AI調理家電が拓くスマートキッチンの未来

AI調理家電が拓くスマートキッチンの未来
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シャープ新製品:AI搭載ウォーターオーブン「ヘルシオ」

SHARPニュースリリースサイトより引用

シャープは2025年6月、ウォーターオーブン「ヘルシオ」の新モデル2機種を発表しました。それに合わせて業界初となる生成AI技術を使った音声対話サービス「クックトーク」を開始 。ヘルシオは2016年にWi-Fiを搭載して以降、クラウド経由でレシピ提案や自動調理メニューの追加など“進化”し続けてきました 。今回の「クックトーク」ではスマホからキャラクター相手に話しかけるだけで、献立の悩み相談や調理方法の質問に対してAIが自然な対話で答えてくれるのが特徴です 。たとえば「冷蔵庫に○○があるけど何作れる?」と聞けば、おすすめレシピを提案してくれるので、毎日の献立決めがグッとラクになります。

ヘルシオ本体の機能面でも便利さが向上しています。1~2人分を手軽にグリル調理できる専用「ヘルシオトレー」が付属し、少量調理メニューが拡充。さらにできたてのように温め直す「ヘルシオあたため(おいしさ復元)」機能にも新たに対応し、冷めた料理を美味しくリメイクできます 。また自動調理機能の「らくチン1品」も進化し、冷凍した食材や市販の冷凍野菜にも対応しました 。シャープは「電子レンジ累計1億5千万台突破」という実績もあり 、AIで培ったノウハウを活かして今後も日々の食生活を豊かにする商品開発を続けるとしています。

国内メーカーのAI調理家電いろいろ

シャープ以外の国内主要メーカーも、AIを活用した様々な調理家電やサービスを展開しています。まずパナソニックは、高機能オーブンレンジ「ビストロ」シリーズ向けにAI料理パートナー「Bistroアシスタント」というサービスを開始しました 。これはLINEの公式アカウント上で利用できる月額サービスで、チャットで質問すると生成AIがユーザーの好みやライフスタイルに合わせた最適なレシピ提案や、調理中の疑問への回答をリアルタイムで返してくれるというものです 。まるでプロのシェフが隣についてサポートしてくれる感覚で、料理が完成するまでの様々な悩みに寄り添ってくれます 。ビストロ購入者向けには月額330円で利用でき、非購入者でも最新ビストロをレンタル(本体込み月額3,980円)でサービスを使えるプランが用意されています 。レンジとAIアシスタントを組み合わせた新提案として注目されています。

次に象印では、自動調理鍋「STAN.(スタン)」シリーズでユニークな取り組みがあります。専用レシピを活用した献立自動作成アプリ「me:new(ミーニュー)」と提携し、AIが最長1週間分の献立を自動生成してくれるサービスを試験提供しました 。材料を入れてボタンを押すだけの電気調理鍋と、AI献立アプリを組み合わせることで、「もう献立選びに迷わない」とうたっています 。これは毎日の献立決めという主婦(主夫)層の悩みを解決する好例でしょう。また象印の高級炊飯器では、「AI」搭載をうたって過去の炊飯データを学習し火加減を調整するモデルもあります 。炊飯器が使うほどユーザーの好みに炊き加減を最適化していくという、まさに熟練の職人の勘を模したようなAI活用です。

日立の調理家電も負けていません。過熱水蒸気オーブンレンジ「ヘルシーシェフ」シリーズでは専用の**「ヘルシーシェフ」アプリを提供しており、本体にない新しいレシピを次々クラウド配信してレパートリーを増やせます 。アプリはクックパッド等の人気レシピとも連携し、スマホでメニュー検索や提案が可能です。さらにユーザーの嗜好に応じたおすすめレシピを毎日アプリ上で提案**してくれる機能もあり 、「いつでもあなたに合ったレシピが表示されます」とアピールしています 。AIという言葉こそ前面には出していませんが、好みの傾向を学習してパーソナライズしたメニュー提案を行う点で、広義のAI活用と言えそうです。

そして三菱電機では、調理“家電”とは少し異なりますが最新冷蔵庫にAI技術を導入しています。同社の「切れちゃう瞬冷凍A.I.」機能搭載の冷蔵庫では、扉の開閉タイミングや回数をAIが学習し、自動で最適なタイミングで瞬冷凍モードを作動します 。これにより食材を素早く部分冷凍して、使いたい分だけサクッと切り出し、残りは再冷凍といった効率的な下ごしらえが可能になります 。各家庭の生活パターンに合わせて冷凍・冷蔵の運転を賢く制御し、食品ロスや調理時間の削減に寄与する取り組みです。

CESで見えたフードテック最前線とAI調理家電の方向性

世界最大の家電見本市CESでは2024年・2025年と続けて、スマートキッチンやAI調理家電の最先端技術が多数紹介されました。そこから見えてきた今後の方向性として、パーソナライズ、健康志向、持続可能性、そしてデバイス連携といったキーワードが浮かび上がります。

まずパーソナライズの例としては、パナソニックがCES2024で発表したスマートオーブンのAIクッキングアシスタントが挙げられます。スマートキッチンプラットフォーム企業Fresco社と組んだこのAIは、ユーザーの食の好みや栄養ニーズに合わせてレシピをカスタマイズしたり、手持ちの食材に応じて代替材料を提案してくれるといいます 。複数機能搭載の「ホームシェフ」オーブンで調理する際、例えば「レシピの4人分を2人分に減らしたい」「牛乳がないけど豆乳で代用できる?」といった要望にAIが即座に対応し、温度・時間設定まで自動調整。まさに一人ひとりに最適化された料理体験を実現しようとしています 。

