MetaのAI戦略:Google Cloudとの100億ドル契約

世界中で生成AIの開発競争が激化するなか、巨大テック企業はかつてない規模でインフラ投資を進めています。モデルの学習や推論に必要な計算量は年々増加し、既存のデータセンターやクラウドサービスではまかないきれないほどの負荷がかかるようになっています。AIの進化は、単なるソフトウェア開発の枠を超えて、ハードウェア調達・電力供給・クラウド戦略といった総合的な経営課題へと広がっています。

その最前線に立つのが、Facebookから社名を改めたMetaです。MetaはSNS企業から「メタバース企業」、さらに「AI企業」へと変貌を遂げようとしており、その過程でインフラ強化に巨額の投資を行っています。2025年8月、MetaはGoogle Cloudと6年間で100億ドル超にのぼるクラウド契約を締結しました。これは同社のAI開発、とりわけ生成AIの研究とサービス提供を加速させるための重要なステップです。

同時に、Metaは米国イリノイ州の原子力発電所と20年間の電力購入契約も結んでいます。再生可能エネルギーに加えて、安定供給が可能な原子力を取り込むことで、膨張するデータセンター需要を支え、社会的責任であるカーボンニュートラルの実現にも寄与しようとしているのです。

つまりMetaは今、「計算リソースの外部調達」と「クリーンエネルギーによる電力確保」という両面からAI基盤を整備しています。本記事では、この二つの契約を対比しながら、MetaのAI戦略の全体像を整理していきます。

Google Cloudとのクラウド契約

MetaがGoogle Cloudと結んだ契約は、6年間で少なくとも100億ドル規模に達すると報じられています。契約には、Googleの持つサーバー、ストレージ、ネットワークなどの基盤インフラが含まれており、これらは主に生成AIワークロードを支える計算リソースとして利用される見通しです。

Metaは既に自社データセンターを米国や海外に多数保有し、数千億ドル単位の投資を発表しています。しかし生成AIの開発・運用に必要なGPUやアクセラレータは世界的に逼迫しており、自社だけでのリソース確保には限界があるのが現実です。今回の契約は、その制約を補完し、外部クラウドを戦略的に取り込むものと言えます。

特筆すべきは、この契約がMetaのマルチクラウド戦略を加速させる点です。すでにMetaはNVIDIA製GPUを中心とした社内AIインフラを構築していますが、Google Cloudと組むことで、特定ベンダーや自社データセンターに依存しすぎない柔軟性を確保できます。さらに、Googleが強みを持つ分散処理基盤やAI最適化技術(TPU、Geminiモデルとの親和性など)を利用できる点も、Metaにとって大きな利点です。

また、契約発表直後の市場反応としては、Googleの親会社であるAlphabetの株価が小幅上昇する一方、Metaの株価はやや下落しました。これは、投資額の大きさに対する短期的な懸念が反映されたものですが、長期的にはMetaのAI競争力強化につながる布石として評価されています。

まとめると、この契約は単なるクラウド利用契約ではなく、AI開発競争の最前線で生き残るための戦略的な提携であり、Metaの次世代AI基盤を形作る重要な要素となるものです。

原子力発電所との電力契約

一方でMetaは、データセンター運営に不可欠な電力供給の長期安定化にも注力しています。2025年6月、同社は米国最大の電力会社のひとつである Constellation Energy と、20年間の電力購入契約(PPA:Power Purchase Agreement) を締結しました。対象となるのはイリノイ州の Clinton Clean Energy Center という原子力発電所で、契約容量は約1.1GWにおよびます。これは数百万世帯をまかなえる規模であり、単一企業によるPPAとしては異例の大きさです。

この契約は単に電力を購入するだけでなく、発電所の増強(uprate)による30MWの出力追加を支援するものでもあります。Metaは自社のエネルギー調達を通じて、発電所の運転継続や拡張を後押しし、地域経済や雇用(約1,100人の維持)にも貢献する形を取っています。さらに、地元自治体にとっては年間1,350万ドル以上の税収増加が見込まれると報じられており、社会的な波及効果も大きい契約です。

