6Gはどこまで来ているのか──次世代通信の研究最前線と各国の動向

6Gはどこまで来ているのか──次世代通信の研究最前線と各国の動向
目次

6G時代の幕開け──次世代通信の姿とその最前線

はじめに

2020年代も半ばに差し掛かる今、次世代の通信インフラとして注目されているのが「6G(第6世代移動通信)」です。5Gがようやく社会実装され始めた中で、なぜすでに次の世代が注目されているのでしょうか?この記事では、6Gの基本仕様から、各国・企業の取り組み、そして6Gに至る中間ステップである5.5G(5G-Advanced)まで解説します。

6Gとは何か?

6Gとは、2030年前後の商用化が期待されている次世代の無線通信規格です。5Gが掲げていた「高速・大容量」「低遅延」「多数同時接続」といった特徴をさらに拡張し、人間とマシン、物理空間とサイバースペースをより密接に接続することを目指しています。

6Gで目指されている性能は、次のようなものです:

  • 通信速度:最大1Tbps(理論値)
  • 遅延:1ミリ秒以下、理想的には1マイクロ秒台
  • 接続密度:1平方キロメートルあたり1000万台以上の機器
  • 信頼性:99.99999%以上
  • エネルギー効率:10〜100倍の改善

こうした性能が実現されれば、単なるスマートフォンの進化にとどまらず、医療、製造業、教育、エンタメ、交通など、あらゆる分野に革命的変化をもたらします。

通信規格の進化比較

以下に、3Gから6Gまでの進化の概要を比較した表を掲載します。

世代主な特徴最大通信速度(理論値)遅延主な用途
3G音声とデータの統合通信数Mbps数百ms携帯ブラウジング、メール
4G高速データ通信、IPベース数百Mbps〜1Gbps10〜50ms動画視聴、VoIP、SNS
4.5GLTE-Advanced、MIMOの強化1〜3Gbps10ms以下高解像度動画、VoLTE
5G超高速・低遅延・多接続最大20Gbps1ms自動運転、IoT、AR/VR
6Gサブテラヘルツ通信、AI統合最大1Tbps0.1〜1μs仮想現実、遠隔医療、空中ネットワーク

各国・各社の取り組み

6Gはまだ規格化前の段階にあるとはいえ、世界中の企業や政府機関がすでに研究と実証を進めています。

日本:ドコモ、NTT、NEC、富士通

日本ではNTTとNTTドコモ、NEC、富士通などが中心となって、100〜300GHz帯のサブテラヘルツ領域での実証実験を進めています。2024年には100Gbpsを超える通信を100mの距離で成功させるなど、世界でも先進的な成果が出ています。

また、ドコモは海外キャリア(SKテレコム、AT&T、Telefonica)やベンダー(Nokia、Keysight)とも連携し、グローバル標準化を見据えた実証に取り組んでいます。

米国・欧州:Nokia、Ericsson、Qualcomm

NokiaはBell Labsを中心に、AIネイティブなネットワークアーキテクチャとサブテラヘルツ通信の研究を進めています。米ダラスでは7GHz帯の基地局実験をFCCの承認を得て展開しています。

EricssonはAI-RAN Allianceにも参加し、AIによる基地局制御の最適化やネットワークの消費電力削減に注力しています。

Qualcommは6G対応チップの開発ロードマップを発表しており、スマートフォン向けに限らず、IoT・自動運転・XR(拡張現実)などあらゆる領域を視野に入れています。

韓国・中国:Samsung、Huawei、ZTE

Samsungは韓国国内で、140GHz帯を用いたビームフォーミングの実証を進めており、6G研究センターも設立済みです。

Huaweiは政治的な制約を抱えつつも、6G関連技術の論文や特許の数では世界トップクラス。中国政府も国家戦略として6G研究を推進しており、すでに実験衛星を打ち上げています。

5.5G(5G-Advanced):6Gへの橋渡し

5.5Gとは、3GPP Release 18〜19で規定される「5Gの進化形」であり、6Gに至る前の中間ステップとされています。Huaweiがこの名称を積極的に使用しており、欧米では”5G-Advanced”という呼び名が一般的です。

特徴

  • 通信速度:下り10Gbps、上り1Gbps
  • 接続密度:1平方kmあたり数百万台規模
  • 遅延:1ms以下
  • Passive IoTへの対応(安価なタグ型通信機器)
  • ネットワークAIによる最適化

なぜ5.5Gが必要か

5Gは標準化はされているものの、国や地域によって展開の度合いに差があり、ミリ波や超低遅延といった機能は実用化が進んでいない部分もあります。5.5Gはこうした未達成領域をカバーし、真の5G性能を提供することを目的としています。

また、5.5Gは次世代のユースケース──自動運転の高精度化、インダストリー4.0、メタバース通信、XR技術の普及──を支えるための実践的な基盤にもなります。

まとめと今後の展望

6Gは単なる通信速度の高速化ではなく、現実空間と仮想空間を融合し、AIと共に動作する次世代の社会インフラです。ドローンの群制御、遠隔外科手術、クラウドロボティクス、空中ネットワーク(HAPSや衛星)、そして通信とセンシングが統合された世界──こうした未来が実現するには、まだ多くの研究と実験が必要です。

その橋渡しとして、5.5Gの実装と普及が極めて重要です。Release 18/19の標準化とともに、2025年〜2028年にかけて5.5Gが本格導入され、その後の2030年前後に6Gが商用化される──というのが現実的なロードマップです。

日本企業はNEC・富士通・NTT系を中心に研究で存在感を示していますが、今後はチップセットやアプリケーションレイヤーでも世界市場を狙う戦略が求められるでしょう。

用語解説

  • 6G(第6世代移動通信):2030年ごろ商用化が期待される次世代通信規格。超高速・超低遅延・高信頼性が特徴。
  • 5G-Advanced(5.5G):5Gの中間進化版で、6Gの前段階に当たる通信規格。速度や接続性能、AI対応などが強化されている。
  • サブテラヘルツ通信:100GHz〜1THzの高周波帯域を使う通信技術。6Gの主要技術とされる。
  • ミリ波:30GHz〜300GHzの周波数帯。5Gでも使われるが6Gではより高い周波数が想定されている。
  • Passive IoT:自身で電源を持たず、外部からの信号で動作する通信機器。非常に低コストで大量導入が可能。
  • ビームフォーミング:電波を特定方向に集中的に送信・受信する技術。高周波帯での通信品質を高める。
  • ネットワークAI:通信ネットワークの構成・制御・運用をAIが最適化する技術。
  • AI-RAN Alliance:AIと無線ネットワーク(RAN)の統合を進める国際アライアンス。MicrosoftやNvidia、Ericssonなどが参加。

参考文献

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