健康志向の面では、Samsung(サムスン)が披露した最新スマート冷蔵庫が象徴的です。CES2024で発表された「Bespoke 4-Door Flex 冷蔵庫 with AI Family Hub+」は内蔵カメラAI Vision Insideで最大33種類の食材を認識し 、ユーザーが冷蔵庫内の在庫や賞味期限を一目で把握できるようにしています。さらにSamsung Healthアプリと連動し、ユーザーの健康データに基づいたレシピ提案まで行ってくれるとのこと 。例えばカロリーや塩分を控えたい人にはそれに見合ったメニューをおすすめしてくれるわけです。冷蔵庫の大型スクリーンでYouTubeの料理動画を見たり、スマホ画面をミラーリングしてレシピを表示するといったIoT連携も充実 。キッチンが健康管理や情報発信のハブになりつつあることが伺えます。

また、CESには大小さまざまなフードテック・スタートアップも集結しており、彼らのアイデアからは持続可能性や省力化のヒントが見えます。例えばあるスマートBBQグリルはカメラで食材を認識し、クラウド経由で写真からレシピを自動生成してくれるそうです 。さらに内蔵する生成AI「Vera」に質問すれば「もっとスパイシーにするにはどの調味料を足せばいい?」といった相談にも答えてくれ、レシピが決まったら後はグリルが自動で調理してくれるとのこと 。経験や勘に頼らずともAIがプロ並みの焼き加減を実現してくれるので、バーベキュー初心者でも失敗なく美味しく焼けるといいます 。他にも、食材に応じて温度・時間を自律調整するワンタッチ調理のAIフライヤー や、自動でフラットブレッドを捏ねて焼く調理ロボット 、スパイスを最適配分してくれるスマートディスペンサー等、キッチンの自動化・省力化につながる製品が多数登場しました。

これらCESでのトレンドは、AI調理家電がよりユーザー個々のニーズに寄り添い、健康や環境に配慮し、そしてキッチン全体がシームレスに繋がる方向に進んでいることを示しています。AIがレシピをパーソナライズし、在庫や栄養を管理し、必要なら自動で調理までしてくれる世界——それは忙しい現代人にとって理想的な「スマートキッチン」の姿かもしれません。

AIに料理を任せて大丈夫?懸念と安全対策

便利なAI調理家電ですが、一方で「本当に任せて平気?」「AIが暴走したりしない?」といった不安の声もあるでしょう。典型的な懸念としては、例えば「AIが調理を拒否するような事態はないのか?」とか「間違った調理指示を出して失敗や事故につながらないか?」といった点が挙げられます。

まず「調理を拒否する」ケースについてですが、現時点で一般的な調理家電のAI機能はあくまでユーザーの指示や利便性向上のために働くものです。メーカーも「外部からの指令で勝手に動作を制限するような設計はしていない」と明言しています。 実際、スマートオーブンのAI機能は火加減の自動調整や省エネ運転などが中心で、ユーザーが使おうとしたときに勝手にロックがかかるようなものではありません 。例えば「電力会社や政府の意向で夕飯時にレンジが動かなくなるのでは?」という噂もありますが、そうした外部からの制御は現在の家電AIには組み込まれていないのが実情です 。基本的に賢い助手ではあっても主人(ユーザー)の許可なくキッチンを仕切ることはないので、その点は過度に心配しなくて良いでしょう。

次に「AIの誤作動でおかしな調理が行われる」リスクについて。こちらは十分注意が必要なポイントで、特に生成AIを使ったレシピ提案では過去にヒヤリとする事例も報告されています。海外ではスーパーの実験的なレシピBOTがChatGPTを使った際、ユーザーが入力した有毒な組み合わせの材料(漂白剤+アンモニアなど)に対し、致死性の有毒ガスを発生させる“殺人レシピ”を生成してしまったケースがありました 。もちろん通常の料理ではあり得ない材料ですが、AIは与えられた指示に従順なため、入力次第では危険な結果も起こり得るという教訓です。この件を受けて、そのスーパーではAIに自由な材料入力をさせずあらかじめ定義された安全な食材リスト内で組み合わせる方式に変更する対策を講じています 。同様に、各社のAIクッキングサービスでも不適切な回答や誤った手順を出さないようフィルタリングを強化していると考えられます。例えばSharpやPanasonicの対話型AIも、ベースとなるレシピデータは自社や提携先の蓄積した信頼できる料理データに限定し、暴走しないようチューニングされているでしょう。

またハード面の安全対策も進んでいます。AIカメラで調理の様子を見守り、焦げそうになると通知してくれるオーブンが登場しており、サムスンのBespoke AIオーブンは100種類以上の料理を認識して**「焦げる前」に警告してくれるそうです 。これはユーザーの「うっかり」をカバーし、キッチン火災などを未然に防ぐ心強い機能です。さらに調理ロボットにも異常検知や自動停止の仕組みが組み込まれており、たとえばCESに出展したあるロボット調理機はセンサーで異常を感知すると**「オートストップ」して安全を確保**する設計でした 。このように、AI+センサー技術で人間には難しい微妙な加減をコントロールしたり、逆に人間のミスをカバーしたりと、安全性はむしろ高まっている面もあります。

とはいえ、最終的に料理の責任を負うのは利用者自身です。AIの提案に疑問があれば無理に従う必要はありませんし、調理中は適宜人間の目で確認するのが大事です。幸い現在のAI調理家電は「人の良きアシスタント」に徹するよう設計されていますので、上手に活用しつつも過信しすぎないバランス感覚が肝要でしょう。便利さと安全性を両立させながら、AIとの新しい料理体験を楽しみたいですね。

参考文献

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