注目すべきは、Metaが再生可能エネルギーだけでなく、原子力を「クリーンで安定した電源」として積極的に位置づけている点です。風力や太陽光は天候に左右されるため、大規模データセンターのような24時間稼働の設備を支えるには限界があります。対して原子力はCO₂排出がなく、ベースロード電源として長期的に安定した電力を供給できます。Metaはこの特性を評価し、AIやメタバースに代表される膨大な計算需要を持続可能に支える基盤として選択しました。

この契約はGoogle Cloudとのクラウド契約とは直接関係はありませんが、両者はMetaのAI戦略において補完的な役割を果たしています。前者は「計算リソース」の外部調達、後者は「エネルギー基盤」の強化であり、両輪が揃うことで初めて持続可能かつ競争力のあるAI開発体制が成立すると言えます。

背景にある戦略

Metaの動きを俯瞰すると、単なるインフラ調達の積み重ねではなく、中長期的なAI競争を見据えた包括的な戦略が浮かび上がります。ポイントは大きく分けて三つです。

1. 生成AI競争の激化とリソース確保

近年、OpenAI、Anthropic、Google DeepMind などが先端の生成AIモデルを次々と発表しています。これらのモデルの学習には、膨大なGPU群や専用アクセラレータ、そして莫大な電力が不可欠です。Metaもまた独自の大規模言語モデル「LLaMA」シリーズを展開しており、競争に遅れを取らないためにはリソース調達のスピードと柔軟性が重要になります。

Google Cloudとの提携は、逼迫する半導体供給やデータセンター構築の遅延といったリスクを回避し、必要なときに必要な規模で計算力を確保するための布石といえます。

2. サステナビリティと社会的信頼

AI開発の加速とともに、データセンターの消費電力は急増しています。もし化石燃料に依存すれば、環境負荷や批判は避けられません。Metaは再生可能エネルギーに加えて原子力を選び、「クリーンで持続可能なAI」というメッセージを強調しています。

これは単なるCSR的な取り組みにとどまらず、各国政府や規制当局との関係性、投資家や利用者からの信頼獲得に直結します。AIが社会インフラ化する時代において、企業が環境責任を果たすことは競争力の一部になりつつあります。

3. リスク分散とマルチクラウド戦略

Metaはこれまで自社データセンターの整備に巨額投資を続けてきましたが、AI需要の変動や技術革新のスピードを考えると、単一基盤への依存はリスクです。Google Cloudとの長期契約は、自社設備と外部クラウドを組み合わせる「ハイブリッド体制」を強化し、将来の需要増や技術転換に柔軟に対応する狙いがあります。

また、GoogleのTPUやGeminiエコシステムを利用することで、Metaは自社技術と外部技術の相互補完を図り、研究開発の幅を広げることも可能になります。


こうした背景から、Metaの戦略は 「競争力の維持(AI開発)」「社会的責任(エネルギー調達)」「柔軟性の確保(マルチクラウド)」 の三本柱で構成されていると言えるでしょう。単なるコスト削減ではなく、数十年先を見据えた投資であり、AI覇権争いの中での生存戦略そのものです。

まとめ

Metaが進める Google Cloudとのクラウド契約原子力発電所との電力契約 は、一見すると別々の取り組みに見えます。しかし両者を並べて考えると、AI開発を支えるために「計算リソース」と「電力リソース」という二つの基盤を同時に強化していることがわかります。

クラウド契約では、逼迫するGPUやアクセラレータ需要に対応しつつ、自社データセンターの限界を補う形で外部の計算資源を取り込みました。これは、生成AI開発で世界最先端を走り続けるための柔軟な布石です。

一方、電力契約では、AI開発に伴って急増する消費電力に対応するため、再生可能エネルギーに加えて原子力を活用する選択をしました。安定供給と低炭素を同時に実現することで、環境への責任と事業拡大の両立を狙っています。

