英国政府が警鐘「サイバー攻撃は最大の国家脅威」:急増する重大インシデントと求められる対策

英国政府は近年、サイバー攻撃を国家安全保障上の最も重大な脅威の一つとして明確に位置づけています。背景には、政府機関やエネルギー、通信、医療などの重要インフラを標的とした攻撃が増加し、その影響が社会全体に波及しやすくなっている現状があります。特に英国の国家サイバーセキュリティセンター(NCSC)が報告した最新のデータによれば、2024年から2025年にかけての1年間で、「国家的に重大」と分類されるサイバー攻撃が毎週平均4件発生し、年間では204件に達したとされています。これらの攻撃は、経済活動の停滞やサービスの停止を招き、国民生活や企業活動に深刻な影響を及ぼしています。このような状況の下で、英国政府はサイバー攻撃への対策を国家戦略の最重要課題として取り扱い、危機意識の共有と対策強化を進めている状況です。

英国が直面する脅威の実態

英国においては、国家安全保障に関わるレベルのサイバー攻撃が継続的に発生しており、その深刻度は年々増しています。英国国家サイバーセキュリティセンター(NCSC)が取り扱った「重大または高度に重大」と分類されるインシデントは、直近1年間で204件に上ったと報告されています。特に「国家的に重大」とされる攻撃は毎週約4件発生しており、英国政府はこれを記録的な増加と評価しています。

攻撃対象は政府機関に留まらず、エネルギー、通信、医療、小売など、社会基盤を構成する重要インフラ全般に及んでいます。また、攻撃主体には営利目的のサイバー犯罪組織だけではなく、国家支援型の攻撃者が関与しているとの指摘もあります。

経済面への影響も無視できません。英国政府が公開した研究では、サイバー攻撃による企業1社あたりの平均損失は約19万5千ポンドに達し、英国全体では年間約147億ポンドもの経済損失が発生していると推計されています。さらに、これらの損害にはブランド価値の毀損や顧客離脱といった長期的影響が含まれないため、実際にはさらに大きな負のインパクトが存在すると考えられます。

攻撃手法も高度化しており、ランサムウェア、サプライチェーン攻撃、DDoS、そして社会工学的手法による侵害が依然として主要な脅威となっています。特に人間の不注意や判断ミスを狙う攻撃は成功率が高く、人的要因が大きな脆弱性となっている点が、英国に限らず国際的にも共通の課題となっています。

このように、英国が直面するサイバー脅威は、その頻度・影響範囲ともに深刻化しており、国家レベルでの対策強化が急務となっています。

英国政府の対応

英国政府は、深刻化するサイバー脅威に対応するため、法制度の強化と組織体制の整備を進めています。その中心的な取り組みとして位置付けられているのが、「Cyber Security and Resilience (Network and Information Systems) Bill」による規制強化です。この法案では、重要インフラ事業者およびデジタルサービス提供者に対し、最低限のサイバーセキュリティ基準を満たすことを義務づけ、重大インシデントが発生した場合には速やかな報告を求める仕組みが盛り込まれています。また、これらの基準に違反した場合には罰則を科すことも可能となり、従来よりも強制力のある規制体系が構築されつつあります。

さらに、英国政府はサプライチェーンリスクの顕在化を受け、事業者が使用する外部製品や委託先のセキュリティ水準を含めて管理することを求めています。特に、社会全体に影響を及ぼし得る重要サービスに対しては、継続的な監査を行い、脆弱性の早期発見と改善が実施される体制を義務化する方向で政策を進めています。

これらの施策は、インシデント発生後の対応に依存するのではなく、事前にリスクを抑制する「予防重視」のアプローチを制度として定着させることを目的としています。英国政府は、過去の被害例から学んだうえで、企業任せにせず国が主体的に関与することで、国家全体のサイバー防御力を底上げする姿勢を明確にしています。この取り組みは、国際的なサイバー安全保障戦略の中でも重要な一歩と位置付けられています。

他国との比較と日本への示唆

他国の動向を見ると、サイバーセキュリティを国家安全保障政策の中核に位置づける潮流は明確です。欧州連合(EU)では、NIS2指令を通じて重要インフラおよび広範な産業分野に対し、最低限のセキュリティ基準の義務化と、重大インシデントの報告を求める枠組みが既に導入されています。また、米国においては、政府機関を対象にゼロトラストアーキテクチャを段階的に義務化する方針が進行しており、政策レベルでの強制力を伴った防御力強化が図られています。

