AppleがEUでApp Storeルールを変更──本当に“自由”はもたらされたのか?

AppleがEUでApp Storeルールを変更──本当に“自由”はもたらされたのか?
目次

はじめに

2025年6月、Appleが欧州連合(EU)の反トラスト規制に対応するかたちで、App Storeにおけるルールを大幅に変更しました。

この変更は、EUが施行した「デジタル市場法(DMA)」への対応として発表されたもので、特に注目されているのは「外部決済リンクの解禁」です。

一見すると、Appleの強固なエコシステムに風穴が開いたようにも見えます。しかし、その実態はどのようなものでしょうか。

この記事では、今回のルール変更の背景、内容、そして本当に開発者やユーザーにとって“自由化”と呼べるのかを考察します。


背景:Epic Gamesとの衝突が転機に

この問題の源流は2020年、Epic GamesがiOS版『Fortnite』にAppleの課金システムを迂回する外部決済機能を導入し、App Storeから削除された事件に遡ります。

EpicはAppleを相手取り、独占禁止法違反で訴訟を提起。以降、Appleの「App Storeにおける課金の独占構造」が国際的な議論の的となりました。

欧州ではこれを是正するため、2024年に「デジタル市場法(DMA)」が施行され、Appleを含む巨大テック企業に対し競争促進のための義務を課しました。


今回のルール変更:主な内容

Appleは、EU域内のApp Storeに対して以下の変更を導入しました:

✅ 外部決済リンクの許可

開発者は、アプリ内でApple以外の決済ページへのリンクやWebViewを使うことが可能になりました。

以前はこうした導線を設けると、アプリ審査で却下されるか、警告画面を挟むことが求められていましたが、今回は警告表示なしで直接遷移が可能とされました。

✅ 新たな手数料体系の導入

  • Apple課金を使った場合:通常20%、小規模事業者向けに13%
  • 外部決済を案内するだけの場合でも:5~15%の“手数料”を徴収
  • 加えて、Core Technology Fee(CTC)と呼ばれる5%の基盤使用料が追加

✅ サービスの「階層化」

Appleはサービス内容によって手数料を変動させる“Tier制”を導入。マーケティング支援などを受けたい場合は高い手数料を払う必要がある構造です。


「自由化」の裏に潜む新たな“壁”

Appleはこのルール変更をもって、「DMAに準拠した」と表明しています。

しかし、Epic GamesのTim Sweeney氏をはじめとする開発者コミュニティの反応は冷ややかです。

その主な理由は以下の通りです:

  • 外部決済を選んでもApple税が課される:Appleのシステムを使わなくても、5~15%の手数料が課される。
  • ルールは複雑で透明性に欠ける:階層制や条件付きリンク許可など、技術的・法的ハードルが依然として高い。
  • これは“自由”ではなく“管理された自由”にすぎないという批判。

欧州委員会の判断はまだこれから

現時点でAppleのルール変更が本当にDMAに準拠しているかどうかについて、EUの正式な見解は出ていません。

欧州委員会は現在、「開発者や業界関係者からのフィードバックを収集中」であり、数か月以内に適法性を評価する方針です。

Appleは一方で、この命令そのものの違法性を主張し、控訴を継続しています。


まとめ:名ばかりの譲歩か、それとも転換点か?

今回のルール変更は、App Storeの運用方針においてかつてない柔軟性を導入した点では、画期的です。

しかし、外部決済を選んでもなお課される手数料、地域限定(EUのみ)の適用、Appleによる継続的な審査・支配などを考慮すると、“真の自由化”とは言い難いのが実情です。

この対応がDMAの理念に沿ったものと認められるかどうかは、今後のEUによる評価と、それに対するAppleや開発者のリアクション次第です。

今後も目が離せないテーマと言えるでしょう。


参考文献

よかったらシェアしてね!
  • URLをコピーしました!
  • URLをコピーしました!
目次