両契約に共通するのは、短期的なコスト効率よりも、中長期的な競争力の維持を優先している点です。MetaはAIを単なる研究開発テーマとしてではなく、未来のビジネス基盤そのものと捉えており、そのために必要なリソースを巨額かつ多面的に確保し始めています。

今後、他のビッグテック企業も同様にクラウドリソースとエネルギー調達の両面で大型投資を進めると予想されます。そのなかで、Metaの取り組みは「AI競争=計算力競争」であることを改めて示す象徴的な事例と言えるでしょう。

参考文献

Oracle Database@Google Cloud、ついに日本上陸──クラウド移行とAI活用を加速するマルチクラウドの要石

2025年6月13日、オラクルとGoogle Cloudは日本市場に向けて「Oracle Database@Google Cloud」の提供を正式に開始しました。これは、Google Cloudの東京リージョン(アジア北東1)において、オラクルのフル機能データベースサービスが、クラウドネイティブな形で利用可能となる歴史的な一歩です。

従来、Oracle Databaseは自社クラウド(OCI)やオンプレミス、もしくはライセンス持ち込み型のクラウドでの利用が一般的でしたが、今回の発表は、Oracleが自らのデータベースを第三者クラウド上で提供・運用する初の試みです。このことにより、日本国内のクラウド移行、データ主権の確保、AI活用が一層加速されることが期待されます。

クラウドでも“フル機能のOracle”を

この新サービスでは、以下の先進的なOracleデータベースがGoogle Cloud上で利用可能です:

  • Oracle Exadata Database Service on Dedicated Infrastructure
    最新のX11Mアーキテクチャを採用し、AI・分析・OLTP(オンライントランザクション処理)における高性能を実現。Real Application Clusters(RAC)にも対応。
  • Oracle Database 23ai
    JSONとリレーショナルを統合した「JSON Relational Duality Views」や、「Oracle AI Vector Search」など、AI時代を見据えた機能を300以上搭載。
  • Oracle Autonomous Database
    フルマネージド型のクラウドデータベースで、Google CloudのAPI・UIに完全統合。パフォーマンス、可用性、セキュリティのすべてにおいて高水準を提供。
  • Oracle Base Database Service(近日提供)
    軽量な仮想マシンベースのデータベース。19cや23aiなどを従量課金で利用可能。ローコード開発もサポート。

AIとクラウドネイティブ開発の融合

Oracle Database@Google Cloudは、GoogleのGeminiやVertex AIなどのAI基盤と統合可能であり、開発者にとってはクラウドネイティブなAIアプリケーション開発の出発点となります。

また、JSON×RDB統合、非構造データの検索、AI推論基盤との連携など、データ活用の可能性が大きく広がります。

パートナーエコシステムの再構築へ

OracleとGoogle Cloudは、再販プログラムの創設により、日本国内のSIerやクラウド事業者と連携し、企業のマルチクラウド導入を強力に支援します。Google Cloud Marketplace経由での提供が可能になり、導入・運用の敷居が大きく下がる点も魅力です。

株式会社システムサポートをはじめとする主要パートナーは、この環境を活かして、より柔軟なクラウド構成とデータソリューションの提供を目指しています。

今後の展開:グローバル対応へ

今回提供開始となったのは東京リージョンですが、今後12カ月以内に大阪(アジア北東2)、ムンバイ(アジア南1)など、複数リージョンでの展開が予定されています。これは、Oracleの「分散クラウド戦略」の一環であり、パブリック、プライベート、マルチクラウドを柔軟に組み合わせるポートフォリオ戦略が基盤となっています。

おわりに

「Oracle Database@Google Cloud」の登場により、日本の企業は“クラウドネイティブでありながら、Oracleの完全な機能性を享受できる”という新たな選択肢を手にしました。特に、AI活用、データレジデンシー、既存DB資産の活用に悩む企業にとっては、待望のソリューションとなるでしょう。

これからの日本におけるクラウド移行、AI統合の中核を担う存在として、この発表は今後の市場を左右する大きな転換点といえます。

参考文献

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