これらの動きと比較すると、英国の取り組みは国際的な安全保障強化の流れと整合的であり、むしろ積極的に対応を進めている側に位置づけられます。英国は、重要インフラへの攻撃が現実的な脅威となっていることを踏まえ、法制度を通じて企業の対策水準を底上げする政策を明確にしています。これは、経済損失の抑制だけでなく、社会全体の安定性を確保することを目的とした取り組みといえます。

一方、日本においては、依然として企業の自主的取り組みに依存する側面が大きく、法的拘束力のある最低基準の強制や罰則制度は十分に整備されているとは言い難い状況です。社会インフラのIT化が進む中で、国際基準とのギャップが生じることは、日本の経済安全保障や国際競争力にも影響を与えかねません。英国の例が示すように、国家全体で防御力を強化するためには、政府が主体的にリスク管理の枠組みを整備し、事業者の対策を制度的に支援・監督することが重要であると考えられます。

この点において、英国の取り組みは、日本が今後強化すべき政策の方向性を示す参考例となり得ます。

おわりに

サイバー攻撃が国家安全保障に直結する時代において、セキュリティ対策を企業の自主性だけに任せることには限界があると考えています。特に、セキュリティ基準を満たしていないシステムが自由にリリースされ、個人情報を扱う業務が容易に運用されている現状は、重大なリスクを内包しています。最低限のセキュリティ要件を満たさないサービスについては、国が強制力を持って市場投入を制限する制度が必要です。

また、組織内の訓練軽視や人的要因への対策不足は、攻撃者にとって最も侵入しやすい経路を残すことにつながります。社員一人ひとりの行動と判断が組織の防御力に直結する以上、継続的な教育と訓練を実効的に機能させる文化を確立することが欠かせません。

さらに、セキュリティ担当者が過度な責任と負荷を抱える一方、十分な評価や支援を得られない状況は改善すべき課題です。安全を守る人材が疲弊してしまえば、組織の防御力は確実に低下します。

サイバーセキュリティは、もはや個々の企業の努力だけで維持できるものではなく、国全体として水準を引き上げる必要があります。英国が示しているような政策的アプローチは、日本にとっても重要な指針となると考えます。攻撃者が優位な構造を変えるためには、制度・文化・技術のすべてにおいて、これまで以上の改革が求められているといえるでしょう。

参考文献

日本で浮上する「戦略的ビットコイン準備金」論 ― 政府は慎重姿勢、議員から提案も

近年、ビットコインをはじめとする暗号資産を「国家の外貨準備」として活用できるのではないか、という議論が世界的に浮上しています。外貨準備は本来、為替介入や国際決済、通貨の信用維持といった目的で各国が保有する資産であり、米ドルやユーロ、日本円、さらには金や米国債といった安全資産が中心でした。しかし、世界経済の変動、インフレの進行、米ドル基軸体制の将来不安、さらにはデジタル金融技術の進展によって、従来の枠組みだけで十分なのかという疑問が強まりつつあります。

特にビットコインは、発行上限が存在し、国際的に単一のネットワークで利用できる「デジタルゴールド」としての性質を持ちます。そのため、複数の国が外貨準備に正式に組み込めば、従来の複数通貨をまたぐ資産運用に比べ、はるかに効率的で政治的に中立な準備資産として機能する可能性があると注目されています。

こうした流れの中で、日本でも一部の国会議員が「戦略的ビットコイン準備金(Strategic Bitcoin Reserve)」の必要性を訴えるようになりました。もっとも、政府与党は現時点で否定的な立場を崩しておらず、国内でも賛否が分かれています。海外では米国が法案提出段階に進み、エルサルバドルはすでに国家戦略として導入するなど、国ごとにスタンスの違いが鮮明になっています。

