - Reddit: After EOL support for Windows 10?
https://www.reddit.com/r/Windows10/comments/1iweg5r/after_eol_support_for_windows_10/ - Windows Latest: Microsoft delays Windows 10 Extended Security Updates rollout
https://www.windowslatest.com/2025/07/25/microsoft-delays-windows-10-extended-security-updates-rollout/