AIが営業を変える──Cluelyの急成長と“チート”論争の行方

AIが営業を変える──Cluelyの急成長と“チート”論争の行方

2025年7月、わずか1週間でARR(年間経常収益)を300万ドルから700万ドルへと倍増させたAIスタートアップ「Cluely」が、テック業界で大きな注目を集めています。

リアルタイムで会話を理解し、ユーザーに次の発言や意思決定をサポートするこのツールは、営業やカスタマーサポート、就職面接といった場面で“無敵のAIコーパイロット”として話題を呼んでいます。しかし、その一方で、「これはAIによるカンニング(チート)ではないか?」という懸念の声も上がっています。

本記事では、Cluelyというプロダクトの機能と背景、その爆発的な成長、そして倫理的論争の行方について詳しくご紹介します。


目次

Cluelyとは何か?──会話を“先読み”するAIアシスタント

Cluelyは、ZoomやGoogle Meet、Microsoft Teamsなどでの通話中に、リアルタイムで会話内容を解析し、ユーザーに最適な発言やアクションを提案するAIアシスタントです。

特徴的なのは、通話終了後ではなく“通話中”に、音声と画面を基にした支援を行う点にあります。他社製品の多くが録音後の議事録生成やサマリー提供にとどまっているのに対し、Cluelyはその場で議事録を生成し、相手が話している内容を即座に把握して次の行動を提示します。

主な機能

  • リアルタイム議事録と要約
  • 次に言うべきことの提示(Next best utterance)
  • 資料やWebページの内容に基づいた補足解説
  • 自動的なFollow-upメールの下書き作成
  • エンタープライズ向けのチーム管理・セキュリティ機能

これらは単なるAIノート機能ではなく、“人間の知性と瞬発力を補完するコパイロット”として機能している点に強みがあります。


7日間でARRが2倍──爆発的成長の裏側

2025年6月末にリリースされたエンタープライズ向け製品が、Cluelyの急成長の引き金となりました。

創業者であるRoy Lee氏によれば、ローンチ直前のARRは約300万ドルでしたが、わずか1週間で700万ドルに倍増しました。その背景には、複数の大手企業による“年契約アップグレード”があります。

ある企業の例:

  • 通話中にCluelyが商談内容を即座に可視化
  • セールスチームの成約率が顕著に上昇
  • 年契約を250万ドル規模へと拡大

このような実績に支えられ、Cluelyは一気に法人顧客を獲得しつつあります。


“これはチートなのか?”──倫理的な論争

Cluelyの人気と同時に問題となっているのが、その「倫理性」です。

公式サイトには “Everything You Need. Before You Ask.”(質問する前にすべて手に入る)というスローガンが掲げられています。この言葉は一見魅力的に思えますが、「AIによって人間の知的努力を省略してしまうのではないか?」という懸念にもつながっています。

面接対策AIとしての出自

Roy Lee氏がCluelyを開発した背景には、就職面接での“無敵のAI支援”という構想がありました。実際、Columbia大学在学中にこの技術を使ったことで、一時的に大学から活動を制限された経緯もあります。

こうした経緯から、Cluelyは「AIによるカンニングツール」との批判を受けることも少なくありません。


透明性とプライバシー──ステルス性のジレンマ

CluelyのUIは“他者から見えない”ことが前提に設計されています。ウィンドウは背景で動作し、ユーザーだけがリアルタイムでAIの提案を見ることができます。

この機能は便利である一方、会議の参加者や面接官が「相手がAIを使っている」と気づかないため、次のような懸念が生まれています:

  • 録音や画面キャプチャが無断で行われている可能性
  • セキュリティ・コンプライアンス上の問題
  • ユーザー間の信頼関係が損なわれる恐れ

とくに法務・医療・金融など機密性の高い分野では導入に慎重になる企業も多いようです。


競合とクローンの登場──Glassの挑戦

Cluelyの成功を見て、早くも競合が現れ始めています。その中でも注目されているのがオープンソースプロジェクト「Glass」です。

GitHub上で公開されているGlassは、「Cluelyクローン」として一部で話題となっており、すでに850以上のスターを獲得しています。リアルタイムノート、提案支援、CRM連携など、基本機能の多くを搭載しながら、無料・オープンという利点で急速に支持を広げています。

このような競合の台頭により、Cluelyは今後、以下の課題に直面すると見られています:

  • サブスクリプションモデルの維持と差別化
  • 無料ツールとの共存とUI/UXの優位性
  • セキュリティ・信頼性の強化

今後の展望と課題

強み

  • 圧倒的なリアルタイム性と文脈理解力
  • セールス・面接など目的特化型の支援
  • 法人向け高機能プランによる収益化

課題

  • 倫理的・道徳的なイメージ
  • プライバシー問題と透明性欠如
  • 無料競合の出現によるシェア減少リスク

将来的には、Cluelyがどのように「人間の知性を拡張する正しい使い方」を提示できるかが鍵となります。たとえば、「支援が透明に見えるモード」や、「会議参加者全員に同じ情報が表示される共有モード」など、倫理と実用のバランスを取る設計が求められるでしょう。


AI支援と「フェアな競争」のあり方

Cluelyは、今まさに“AI支援の未来像”を提示する存在となっています。その成長スピードと技術力は注目に値しますが、その裏には新たな倫理・プライバシー・競争の問題も浮かび上がってきています。

「AIに支援されて、あなたは本当に強くなるのか。それとも依存するのか。」

これはCluelyを使うすべてのユーザーが自問すべき問いかけであるといえるでしょう。

参考文献

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