本記事では、この議論がなぜ起きているのかを背景から整理するとともに、日本と各国の取り組みを比較し、さらに利点と懸念点を多角的に検討していきます。

日本における動き

日本では、暗号資産を外貨準備に組み込むという議論はまだ初期段階にあり、政府と一部議員の間でスタンスが大きく異なっています。

まず、政府与党の立場としては極めて慎重です。2024年12月、国会での質問に対し、石破内閣は「暗号資産を外貨準備に含める考えはない」と明言しました。理由としては、暗号資産は日本の法制度上「外国為替」には該当せず、従来の外貨準備の定義や運用ルールにそぐわないためです。外貨準備は為替安定や国際決済のために安定した価値を持つ資産で構成されるべきとされており、価格変動が大きく市場リスクの高いビットコインを組み込むのは適切ではない、というのが政府の公式見解です。

一方で、野党や一部議員の提案は前向きです。立憲民主党の玉木雄一郎氏や参政党の神谷宗幣氏は、2025年夏にビットコイン支持派として知られる Samson Mow 氏と面会し、「戦略的ビットコイン準備金(Strategic Bitcoin Reserve)」を検討すべきだと意見交換しました。Mow 氏は、日本がデジタル時代の経済戦略を構築するうえで、ビットコインを国家レベルの資産として保有することは有益だと提案。米国では既に同様の法案が提出されており、日本も取り残されるべきではないと強調しています。

さらに、国内でも暗号資産に関連する制度整備が徐々に進んでいます。2025年1月には、政府が「暗号資産に関する制度の検証を進め、6月末までに結論を出す」と国会で明言しました。これには税制改正、ビットコインETFの可能性、暗号資産を用いた資産形成の推進などが含まれており、外貨準備という文脈には至っていないものの、制度的基盤の整備が進めば議論が現実味を帯びる可能性もあります。

つまり日本における動きは、政府与党が「現行制度では不適切」として消極的な姿勢を示す一方、野党や一部議員は将来的な国際競争力を見据えて積極的に導入を模索しているという二極化した構図にあります。国際的な動向を踏まえれば、このギャップが今後の政策議論の焦点になっていくと考えられます。

海外の動き

暗号資産を外貨準備として扱うべきかどうかについては、各国で温度差が鮮明に表れています。米国のように法案提出まで進んだ国もあれば、EUのように規制整備に注力しつつも慎重な立場を取る地域もあり、また新興国の中には経済リスクを背景に積極的な導入を検討する国もあります。

米国

米国では、超党派の議員によって「戦略的ビットコイン準備金(Strategic Bitcoin Reserve, SBR)」の創設を目指す法案が提出されました。これは、米国の外貨準備資産にビットコインを組み込み、国家の財政・金融基盤を多様化することを目的としています。背景には、ドル基軸通貨体制の揺らぎに対する警戒心があります。米国は世界の基軸通貨国であるため、自国通貨の信頼性低下は国際金融システム全体に波及するリスクを伴います。そのため、ドルと並行してビットコインを「戦略資産」として確保する議論が生まれています。法案はまだ成立段階には至っていないものの、主要国の中でここまで具体的な形に落とし込まれた例は米国が初めてです。

エルサルバドル

エルサルバドルは、2021年に世界で初めてビットコインを法定通貨として採用した国です。政府は国家予算の一部を使ってビットコインを直接購入し、外貨準備に組み込む姿勢を見せています。これにより観光業や海外投資の注目を集めた一方、IMFや世界銀行など国際金融機関からは「財政リスクが高い」として警告が出されています。国際社会からの圧力と国内の経済再建のバランスを取る必要があるため、先進国のモデルケースというよりは「リスクを取った挑戦」と評価されています。

欧州(EU)

EUは、暗号資産市場規制(MiCA)を世界に先駆けて導入し、市場の透明性や投資家保護を整備する動きを進めています。しかし、外貨準備に暗号資産を含めるという政策は、現時点では検討されていません。欧州中央銀行(ECB)はビットコインを「ボラティリティが高く、安定した価値保存手段とは言えない」と位置づけ、むしろデジタルユーロの導入を優先課題としています。EUの姿勢は、暗号資産を制度的に整理しつつも、準備資産としては不適切とするものです。

新興国

アルゼンチンやフィリピン、中東の一部産油国などでは、外貨不足やインフレ、経済制裁といった現実的な課題を背景に、ビットコインを外貨準備の一部に組み込む議論が散見されます。アルゼンチンではインフレ対策としてビットコインを推進する政治家が支持を集める一方、フィリピンでは送金需要の高さから暗号資産の利用拡大が議論されています。また、中東産油国の一部では、石油ドル依存からの脱却を目指し、暗号資産を資産多様化の一環として検討する声もあります。ただし、現時点で公式に外貨準備に含めたのはエルサルバドルのみであり、大半は検討や議論の段階にとどまっています。

