スタジオジブリなど日本の主要出版社、OpenAIに学習停止を要請

スタジオジブリなど日本の主要出版社、OpenAIに学習停止を要請

生成AIの発展は、創作や表現の在り方に大きな変化をもたらしています。画像や動画、文章を自動生成する技術が一般に広く普及する一方で、著作権をはじめとする知的財産の取り扱いについては、いまだ法制度や運用の整備が追いついていないのが現状です。

こうした中、2025年11月、一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)が、OpenAI社に対して正式な要請書を送付しました。要請の内容は、会員企業の著作物を事前の許可なくAIの学習データとして利用しないよう求めるものです。

この要請には、スタジオジブリをはじめ、Aniplex、バンダイナムコエンターテインメント、講談社、集英社、小学館、KADOKAWA、スクウェア・エニックスなど、日本の主要コンテンツ企業が名を連ねています。これらの企業はいずれも海外市場で高い知名度を持ち、国際的なIP(知的財産)ビジネスを展開しており、AIによる無断学習の影響を直接的に受ける立場にあります。

本稿では、この要請の概要と背景、そして日米で異なる法制度上の位置づけを整理し、今回の動きが持つ意味を確認します。

目次

要請の概要

2025年11月初旬、日本の一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)は、OpenAI社に対して正式な要請書を送付しました。要請の内容は、同機構の会員企業が保有する著作物を、事前の許可なくAIモデルの学習データとして利用しないよう求めるものです。

CODAは、アニメーション、出版、音楽、ゲームなど多岐にわたる日本の主要コンテンツ企業が加盟する業界団体で、海外における著作権侵害や海賊版対策を目的として活動しています。今回の要請は、生成AIが著作物のスタイルや映像表現を模倣し得る状況を踏まえ、知的財産の無断利用に対して明確な姿勢を示すものと位置づけられています。

要請書では、特にOpenAIの映像生成モデル「Sora 2」などで、特定の著作物や映像スタイルが再現される事例に懸念が示されています。CODAは、「学習過程における著作物の複製は、著作権侵害に該当する可能性がある」と明言し、日本の著作権法では原則として事前の許諾が必要であること、また事後の異議申し立てによって免責される制度は存在しないことを指摘しました。

この要請は、生成AIと著作権をめぐる議論の中でも、日本の主要コンテンツ業界が共同で国際的なプラットフォームに対して明確な対応を求めた初の事例として注目されています。

参加企業と特徴

今回の要請は、一般社団法人コンテンツ海外流通促進機構(CODA)の加盟企業によって共同で行われました。要請書には、スタジオジブリをはじめ、Aniplex(ソニーグループ)、バンダイナムコエンターテインメント、講談社、集英社、小学館、KADOKAWA、スクウェア・エニックスなど、日本の主要なアニメ・出版・ゲーム関連企業が名を連ねています。

これらの企業はいずれも、国内のみならず海外市場においても高い認知度と影響力を持つコンテンツホルダーです。特に、アニメや漫画、ゲームを中心とした日本発の知的財産(IP)は、国際的なファン層を持ち、翻訳やライセンス事業を通じて広く流通しています。そのため、生成AIによる無断学習やスタイル模倣のリスクは、経済的にも文化的にも大きな懸念とされています。

CODAは、これまでも海賊版サイトの摘発や著作権侵害の防止に取り組んできた団体であり、今回の要請はその活動の延長線上にあります。要請の目的は、AI開発の進展そのものを否定することではなく、著作権者の権利を尊重した形での技術利用を促すことにあります。

こうした背景から、本件は日本のエンターテインメント業界全体が連携して国際的なAI利用ルールの整備を求める動きの一環と位置づけられています。

日本と海外の法制度の違い

著作権をめぐるAI学習の扱いについては、日本と海外、特に米国との間で法制度上の考え方に大きな違いがあります。

日本の著作権法では、原則として著作物を利用する際には権利者の事前許諾が必要とされています。著作物の複製や改変を伴う行為は、学習データの収集段階であっても著作権侵害に該当する可能性があります。また、日本の法体系には「後からの異議申し立てにより免責される制度」は存在しません。そのため、CODAは今回の要請書の中で、AI学習過程における著作物の複製行為自体が著作権侵害に当たる可能性を明確に指摘しています。