要点

  • 米国:法案提出まで進んでおり、主要国の中では最も制度化が具体的。
  • エルサルバドル:唯一、国家として実際に外貨準備に組み込み済み。
  • EU:規制整備は先進的だが、外貨準備には否定的。
  • 新興国:経済課題を背景に前向きな議論はあるが、導入例は少数。

暗号資産を外貨準備に含める利点

暗号資産を外貨準備に加える議論が起きているのは、単なる技術的興味や一時的な投機熱によるものではなく、国家レベルでの金融安全保障や資産戦略における合理的な要素があるためです。以下に主な利点を整理します。

1. 資産の多様化とリスク分散

従来の外貨準備は米ドルが中心であり、次いでユーロ、円、金といった構成比率が一般的です。しかし、ドル依存度が高い体制は米国の金融政策やインフレに強く影響されるというリスクを伴います。

ビットコインを準備資産に組み込めば、従来の通貨と相関性の低い資産を保有することになり、通貨リスクの分散に寄与します。特に制裁や通貨危機に直面している国にとっては、自国経済を守るためのヘッジ手段となります。

2. 国際的な共通性と取り回しの良さ

ビットコインは、国境を超えて単一のネットワーク上で流通しているため、複数国が外貨準備に認めれば「一つの資産で複数の外貨を準備したことに近い効果」を発揮できます。

通常はドル・ユーロ・円といった通貨を使い分け、為替取引を行わなければならないところ、ビットコインであればそのままグローバルに利用できるのが強みです。これは決済インフラや資金移動コストを削減し、資産運用の効率化につながります。

3. 即時性と流動性

従来の外貨準備は、資金移動や為替取引に一定の時間とコストがかかります。一方で、ビットコインは24時間365日、国際的に即時決済可能です。これにより、為替市場が閉じている時間帯や金融危機時でも迅速に資金移動を行えるため、緊急時の対応力が向上します。流動性の観点でも、主要取引所を通じれば数十億ドル規模の取引が可能になっており、実務上も大規模な外貨準備運用に耐え得る水準に近づいています。

4. 政治的中立性

米ドルや人民元といった法定通貨は、発行国の金融政策や外交戦略の影響を強く受けます。これに対し、ビットコインは発行主体を持たず、政治的に中立な資産として利用できる点が特徴です。

複数国が共通して外貨準備に組み込むことで、どの国の影響も受けない中立的な国際決済資産を持つことができ、外交・経済の独立性を高めることにつながります。

5. デジタル経済時代への対応

世界的にデジタル通貨やCBDC(中央銀行デジタル通貨)の研究が進む中で、ビットコインを外貨準備に含めることはデジタル金融時代におけるシグナルともなります。国家が公式に暗号資産を準備資産とすることは、国内の金融市場や投資家にとっても安心材料となり、Web3やデジタル金融産業の発展を後押しする効果も期待できます。

要点

  • 資産分散:ドル依存リスクを下げる
  • 共通資産性:複数通貨に相当する柔軟性
  • 即時性:緊急時の決済・資金移動に強い
  • 中立性:発行国の影響を受けない
  • デジタル化対応:金融産業振興や国際競争力強化

懸念点と課題

暗号資産を外貨準備に組み込むことは一定の利点がありますが、同時に解決すべき課題やリスクも数多く存在します。特に国家レベルでの準備資産として採用する場合、以下のような深刻な懸念が指摘されています。

1. 価格変動の大きさ(ボラティリティ)

ビットコインは「デジタルゴールド」と呼ばれる一方で、価格の変動幅が依然として非常に大きい資産です。

  • 過去には1年間で価格が数倍に急騰した事例もあれば、半分以下に暴落した事例もあります。
  • 外貨準備は本来「安定性」が最優先されるべき資産であるため、急激な値動きは為替介入や通貨防衛の際にかえってリスクになります。
  • 金や米国債と異なり、価値の安定性が十分に確立されていない点は、最大の懸念材料と言えます。