一方、米国ではAI開発に関する明確な法律が未整備のままであり、依然として1976年制定の著作権法(Copyright Act of 1976)が適用されています。この法律のもとでは、「フェアユース(Fair Use)」の概念が広く認められており、学術研究や技術開発など一定の目的であれば、著作物の一部利用が許容される場合があります。そのため、AIモデルが著作物を学習データとして使用した場合でも、必ずしも違法とみなされるとは限りません。

実際、2025年9月には米国連邦地裁でAnthropic社が著作権付き書籍をAI学習に使用した件について審理が行われました。同社は学習行為自体については違法とされませんでしたが、海賊版書籍を入手して利用していた点が問題視され、罰金を科されています。この判決は、米国においてAI学習の是非と著作権侵害の線引きが依然として不明確であることを示しています。

このように、日本では「事前の許諾を前提とした権利保護」、米国では「フェアユースを前提とした柔軟な解釈」という対照的な法制度が存在します。今回のCODAによる要請は、そうした国際的な制度差を踏まえ、日本側の明確な立場を示すものとなっています。

今回の要請が持つ意味

今回のCODAによる要請は、日本の主要なコンテンツ産業が共同で国際的なAI企業に対して正式な行動を取った初の大規模事例として、法的・文化的の両面で重要な意味を持ちます。

第一に、この要請は、日本の著作権法の原則に基づき、「許可なく学習させない」という立場を明確に示した点で意義があります。これまでAI開発企業の多くは、学習データの出所を公表せず、後からの申し立てによる対応にとどまってきました。CODAはこの慣行を「事後免責を前提とする米国型アプローチ」と位置づけ、日本では通用しないという立場を国際的に表明した形です。

第二に、本件は文化産業全体の連携強化を象徴しています。アニメ、出版、ゲーム、音楽といった異なる分野の企業が共同で声を上げることは稀であり、AI技術の進展が業界横断的な課題となっていることを示しています。特に、これらの企業は国際市場での知名度が高く、AIモデルに模倣されやすい独自のスタイルや表現を多く有しています。そのため、今回の要請は単なる国内対応にとどまらず、文化的資産の保護という国際的メッセージとしての意味を持ちます。

第三に、OpenAIをはじめとする生成AI開発企業に対し、国ごとの著作権制度を尊重した学習体制の構築を求める前例となりました。米国ではフェアユースを理由に学習を継続できる可能性がありますが、日本市場での信頼を維持するためには、各国の法体系に即した運用が求められます。

このように、今回の要請は単なる抗議ではなく、AI開発と知的財産保護の共存を求める国際的な議論の一端を担う動きとして位置づけられます。

おわりに

今回のCODAによる要請は、AI開発と著作権保護の間にある根本的な課題を浮き彫りにしました。今後も同様に、作品の無断学習に対して停止や制限を求める動きは増えていくと考えられます。これは、日本のアニメやマンガといった文化資産を守るという観点に加え、仮に著作権が認められたとしても、著作者自身に金銭的な利益が還元されにくいという問題意識も背景にあるでしょう。

一方で、画像や映像を自動生成するAIサービスは今後も次々と登場する見込みです。企業側が要請に応じるかどうかはケースによって異なり、しばらくはいたちごっこのような状況が続く可能性があります。著作権法の整備が追いつかない中で、現実的な線引きが模索される段階にあります。

また、著作者の権利そのものを見直す時期に来ているとも言えます。たとえば、漫画家のアシスタントが師の画風を継承することは一般的に許容されており、そこには著作者の意志と信頼関係が存在します。AIによる模倣が問題視されるのは、そうした「創作者の気持ち」が無視されるからとも言えるでしょう。

さらに、AIによる模倣の問題は著作権だけにとどまりません。たとえば、有名画家の作風を再現し、未発表作品のように偽装して販売する詐欺的な行為も想定されます。どこまでが保護されるべき創作で、どこからがインスピレーションとして認められるべきか——その境界は今、急速に曖昧になりつつあります。

AI時代における創作と模倣の関係をどう定義し直すか。今回の要請は、その議論の出発点を示す重要な一歩といえるでしょう。

参考文献

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