2. 盗難・セキュリティリスク

ブロックチェーン上の取引は不可逆であり、一度正規の秘密鍵で送金されると元に戻すことはできません。

  • 取引所やカストディサービスへのハッキングによる大規模盗難事件は2025年に入っても続発しており、国家規模で保有した場合のリスクは極めて高い。
  • 個人ウォレットへのフィッシングや「レンチ攻撃」(暴力による秘密鍵開示強要)のような物理的リスクも報告されており、国家レベルでのセキュリティ体制が不可欠です。
  • 現金や金のように「盗難後に利用を止める仕組み」が存在しないため、一度盗まれると価値を回復できない点は大きな弱点です。

3. 制度的不整備と評価の難しさ

  • 会計上、暗号資産は「金融資産」や「外国為替」として扱えず、評価基準が曖昧です。
  • 国際的に統一された外貨準備資産としての枠組みがなく、各国が独自に評価するしかない状況です。
  • 国際通貨基金(IMF)や国際決済銀行(BIS)が準備資産として正式に認めていないため、統計的に「外貨準備」として扱えない点も課題です。

4. 政治・外交的摩擦

  • ビットコインを国家準備に組み込むことは、既存の基軸通貨国(米国や中国)にとって自国通貨の地位低下を意味する可能性があり、外交摩擦を引き起こす可能性があります。
  • エルサルバドルのケースでは、IMFが「財政リスクが高い」と警告を発し、支援プログラムに影響を与えました。
  • 大国が主導権を持たない「中立的資産」を持つことは利点であると同時に、国際秩序の変化をもたらす可能性があり、地政学的緊張を招きかねません。

5. 技術・運用上の課題

  • 大規模な外貨準備を保有するには、安全なカストディ環境(コールドウォレット、多重署名、地理的分散など)が不可欠ですが、その整備コストは高額です。
  • ネットワーク自体は強固ですが、将来的に量子コンピュータなど新技術による暗号破壊のリスクも議論されています。
  • マイニングのエネルギー消費が多大である点も、環境政策や国際的な批判と絡む可能性があります。

要点

  • 安定性欠如:価格変動が大きすぎる
  • セキュリティリスク:盗難後に無効化できない
  • 制度不備:会計・統計で外貨準備と認められない
  • 政治摩擦:基軸通貨国との対立リスク
  • 運用コスト:カストディや技術リスクの対応負担

まとめ

暗号資産を外貨準備に含めるべきかどうかという議論は、単なる金融商品の選択肢を超え、国際通貨体制や金融安全保障に直結するテーマです。世界を見渡すと、米国のように法案提出レベルまで議論が進んでいる国もあれば、エルサルバドルのように既に国家戦略に組み込んでいる国もあります。一方、EUや日本政府は慎重な立場をとり、現時点では「準備資産としては不適切」というスタンスを維持しています。つまり、各国の姿勢は利点とリスクの評価軸によって大きく分かれているのが現状です。

ビットコインを外貨準備に組み込む利点としては、ドル依存を減らす資産分散効果、国際的に共通する中立資産としての利用可能性、即時性や透明性などが挙げられます。特に複数の国が同時に導入すれば、「一つの資産で複数の外貨を持つ」ことに近い利便性を実現できる点は、従来の準備通貨にはない特長です。デジタル経済の進展を見据えれば、将来的に国際金融インフラにおける存在感が増す可能性は否定できません。

しかし同時に、価格変動の大きさ、盗難やセキュリティリスク、制度的不整備、政治摩擦、運用コストといった課題は依然として重大です。特に「盗まれた暗号資産を無効化できない」という特性は、国家レベルの保有においても無視できないリスクです。また、安定性を最優先とする外貨準備において、急激に変動する資産をどこまで許容できるのかという点は、慎重に検討すべき問題です。

結局のところ、暗号資産を外貨準備に含めるかどうかは「利便性とリスクのトレードオフ」をどう評価するかにかかっています。短期的には、米国や新興国のように前向きな議論が進む一方、日本やEUのように慎重派が多数を占める国では当面「検討対象」以上に進むことは難しいでしょう。ただし、国際的な金融秩序が揺らぐ中で、このテーマは今後も繰り返し浮上し、いずれ国家戦略の選択肢として現実的に議論される局面が訪れる可能性があります。

参考文献

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